「……次の授業は…」
「出てもらうよ!ちゃん!」
『…おうおう、団体さんのお出ましだな』

 

ニヤニヤと笑いながらそうパートナーに言うのは阿修羅のミロク。
ミロクの闘神士――は不機嫌そうな視線をミロクに向けてから、自分の名を呼んだ人間――に目をやった。
の横にはヤクモとビャクヤが構えており、どうやらを教室まで強制連行するつもりのようだ。
とヤクモがタッグを組むあたり、相当本気らしい。

 

、これ以上サボると、また授業日数が足りなくなるぞ!」
「まだまだ、序の口だな!」

 

ごすっ
ヤクモとのダブル突っ込みがビャクヤに炸裂した。
 
 
 
 
 
ぼり対策
攻防戦
 
 
 
 
 
御神木の特等席に腰をかけ、は路上コントとも言えるかけあいを続ける上級生をたちを無言で見る。
完全にビャクヤに場を乱され、たちは自分たちがこの場所に来た理由を見失っているように見えた。
はこの隙にさっさと逃げてもいいのだが、逃げる必要がないので、彼等のかけあいを大人しく聞いていた。

 

「なにが序の口だ!大問題だろ!!」
「そうだよ!こんな調子じゃちゃんが卒業するのに何年かかると思ってるのさ!」
「え〜、だって低学年は授業日数は、それほど酷くなけりゃ問題ないぜ?」
「だったらなんで、がまだ一年なんだよ…!」
「それは、が素晴らしくサボってるってことだ!ほら、答えがわかってもう安心!」
なにが!?僕たちこれ以上ちゃんをサボらせないためにここにきたんだよね!?」
「ああ、騙されるな…。ビャクヤもと同じサボり常習犯だと言うことを!」
「あっ、酷い!俺は毎日きっちり授業受けてるぞ!!」
「お前じゃなくて、ダミーの式神がだろうがっ…!!」
「いやん、ヤクモくんったら、するどーい!」
「…?っは!ちゃんはっ…!!」

 

ふとのことを思い出し、御神木に目をやる。
律儀には先ほどの枝だからはなれておらず、
呆れたというか、哀れんでいるというかな表情を浮かべて達を見ていた。
なんで哀れまれてるんだ?と考えてみると、
後ろからビャクヤにいいように遊ばれているヤクモの声が聞こえ、「ああ」と瞬時にことを理解した。
はヤクモに落ち着くように声をかけ、再度に目をやった。

 

――」
さん、とりあえずちゃん付けはやめてくれ。男子生徒にちゃん付けは――」
「――キモいよな。カシンせんせなら兎も角」
「――っくん!このままじゃヤクモがビャクヤにいいように遊ばれて胃に穴があいちゃうよ!」

 

 

 

ずるっ

 

 

 

突拍子のないの台詞にヤクモとがズッコケた。
一応、たちはの進級を心配してここに来たのであって、
ヤクモの胃に穴があくことを阻止するために来たわけではないはずだ。
だというのに、こののこの台詞なのだから、
まぁ、ズッコケたくなるのも頷けるといえば、頷けるだろう。

 

…?」

 

ついでにが、意味のわからないビャクヤのテンションに毒されてしまったのではないかと、
青ざめた表情でヤクモが確認の意味もこめてに声をかけると、はヤクモに耳打ちをした。

 

「(授業に出る理由をかえただけだよ。
ちゃんが進級に興味がないことは確かだから、別の理由をあげれば動くかもしれないと思って…)」
「(なるほど……)」

 

の台詞の意図を理解したヤクモは納得したように「うんうん」と頷いた。
しかし、の方はその意図を理解していない。
よって、これは希望が持てるのではないかと希望を抱いたとヤクモだったが――

 

「頑張ってくれ、ヤクモさん」

 

 

 

「「見捨てたー!?」」

 

 

 

「まぁ、どうしても耐えられないようだったら、
ガザンのところに行ってコルウに胃薬でも作ってもらえばいいだろう。
コルウの胃薬は本当に効くからな」

 

的確なアドバイスまで付けてあっさり授業への参加を断られたたち。
おそらく、の中で、自分が授業に出て解決するという方法よりも先に、
ビャクヤをどうにかするという方程式が生まれたのだろう。
故に、ビャクヤをどうにかするなどにとっては不可能に近いことなのだから
――そりゃ見捨てるだろう。

 

「(と、いうか、それほどヤクモに興味ないからな)」

 

冷静にことを噛み砕いていくビャクヤ。彼としてはの対応はある程度予想済みだ。
しかし、ぎゃーぎゃーうるさくどやす人間がいなくなるのだから、
態々復活を促すようなアドバイスをがしたのは、ビャクヤとしては予想外だった。
「まだまだだなぁ〜」とかのんきなことを思っていると、ことは急展開を向えていた。

 

「…どうなさったんですか?先輩」
「へ?あっ、ちゃん??それにリクくんも……」
「こんにちは」

 

突然姿を見せたのは一年生のリクとだった。

 

「ふ、2人ともどうしてここに……」
「ヒョウオウ先生に頼まれてくんを迎えに来たんです」
「私はたまたまリクくんに会って一緒に…」

 

どうやら、この2人も目的はたちと同じらしい。
リクは御神木の上にいるに視線を向けて大きな声をあげた。

 

くーん!次の授業地理だよー?」

 

すると、なんたることか、達が声をかけても頑として動かなかったが、
すんなりと御神木から下りてきたではないか!
しかも、滅多に人に礼を言わないはずのだというのに、リクとに「ありがとう」と言っている。
ありえない光景が立て続けに続いたせいもあり、ヤクモたちはリアクションなど忘れてただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「では先輩方、我々は授業があるのでしつれいします」
「「失礼します」」

 

ぺこりと会釈をして一年生達は去っていく。
それを上級生たちは「あ、ああ」と歯切れの悪い返事を返して見送っていた。

 

「いや〜、流石ヒョウオウせんせの采配だな。あと、一年生たちの友情パワーには完敗だな!」

 

あっはっはと、気楽に笑うのはビャクヤだけで、
もヤクモとどっと疲れたのか、ガックリと肩を落として校舎の方へとずるずると足を引きずるように歩いて行った。
そんな二人を見てビャクヤは珍しく苦笑いを浮かべていた。