不意にパチと目が覚める。
「っ――…お嬢様…!」 「、ぁ゛…?………………?」 「大丈夫ですか…っ?!どこか体に痛みは……っ」
私が目を覚ましたことに気付いた――のは、傍にいてくれたらしい花浅葱色の髪の少女・心皇。
「あーあー落ち着け――それじゃあ余計にお嬢が混乱する」 「いやっ、だがな?!」 「――心配は、無用だろ?お嬢は式神に抱き止められてた――んだからな」 「……抱き止め…?」 「ああ、現場にいた連中の話だと、なんの前触れもなくお嬢が降ってきた――らしい。 「……アルバが……か…」
空から降ってきた――パラシュート無しのスカイダイビング状態だった私を救ったのは、私の霊核式神であるアルバ。
「……なにがあったの?」
布団の上で上半身を起こし、呼び出したアルバに私が気を失う以前の記憶を問う。
「…………だ、大師匠との修行中に……なにか…こう………」 「……いや、大師匠といえど空間転移は――…………大和も…いない、しなぁ……」 「………薩摩?」
そう名前を呼び、が左――自分の左肩に乗っている白の子鼠に視線を向ける。 空間転移を特性とする鍛神の子神・大和――の双子の弟である薩摩、もまた空間転移の特性を持っている。
「……双葉の時空跳弾で気絶して、武蔵の作った穴に落ちた??」 「…有り得そう――…ではあるんですが……状況が不自然過ぎると思うのですが……」 「だよねぇ」
双葉たちが――というのは十二分に有り得る。 …とはいえここに私を――の元に落とす理由がわからない。 じぃっとを見る――と、はなにやら困ったような、戸惑うような色を浮かべながら――も、笑みを見せる。
「」 「は、はい?」 「敬語禁――」 「無理です」 「早っ?!」 「……お嬢様…無茶をおっしゃらないでください…っ。 「それを上回って『鍛神の神子の従者』――だからね?」 「ぁう……」 「くく…まぁお嬢、 「……不都合?」 「おう、敬語で一線引かないと――お嬢へ対する好意やら尊敬やらが抑えられねーのさ」 「っ…!!!」
楽しそうに笑いながら言う薬研――から、反射でに視線を向けると、はうつむいた状態で更に右手で顔を精一杯隠している。
「……薬研」 「ん?なんだ?」 「これで………の心配性…っていうか過保護……抑えてる、の…?」 「ああ、抑えてるさ。もし抑えなけれりゃ――霧嬢レベルのそれ、だぜ?」 「ぅわーマジかー」
とは歳の近い友人――みたいな感覚で私は接しているけれど、実際は年上で、更にいうと姉弟子だ。
「……、これからも敬語でいいよ――…これ以上心配されたら動けなくなる」 「…………………すみません……」
それは何に対する謝罪だ――と、思ったけれど、それはあえて突っ込まなかった。 …これが以前の――意思なき狗だったなら、どこまでも掘り進めるところだけれど―― 自分のありよう――自分の 自分と近い失敗と、そして傷を負った。 …そんな頼もしいの姿は、かつて共に戦った仲間としては嬉しい――というか「よかった」と思う。
「……………しばらくここにいる」 「…ふぉっ!?」 「……迷惑?」 「いっ、いえ…!…いや……でも………?!」 「…不都合なら帰るよ――……ただの個人的なワガママだし…」 「っ…いえっ…不都合、というわけではないのですが……なんっ、と、いう、かぁ……」 「…――はっきりせいッ」 「ふぐんっ――………
いつまで経ってももごもごとはっきりとした答えを口にしないにイラっとして思わず手が出る。 ……ここに如何ほどの何があるの…。
「…そんなに気がかりになるような事があるの?」 「うーん……あー…なんというか…なぁー……」 「もー薬研までもごもごしないでよ」 「いや、うん――お嬢の言うことは尤もなんだが――」 「もう!白状します!!お嬢様がみんなにもみくちゃにされてゲッソリすることになる――のと!
意味の分からない――というかすっとぼけた理由で私の滞在を渋っていた。
「…幽雅亭のこともあるし……寧ろ敬遠されると思うけど…」 「……齢を重ねていない刀剣であればそうかもしれませんが………平安刀たちはアグレッシブに絡んでいく気がして……」 「…私がげっそり――対応できないくらい大勢いるの?」 「いえ…人数は多くないのですが………その……アク…というのかクセというのか……そういうのが強い面々で……」 「…………」 「? は、はい…」 「彼らの個性は――神子サマ方に勝るほど?」 「――――」
私の指摘に、はこの上なく渋い顔をする。 平安――齢千年を超える刀剣、ともなれば重ねた歳月の分だけアクは強くなるだろう。
「…お嬢、俺っちも正直なところお勧めはしないが――…それでも、か?」 「……たちの迷惑になるなら帰るけど……。 「……そこまで的っ外れじゃあないと思うんだがなぁ――現に 「ぅおおぉ!?」「うわっとぉ?!」「わわっ!」「ぅわっ、ちょ…!」
薬研が気配を消し、素早く移動してふすまに手をかけ――それを引く。 …気配で何となくわかっていたけれど、やっぱり――たちが心配するほど多くはない。
「……各自通常運航で――と…言ったはずなんだが…」 「いや、そうは言われても――なぁ?」 「そうそう、空から降ってきた――んだからさ?気するなって言われてもムリでしょ」 「それにあんなに慌てた見たら気になっちゃうよっ」 「そっ……それについては申し訳ない…」
7人組の紅一点・金色の髪の少女が口を尖らせて反論すると、は観念した様子で謝罪を口にする。 …割と、落ちつた印象の強いだけれど、謙虚が過ぎて
「………うん。よし、わかった」 「……へ…?」 「強制的にここにいる」 「ほォ?!」 「追い出したかったら実力行使でお願いしまーす」 「な゛っ……端から詰んでるじゃないですか…!!」 「…詰んでないよ。はいい加減に自分の 「っ…滅相もない!私なんて…っ」 「まぁ総合能力でいったらアイツらに軍配上がるよ? 「…あれは…一瞬、ですよ…。その後は防戦一方で…………… 「まあねぇ」
剣士としての才能は、四神の神子たちにも匹敵する。 だからこそ、優秀な陰陽剣士を多く抱える心皇において「千」の名を襲名できた――
「でもほら、私もさすがに物量で押されると苦戦せざるを得ないよ?」 「……みんなにお嬢様の相手はさせられません…」 「……それはなに?私に手加減なんてできるわけない――と?」 「それはさすがに思いませんが……お嬢様、初見の相手には滅法強いですから…。………正直みんなじゃ足手纏い…」 「ははーだろうなー。今のお嬢の相手が務まるのは、この本丸じゃあ麗だけだろうからなぁ」 「天下五剣――大典太でさえかすんで見えるほどの気力量、だからなぁ。確かに俺たち程度じゃ話にならんだろうさ」 「……思いがけず…潔いね?」 「ははは、これでも付喪神――だからな。きみほどの大物ともなれば、誰だって畏れるさ」 「…………今は神子じゃないんだけどなぁ…」 「――とはいえその気力量だ。 「ぅん?」 「きみを覆っている神気が中々……」 「あー……。 「……」 「ハハッ、ここで怯んで噂の姫さんとお近づきにならないなんざ――男が廃るっ」 「いいや?!鶴丸それは違うぞ?! 「……姫様…?」 「ぶあ゛…!!」
止めさせた――にも関わらず、 半ば反射でイラッとして、に冷ややかな声を向ければ、はビク!と肩を震わせ、変な声を上げる。
「ああ、うちの主を責めないでやってくれ。俺のコレは主のが移ったわけじゃなんでね」 「……じゃあ?」 「ええと……こぎつねまる、というとうけんをしっていますか?」 「こぎ?」 「……どうやら知らぬようだなぁ…」
白の男性――鶴丸と呼ばれた彼が、自分が私を「姫」と呼んだ原因がではないと言う。 ……狐…で、私を知っていて、なおかつ私を「姫」と呼ぶ――
「えーと…大妖狐の関係者……なのかな?…でもここにいる刀剣って表の、じゃなかったっけ?」 「うむ。小狐丸は我らの兄弟――三条宗近が打った太刀。 「ほー?そんな珍しい子が華戸にいたんだ――
獣神を祀る華戸神社――には、獣神にまつわる武装や採物が数多く収められている。 ――して、その筆頭が鳳凰ノ神の加護を受ける瑞宝七武装の長である輝望海帝。
「あんのじょう――というやつでしたね」 「ははは…まぁその輝稲ってヤツの気持ちもわからんでもないが」
…どうやら、私は件の小狐丸という刀剣と会っているらしい。 ううむ……輝…も、悪いけど…会ったことがあるのに記憶していない私も十分悪い。
「はぁ…これはちゃんと謝らないと…」 「…みこさまがあやまると、ぎゃくにこぎつねまるはあわてふためいておおごとになりそうな……」 「あー…みたいになー」 「…………はぁ…神子……じゃないんだから、もっとこうみんな気軽に――」 「「「「無茶言うな」」」」 「食い気味にハモったね?!」 「そんだけ、お嬢の『注文』は無茶ってこった。 「………………………ぇ…まさか……武蔵の『枠』に入ってるの…?!」 「…おそらく――な。最初こそ、
苦笑いしながら言う薬研に、妙に納得してしまう。 獣神の、霊的なモノへ対する影響力は良くも悪くも大きい――ものの、一応、人の「感情」に因ったモノへの影響は一番弱い、らしい。
「ぅんー……刀剣だからなおさら 「それも……あるとは思いますが――…単純に、お嬢様の受けている加護が規格外、ということも一因かと……」 「ぇ」
刀剣に対して加護を与えているのは 思ってもみない要因――というか認識していなかった
「………神子の基準で見れば、加護の域で得られる支援は塵に等しい…のかもしれませんが、 「……………じゃあ…もしかして私……涼しい顔してえげつない神気撒き散らしてるの…?」 「……いえ…以前は 「牽制されている――ってな感が強い、な」 「…あれ?そう…ですか? 「ああ、俺も気圧されはするが――…それに敵意や害意のようなものは感じぬぞ」 「――俺はそもそも3人の言ってる『神気』っての自体、よくわかんないんだけどー? 「うむ、ワシも加州と同意見じゃ。 「俺も、陸奥さんたちと同じだよ。双葉サン――…みたいな 「うん、ボクも鯰尾兄と一緒だよ――あれ?薬研は?」 「俺っちは、なぁー……基が 「…思っていたより……個々で様々なんだな…。 「いやいや、ないない――というか、あったら 「ぁ…ああー……どの程度かはわからないが…お嬢様に軽口を叩ける――…なら『その程度』なんだろうな…」 「ぅーん……たぶん 「……あ…」 「ひ――ぅおぉぉっ??!
真っ青な顔で、好奇心にまみれた楽しげな笑みを見せる鶴丸さん――
「――お?」 「…? どうした?」 「いや……急に 「……お嬢様……」 「なに?私の意思じゃないし。あくまで決めたの日向だし」
迷惑そう――というか心配と困惑の混じる不安げな表情で私を見るに、はっきりと事実を返す―― 正直、そんな顔をされたって困る。
「……お二人がそれでいいのであれば…それに対しする異論はありませんが……」 「が?」 「…後々、鶴丸が死ぬほど大変な目に合うんじゃないかと………少々心配で…」 「? なに、が??」 「……瑞宝――…輝望様、の……気分、的に………」
なぜか顔色を悪くして、は輝望の存在を、その気分を害してしまうのではないか――という懸念を口にする。 …正直、私の見立てでは、鶴丸さんが輝望と肩を並べる――なんてのは難しい、通り越して無理に等しい。
「…鶴丸の旦那には悪いが――そいつは考え過ぎだろ?」 「…だといいんだが……麗や魅香さん… 「「………」」 「それに……鳳凰――は、その…………そ、の………愉しい一派――…なので……」 「………要するに、日向が輝望煽って鶴丸さんと一悶着起こす気なんじゃ――って心配なんだ?」 「そっ、そこまでは思ってませんよ?!」 「 「う゛……」 「…まぁ、の懸念も当然――っていうか的外れではないけど、 「…
私の「大丈夫」という言葉に対し、から返ってきた反応は芳しくない。 …正直、本気での考え過ぎだと思う――んだけど…
「……まぁ…輝望が華戸から離れるなんてよっぽどのことがない限りないから――大丈夫、来ない来ない」 「…そうですね…そんな暇、ありませんよね…」 「いや、暇はいくらでもあると思うよ?運営全部透彩に投げてるんだし」 「………かのうせいを…広げないでください…!」 「あ、ゴ――」 「〜〜!!!」 「ッ博多?!」
私の謝罪を遮った――のは、酷く慌てた様子で部屋飛び込んできた赤縁メガネが印象的な金髪の少年。
「…なっ…何事なんだ博多…っ」 「あの!あの山吹色の刀剣が!!」 「…ぇ」 「なに!?」 「い、今はなんとか綺羅姉が抑えちょるけど…っ長くは持たんばい!」 「っ――姫様!」 「――姫じゃないけどねッ」
とっさに出ただろうの 大所帯でバタバタと、眼鏡の少年にあとに続いて問題の現場へと足を運ぶ――と、
「!!!!」 「ぉうっ?」
目に入った現実が、想像もしないほどに恐ろしくて――思わず、傍にいた鶴丸さんの後ろに退避する。 本音を言えば、ミリほども前になんて出たくないけれど、
「………ええ…と………
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■あとがき
本編に、オリキャラのような夢主――として介入、な感じでした。
なっかなかに中途半端――というか、これから特大の一悶着!!ということろでお開きとなりました(苦笑)
だってこの先、よろず主とオリ刀剣とキャラ崩壊した小狐丸がぎゃーぎゃー騒ぐアホ展開しか想像できなくて…(目逸らし)