うちの主は黙ってるとすごーく無愛想に見えるし、人によっては不機嫌にも見えると思う。
でも、実際のところは無愛想でもなけりゃ気難しいわけでもない。
ちゃんと冗談の通じる気さくなヤツで、刀剣おれたちとのコミュニケーションを大事にしてくれるいい主だ。
 …なんか、主自慢みたいで微妙アレなんだけど、うちの主はこれで結構、剣の腕が立つ。
刀の付喪神――刀の特徴を最も発揮できる俺たち刀剣男士を相手に勝ち星をあげんだから、その実力は嘘も間違いもない真っ当なもんだ。
――あ、あとこれで意外と外見も悪くなかったり。
普段こそ動きやすさ重視ー、とかで男みたいな格好しているけど、ちゃんと整えてやれば化けると思うんだよね、俺的に。
 そんな感じで、うちの主は結構「主」としては高水準だと思う。
まぁ、戦いの場を仕切る主が女子――っていうのは、気になるヤツにとっては気になるところだろうけど、
主の剣の腕を考えれば帳消しにできなくもない。
…でも、うちの主には女であるっていう欠点以上に大きな欠点――左腕がないっていう欠落があった。
 
 主の欠落は、ここが戦いの場だからこそ――俺たちが命がけで戦わなきゃいけないからこそ、大きな不安要素になる。
だって左腕を失ったって事は、戦いの中で大きな失敗をしたってことじゃん?
これが、それなりに歳食ったオッサンだったらまだ名誉の負傷とかなんとかって思えるけど――うちの主はまだ子供。
見かけの割に落ち着いてるけど、それでもやっぱりまだ子供。
だからその腕の消失が若気の至りに見えてくる――ま、当然だ。
 俺は、主がどうして左腕を失ったか――知らない。
主が教えてくれないわけでもないし、聞きたくないわけでもない――けど、知りたいわけでもない。
過去の主がなんであれ、今の主は悪いヤツじゃない。
俺たちを大事にしてくれるし、心配してくれる――そして、上手に使ってくれる。
俺はそれで十分――あー…いや、もうだいぶ俺を贔屓にしてくれたら満足じゅうぶんかな。
 そんなわけで、俺は主に対して大きな不満とか、疑念とか、そんな難しいモンは持ってなんだけど――

 

「(いつまで続くんだかなぁー……コレ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チの主と新入りは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キンキンと、金属かたなのぶつかり合う音が延々と響いている。
これが、鍛冶の刀を打ち鍛える音だったらまだ「仕方ない」と割り切れるところなんだけど、
そうじゃないからわずらわしく――いや、呆れる。
 裏庭に作られた手合わせの場で、既に数時間に亘って打ち合いを演じているのは、
主――と、つい数時間前に俺たちの仲間になった和泉守兼定。
このヒトは、俺と安定の前の主――沖田クン、の幼馴染で後の上司の土方歳三サンの愛刀。
だからまったく知らない仲じゃーない。
ま、あの人たちの刀だった時から「意識」があったわけじゃないから、話したことなんてないんだけどさ。

 

「チィッ……!」

 

 また、主の刀が和泉サンの首を捕える。
でも、それを「負け」と認めなかった和泉サンは主の腹目がけて蹴りを放つ――けど、
それを主は後ろに下がることでかわして、またすぐに和泉サンに向かって打ち込んでいく――
――因みに、こんなやり取りが数時間続いている。もう、いい加減飽きてきた。
 胡坐をかいて縁側に座っていたところ――を、そのまま横へと倒れてコテンと横になる。
同じ新撰組の刀のよしみ(?)でこうして付き合っているけど、さっすがにもういい加減飽きてきた。
つか、和泉サン諦め悪すぎ。何回主に殺されたと思ってんのさ――…誰も、今の主には絶対勝てないっていうのに。

 

「安定ー」
「……なに」
「お前、今の主に勝てると思う?」
「…………勝ちたいけど」
「いや、希望は聞いてないし」

 

 少し不機嫌そうに言う安定に苦笑いして、一度視線を安定に向ける――けど、既に安定の視線は主たちに戻っている。
いや、そもそも俺の方を見ていたかすら定かじゃない。
大体、コイツが不機嫌になったのも、俺が声をかけたことで主たちの試合に向けていた集中が散漫したから。
だから、少しでも主たちの闘いを見逃したくなければ、わざわざ俺に視線を向けるなんてことはしない――だって俺がそうだったし。
 主と和泉サンの試合は一方的――主の独壇場。だってそりゃそうだ。
和泉サンはただの剣士で、主は剣士であることにプラスして退魔士――人を超えた連中と戦う人間としての側面も出してんだから。
でも、これは和泉サンの望んだところ――真剣マジで戦えってさ。
 いつも主は俺たちの相手をする時は退魔士としての要素を一切ださ――あ、いや、木刀強化するのに使ってたか。
まぁでもそのくらいで、打ち合いの中で術使ってきたり、身動き封じてきたりとかは絶対しない。
まぁ、今もそんなことは全然してないんだけど――
――バカみたいな機動力と、どこからでも刀出し放題ってのは、一般人ふつうじゃできない芸当だよな。
 主の刀が、今度は和泉サンの胴っ腹を捕える。
そこで止めていなければ、和泉サンの体は真っ二つ――現界して早々に破壊されていた。
もーいい加減、自分じゃあ勝てないって諦めて欲しいんだけど――多分だけど、和泉サンは負けたことで更に意固地になってる。
勝てないのが悔しい――ってわけじゃなくて、主を主と認めたくない――んだと思う。安定と一緒で。

 

「(ったく、忠剣だねぇ)」

 

 安定は、ついこの間まで主のことを敬遠していた。
ま、それは主が悪いんじゃなくて、安定が沖田クンのこと好きすぎて、主を失うってことに臆病になってたから、なんだけど。
――んで、この現象が和泉サンにも起きている――と、俺は見る。ああ、特に前者の方ね。
 俺だって、沖田クンのことは好きだし、大事な主よ?でもさ、もう沖田クンはいないんだよね――どこにも。
だから新しい主に乗り換える――ってワケじゃないけど、
過去に縛られて前に進めない――ってのは、恥ずかしいじゃん?沖田総司の刀として。
これが、気に食わないヤツだったら俺も突っぱねてたかもだけど――そんなことないし。
だから俺は沖田クンのことを大事に思った上で、のことも大事に思ってる。俺をちゃんと使いこなしてくれる主として。
 ……ん?待てよ……?

 

「安定」
「…なに」
「主の嫌いなところってある?」
「………は?」

 

 質問と一緒に視線を向ければ、安定から帰ってくるのは間抜けな声と表情。
まぁ、唐突な質問ではあったよな。脈絡もないし。でも俺の中ではあるの。

 

「で?あんの?ないの?」
「……………ああ、笑って『大丈夫』でなんでも済ませようとするところと、
自分の都合の悪いことをテキトーに流そうとするところと――…嫌い、ではないけど、おちょっちょいなところは困る」
「……言い出したら結構あんのな」
「…そういうお前はないのかよ」
「俺ぇ?俺は………あー、嫌いっていうかつまんないのは、からかっても反応が鈍いとこだな」
「…………」
「なに?」
「…別に、お前らしいと思ってさ」

 

 呆れ顔で、俺から主たちに視線を戻す安定。
まぁ、安定からしたら俺の不満は大したことじゃない――無いに等しいだろう。
だって俺、主に対する不満ってホントにほぼないし。
一応細々持ってる「不満」も、正しく言えばただのワガママなわけだし。
だからわかんないんだよね――主が嫌われる理由が。
 よく見れば、和泉サンの顔に浮かんでいるのは悔しげな色――でも、たぶんそれは主に負けたことへの悔しさじゃない。
じゃあ、和泉サンはなにを悔しがっているのか――そんなモン俺に判るわけないじゃん。
俺、和泉サンのこと全然知らないし。ああ、相棒の堀川国広ならわかるかもだけど――そもそもいねーし。
 横にしていた体にグッと力を込めて起き上がる。
前に視線を向ければ、やっぱり写るのは真剣持ってドンパチやりあってる主と和泉サン。
さすがに数時間もぶっ通しで打ち合い続けてれば疲労も見え初めて、和泉サンの額には汗がにじんで息も乱れてる――のに、
主はほとんど疲れを見せてない。ったく、退魔士サンてのはそこまで凄いんですかねー。
 殺しても死なないんじゃないか――そんな錯覚を覚える主の凄さに思わずニヤと笑みが漏れる。
面白くて面白くて仕方ない――ああ沖田クン、叶うことならアンタと一緒にこの人と戦ってみたかった。
本気で、全てを曝け出して殺りあえる相手と真剣に――。

 

「――清光…?」

 

 一応、主と和泉サンの不意を突いて、主に切りかかっていったんだけど、
残念ながら俺の奇襲は失敗――お見事に和泉サンの一撃と一緒に俺の一撃も刀で受け止められた。
 ははっ、マジでうちの主は規格外――のこーゆーところが飽きなくて俺は好き。
そして、そんな新しい一面を見つけていくのも――また楽しい。

 

「なぁ主。今度はちゃーんと、俺と真剣勝負しようぜ?」
「…テメっ、清光……!」
「アンタはいーかげん下がりなよ。
新入りだからっていつまでも主のこと独り占めできると思ったら大間違いだぜ?」
「な゛っ…!」

 

 ニヤリと笑って和泉サンに言ってやれば一瞬、和泉サンの顔が怒りで赤に染まる。
でも、俺にとってはそんなことどうでもよくて、早々に主に視線を戻せば――主はいつもの雰囲気に戻って苦笑いを浮かべていた。

 

「簡単に言ってくれるなぁ」
「なに?和泉サンタチ相手ならできて、打刀おれの相手はできないっての?」
「いや、そもそも加減が難しいんだよ、加減が。だから、一旦気が抜けると――」

 

 何かを言い切るよりも先に、主は軽い動作で俺たちの刀を押し返してから、一気に後方へ飛んで距離をとる。
そして――へたり、と主はその場に座り込んだ。
 さっきまで平然と激しい打ち合いを演じていた主がそうなっただけに、
さすがに心配になって刀を鞘へしまいながら主の下へ駆けつければ、主は――笑って「大丈夫」だと言う。
…うんそれ、隣にいるヤツやすさだが嫌いなヤツだな。うん。

 

「……また気力の使いすぎですか」
「いや、違う違う。なんというかこう………ずっと息を止めて戦っていたというか…。とにかく気が抜けてね」

 

 ははは、と主は笑って言う。…ああ、これも安定の主の嫌いなところだな。
自分の都合が悪いところはなんかテキトーに流そうとするトコ。
…でもまぁ、主の言わんとしていること――誤魔化したいことはなんとなくわかる。
だって和泉サンの試合の中で主は息を止めていた――ずっと気を張ってたんだろ?ってーことは、

 

「よーするに、真剣勝負ではあったけど――全力ではなかったわけだ」

 

 俺の指摘に、主の苦笑いにはほんの僅かだけど泣きそうな色が混じる――ああ、やっぱ図星か。
まぁでも考えてみれば当然。だって俺たち刀剣男士は付喪神。
その妖の類ともいえる付喪神の相手を、退魔士がしようってんだから――そりゃ、気も張る。
例えるなら、斧で豆腐切れ――とか言われてるようなモンだろ、コレ。
 和泉サンは当然として、俺たちの顔すら見れない心境に陥っているらしい主の視線は、遥か遠く明後日の方向を見ている。
まぁ、和泉サンはともかく、俺たちとは目を合わせてくれても――というか、気まずいことはないと思うんですけど。
別に、主は俺たちに悪いことしてないじゃん。――と、思ったから、
ぐわしと主のあごを掴んで無理やり主の顔を自分の方に向ける。すると、意外とばちりと主を視線が合った。

 

「んじゃ、俺、明日予約ね」
「へ?」
「…じゃあ、僕はその次で」
「ん?!」

 

 頭に酸素がいっていないんだか――ワケがわかっていない主。
ビックリした表情で俺たちを見る主を前に、思わず安定と顔を見合わせれば――思わず2人して苦笑いする。
さっきまでの、触れたら切れるような鋭さはどこいったんだ――って。
 でもそんなこと今の主に言ったところで更に「んん?!」と混乱されるだけだから深くつっこまない。
だから、俺と安定の「予約」についてだけちゃんと伝えれば――主はやっと落ち着きを取り戻して、
そういう事かと納得して「わかった」と俺たちの要望を受け入れてくれた。
 ――ただ、それと一緒に忘れてていいものまで思い出したらしくて、
手を膝について主は徐に立ち上がると、完全に蚊帳の外に追いやられていた和泉サンに視線を向けていた。

 

「少し、休憩をもらってもいいか?」

 

 申し訳なさそうな表情で、和泉サンに休憩させて欲しい――なんて言う主。正直、バカなの?とか思う。
そんだけ消耗しといて、続けるだけ無駄だってわかってるくせに――なんで下手に回ってまで、あの人に付き合おうとすんのさ。
 和泉サンは、これ以上主と打ち合ったってなんの答えも出せやしない――っていうか、もう答えは出てんじゃないの?
ただそれを認めたくないだけでさ。…ああ、そう思うとちょっと腹立ってくるな。
なに何時間もイイ大人が主相手に八つ当たりしてるワケ?
それで主が傷ついているわけじゃないからまだいいけど――俺たちとの時間が浪費されてるのは事実。
 うん。やっぱムカつく。

 

「いいよいいよ、主はずっと休憩しててよ――俺と安定がこのヒトの相手すっからさー」

 

 トンッと主の背を押せば、さほど力の入っていない主の体は俺が押した方向――安定がいる方へと傾く。
とっさのことではあったけど、安定に限って主を受け止められないなんてことはない。
しっかり主をキャッチして、その流れのまま主に邸の中に入るように促してんだから――さすがというかなんというか。
でもそのおかげで俺は目の前のイイ大人と真っ向からやりあえんだからありがたいことこの上ないんだケド。

 

「…お前ら……どーいうつもりだ」
「どーもこーも――ただのヤキモチ」
「はあ?!」
「――ってのと、」
「!」
「いつまで経っても腹ァ括れねー土方ふくちょーさんの忠剣の尻――引っ叩いてやりたくなってさァ!」

 

 一気に、和泉サンとの距離を詰めて、刀を鞘から抜き出し――和泉サンの首すれすれの空を一閃する。
見よう見まねで主のやり方を真似してみたけど――うん、やっぱアレは主独特の剣術だ。
俺が真似て上手くできるものじゃない――…でもこれで主は使いこなせるんだよなー、俺を。
 やっぱすげーなー――って、改めて感心している余裕は実はない。
俺打刀で、相手太刀――ぶっちゃけたところが、強度うんぬんからいって結構不利。
ま、刀剣男士になってから戦闘経験は俺の方が上だけど――それでどこまでやれるか、ちょっと微妙。
 でもまぁ――

 

「俺一人で、音ぇあげないでくれよなッ!」
「はっ…!なら精々気張ってくれやッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 正反対に見えて似たもの同士――ということで、きよみっちゃんは最初から夢主のことを信頼している設定です。
…あ、バーベキューの話読んでいる方には既知のことでしたね(苦笑)
 きよみっちゃんは猫みたいで非常に可愛いです。そして何気に書きやすいです。似ているかどうかはともかくとしてっ(逃)