「式神降神!」
「おっしゃあぁ!!」
多くの妖怪が跋扈するフィールドに一人の少女。その少女はドライブを用いて式神――白虎のコゲンタを降神した。
〜〜
素早く印が切られてコゲンタは少女――の指示通りに攻撃を決めていく。それを見ては更に作戦を練り、印を切る。
「弧月拳舞ッ!!」
10体近く残った妖怪達にコゲンタの最後の技が決り、すべての妖怪が消え失せた。それを理解するとコゲンタは大地に足をつけた。『ふぅ』と安堵の溜息をつき闘神士であるを不意に見た。はまるで何事もなかったかのように古い文献と睨めっこをしていた。コゲンタは自分が体を張って戦っていたというのに礼、もしくは労いの言葉もないに少々腹を立てた。
「オイ、礼の一つも言ったらどうなんだよ。お前は」
「?なんだ唐突に…いつも言っていないだろう」
「…今回の敵は数か多かったんだ。礼ぐらい言っても罰はあたんねェだろ。あとな、普通はいつも礼は言うもんだ」
コゲンタにそう言われは面倒くさそうに溜息をついた。その目には本当に飽きれたような表情が映し出されている。だが、コゲンタはそれを知りつつも怒鳴ることはせず、黙っての礼を待った。
「ご苦労だったコゲンタ。助かった」
「おう。素直にそう言やいいんだよ」
「……だが、少々動きが鈍かったな。俺の印に対しての反応がいつもより0.4秒遅かった」
機嫌よさそうに言うコゲンタだが、不意にのその視線が疑いのものに変わりコゲンタを見据えた。コゲンタは『ゲッ』と小さく声をあげて一歩引いた。は心配しているつもりではないようだが『どうした』と声をかけた。
「…いや、お前の行動が変だったっていうか…気になったっていうか…今日お前、なんか変じゃねェか?」
不思議そうにに問うコゲンタ。するとの表情が一瞬変わる。『言わなければよかった』『大人しくしていればよかった』そんな表情にだ。だが、あまりにも瞬間的なものだったのではコゲンタに気づかれることはないと思った。しかし、コゲンタはそれを全くもって見逃さず、ぐぃとに近づいた。
「どーなんだよ?」
「ゔっ……」
「…なんかお前臭うな………この臭い…まさかお前!?」
の顔に自分の顔を近づけて問うコゲンタだったが、妙に鼻につく臭いに気付き、あたりの臭いを嗅いだ。そしてハッとしての腕を掴んだ。の表情が歪む。だが、コゲンタはが表情を歪ませるほど腕を強く掴んではいない。そしてコゲンタの鼻を刺激した臭いはの腕から臭ってくる。コゲンタは少々迷ったが、の服をずるりと下げた。
「ッ…!」
「やっぱりか…いつやったんだ?」
コゲンタはの腕に刻まれている傷を見て言った。その傷は割と新しいものらしく未だに鮮血が少々流れている。はさっとコゲンタに下げられた服を着なおした。いつもならば強気なはずのの目には気まずそうなものがある。
「………」
「だんまりか。まぁいい、一旦戻ってその怪我の治療すんぞ」
強引にの怪我をしていない方の腕をひくコゲンタ。はいきなりのことに一瞬はコゲンタに引き寄せられたが、直にその体に力を入れた。
「離せコゲンタ!この程度の傷、血さえ止めてしまえば問題ない!俺の怪我など心配する必要は……」
「ほぉ…血ィ止めやりゃあ…問題ないんだな?」
ニヤリと黒笑みを浮かべコゲンタはに迫る。はいつになく圧迫感のあるコゲンタの様子に圧され抵抗するどころか声一つあげることはできなかった。だが、次の瞬間にはは絶叫した。
「痛い!痛ッ!ッいでぇ―――ッッ!!!!やめろコゲンタァ―――ッ!!!」
目を大きく見開く。激痛がの体をかけぬけ、身の毛が立った。痛いとは思いつつもその痛みの根源を取り除くべくはコゲンタに対して大声で怒鳴る。しかし、コゲンタはの傷口をなめていた。別にコゲンタの行動は間違いではない。傷口をなめることはかなり原始的ではあるが、血を止める応急処置としては用いられている方法だ。しかし、白虎。それを象った式神であるコゲンタがそれをやるのはいささか拷問とも言える。猫科である虎のその舌も当然ザラついている。しかも、ざらついている理由は、獲物の肉を根こそぎ綺麗に食べるためというものだ。
「ッ〜……」
あまりの痛さにの体から力が抜けて崩れ落ちる。だが、それをコゲンタが止めた。
「ったく。お前は無理しすぎなんだよ…ちったぁ俺を頼れってんだよ」
「だ、だが…痛ッ!」
「それ以上言うともっと俺が治療するぞ」
コゲンタはをひょいと抱き上げる。は抵抗しようとするがコゲンタは傷口を軽くつきそのの抵抗を強制的に止め、更にの言葉を止めるために口を開いた。
「……わかった…だが、流石に降ろしてくれないか…?」
「俺の話し聞いてんのか?少しは頼れって言ってんだよ。黙って抱かれてろ」
不機嫌そうに言うコゲンタ。は諦めたのか、納得したのか黙ってコゲンタの腕にその身を預けた。
「式神に嘘をつく闘神士は最悪だぞ。お前はいい闘神士なんだからよ…嘘をつくな……特に俺には絶対な」
そんなコゲンタの言葉にはいつになく表情を柔らかくした。