暖かく優しい光が太刀花荘の縁側を照らしている。
ここ最近、寒い日が続いていた所為で外に出ることができなかった少女――宮内は、
ニコニコと笑顔で春の穏やかな陽射しを浴びながら縁側に腰を下ろしていた。
「いいお天気ですね、ネちゃん」
「はい、日向ぼっこ日和ですわ」
が空に声をかけるとスッとの式神である六花のネが姿を見せた。
最愛の闘神士に声をかけられたのが嬉しかったようで、ネの表情はとても嬉しげだ。
ネに笑顔を向けられてが愛らしく笑う。太刀花荘に咲いた二輪の花が楽しそうに会話をはじめた。

 

 

 

〜〜

 

 

 

「…大分、ここの生活にも慣れたようだな」
不意に二人の会話の間に割って入ってきたのは1人の少年――いや、少年に見える少女――だった。
二人の姿を見て和んでいるのか、滅多に緩むことのない表情が少し穏やかになっていた。
「はい、みなさんが優しくしてくれるので」
「そうか、ならいいが……。隣、いいか?」
「はい、もちろんです」
笑顔で答えるはホッとしたような表情を見せ、に隣に座ってもいいか尋ねた。
に問われたは、一切嫌な顔をせずにに席を勧めた。
「ありがとう」とは一言言っての横に腰を下ろした。
二人は特に会話をすることなくぼーっとしている。
だが、緊張感や緊迫感があるわけではなく、ただ会話をしていないだけだった。
はちらりとの顔を盗み見た。は心地よさそうに自然に身を任せている。
その姿に警戒心はない。ようするに、を敵とは思っていないということだ。
まったく、義理の兄弟なのだから当たり前だが本当に似ていないものだとは思った。
の義理の兄であるタイザンとは因縁のある関係の
そんなから見てもタイザンとはどうにも性格が真逆に思えた。
地流時代にに会った時、はいつもタイザンの後に隠れていた。
その所為もあり、と接触を持ったことはほぼなかった。
だが、大変中の悪かったタイザンと真逆の性格と言うことは、にとって付き合い易い性格ということだ。
もちろん、その予想は大当たりでを好いている。

 

 

 

、聞いておきたいことがあるんだが……いいか?」
「?……なんですか?」
愛らしく首をかしげるに酷なことを聞くのは気が引ける。
だが、ここで躊躇ってを傷つけることになってからでは遅い。
そう自分に言い聞かせては溜め息ひとつついてから真っ直ぐとを見て口を開いた。
「ここに天流の闘神士と、地流の裏切りが4人もいる。
そうなれば自然とここにいれば地流の面々と戦うことになるだろう。
そうなれば、地流に知り合いの多いお前には……、辛い戦いになると思う。………戦えるか?」
がしゅんと顔を下げ、表情に陰りがさした。
寂しさと悲しさと辛さとが交じり合った感情を含んだその表情はに罪悪感を抱かせた。
やはり、にはなにも言わずに、
自分一人でことを納めるようにやっていくべきだった――そんな考えが頭を過るが、不意にが顔を上げた。
「地流のみなさんと戦うのは辛いです。でも、ミカヅチ様の考えを許してはだめです。
みなさんの足を引っ張ってしまうかもしれないけど…、引っ張らないように頑張ります!だから……」
決意したように、自分に言い聞かせるように一言一言を確かめるように言葉にする
そんなを見ては自分の問いが愚問だと言うことに気づいた。
一番に信頼しているタイザンの元を飛び出してまで、
ミカヅチの計画を阻止しようとするに今更「戦えるか?」まったくもって、愚問でしかない。
「悪い…な」
「そんなことないですよ。さんは、私のことを心配して言ってくださったんですよね?
私、さんに心配してもらえて不謹慎ですけど嬉しいですよ。
本当に、さんは優しいです」
屈託のない笑顔で謝っているはずのに褒め言葉。
流石のも面食らってしまい、慌ててから顔を背けた。
「どうしたんですか?」
「なんでもない」
「でも、なんだか顔が赤いみたいですよ…?」
が突然顔を背けたを心配して顔を覗きこんでくるが、
は見られてなるものかと素早くに背を向けるが、
は「はい、そうですか」と引き下がることはなく、頻りにの顔を覗きこんでくる。
そんなを前にして無視するわけにもいかず、を安心させようと口を開いた。
「……日に焼けただけ――――」
「大変です!さんは色白ですから日焼けは大変です!!」
「ちょっ、っ……」
慌てたの手を引いた。突然腕を引かれたは、
バランスを崩しかけたが自分が倒れればも倒れること理解していたのですぐに体制を立て直した。
だが、慌てるを鎮める術もなくに腕も引かれるまま奥へと消えていった。

 

 

『……………ません
『…ネ様?』

 

 

 

納得いきません!!

 

 

 

『!?』
奥へと消えていった闘神士達をよそに、彼女達の式神は未だに縁側に残されていた。
不意に微かに言葉を発したネ。
いつもはハキハキと話す彼女だというのにらしくもない話方にヒョウオウが心配して声をかけると、またネらしくもなく大声をあげた。
『お嬢様はどうしてあのような無愛想な闘神士なんかにっ……、地流では怖がっておられたのに〜!』
『ど、どうか落ちつかれてください、ネ様。
地流の様と、今の様は姿も違いますから…。
それに、これは我々式神ではないと見破れませんから、しかたないのですよ!』
『ですから、余計納得できません〜!!
こうなったら、一刻も早くミカヅチ様の計画を止めなくてはなりません!ああっ、その前にお嬢様をお守りしなくては!』
ネ様……、いったい何から様を守るつもりなんですか……』