陰陽学園でも多くの生徒が恐れている教師。
それは緑髪の国語教員――タイザンだ。
普通の教員からはまったく考えられない行動が多く、
生徒にチョークを投げるために式神――霜花のオニシバの回天三八式改を使うなど、
その容姿からは想像できないほどに暴力的な教師である。
まぁ、悪いところばかりではなく、厳しさとともに人を気遣う心も持っている。
故に、生徒には恐れられることも多いが、信頼もされていることは確かだ。
しかし、タイザンには絶対に優しさを見せない生徒が数名いた。
「料理部に柔道部。……色々な部活に随分と刺激を与えてくれたようだな」
「そりゃ、学園を盛上げるためですから!」
「(刺激と言うか、迷惑だよな)」
タイザンの前に正座させられているのは、
報道部と助っ人部の部長ビャクヤと、助っ人部の主要部員になっているだった。
不機嫌そうなタイザンを前しながら、ビャクヤもも怯むことはなく、いつもの調子でいた。
だが、これは今に始まったことではない。
二人とも学園で恐れられているこのタイザンに対して一度たりとも怯むことはなかった。
そんないつも通りの二人なのだからタイザンの機嫌を損ねてしまうのは火を見るよりも明らかだ。
「だが、いき過ぎた刺激は問題を生むことを知っているか?」
「ああ、確かに…。タイシンせんせのマガホシの刑とかやりすぎですよね。
あと、タイザンせんせの眉間の皺
真顔で言ってのけるビャクヤ。
冗談なのか、本気なのかは、本人でなくては知ることはできないが、
冗談であれ、本気であれそんなことは今のタイザンには関係のないところだ。
ビャクヤの言葉に反応してタイザンの眉間の皺が深くなっていく。
ビャクヤはなんのことない表情を浮かべているが、
となりにいるは少々絶えきれないらしく、顔をそむけて口元に手を当てていた。
「あと、行き過ぎなのは…、
ショウカクせんせのカタカナに対する抵抗力の低さとか、
オオスミせんせのマッドサイエンティストぶりとか……
ああ、あと、タイザンせんせのウスベニせんせへの――」
、タイザン先生。我々を呼び出した要件は」
ビャクヤの口を思いっきり手で塞ぎはタイザンに自分達を呼び出した理由を尋ねた。
ビャクヤは「ああ、そういえば」と言わんばかりの視線をタイザンに向け、タイザンの答えを待った。
して、二人に視線を受けたタイザンは、先ほどのビャクヤの言葉で課なり怒りのボルテージが上がってしまったが、
の義務的な声を聞き、タイザンの怒りの方向性は方向転換を余儀なくされた。
タイザンは「ふんっ」と言うと鋭い視線を二人に向けた。
「お前達は多くの部活動、そして生徒たちに多大なる迷惑をかけている。
故に、報道部及び助っ人部を廃部とする」
「そん――」

 

 

「ええ、そりゃどうぞ」

 

 

「「!?」」

 

タイザンにビャクヤが食い下がるよりも先に了承したのはだった。
その顔は完全に真顔で、冗談の色はない。
――とういか、の目にはどちらかと言えば、嬉々としたものがある。
まぁ、元々はビャクヤに強制的に助っ人部に入部させられてわけで、
報道部は兎も角、助っ人部はなくなってくれた方が清々するだろう。
しかし、タイザンもビャクヤもさかまここまであっさり承諾するとはおもっていなかったらしく、驚いた表情を見せている。
だが、に限ってそんな事を気にかけることはない。
「この二つの部が学園のためにならないというのであれば、
学園を愛する生徒の一人として、廃部させるのが正しいと思います」
まるで誰よりもこの学園を愛しているような台詞を吐く
口調はかなり演技がかっているが、の目を見る限りはそんなことを思っているようには思えなかった。
というか、学園のことを本当に思っているのであれば、授業にサボるようなマネはしないだろう。
いやいやいや!助っ人部も報道部も重要な部活動ですから!!
この2つの部がなくなったら色々な部活が悲しいことになりますよ!」
「喜ぶ部活の方が多いと思います」
「助っ人部は部活動盛上げ委員会と呼ばれるだけあって、色々な部活動の成績に貢献しています!
拳法部とか柔道部とか野球部とか!」
「被害を被っているのは、料理部、茶道部…、
その他体育会系の部活も無駄な時間を浪費することが多いです
「報道部は数多くの生徒の生の声を全校生徒に届けることによって、学園全体の一体感を――」
「時に真実は、人の胸を抉る鋭いナイフになりかねません
ビャクヤがなんとか持ち返そうと部のよいところを賢明にあげるが、
それをものの見事に、叩き潰すようにのツッコミが炸裂している。
ある意味でどちらも真実ではあるが、の意見の方が現実味があり、説得力がある。
これでは、職員会議にかけられた場合には、すぐさま廃部が決定してしまうだろう。
「ではタイザン先生、職員会議で確り部の廃部を――」
「おやおや、顧問の言い分も聞かずに職員会議にかけるんですか?」
 
「「ッ!?」」

 

「おおっ、ガザンくんってばナイスタイミング!」
突如現れたのはガザン。
そして、ありえない台詞とともに現れたのだからなお悪い。
「顧…問……?」
「はい、そうですよ?部員だったのに知らなかったんですか?
駄目ですよビャクヤくん、ちゃんと教えておかないと」
「いや〜、幽霊顧問だし、バラすと面白くないだろ?抵抗しなくなるから
「「ッ!!」」
アハハと暢気に会話するビャクヤとガザン。
ここでとタイザンはこの二人の手の平の上で踊らされていたことに気づく。
「さて、タイザン。廃部の理由を聞かせてください」
「…そ、それは、助っ人部と報道部は他の部活動の活動の邪魔になっているからだ。
たった2つの部のために、多くの部活を犠牲にするわけにはいかん」
「ふむ、そうですか」
これまた予想外の対応だ。
なにを言い返してくるかと身構えていたタイザンとであったが、ガザンはすんなりと納得したような台詞を吐いた。
もしかすると、これから攻撃を仕掛けてくるのか?とも思ったが、ガザンにその気配はない。
しかし、不意に別の人間が動いた。
「タイザンせんせ、ちょっとコッチ」
「…?」
動いたのはビャクヤ。タイザンの腕をひいて職員室の奥へと消えていく。
それをただ呆然とは見送り、「実力行使じゃないだろうか…」と肝を冷やした。
おちゃらけで、以外と温厚に見えなくもないビャクヤではあるが、実際のところは物凄く血の気が多い。
故に、実力行使は人を言いくるめるよりも、ぶっちゃけ得意分野だ。
はビャクヤの動向を不安に思っていると、ガザンがポンッとの肩を叩きニッコリと笑った。
「大丈夫、ビャクヤくんは間違った行動なんてしませんよ。きちんとタイザンに真実を伝えて戻ってきます」
「……なんだ、その真実って…………」
「さぁ?」
ガザンの言葉を聞いて、天敵ではあるが流石にタイザンの身が心配になっただった。
 
「もし、助っ人部と報道部を廃部にしたら、ガザンくんの暇つぶしの対象がなくなって――」
「…矛先が俺に向くとでも言いたいのか……」
「いや、まぁ…、うん。確定事項?つか、タイザンせんせも心当たりあるでしょ??」
「くぅっ…!」
 
職員室の奥から戻ってきたのは、
いつも通りのビャクヤと、複雑な表情を浮かべているタイザンだった。
これまたとしては釈然としない状況だった。
の予想では、タイザンは酷く落ちこんだ様子で戻ってくるかと思ったのだが、
そうではなかった。思いの他いい状況に好転したのかと一筋の希望をは抱くが、
タイザンの口から出てきた言葉はある意味で予想通りのものだった。
「……助っ人部及び報道部の廃部は見送る」
「やったー!」
「………はぁ」