午前中の授業が全て終了したことを告げるチャイムが鳴り響き、
今度は生徒たちの食堂、購買へと走る叫び声、雄たけびとも取れることが響く。
毎日のこと故に慣れてしまってはいるが、やはり何度聞いても物凄いものだ。
時々、これに混じって生徒と一緒になって購買へ走る教員もいるが、
基本的に教員は食堂から出前を取れるし、購買からも優先的に昼食を購入することができた。
それ故に、職員室の昼時は実に穏やかなものだ。
「あらあら、今日もカップ麺?体に悪いわよ?」
しかし、今日はそれほど静かな昼時になりそうにはないようだ。
 
 
 
005.昼飯争奪戦
 
 
 
基本的に、この学園の教員は学校側が用意した生徒も生活している寮にその身をおかなくてはならない。
しかし、だからといって、朝、昼、晩とすべての食事が用意されているわけではなく、
申請しない限りはどの食事も用意してくれないのだ。
申請するだけで黙っていても料理が届くのだから、
それを利用するものも多いが、その程度のことでも面倒に感じて申請しない者や、
自分でお弁当を作ってきた方が安いということに気づいたものは、申請を出さずに自らが昼食を要している。
しかし、後者の場合は大抵がその日の気分によってさして安くもないパンを買ったり、
連日カップ麺を食べる者も少なくはなかった。
「飽きる飽きないは兎も角、連日カップ麺は家庭科教員として見過ごせないわね」
連日カップ麺ばかりを食べる、生徒たちよりも確実に食生活が乱れているのが――国語教員のタイシンだった。
タイシンは家庭科教員のに苦言を言われて怪訝そうに眉間にしわを寄せた。
「俺の食生活を貴様にとやかく言われる筋合いはない」
「あら残念、今月のテーマは『生徒の模範』よ。
そんな模範にならない教員を放ってはおけないわ」
あからさまに邪魔にしたような目線をタイシンはに向けるが、
はそれがどうしたというわんばかりに笑顔でタイシンに言葉を返した。
いつもならば、屁理屈であったり、ゴーイングマイウェイな理屈でしか圧倒してこないであったが、
今日はどういう風の吹き回しかまったくもってタイシンには耳の痛い事実を突きつけていた。
いつもであれば、突っ込みいれつつ場をかき乱して逃走を計れるものの、
今回ばかりは事実故に言い返すこともできずにタイシンはしかめ面だが、
に言い切られるのも、はっきり言って癪だ。
「…フン、今更どうすることもできんことだ。
これを食べずに飯を抜く方がよっぽど体に悪いとい思うが?」
「そうね、食事を食べないって言うのは体に悪いわ。
でもね、今ならまだ購買にパンの一つや二つは残っているわよ?」
もう言い逃れる術はない。タイシンは何も言わずに職員室を出た。
 
 
そして、その数秒後――
 
 
「ギャー!
タイシン先生がご乱心だー!」
 
 
「ゔわぁ゙ー!
マガホシに食われるー!!」
 
 
「噛まれるぅ〜!いやぁっ!」
 
 
「ごふぁッ!」
 
 
 
生徒たちの断末魔も言える声が職員室にまで響く。
ほとんどの教員たちは青い顔をしているが、は知ったことかとでも言うように
タイシンのデスクに置かれたカップ麺に徐に手を伸ばした。
…さん?カップ麺は体に悪いのではないですか……?」
がカップ麺に手を伸ばしたことに気づいたウスベニが恐る恐るに尋ねると、
かげりのないでは笑顔で答えをウスベニに返した。
「ええ、毎日食べているのなら体に悪いわ。
でもね、時々食べる分にはそれほど体に害はないのよ」
「もしかして…」
「うふふ、そうよ。
ただ単にタイシンのこのカップ麺が食べたかっただけよ。これ、新作なんですもの」
妖艶な笑みを浮かべて笑うに背筋も凍る職員一同であった。
 
 
 
結局のところ、タイシンは「ご乱心」したにもかかわらず、
購買のパンを得ることもできず、さらに食堂ではすでに受付は終了しており、食事にありつくことはできなかった
――と思いきや、何者かの差し入れによって、タイシンの食欲は満たされ、栄養バランスも整ったそうだ。