♪でんでででーんでんででーんでんでーでーん
♪でーんでででーんででーんでんでででん(ダース○イターのテーマ)

 

職員室に流れているのはなんとも耳障りな音楽であり、気分を害する音楽だ。
丁度今は昼休み。いつもであれば教室にいる教師たちも
今は職員室の自分に割り当てられたデスクで食事をとってみたり、次の授業の準備をしてみたりと各自様々だった。
が、いきなり流れ始めたその音楽のせいでほとんどの職員たちは動きを止め、
その音の主である携帯電話の持ち主――ガザンを一心に見つめた。

 

「そうですか、こちらにいらっしゃいますか」

 

そのガザンの一言で職員室が一気に凍りついた。

 

 

 

 

 

048.現実逃避

 

 

 

 

 

「……最近、妙に先生たちが慌ててるな」
「ああ、伏魔殿で何かあったのかもしれないな」
「流石にそれは考えすぎじゃないの?」

 

食堂で昼食をとりながら話すのはヤクモとユウゼン、マサオミの3人。
彼らのいう通り最近、教員たちの動きが妙に慌ただしい。
休み時間でもバタバタと職員室と準備室を行き来してみたり、授業中も常に緊張状態にある。
いつもであれば基本的に大らかな教師が多いというのに、今の学園の教師たちはきびきびと常にタイザンのようだった。
その中でも特に陰陽師科の教員たちが郡を抜いて厳しくなっていた。
そして、その影響は陰陽師科の生徒であるとある青年にも影響を及ぼしていた。

 

「…………」

 

真っ青な表情。なにかの脅威に脅えた瞳。それらを持った青年の名はビャクヤ。
希有な白髪のおかげでその顔色は普通の人間よりも悪く、
今にもぶっ倒れるのではないかと心配させるほどに青かった。

 

「お、おい、ビャクヤ――」
「…何も言うなヤクモ……」

 

時折、ビャクヤは冗談で仮病を使ったりしてヤクモたちを驚かすことがあるが、どうやら今回は一切仮病ではないらしい。
心配して声をかける役もの言葉を手を出して制し、深い溜め息をついた。
意気消沈――まさにそれを表しているかのようなビャクヤに3人は心配を通り越して色々なことが不安になった。
基本的に何事にもポジティブ思考で滅多に暗くならないビャクヤがここまで沈んでいるのだ。
不安になるのも当然だろうか?

 

「(どうなってるんだ?)」
「(俺が知るわけないだろ)」
「(陰陽師科で何かあ――)」

 

「残念ですね、まだ何も起きていませんよ」

 

「「「うわぁ!?」」」

 

突然ヤクモたちの話の輪に入りこんできたのは保険医のガザン。
他の教師たちと違い彼は落ち着いているのかニコニコといつも通りの笑顔を浮かべていた。

 

「な、なぁガザン。一体この学園に何が起きたんだ?」
「……いえ、別に何も起きてませんよ?これから起きるだけで」

 

おどおどと問うマサオミにガザンは少し表情を曇らせて答えを返す。
どうやら、少なからず学園でも1.2を争う腹黒さで有名なこのガザンですら、今回の事態は大きな問題のようだ。

 

「…なにが起きるんですか?」

 

ことの状況を理解しようとヤクモが真剣な表情でガザンに問うと、
ガザンは少し困ったような表情を浮かべて一旦は口を閉ざしたが、
不意になにかを決意したようにその表情を真剣なものに変えるとヤクモたちにことの真実を伝えた。

 

「大学部の方から視察が来るんです」
「大学部から…、ああだから先生たちが慌てているのか」
「この学園の一番上の直下の教員たちがくるんなら、ヘタな授業しちゃ減給もありうるもんな」

 

ガザンの答えを聞いてヤクモたちは思い思いに口を開く。確かにそのガザンの答えならば納得できる。
大学部といえば、選ばれた生徒のみが進学できる場所だ。
その大学部から視察がくるとなれば教師たちが慌てるのは当然のことだろう。
だが、ふとヤクモは思う。教師たちが慌てるのは分かるが、
教師でもないビャクヤが何故ここまで追い詰められているのだろうか?
その疑問を口に出そうとヤクモがビャクヤの方をみたその時だった。

 

「――――!!」

 

完全に言葉をなくし、声にならない叫び声を上げているビャクヤ。
その顔は今世紀最大と言っても過言ではないくらいに真っ青で、心なしか震えているようにも見えた。
そして、ヤクモはその持ち前の勇気を振り絞ってことの原因であろう人物の姿へと目をやる。
長い深緑の髪に鋭い金色の目。そして白と赤を基調とした狩衣。それが大学部からやってきたであろう視察員の姿だ。
そのオーラはタイザン並の刺々しいものがあり、確実に温厚とは呼べないその視察員の姿にヤクモは息をのんだ。

 

「シンヤ殿、いらして――」
「式神降神」
「ぅおぎゃあ――!!!」

 

突如放たれた式神。それは言わずもとも大学部からの視察員――シンヤ。
シンヤに降神された式神――妖狐のゲッカは、
先ほどまでビャクヤのいた席に刃のように変形した陰陽羽衣を突き刺していた。
そして、先ほどまで大人しく席に座っていたビャクヤは、
間一髪でゲッカの攻撃をかわし、なんとかその身の無事を確保していた。
だが、それだけではシンヤの攻撃は終らないと判断したビャクヤはクルリと方向転換をして廊下のほうへ走り出した。

 

「ほう、ワシから逃げようとするとは……ビャクヤも偉くなったものだな」
「シンヤ殿、一応彼も生徒ですからほどほどにしてくださいね」
「ふんっ、手加減できればな」

 

釘をさすガザンを鼻で笑いシンヤはビャクヤが逃げて行った方へとゲッカを連れて去っていく。
そして、彼らの姿が見えなくなるとガザンは大きな溜息をついた。

 

「まったく、恐ろしい人ですね」
「こ、これから一体何が始まるんだよ!?」
「安心してください。これから『事』が起きるのは陰陽師科の生徒だけですから。
……ああ、あとセンカくんも対象だったかな?」
「お嬢様も!?」
「ええ、問題児は全員シンヤ殿への生贄ですよ。
……でも、今日は一時間目からセンカくんは授業に出ているそうなので対象にはならないかもしれませんね」
「センカが一時間目から授業!?」

 

声を張り上げて驚いたのはヤクモ。それは誰でも驚くところらしくマサオミとユウゼンも驚いた表情を浮かべている。
しかし、ガザンはそれ以上を語ることはせずに昼食で賑う食堂の人ごみの中に不意に消えていった。
おそらく、下手にシンヤの陰口を叩けば、いくらガザンといえどのその首が危ないのだろう。
ヤクモたちは恐るべき人物にあったことを少し後悔しながら、
自分たちが目をつけられなかったか――そんな不安にかられるのだった。

 

 

 

 

 

■いいわけ
 松本的真・鬼教師を紹介するべく書いてみました。その割にはガザンせんせが目立ってます。
このあと、ビャクヤは結果的に捕まってシンヤの恐怖のお仕置きをされたかと思います。
因みに、センカは大人しく授業を受けていたので現行犯逮捕できずに何事もなかったかと思われます。