目を開いた瞬間、目に入ってきたのは酷く動揺した女の――いや、少女の顔。
自分の目に入ってきた俺の姿がよほど信じられないようで、
いつもであれば毅然としているアイツには珍しくその足は後ろへと後退している。
だが、それをわかった上でわざと「よぉ大将」と薄く笑みを浮かべて声をかけれやれば――アイツは、薄っすらと眉間にしわを寄せた。
 わざわざ、こっちから声をかけてやったってのに、返ってきたのは怪訝な表情――こいつはずいぶんな歓迎だ。
オイオイと、その歓迎はないだろう――と、俺が言葉を投げれば、アイツはうわ言をつぶやくように「薬研…」と俺の名を口にした。
 俺とよく似た紺色の軍服を着た少年たち――俺の兄弟たちの視線が一斉にアイツに向く。
そいつはそうだ、兄弟の驚きは当然だ。
世の名刀に、興味もなけりゃ知識もないアイツが、名乗りもしていない俺の名を口にしたんだからな。
だが、アイツは俺を知っている――と、同時に俺もアイツを知っている。

 

 

 ダメ押しに、名前を呼んでやれば、アイツはぎょっとした表情を見せた――かと思えば、
この上なく眉間にしわを寄せて疑るような表情を見せる。
オイオイ、ここまで言っても俺を薬研藤四郎おれと認めないのか。
大体、俺の姿は昔から一切変わってないはずなんだがな。しばらく見ない間に、アイツが成長していても――。
 視覚が、聴覚が、知覚が、事実を認めないってんなら――最終手段に出るしかない。
だが、これは確実だ。これで俺だとわからないんであれば――コイツは俺の知るコイツじゃあない。
――ま、んなことにはならんだろうが。
 タンッと地を蹴って、一気にアイツとの距離を詰める――
――兄弟、そして他の連中の驚く表情が見えるが、そんなもんは気にしない。
今、俺の意識は一点に集中している――それはアイツの首。
 本気でアイツの首を取るつもりで、その首をかき切るつもりで、短刀を振るう――が、

 

「――お前こそ、だよ」
「はっ、大将が俺っちを認めねぇからさ」

 

 俺の一撃を受け止めたのは一枚の札――
――そしてそれを構えているのは、何処か好戦的な色を瞳に宿した――俺のよく知るアイツだった。
 グッと、握っている短刀への圧を強めれば、それを敏感に察したアイツがそれを押し返して――俺はその力を利用して一旦アイツとの距離をとる。
そして用を終えた短刀を腰に差した鞘へとしまい、改めてアイツに――これから俺の大将になになる審神者にんげんに視線を向けた。

 

「よく来てくれたな、薬研」

 

 ふっと、穏やかな笑みを浮かべ言うアイツ――だが、それは本心からの言葉じゃあない。
俺の知らないこの表情かおは、コイツなりの本心を隠すための仮面。
…まぁ、ギャラリーのいる間で腹割って――本心をさらけ出せるわけもない以上、ある意味この反応はありがたいではあるんだが。
 そんなことを思っていることなんざ、おくびにも出さずに俺も笑って「ああ」と答えて――

 

「改めてよろしく頼むぜ、大将」

 

 ――と、辺りざわりのない言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

み望まぬ再会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇色の空に、煌々と照るのは柔らな蒸栗色の月。
ああ確かあの日の夜も、こんな月が――紅蓮に染まる闇色に浮かんでいた。
俺の前の主人が、家臣の謀反によって追い詰められ――自害したあの日の空に。
 本来であれば、俺は前の主――織田信長公と共に、本能寺で焼け朽ち果てるはずだった。
俺はあの人に憧れていたところがあって、だからあの人と一緒に朽ちることに不満も、後悔もなかった――
――だがそれを、他の誰でもない信長公が拒んだ。薬研藤四郎おれは、ここで失われていい刀じゃない――ってな。
 まぁ、その当時の俺に意識なんてものはなかったからな。
抵抗も何も、まして不満もなかった。だからこんな感情を得たのは、つい十数年前――アイツと初めて出会った時だ。
…今にして思えば、それがアイツの審神者としての能力の開花だったんだな。
まぁ、今の今まで誰も気づかなかったんだが。
 
 月が――茂る木々によって隠れる。
俺の足元を照らす唯一の光源がなくなっちまったが、元々夜目の利く俺にはさしたる問題にはならない。
確かな確信を持って暗闇の中、歩を進めていけば――不意に、月の光が俺の世界を照らした。
 足元を、ちょろりと走る白いモノ――視界の端に入ったそれを反射的に追えば、
その終着点――川岸の岩の上には、浴衣の上に苔色の羽織を羽織り、岩の上に腰掛けているアイツの姿。
俺の案内を終え、自分の元へ帰ってきた白いモノ――薩摩を肩の上に乗せ、その労をねぎらうようにアイツは薩摩の頭を撫でた。
 川の流れによって丸く削れた川原の石の上は、独特の感触で歩き難い。
こんな川原の砂利道は久しぶり――だが、その感触は体がしっかりと覚えている。
だから歩くことに難はない――どこぞの誰かに連れられて、よーく川原へ来てたからなぁ。

 

「相変わらずだな」
「まぁ……これは、ね」

 

 相変わらずだという俺に、アイツは苦笑いを浮かべて「これは」とわざとらしく返す。
…いや、違うか。単にアイツは本心を返しているだけだ――自分は変わってしまったんだと。
 俺がコイツを知っているのは、コイツが心皇一門の本家で修行をしていた時――齢十ぐらいまで。
その後も、正月やらに帰ってきたり、修行ために帰ってきたりと、年に1〜2回は顔を合わせていた――んだが、
ここ数年に限っては一度も、顔を見せる――どころか、本家に訪れることすらなかった。…まぁ、理由は知ってんだが。

 

「どうだ?審神者の仕事は」
「…未だに慣れないよ。送り出すだけの仕事は」
「…でもよぉ、仲間背負って戦うよか――楽なんだろ?」

 

 小ばかにするように笑って言ってやれば、アイツは脱力した苦笑いを見せる。
つまりそれは図星なわけだが――それに対する反抗な抗議は一切ない。
ま、これも昔からのことだ。コイツは人から指摘された欠点を素直に聞き入れる――ただまぁ、改善するか否かは保障されモンじゃないが。

 

「…薬研は……変わらないな」
「ま、そりゃあな――変わる要因がないんでね」
「……ずっと大師匠のところで?」
「おう、寝てた」

 

 基本、俺はコイツが自分の元を訪れない限り、全ての五感を閉ざして現世とのつながりを絶っている。
なぜかといえば、そんな必要はないからだ。コイツ以外の人間が俺を認識できない――わけじゃないが、
どうでもいい人間に振る尻尾なんてのは持ち合わせていないし、そうまで現界してしたいこともない。
 …まぁ、強いて言えば時々手合わせやらしたかったが、その欲求は面倒という気持ちに余裕で打ち負けていた。
だから俺はひたすらに眠り続けた――いつか、いつかコイツが俺の元へとやってくる日を信じて。

 

「――んで、俺が寝てる間にお前には色々あったわけだ」
「…………」

 

 知っている――のに、わざとらしく言えばアイツは膝を抱えて俺に背を向ける。
拗ねた――というよりは、自分の弱さを見せないための防御策。なんだ、そういうところも変わってないんだな。
 アイツ自身が思っているより、アイツは変わっていないのか――
――それとも、俺だから変わらない・・・・・のか。…ま、俺としてはどっちでも嬉しいんだけどな。
 距離を詰めることはしないで、ただ黙ってアイツの言葉を待つ。
穏やかな川のせせらぎが、僅かに風で揺れる木々の葉音が、俺たちの間にある沈黙を埋める。
たぶん、アイツにとっては重い沈黙なんだろうが、俺にとっては屁でもない。俺ただ言葉を待つ身――気楽なもんだ。

 

「薬研」
「おう」
「酷いこと…言っていいか」
「ああ、いいぜ」
「………」

 

 俺が、酷いことを言われる覚悟を決めたってのに、アイツの方がそれを口にすることをまだ躊躇しているらしく口を開かない。
ま、少なからず好意のあるヤツに酷いこと言うってのは、そりゃ気も引けるだろう。
だが、その程度で俺がアイツを嫌うと、俺が傷つくと、もしくは、俺をそこまで嫌悪しているというなら――そいつは心外だ。
 なにを言われたところで――と、思っていても、あえてそれを口にすることはしない。
そんな風にして、俺がアイツを甘やかす理由はないし――それを、当人も望んでいない。
アイツが今望んでいることは、とにかく俺から突き放されることだ。

 

「私は…………」
「………」
「…お前には会いたくなかった」

 

 アイツが意を決して口にした台詞――それは俺の想定内のもの。
そして、俺を拒絶する理由も、大方見当は付いている――が、

 

「理由は?」
「…………」

 

 平然と、間を置かずに問いを投げる。
すると、それに反応してか、アイツは自分を守るように、自分の殻をより強固なものにするように縮めている体をより縮める。
その丸く小さな背中は、あの個性的な刀剣たちを従え、世を害悪から守る戦う者とは思えない――
――あれは、ただただ弱いチビの背だ。
 ジャリと音を立てて、俺がアイツとの距離を詰めれば、ビクリとアイツの肩が揺れる。
なんとも失礼な反応だが、そこは無視してアイツの座っている大岩の下にまでやってくる。
顔を上げ、アイツの顔に目を向ける――が、月の光が逆光になってアイツの顔になにが浮かんでいるかはわからない。
…だがまぁ、ろくな表情じゃないことは確かだろ。

 

「こんなみすぼらしい姿…お前には見られたくなかった」

 

 平然と、静かにアイツは言う――が、それは全ての感情を押し殺している。
怒りも、悲しみも――何もかも。おそらく、押し殺さなくては平静を保てないほど――
――アイツの中に渦巻いている感情は、大きく強烈なものなんだろう。
 …だが、それをぶちまけないことが俺には不満だった。
今更、俺になにを見せることを躊躇うってんだ。
こちとら、もうお前の情けない姿なんざ、たらふく見てるってのによ。

 

「そのみすぼらしい姿とやら、そんなに見せたくないってんなら――涙の一つも見せたらどうだ?」
「………みすぼらしい姿をさらすぐらいなら、情けない姿をさらせと…?」
「おう」

 

 泣けと、情けない姿をさらせと言った俺。
そんな俺にアイツから返ってきたのは、顔を背ける――という、およそ拒絶。
まぁだが、それも仕方ない。アイツもある程度の年齢になった――もう子供じゃあねぇんだ。
おいそれと他人に涙を、情けない姿をさらすわけにはいかねぇ。
 それに――

 

「大将が…部下の前で泣けるわけないだろ?」

 

 そう――だ。
今のコイツは、俺にとって昔馴染みであると同時に――使えるべき審神者あるじでもある。
そんな主様が、昔馴染みだからといって、そこに甘えて部下である刀剣に弱みを見せていい――という理由にはならんだろう。
 上下関係を気にしていないようで、意外と確り気にしているコイツだ。
刀剣を統べる者さにわとして、俺たちを不安にさせるようなことはしない――
――だから絶対に、誰にも涙を見せることはしないだろう。
…だがなぁ、それが俺には不満なんだよ。
 トン、トン、トン、と、岩を渡って――アイツの座っている大岩の上まで移動する。
だが、それでも相変わらずアイツは俺を拒絶するように背を向けて、顔を背けている。
ジャリと、わざと音を立てて近づいてもアイツは肩も震わせない。
完全に自分から感情を切り離した――かのように見えるが、
アイツの抱えているモンはそんな簡単に押さえ込めるほど、生半可なものじゃない。

 

「今日くらい、いいじゃねぇか――ただのとただの薬研で」
「っ…もうただの私・・・・なんて……っ!」
「ああ、わかってる。…だから――今は全部捨てろ」

 

 そう言って、首に腕を回し、後ろから抱き――しめるつもりが、抱きつく格好になる。
昔は、膝の上に収まって、俺が抱きしめりゃあすっぽり隠れちまったってのに、今はこんなにも余りやがる。
確実に、その差は俺たちの間には空白の時間があったことを伝えている――が、
だからといって、俺たちが共有してきた時間が失われたわけじゃねぇ。
 はじめは、微動だにしなかったアイツの体が、徐々に小刻みに震え始める。
そして、小さく、だが確かに鼻をすする音が聞こえる。
明らかに――コイツは泣いている。なにがきっかけだったかなんてのはどうでもいい――
――ただ、コイツが感情を吐露してくれただけでいいんだ。
…でなけりゃ、いつまでもコイツの本心コエが聞けねぇからな。

 

「会いたくなかった…!会いたかったけど――会いたくなかった…!
…っ、薬研の…薬研の顔を見るのが怖かった……!」

 

 うつむいたまま、自分の感情を吐露する――
搾り出すようなその声は、悲痛と恐怖に満ちている――それほどに、コイツは俺に対して罪悪感を抱いていたらしい。
…まぁ、その理由には察しはついてる。…俺も……正直なところ、はじめは落胆したからな。

 

「約束…破るしかできなくて――それを謝ることすらできなくて…っ」

 

 約束――それはが本家での修行を終えて実戦へ――本家を出る時に結んだものだった。
 俺はによって刀剣男士つくもがみとして目覚めさせられたが、俺の持ち主・・・ではなく、心皇当主で。
が本家にいる間、俺は当主からに貸し与えられていた――が、が本家を離れるに当たって俺は当主に返却することになっていて。
心皇において、当主は絶対の存在――だから誰もその命令に逆らうことはできない。
当時子供だったにとっては特に逆らうことが許されない存在で。
だから本当は俺と離れるのが嫌でも、ぐっと唇を噛み締め、涙を堪え――あの時、は俺から手を離した。
 …正直、俺自身もと離れることは望んじゃいなかった。
と離れるということは、ただただ眠り続けるだけの置物生活に戻るということ。
人の形をとって自由に動くことを覚えた俺にとってそれは酷く苦痛なこと――と、いうのもあったが、
単純に、の傍にいたいと、という気持ちもあった。
…ただそれが、加護欲だったのか、それともただの好意だったのか――それはもうわかりゃしないが。
 離れたくない――と思っても、離れることは決まっている。
だから俺はに提案した――俺を、当主から掻っ攫えと。今度は、お前の手で俺を自分のものにしろ――ってな。
そんな俺の提案に、は酷く驚いていた――が、
驚くほどすんなりと「うん」と答えを返してきて、自分で言っときながらそのの了解に驚いた記憶がある。
恐ろしいまでの当主の強さを知っているが「うん」と――当主を退けて俺を奪いにくる、って言ったんだからな。
 そんな、現実味のない――だが、希望の見える約束を交わして、俺とは別れた。
その後、は本家に戻ってくる度に俺を当主からくすねようとして――その度に半殺しの目に合い、
それでもめげることなく強襲を続けるうち、当主への攻撃が通るようになり、
果てにはのいないところで当主が「そろそろかもな」と、の成長を認めたぐらいにして――
――の努力によって、俺たちの約束は果たされる――その間際まで迫った時だった。

 

「ああ、恨んだよ――」
「!」
「――あの性悪当主をな」

 

 が左腕を失った事件――あれはほとんど運が悪かった、としか言いようのないモンだ。
もしこの事件の責が問われるというのなら、それは事件に関わったすべての人間に問われるモンだろう。
それぐらい、あれは不慮のものだった。
 この件については誰も何も恨んじゃいない――
――運命なんてモンがあるなら恨んでいただろうが、生憎と俺はそんなものは信じちゃいないんでね。
だから、俺が誰より恨んだのは当主だった――から多くを奪ったあの鬼畜当主を。

 

「薬研……」
「間違ってないだろ――…お前の、最後の希望を奪ったのは、間違いなくあの野郎だ」
「…違う。私は10人の命を奪ったんだ。狗賊に堕ちて、当然なんだよ――」

 

 今の俺に、の顔は見えない――だが、自嘲の笑みを浮かべたことぐらいはわかる。
本気で、コイツは自分が狗賊――一族を裏切ったと咎人であることを認めている。
んなもん、生き残ったヤツの勝手な思い込みだってのに――。
 ふと、握られる腕。
俺の腕を掴むの手に震えはなく、平然としているように見えるが――今、は自分の感情に蓋をしている。
おそらくそれは、自分への糾弾と憎悪――自分が油断していたばかりに・・・・・・・・・・、失われた命を悔いているんだろう。
…あんなモン、油断でもなんでもない――ただの運の悪さだってのに…。本当にコイツは――真面目が過ぎる。
 の肩にデコを預けて――思いっきりため息をつく。
思わぬ俺のため息には驚いた様子で俺の名を呼ぶが――今はちょいと無視することにした。
 が、コイツが頑固だってことは知ってた。
ガキの頃から既に片鱗は見えていた――ただそれが、
わがままなのか、意固地なのか、頑固なのか、その判断が付かなかっただけで。
だが、これは頑固――ってだけじゃあ済まされない話だ。
これはあれだな、意志の強さが色々悪い方向に作用していやがるな。…あ、結局意固地か。

 

「くくっ……」
「……なんだその笑いは…」
「なに、図体はデカくなっても――中身はガキのままだと思ってよ」
「…………悪かったな」

 

 そう返すの声に、謝罪や反省の色は見られない――これは完全にふてくされている。
だがそれでいい――やっとまともな感情を、俺が知っているが顔を出したんだ。
笑顔かめんを被って感情を隠すことをしないで、真っ直ぐに自分の感情をぶつけている――それは大きな進歩だ。
…たとえそれが、今この夜に限ったことだとしても――俺に、諦めるつもりはないさ。

 

「なぁ
「!」
「お前、俺との約束――破ったんだよな?」
「………ああ」
「なら、もう一度約束してくれよ――俺を掻っ攫いにくるってよ」
「なっ…?!」

 

 俺の言葉に、は驚き一色の小さな声を漏らす。でもそれは当然だ。
狗賊は本家には近づけない、あがれない――だってのに、
俺は本家の当主の間にある薬研藤四郎おれを奪いに来いって言ってんだからな。
このクソがつく真面目様にゃあ――だいぶ刺激の強い約束おだいだろう。
 ――ま、だからって俺が約束を取り下げてやるいわれはないけどな。

 

「……………」
「まぁそう睨むなよ――俺も、今すぐ答えを出せとは言わんさ」
「………答えは、変わらないと思うが」
「おうおう、お前はそう思ってな――変えるのそこは俺っちの仕事だ」

 

 頑固で真面目で、加えて意固地な俺の主様。
扱いにくいことはないが、その意思を矯正するのは生半可な覚悟じゃあできっこない。
だが、少し考え方を変えれば――やりようってのは色々あるもんだ。だからまずは――

 

「また、俺から離れたくないようにしてやるよ」

 

 ――また、いつかのように涙を堪えながら俺を手放して、そして死ぬ気で俺を盗りにくればいい。
なに、前の約束と内容はほとんど変わらんさ。
全力であの鬼畜野郎にぶつかって、死ぬ前に俺を手にするか――逃げて次の時機を狙えばいい。
お前は昔よりも強くなってんだ――できないはずはないんだよ。

 

―――――――――げんじつになりそうだからおそろしいよ…
「あ?」
「…知らん」

 

 …ま、実を言えば聞こえてたがな。でもこれは、俺だけのモノにさせてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 ついに来ました薬研兄ィさんです。勝手な設定で夢主とは過去での接点持ちとなっております。
薬研兄ィさんが、信長様の手から心皇に亘ったかについては、いつかブログあたりで語らせていただこうと思います。
 どーでもいいですが、薬研と夢主が仲良くしていることを、微妙に沖田組が面白くなく思っていればいいです(笑)