始めは夢だと思いましたよ。滅多に見ることのない物凄くイイ夢だと思いましたよ。ええ。
でもですね、この体に走る緊張感と殺気は夢じゃないと思うのですよ。
『わしゃあ、我慢っちゅう言葉が一番きらいなんじゃ』
それに隣で浮いてる紅い巨体の存在感も夢ではないと思いますしねェ……。
まぁ、一番夢ではないと思ったのは………
リッ君に抱き付いたときに暖かあったってことですかねェ…………。つか、私っていまどーゆー状況なのさ。
 
 
 
 
 
始まった夢の代償は、今までの『全て』
 
 
そして、夢と一緒に手にいれたのは、これから先の『全て』
 
 
あなたは、どちらの『全て』を望む?
 
 
 
 
 
それは、会社の事前見学に行く途中の事だった。
一度は事故で大破したが、奇跡の保険で見事復活した自転車のリチャードに乗り、急な坂道を必死になって駆け上っている。
それは、私――この人だ。
このとき、私の心境はさっさと会社の事前見学を終えてパソコンに向いたい一心だった。
この日の陰陽大戦記の夢小説のネタのノリがよかった。溢れ出すネタ!萌え!燃え!!
きっと、リチャード(自転車)に乗る私の顔は恐ろしかっただろう。物凄くニヤケていて。
しかし、そのニヤケ顔も割と2.3分程度しか続かなかったのではないだろうか。
坂を登りきり、さぁ下ろうと思えばそこにあったのは単なる黒。
暗闇、暗黒、漆黒。表現にそんな複雑な言葉などを必要としないただの『黒』だった。
慌ててブレーキをかけるも、気がつけば私はリチャード(自転車)に乗っていなかった。
なにに乗っていた?いや、何にも乗ってはいない。ただ、『黒』の中に存在するだけだった。
小説の中では、慌てず対処するヒロイン達を書き上げているが、現実問題、彼女等の生みの親である私はそんなにできた人間ではない。
周りが見えなければ、手も脚も出せないヘタレなのだから。
どうしてこうなったのかなどわかるはずもなく、私はただ呆然とそこにいた。
大体の思考が落ちつきを取り戻しこの現状がどうみても現実の物ではない事を理解した。
今だから冷静に語れる話だが、この時の私は相当パニック状態だったのだろう。はっきり言って記憶なんてないのよ。
一番に思いついた事は『ぶっ倒れた』原因は事故か熱射病。
どちらにしてもこんな状況では死期が近いのでは?とエラく焦った記憶がある。
流石に陰陽大戦記の連載が終了していない時点で死ぬのは嫌だった。
…しかし、何処までもアニメ馬鹿なんだなぁとこのとき改めて実感した。本当に別の意味での兵だと本気で思ってしまった。
 
『お主が創造主か………間抜けな面をしておるのぉ』
 
ここで聞こえたのは人を小ばかにしたような…。いや、してる。…完全に人を小ばかにした女の声だった。
おそらく声から察するに若くはない。だが、年老いてもいない。まぁ、40〜50代といったところか。
突然聞こえた声に私は恐怖心を覚えた。どう見ても自分しかいないこの『黒』の中。
なのに濁りなく響く声に強い不安感を掻き立てられた。逃げ出せるものなら逃げ出したい。
しかし、そんな勇気は臆病な私にはありはしない。ただ、その場に留まり事が終るのをただじっと待っている。
 
『情けない…これが創造主たるものか……まぁいい…お主が望んだ夢幻。今ここで叶えてやろう』
 
声が言う。
しかし、突然な上にパニック状態の私にそんな『創造主』だの『夢幻』だのと言う言葉を投げつけられても対処できるはずがない。
だが、声はそれをわかっているのに私を無視したようだった。
まぁ、これもやはり冷静になって考えて出た答えなのだが。
声が聞こえなくなった。
なんだ?と思えば不意に頭を後ろからガシリと掴まれ、変な引用になるのかもしれないが魂だけ抜き取られたような感覚に襲われた。
視聴的な感覚による判断ではない。単に勘だけによる解釈だ。
そのときは意識があったのだが、視覚、嗅覚、聴覚等それら五感全てはそのときは機能を停止していた。
ようするに、機能していたのは第6感だけというワケだ。
……にしても。
よくパニック死しなかったよな。以外と人間はしぶといもんだとまた実感した。
 
 
 
 
 
「ここは何処だYo」
同様のあまりにナマズボウの口調になっていた。
極限に追い詰められた人間は何を言出すかわかったものではにということが実証された気がした。
いや、このとき本人はそんな事言ったつもりはなかったんだがね。よく考えれば言っていたのだ。『Yo』って。
で、ここを今更ながら一言で表すならば。
契約所。陰陽大戦記の漫画で小学5年生のヤクモさんがコゲンタとの契約に見たあんな障子だらけのあの場所だ。
ナマボウズの『Yo』が出たのは本能的にこの場所が陰陽大戦記に関係ある場所だと察知したからなのだろうか。
……そうなのであったなら、私は何処まで陰陽大戦記馬鹿なのか調べたいものだ。
本当にここまで来ると極値だと思うよ。
『…なんじゃ、その変な口調は』
野太い男の声が聞こえた。
変な口調で声を出しているつもりはなかった私は自分以外の誰かがいるのかとキョロキョロと辺りを見渡してみた。
だが、『変な口調』と要するに『Yo』とか、
思いっきり言ってる私のことをこの声の主は呼んでいるのだから辺りに人などいるはずもない。
『娘。お前のことをわしゃ言っとるんじゃ』
不意に一つの障子戸が開いた。逆光で姿はよく確認できない。取り合えず、第一印象はデカい。
「……………」
『その間抜け面はやめんか。ただでさえ間抜け面だというのにもっと間抜け面に見えるぞ』
あんぐりと大きく口をあけて障子の中にいるデカい何かを見た。取り合えず、もうわけがわからん状態だったことをは確かだ。
『アレは何?』とかいう思考に到らず『間抜け面か』と納得した。
「つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つ、つぅ――――――」
『黙れ、落ちつけ。………お主は筋金入りの馬鹿か?』
「―――――。ソウデスネ。ハイ。馬鹿以外ノナニモノデモアリマセン」
口から出る言葉はカタコト。冷静に対処など出来ない。
落ちつく時が一切なかったのだから。そう思うと何故だか流されている自分に納得ができなくなった。
マイペースが良きところで、かなり悪いところと嫌なほどに自覚している故に怒りが込み上げた。
その怒りが私の中にいるもう一人の自分を呼び起こしたらしい。あと、デカいのの言葉もあったのだが。
「でも、人に顔を見せない奴よか。常識人だと思いますがね」
『…ほぉ、口調が変わったな。なんじゃ、ワシの言動に腹が立ったか?』
「違います。
ただ、自分を貫けないことが馬鹿らしいと思えたからです。別にそちらの意見を否定するつもりはありませんよ」
人間とは怖い。つか、自分の性格が怖い。
一線越えて、ノリさえ掴んでしまえばいくらでも攻めこめるそんな自分の性格には、この時だけは感謝したが、
この先の話では感謝できるものではないだろう。
私の声音が変わったことに対して楽しげに笑うデカいの。
心の中で『失礼な』と思いつつ、挑発できるような相手ではないと感じ取ったのか、
問われたことに関する答えだけ返してデカいのの返答を待った。
『己を貫けぬことが馬鹿らしいか……面白い。その己の存在への執拗なる執着心…その理由を問う』
「自分を歪めたくない。
言いたい事を言えない人間になりたくないから。だから、自分が自分である事を強く望む。
……それに、親に心配かけたくないからかな」
『馬鹿は馬鹿はなりに考えているという事か』
「勿論。記憶能力は馬鹿かもしれないけど、思考能力は普通だと思うよ」
たった2言3言の会話だが、なんとなくこのデカいのの調子が掴めた気がした。
馬鹿にした態度をとるが、それはけして馬鹿にしているわけじゃない。
相手を理解しようとする態度の一つのやりかたなんだろう。
『ナノの頼みもある。休もうと思った矢先じゃが…まぁ、よい!お主の式になってやろう!
力が欲しくばワシを呼べ、赤銅の名にかけて力になってやるわぁ!!』
デカいのが大声で笑う。そして私は『式』と『赤銅』と言う単語に過剰に反応した。
これらは知っている単語。その上、現実世界で心の奥底で求めていた単語。
それが出てきたことにより、一旦落ちついたはずのパニックが再度やってくる。
だが、今回は恐怖心や焦りが強くない。心の中ではきっと期待感の方が強かったと思う。
『夢の中だけでも…!』そんな思いが大きかったのかもしれない。まったくもって、図々しい奴だ。
不意に意識が遠のいたのはそれから10秒後。
 
 
 
 
 
目が覚めた。眠っているつもりはなかったが、布団に入っていたのだからここは『目が覚めた』というのが一応正解だと思う。
和室。それが今いる自分の場所。『何処の和室だ』とかいう質問はあまりに不粋なので無視だ。
だが、頭の片隅で見たような気がしていた。現実的には見た事ないのだが。
「あ、目が覚めたんですね。よかった…僕の家の前で倒れていたんですよ?覚えてますか?」
ギャグ漫画ならば完全に鼻血を吹き出していたと思う。
現実ならばありえない存在が自分の前で笑ってるんですから。もう、この上なく可愛らしい笑顔で。

 

「(うおぉ――――!?!?
 リッきゅ―――――――んッ!?)」

 

雷が落ちたような衝撃が私の中をかけぬけた。嫌な汗がだらだらと流れ落ちる気がしてならない。
でも、現実は流れていなかっただろう。目の前にいるのは天流の白虎使い――太刀花リク
同人界では陰陽大戦記の受けの王様とされるリク。その人が自分を見て笑顔を浮かべていた。
このとき以外と冷静だったらしく『うわー夢だ夢!』と心の中で歓喜の声をあげていた。
「……?どうしたんですか?」
「は?…あ、え、ああ……えーと、助けてくれてありがとうございます…。
殆どなにも覚えてないんですが…取り合えず、そちら様のお名前をお聞かせ願えますか?」
名前から血液型まで一応の事は知ってはいるが、この場では初対面。セオリー通りに名前を尋ねてみる。
…だが、挙動不審だったためにリクは苦笑いしながら私の質問に答えてくれた。
「僕は太刀花リクって言います。あの、あなたのお名前は…?」
「うぇーっと…って言います…。…はっきり言って後のことは殆ど覚えてないです……」
覚えてはいたが、どう考えても信じてもらえそうにないのでいいはしなかった。
 
チャーリー(自転車)に乗っていたら異世界にやってきてしまいました。
 
…そんなことを流石のおとぼけたリクでも不信がるだろうし、信じてはもらえないと考え付くのは簡単だ。
適当に記憶喪失者と言う事で通そうかと考えをめぐらせていた私にリクがおもむろに一通の手紙を差し出した。
その宛名は『立花花荘管理人様へ』となっている。
『読んでみてください』とリクが言うのでかなり色々考えつつ手紙に目を通した。
書かれている事を簡潔に言えば。太刀花荘住人決定。
誰が資金等を出しているのかは知らないが、私はこのリク達の住むアパートに住むことになったいるらしい。
ご都合主義もいいところな流れではあるが『リク達の私生活見えるー!』と萌えている私にそんな冷静な考えは浮かばない。
浮かんだとしても、『萌えだからOK!』の勢いでどうにかなっているだろう。
…実際のところは、今も萌えだからOK!なところは多々あるのだが。
「……太刀花ってことは、ここが太刀花荘ですか?」
「はい。…倒れる前の事とか…やっぱり思い出せませんか…?」
「ん〜…ちょっと無理ですね…。
この家賃を払ってくれている人が誰なのかすらわからないので…でも、時間が経てば思い出せると思うので…。
………ここに住んでもいいんですよね?私…」
半分記憶喪失者のような物だと思うので『記憶喪失』の設定はそのまま活かすことにする。
リクに確認の意味も兼ねて質問をぶつけてみる。するとリクは物凄く可愛らしく笑って答えを返してくれた。
「記憶が戻るまで、ここで良ければ使ってください!
大変だと思いますけど…なにかあったら僕で良ければ相談に乗りますよ!」
ああ、もうクソ。可愛いぞリッきゅん。
取り合えず己の欲望を心の中で自分の欲望に規制をかける。
初対面の人間にいきなり抱き付くとか言うアメリカ人並のフレンドリーな雰囲気は私には出す事はできない。
出る雰囲気は危険な同人女のオーラぐらいなもんだろう。
それをリクが感じ取る事はないだろうが、おそらくドライブにいるコゲンタがそれをものの見事に感じとってくれそうでコワイしね。
 
 
 
 
 
寝泊まりする部屋も決ってなんとなく色々と落ち着いた気がした。でも、まだ片がついてない事は多くある。
できるなら、資金源をつきとめたし、この世界にきた理由も一応知っておきたい。単なる偶然のによる物なのだろうが…。
というか、このとき取り合えず考えていた事は、今は陰陽大戦記において何話目なのか、それだけがかなり気になっていた。
まだこの時はこれを夢と思っていたし、現状確認よりも萌えが先立っていたので。
窓から天神町を眺めれば平和な風景が広がっている。
元々住んでいた町とはまったく違う、古風な雰囲気の漂う町。それがどうやら天神町という町らしい。
軽く『わーい、本物だー』とか感動を覚えていた私だが、本物もなにもここにとっては現実ですからー。
と、無意味にツッコミをいれていた辺り、夢を見ていると勝手に判断したようだった。夢じゃないってのにねー。
ふと一人の男の姿が目に入る。しかし、今までにアニメでは見た事のない姿を持つ人間だった。
だが、いつの間にやら鋭くなった私の第六感がその男の事を『闘神士』として認識していた。
この社は天流に関係する場所だと地流のは知っている。なのだから、その男は地流の闘神士と判断する事ができた。
だが、どう考えてもおかしいのは私の見た事のない闘神士がおそらくリクと戦おうとしている事だ。
ここでリクが負ける事はないのだろうから式神は倒される。そうなると、式神の計算があわなくなるのだ。
一瞬、式神を確認。
いや、拝むために足を運んで見ようかと思ったが夢の中とはいえ、リク達に迷惑をかけるわけにはいかないのだから、
あくまで一般人を装うためにも残念にも思いつつそのときは願いを飲みこんだ。
「あ゙―…陰陽大戦記の夢、見てるんだったら式神ぐらい使いたかったよなぁ………」

 

 

 

『オイコラアアァ!!』

 

 

 

怒鳴り声が響く。小心者の私の事、ビク!では収まらず、ビクゥッ!!と身をふるわせた。
危なく窓からお空へ飛び立つところだった。危ないからね。
何事だと思い部屋を見渡してみれば、現実世界でも私が背負っていたリュックがそこにあった。
今の今まで気づかなかったがずっとそこにあったらしい。そして、その鞄の中身がガサガサと蠢いていた。
虫でも入ってんのか。
『お主、すっかりワシという存在を忘れてるじゃろ!!』
「……あ、マジで契約してたんだ…つか、ドライブもしくは闘神機は??」
このとき、私はへぇ〜ボタン連打状態だった。まさか、本当に契約しているとは思ってもいなかった。
あんなリアルな契約…いや、緊張感のない契約は成立しないと思っていたし。本当にあれでいいのかよ。
『お前の使っていたのがこの鞄に入っておる。
早く出して天流宗家の加勢に迎え!このまま放っておけば天流宗家は闘神士を降りることになるぞ』
「えぇ!?そんな話聞いた事ないし!つか、俺印知らんし!!」
『そんなモン、戦ってるうちに思い出すわい!ホレッ!さっさと社に向わんかい!!』
「ギャース!横暴カブトムシ――ッ!」
 
 
 
 
カブトムシにどやされ社に向った私の目に飛び込んできたのは、大きな尻尾と大きなお腹にちょこんと出たヘソ。
そしてタヌキに似たその容姿。それは、どう見ても公式に公開されている式神ではない。
そう、私が考えた式神、狸里のポンキチだ。
眉間に皺が寄る、どうしてコイツがここに居る。
冷静に考え様と思考をめぐらせるがそれよりもリク達の状態の方が危険だ。
私の考えた式神達は公式の式神達よりも能力は高い。
なので、そうそうの実力がない限り公式の式神達を使役して勝利するのは難しい。
例えそれが二対一であったとしてもだ。それに、このポンキチは術系の技を得意とした式神。
それに対してコゲンタやフサノシンは近距離型。しかも、闘神士のレベルも地流の闘神士の方が上手らしい。
『わしゃあ、我慢っちゅう言葉が一番きらいなんじゃ。さっさと降神せい!』
「ぅOK。リク君、ソーマ君、一応助太刀って形をとらせてもらうよー」
驚いているリク達を無視して私は深呼吸一つしてドライブを構えた。
紅暗色を基調としたドライブが日の光を浴びてキラリと光る。握りなれたこの感触。
まったく良くできたモンだと心の中で笑ってから顔も名前も知らない相棒に『よろしく頼むよ』と声をかけ私は声をあげた。
「式神降神!!」
「…赤銅のミソヒト見参ッ!!
ドンッ!と私の前に現れたのは赤い巨体を持つカブトムシ――ミソヒトだった。
自分が降神したことに実感のない私はただボッーとミソヒトの巨体を眺めている。
いや、思う以上にメタルで可愛いんですもの!眺めないと勿体無い!!
「オイ、なにをボッーとしておる!さっさと指示くださんかい!!」
「うぇ!?いきなりですか!つか、印なんて知らん…って………アレ?」
ミソヒトに怒鳴られ、先ほどと同じ答えを返そうと思ったが頭の中に印が浮かび上がる。この印は…。
「いきなりこの印ですかいな…つか、あの狸にはあんまり効かんのやけどねェ〜」
「技はタイミングと使い様じゃ!ワシ等式神を生かすも殺すも闘神士次第!確りらやんかい!!」
カッコのいいことを言ってくれるよミソヒトは…。
確かにミソヒトもコゲンタ達同様に接近戦型。しかも、スピードがほぼないに等しい接近戦型だ。
遠距離から攻撃を放っても狸里はスピードのある式神故、かわされるのが落ちだろう。
だが、一発でも当てればそれで事はすむ。
まぁ、リアルな状態では始めて戦うが、ゲームで鍛えた戦略は割と生きてくれている。
それに、最高の式神サマがついてくれているのだから大丈夫。
頭に浮かんだ印をテキパキと切る。印さえ覚えてしまえば印を切るのに時間は差ほど用いない。
「必殺!月見一杯礫!!」
「ざーんねん!お嬢ちゃんの言うとーり!オイラにその技は効かないよー!」
ポンキチがけらけらと笑う。
確かにミソヒトの放った技はスピードのある式神には当たらない。
そう、ミソヒトの武器である…陰陽鉄球、花形見の攻撃はな。
「降り注ぐは月の雨。空襲警報―!
私が無駄にテンションをあげて声を出すと上空からポンキチ達に向って無数の隕石が落ちてくる。
ポンキチは『ウッソ!?』と声をあげて逃げ惑う。
だが、これで攻撃が終わりと勘違いされては困る。あくまでこれは囮。
本質はシンプルである事が案外いい。味噌煮缶詰より水煮缶詰よ。
「地味な始末のつけ方や。だが、満更馬鹿ではないようじゃな」
「せんきゅー、ミッ君」
鉄球に押しつぶされたポンキチは声をあげる暇もなく消え去った。