魔法使い――もとい、魔法士を育成する教育機関がくえんである【ナイトレイブンカレッジ】は、
人間――だけに留まらず、獣人や妖精といった幅広い種族の魔法士の卵せいとを迎え入れ、
そして同じく教師に関しても種族の枠を超え採用されている――
――が、清掃や備品の補充に各施設の手入れ、そして学食の準備などの雑務については、
この学園に住み着く・・・・ゴーストたちがその全てを担っているという。

 ――で、そのゴーストたちを仕切るのが、オンボロ寮と呼ばれる無人ゆうれい屋敷をシマとするゴーストたちの親分であるジェームズさん、なんだそうで。
…かつては「用務員」と見下され、お世辞にも真っ当な労働環境ではなかった――そうだけれど、
どこぞの世間知らず・・・・・暴動かいかくを行ったことで、魂有る者としての権利と補償を勝ちえた――
――ことで、ゴーストかれらを取り巻く労働環境は格段に改善され、
今では募集せずとも希望者が後を絶たないゴースト界でも人気かつ名誉ある職場、なんだそうな。
 

 うん……第三者的には良い話、だと思う――…んだけど……
…その世間知らず・・・・・氏が、当時のゴーストかれらに肩入れする
要因・・の一端を担っていたかもしれない一族たちばの人間としては…………朝から頭が重いよ……。

 

「まずお前たちはメインストリートを通って9時までにエントランスホールへ行きなさい。
その後は各区画長がそのエリアのルールと仕事を教える手筈になっている――騒がず、遅れないように」

「…は、はい!」

「ぐぬぬ〜…どーしてオレ様がゴーストなんかにィ〜…
だいたい!なんでオレ様とユウだけなんだゾ?!コイツも――ゥグう!?」

「…お前たちはクロウリーから預けられた労働力ひとで。対して此方はゴーストを殴り、蹴り飛ばした征服者――」

「ジェームズさん!人聞き!!
…あと!征服者って何ですか?!征服されおなかみせたのジェームズさんでしょうに!」

「…た、戦う巫女さん…?!」

「ちょっ、違います違います。それは漫画かラノベ――もしくはゲームのやりすぎですよユウさん。
簡単なお祓いとかはできますけどね?巫女に武力とかないですから。武器片手に妖怪と戦ったりしませんから!」

「……」

「しょげないで」

 

 図太いのか能天気なのか、同じ世界から――だけれど正式に・・・
この世界へ招かれた少女・ユウさんは、私の説明に若干がっかりしたような表情を見せる。

 …一体彼女はなにを夢を見たのだろうか――
…いやまぁ正直なところ、緋袴みこふくに日本刀とか構図コスプレとしてはその趣向を理解しないわけではないけど――巫女、非戦闘要員だから。
…もし仮に参加することになってとしても完全後方の衛生兵が精々、だ。…あ、もちろん回復魔法なんて使えませんよ?

 

「……ではあの蹴りは?」

「ん?あぁあれは――個人的に、ですよ。
お世話になっている先生から自衛のために身に付けておけーって言われて…」

「自衛のレベルを優に飛び越えていたように思いますが」

「それはアレ――ジェームズさんの攻撃が重かった、ってことですよ。カウンターなんですから」

「………本当に、戦わない巫女さん、なんですか…?」

「…戦いませんよ――妖怪とは」

「ぇ」

 

 含みを持たせて「妖怪とは」と言えば、それを聞いたユウさんはその目を僅かに好奇心で輝かせる――
――ので、「戦いません」と念押しすると、やっぱり残念そうな表情かおをした。

 

「…――でも、護身術くらいは教えられるので…教えましょうか?
名門校とはいえ、程度の低い不良の一人や二人や三人はいるでしょうし――…グリムくんは当てにならなそうですし…」

「にゃ…!にゃにを〜〜?!不良の1人や2人っ、オレ様の敵じゃないんだゾ!」

「ホントですかぁ〜?聞けばゴーストのみなさんを追い払ったのも、ユウさんのフォローあってのこと――だったていうじゃないですか」

「そっ、それは…!オンボロ寮が暗かったせいだゾ!
だいたい!モンスターであるオレ様が人間なんかに後れを取るわけがねーんだゾ!」

「ほーう?じゃあ、もしユウさんがケガして帰って来たら――グリムくんは『人間にも劣るザコモンスター』ってことですね?」

「にゃっ?!ちょっと待て!どーしてそんな話になるんだゾ?!」

「だってユウさんに危害が及ぶということは、彼女に迫った危機ふりょうにグリムくんは敵わなかった――もしくはビビって逃げだしたから、でしょう?
なら『人間にも劣るザコモンスターそういうコト』じゃないですか――もしくはチキンモスンター?ネコだけど」

「ふな゛〜〜〜!オレ様はネコでもチキンでもねェ〜〜!!」

「――じゃあ、ユウさんをちゃーんと守ってグリムくんが強いモンスター――いえ、大魔法士になる天才だって証明してくださいな」

「じょーとーだァ〜!子分の一人や二人っ、ちゃーんと面倒見てやるんだゾ!」

「………ぇ…こぶんっ?!」

 ユウさんとグリムくんを送り出して一服の後、
兄さんに連絡を取るためにまず学園長クロウリーさんのところへ行こうとジェームズさんと話していた――ら、
どういう風の吹き回しやらクロウリーさんの方からオンボロ寮こちらに尋ねてきた。…ただ、とてもご立腹のご様子だったけど。

 

「ジェームズさん!いったい彼らにどういう指導をしているんですか!」

「……昨晩貴様から預けられたばかりで指導もなにもあるか」

「では!指導の行き届いていない職員を!監督役もつけずに野放しにしたということですね?!
でしたらそれは明らかにあなたの監督ミスでしょう!」

 

 キーキーと吠えるクロウリーさん――のクレームを受けるジェームズさんの表情はいたって冷静。
初見の人間から見ると「うわぁ」な案件だけれど、長ーくここで働いているジェームズさんからすれば色んな意味で・・・・・・慣れたもの、なんだろう。

 

「……確かに、ロクな監督役もつけずに新人を自由にしたのはこちらの不手際だ。
…だが、ユウとグリムだけで・・・そこまでの騒ぎを起こすのは不自然だろう。
思うに、学園そちら側にも不手際があった――と推察するが?」

「それは……」

「………わあ…あの子たちもう今朝のフラグ回収したんですか…。
……あの子たちがトラブル吸引体質なのか、単に不良が多いのか……」

「失礼なっ、我が校に不良生徒なんていません!
ただ、ちょっとヤンチャで自信に満ち溢れた子が多いというだけです!」

「…………」

「…そもそもここは『魔法』という武力を磨くための学校きかんですからね――勇猛であることも才能の内、なのかと」

 

 ジェームズさんの解説に、頭痛がするほど納得する。
そうだ、そうだった。ここは普通の学校じゃないんだった――ここは、魔法という超常の力を扱う魔法士を養成する学校。
コチラの常識かんかくで言えば軍事学校が適当――………じゃないな。

 軍事学校であるのなら、絶対にこんな騒ぎことは起きないし、そもそもあの・・グリムくんを受け入れるわけがない――
――し、そも学園長一人の判断で得体の知れない部外者を受け入れるかどうかを決められはしない。
じゃあ、この学園をコチラの物差しかんかくひょうげんするならば――

 

「〇フィア養成学校?」

「………そんな恐ろしいあるんですか、あなたの世界には…」

「…ないですよ?
ただ軍事学校――のちに国防や治安維持を担う学生わかものを育てている風ではないので」

「…だからってソレ・・は真逆が過ぎるでしょう……」

「…ですけど、グリムくんが『大魔法士、大魔法士』と言っていたので、
スポーツの名門でゆうめいってことじゃない――…となると消去法で」

 

 投げられる言葉に思ったままを返す――と、不意に仮面で秘匿されたクロウリーさんの顔に、僅かだけれど苦いモノが浮かぶ。

 けれどなんとなし、その色に違和感を覚えて「なんですか」とクロウリーさんに訳を問うと、
それを受けたクロウリーさんは迷惑そうな視線を――ジェームズさんに向ける。
そしてそれを受けたジェームズさんは――うっすらと、勝ち誇ったうれしそうな表情を浮かべた。

 

「はぁ……やはり兄妹・・、なんですねぇー……」

「!」

「物怖じしない――…どころか、冷静に値踏みしてくるその傲慢さ……いつかの彼を見ているようですよ…」

「……」

「ええ、既に連絡してありますよ――あなたの妹さんがやってきたようだ、と」

「っ…!それでっ……兄さんは――」

「……残念ながら『仕事中』だそうで、伝言だけは頼んでおきました」

「っ…そう…ですか……。…ありがとう…ございます……」

 

 既にクロウリーさんが連絡を取ってくれた――のは有り難い。
ただ、兄さんに直接情報が伝わっていない――…というのは、…少し不安なものがある。…根拠・・はないけど…。

 

「――さて、話がずれてしまいましたが、グリムくんとユウさんについてですが――」

「――の前に、そちらの不手際・・・を認めていただきたいのだが」

「む」

「…現場を見ていたゴーストしょくいんの報告では、一人の学生がグリムの火球を挑発しながら回避、
それに腹を立てたグリムが放った火球を、その学生が風魔法で逸らしたところハートの女王の石像に直撃――…とあるが」

「……ええ、確かにうちの生徒にも非はありました。ですから、その生徒には既にちゃんと罰を与えてあります」

「――そのついでにうちの職員・・にまで罰を与えた――とあるが?」

「……喧嘩両成敗ですっ」

「…………まぁ…お互い様、であればこちらの監督不届きもまた確かですからね。
…その場で両成敗は借り一つ、でしょうかね」

「…そうですね。私が駆け付けなければ今頃どうなっていたことか――」

「――とはいえ、自分側の非を一切開示せず、一方的にクレームをつけてきたわけですから――借り5割減、ですね」

「………」

「罰の内容が『大食堂の窓100枚の清掃』なら後始末は我々で請け負おう――…これでお相子、だ。文句はあるまい?」

 

 いつの間にやら手にした報告書しょるいを片手に、クロウリーさんに手打ちりょうしょうを求めるジェームズさん。
けれど10:0のつもりでこちらに文句を言いに来ただろうクロウリーさんの表情はやや渋い――が、そこはイイ大人で役職持ちがくえんちょう
引き際と時間の使い方は弁えているようで、ため息交じりながらも「わかりました」とジェームズさんに了承こたえを返した。

 

「…では、私はこれで失礼しますよ――については、なにかあれば随時連絡を差し上げます」

「……はい、ありがとうございます」

 

 職員ゴーストの案内で、応接室を出て行くクロウリーさんにお礼を言い、頭を下げる。
どういう思惑を持ってそうしていっているかはわからないけれど、彼が兄さんとつながるための唯一の点である以上、
こちらはそれに従い、与えられるものをただ享受するしかなかった。

 かれに似ているわたしを早く追い出したいとクロウリーさんは思っている――なら、それはそれで仕方がない。
兄さんとの絆を、そしてジェームズさんの言葉を信じるなら、仮にこの学園から追い出されることになったとしても、
何も持たない状態で未知の世界に放り出されることはない――なら、この学園にこだわすがる理由はない。
ここが何らかの「起点」になっている可能性は高い――けれど、こちらに対して非協力的な人物が上に立つ環境ではおそらく色々やりにくい。
…あの感じ・・からするに、クロウリーさんは外側からのアプローチ弱そうだから――一度、学園ここを出るというのも、一つ手かもしれない。

 ――…自分たちのことだけを考えれば。

 

■あとがき
 甘さ皆無のノロノロ展開で申し訳ないです。でも、順を追わんと気が済まん性質なのです…(遠い目)
 幣サイトにおける公式主(監督生)は、男装女子でございます。…ただ、現状ある意味でどーでもいいのですが…(苦笑)
次回も異邦人たちのアレな会話劇が続きます(苦笑)