「ぅおぎゃあ――!!!」
聞こえたのは男の絶叫。闘神士科の教室で昼食をとっていたリクたちはハッとして視線を声の聞こえた方へと向けるが、
その数秒後に「気にするな」と言葉をかけられ不安に思いつつもその視線を元に戻る。
すると、そこには頭を押さえて顔を真っ青にしている同級生――がいた。
「ど、どうしたの!?くん!?」
「いや、こっちも気にしないでくれ……ゔ…胃痛が…ッ」
「胃痛!?」
現実直視
「大学部の陰陽師科の教授?」
「ああ、その人が俺やビャクヤ兄さんの師匠であり、この学園の頂点の直下にいる教員だ」
「はぁ……?でもそれとくんの胃痛になんの関係が…」
不思議そうに首を傾げるのはリク。彼の疑問ももっともだろう。
が教師ならば、授業のできを判断されたりしているかもしれないが、はあくまで生徒。
しかも、大学部とはほぼ無縁の低学年に在籍している生徒だ。いくら師弟関係にあるとはいえ、胃痛が起きるほどというのも考え難いものだろう。
「リク、俺の普段の授業態度――わかってるか?」
「あ」
に指摘されてやっとリクの頭の中で話がつながった。の場合、授業態度うんぬんではない。
授業自体に出席していないのだから、授業態度の悪い生徒どころのはなしではなく、超がつくほどの問題児。
その問題児の制裁のために大学部から教師が一人派遣されてきてもそれほどおかしな話ではないだろう。
「一応、ミカヅチ教頭とマホロバ教頭への報告やらのついで、だと思うがな」
「それで今日は一時間目から授業に出席してたんだね」
「……まぁな」
苦笑いを浮かべてそう言うリクにはばつが悪そうに視線を逸らす。
リクはそれ以上を責めることはしなかったが疑問に思ったことがあったのか「そういえば」と口を開いた。
「さっきの叫び声は……」
「多分アレはビャクヤ兄さんだ。大方、シンヤ教授――師匠に見つかったんだろう」
「シンヤ先生……そんなに厳しい人なの?」
「ああ、あの人は弟子いびりが趣味の超ド級のサディストだからな。
俺もここに入学するまで随分といびられたよ。恐怖症になるくらい」
「あは、あはは…」
遠い目で明後日の方向を見ながら言うにリクはただただ苦笑いを浮かべる。
胃痛に恐怖症。我慢強い方であるに
そんな思いをさせるシンヤという人間像を想像してリクは背筋に冷たいものが走った。頭を振ってリクは恐ろしい想像を取り払う。
すると、不意に小さな白いものがリクの目に入ってきた。
「師匠がいないからこんな平然と話せるが師匠がいたら――ってコルウッ!?」
「壁に耳あり障子に目あり」
「たしか君は…ガザン先生の式神だったけ?」
「そうだし」
突然リクとの前に現れたのは小さく白い体を持つオコジョに似た式神――橘のコルウ。
保険医のガザンが契約している式神であり――
「コルウ!何も言うな!師匠に何も言うなよ!?」
「……の対応次第だし」
『諦めろ、聞かれた相手が悪い』
『ああ、大人しく従うなり金積むなりした方がお利口だぜ』
「……酷い言いようだし」
そう、コルウは式神の世界でも有名な薬師であり――情報通で、シンヤともつながっている式神なのだ。
言わばある意味で一番見つかっていけない人物なのだ。だが、もう見つかってしまったものはしかたがなかった。
「コ、コルウさん、くんも悪気があって言ったんじゃないから…その、シンヤさんには……」
リクがおどおどとした様子でコルウに言葉をかけると、
コルウは少し面倒そうな視線をリクに向けて「ふむ」と小さく頷くとしかたなさそうに口を開いた。
「……天流宗家の頼みなら仕方ないし」
「あ、ありがとうございます!よかったね!くん」
「ああ、助けてくれて本当にありがとうリク」
■いいわけ
ビャクヤが襲われていた時のたちの様子です。
は既にシンヤの襲来を予期していた設定で、ビャクヤは予知を妨害された設定です。
正直なところはとコルウのやり取りを書きたかっただけとか言わないよ!