「ガザン、あの碌でもない白髪を知らないか」
「僕は知りませんよ」
「そうか、もしあの阿呆を見つけたら、拘束してくれ」
「一応、考えておきますよ」
保険医――ガザンがに笑いを浮かべつつもタイザンに答えを返すとタイザンは保健室から去っていった。
すると、それを見計らったようにベットを隠していたカーテンが動いた。
〜僕等の天敵〜
カーテンの間から姿を見せたのは白髪の少年――ビャクヤ。
彼はニコニコと笑いながらガザンに言葉を向けた。
「いやー、助かったよガザンくん」
がしがしと頭をかきながら笑顔でガザンに感謝の言葉を向けるビャクヤ。
そう、タイザンの探していた「碌でもない白髪」とはなにを隠そうビャクヤのことだ。
たまたま、授業を受けるのが面倒になってサボったところ、
久しぶりにタイザンの虫の居所が悪いときにあたってしまったらしく、
こうして授業が終わったというのにビャクヤは未だにタイザンに追われていた。
体罰の厳しいタイザンが相手だが、ビャクヤにとっては
「よくあること」なせいもあって慣れていることもあり、あまり切羽詰った風はなかった。
もちろん、今回共犯者となったガザンも毎度のことなので慣れっこだ。
「しかし、タイザンもお間抜けですね」
「ん〜、そのおかげで俺が助かってるからあまり改善して欲しくはないけどな」
少し呆れた風にいうガザンと、返答しがたい問いに苦笑いを浮かべているビャクヤの視線の先にいるのは。
不機嫌そうな表情を浮かべて押し黙っている。だが、2人はの機嫌が悪い理由を知っている。それは――
「そんなにくんと話すの嫌なんですかね?」
「まぁ、第一印象は最悪だし、それからも最大の天敵だからな」
そう、の機嫌の悪さの原因は先ほど訪れたタイザンが原因だ。
タイザンとは言わば犬猿の中というやつで、顔を合わせるだけでもその場の空気は一転して重苦しくなり、
最悪の場合には殺気さえはなたれることがある。
慣れてしまっているガザンやビャクヤにはさしあたって問題はないが、
殺気という重苦しい空気に慣れていない生徒や教員たちは大抵その場から逃げ出している。
さらに言うと、その場で倒れる人間すら現れかねないこともある。
それだけ、タイザンとの仲の悪さは笑えないほど最悪だ。
「いい加減に機嫌直せよ。タイザンせんせはいないんだし」
「申し訳ないですが、無理な相談です。あの顔を見ただけで腹立たしいので」
「…もう、反射神経みたいなものになってるみたいですね」
「ああ、本能的にあいつを嫌っているらしい。
改めて理由を問われると――理由なんて浮かばない。ただ純粋に、腹が立つ」
真顔で答えるに流石のガザンとビャクヤも引きつった笑みを浮かべた。
基本、はこの二人を相手にした場合、突っ込み役に回るが、タイザンを相手にした場合だけは違った。
このときだけはは逆に突っ込みを入れられるポジションになっていた。
しかし、ガザンにしても、ビャクヤにしても、
おもしろいので心の中で突っ込み入れつつも絶対にに突っ込みを入れることはなかった。
故に、ここまでがタイザンに対して敵対心を持ってしまったのだろう。
「でも、ここまでタイザンに敵対意識をもたれてしまうと…、敵対意識とはいえ妬けますね」
「おっ、なんか昼ドラみたいな愛憎のドロドロな展開になりそうだな〜」
「いえいえ、愛はないですよ。あるのは、清々しいほどの怒りだと思いますから」
「……ガザンくん、君が言うと、物凄く怖いからやめて。
ってゆーか、どっちに対する嫉妬なのそれは」
ニコニコと笑いながら恐ろしい台詞をぬかすガザンに思わずビャクヤは突っ込みを入れた。
基本的にビャクヤが突っ込み役に回ることはないが、今回ばかりは突っ込まずに入られなかったようだ。
「あ〜、俺そろそろおいたまするわ。あんまりこの空気に長い時間触れていたくないし」
ビャクヤにとって担当ではないツッコミが相当おもしろくないのか、
つまらなそうにビャクヤはガザンに言を告げると、
ガザンはニッコリと笑顔で闘神機を取り出してビャクヤに言葉を返した。
「そうですか、ならこのあとは気をつけて行動した方がいいですよ。僕の闘神機にコルウがいないので」
「…ガザンくんってば、性悪〜」
「褒め言葉として受け取っておきますよ」
「どーいたしまし…、てっ!」
ガザンに言葉を返してビャクヤは保健室の窓から飛び出した。
そして、なにやら呪符でも使ったのかその数秒後にはビャクヤはその姿も気配も消していた。
改めてビャクヤの技術には舌を巻きつつも、ガザンはへと視線を向けた。
が、
先ほどまでいたはずのはソファーの上から消えており、
気づけば保健室にはガザン一人だけになっていた。
「流石親戚といったところでしょうかね?
……ですが、僕の機嫌の損ねたのはいただけませんよ」
そんなガザンの台詞から10分後には、ビャクヤとは大人しく教室の自分の席に座っていたという。