昨日の今日で既に一つ問題を起こした――のだから、今日はアレで打ち止めだろうと思っていた。
そう、思っていた――が、その想像はしっかと外れて、グリムくんはアレから更に問題を重ねてくれやがった。

 

「……まったく…これは首輪……いえ、退去勧告止む無し案件ですよ――
…あ、いや、クロウリーさんから実際に出てるんでしたか…」

 

 朝っぱらから一騒動起こし、その罰として放課後――清掃しごとが終わり次第、大食堂の窓拭きをするように指示されたユウさんとグリムくん。
そして二人はきちんとその言いつけを守ってペナルティをこなすために大食堂へ向かった――が、
まずそこでメンバーが一人足りない――同じく罰を受けた学園の生徒がバックレる、という小さな問題が起きた。

 窓拭き百枚――なんて、冗談みたいなノルマを二人と一匹でこなさなくてはならないだけに、たった一人でも欠員は大きな痛手――
――である前に、ある意味での問題コトの発端がその罰を逃れる――なんて、納得できるわけがない。
それは尤も――そこまでは、正当もっともだけれど、同じことをやらかした時点で正当性なんぞはない。
狭い区間チャプターで考えれば、グリムくんの逃走それが今回の騒動――大食堂のシャンデリアを大破させるに至る大捕り物、の発端なのだし。

 …あとまぁ強いて言うと――

 

「リスク管理が甘かった――
…グリムくんたちに監督役を付けなかったのは管理側こちらのミスですね…。今朝の失敗を活かせなかったわけですし…」

「そーそー、アンタたちの躾がなってないからこんなことに――」

「――あ゛?

「ヒッ…!」

……よく聞こえませんでした。もう一度言ってくださいな

「…………………ナンデモナイデスゴメンナサイ…」

 

 この状況で、思い切りよくヒトの神経を逆撫でてきたのは生徒その1――一連の騒動の発端である跳ねたオレンジ髪の少年エース・トラッポラ。
彼の上級者のテクニカルなジョークにジワと湧いた苛立ちをグッと腹の底に押し込め、向けた視線の奥底に殺気を潜ませジロリと彼を睨めば――
――さすがに、そこまで鈍感アホウではないようで、彼は大人しく謝罪の言葉を口にした。

 「なんでもない」と言うトラッポラくんに「そうですか」と返し、改めて頭を回す――前に、ジェームズさんに根本的なことを問う。
魔法石を手に入れることができれば、本当にこのシャンデリアは直るのか――と。

 

「…9割方、修復は可能でしょう――ただ、小石程度ではダメです。握り拳ほどの原石でなければ」

「…………その基準にぎりこぶしはジェームズさんの、ですか」

「……いえ、成人男性の平均、です」

「ふむ――……それでも十分大きいですね…」

「あれだけの大きさモノを動かしていた核――ですからね。
魔法石の大きさそれ自体が、あのシャンデリアの価値でもあったのだと思いますよ」

「わお…目の前がクラクラしてきましたねぇー…」

「っ――なら!早く鉱山へ向かうべきだ!魔法石が見つからなきゃ元も子も――」

「――以前に、テキトーな魔法石を持って帰って来ても仕方がないんです」

 

 話し合うばかりで行動を起こそうとしない私たちに痺れをを切らせたのは生徒その2――インディゴの髪の少年デュース・スペード。
トラッポラくんの逃走を止め、罰掃除をサボろうとしたグリムくんを捕まえようとして――シャンデリア大破させた張本人、だ。

 初対面の相手にいきなり厄介事に巻き込まれ、その解決に成り行きで協力した――とはいえ、事実上の・・・・実行犯は彼。
いきなりのことで慌てていた、巻き込まれた立場なのに――と、同情の余地はあるけど、
ここはそのあたりのことを汲んでくれるような学園長しゃかいじゃあなかった。

 だからこそ――

 

「あくまで問題の核はシャンデリアを直すことであって、魔法石うんぬんはあくまで過程――
――そして焦って過程を誤ると、今のような状況に陥るワケです。
…我々と同じく・・・二の舞を演じないよう、気を付けてくださいね」

「っ…」

「――まぁでも、後先考えずに面倒事に首を突っ込む無謀さは評価しますけどね――
――自分の負債他人に押し付けてバックレようとしたどこぞの小童どもよりは、ずっと

「「ヴっ!!」」

 

 視線は向けず、言葉に毒を含ませ吐き出せば、その直撃を喰らった2名が苦しげに呻く。
そう、お前たちがもうだいぶ素直なお利口さんだったらこんなことにはなってなかったんですよ――
…ただ、だったら・・・・そもこの学園に入学していない、気がするけれども。

 

「…さて、大食堂のシャンデリアを修理するためには、ドワーフ鉱山産の握り拳台の魔法石が必要――ということでいいですか?」

「はい――それが手に入れば、9割方問題ありません」

 

 最後に改めてジェームズさんに確認を取れば、それにジェームズさんは静かに頷き肯定を返す。
わざわざ前置く「9割方」という確率に、思い当たる意図ことはいくつかある――が、
それをここで問うては阿呆の極みなので口を閉じ、「では」と腰を上げる――と、

 

「ドワーフ鉱山は閉鎖された廃坑――おそらく行き場のないはぐれゴーストたちが多数いるでしょう。
…我々と同じように対処しても騒動もんだいに発展することはありませんが、目をつけられては面倒です。…あまり、彼らを刺激なさらないように」

「…」

 

 薄く笑みを浮かべ言うジェームズさんのセリフ――に、なんと返したらいいやらわからない私だった。

 闇の鏡を使って目的地――この世界で初めて魔法石が採掘された採掘場として、
かつて栄えたドワーフ鉱山へと移動したのは、問題児1名+1匹と巻き込まれ2名と監督役1名。

 日はとうに暮れ、心許ない月明かりだけが照らす森は――これだけ大所帯で行動していても、どうにも薄気味悪い。
…長年の巫女の勘かんかくから言って――…ここは、善くない場所だ。

 …それを、強く実感しているのはどうやら私だけの様で、
トラッポラくんを先頭に、ユウさんたちは僅かに表情を曇らせながらも、怯える様子もなく先へ――
――森のはずれにある山小屋へと足を踏み入れていた。

 

「こんばんは――……って空き家か…」

「…この荒れ具合からいって……何十年と家主は不在、ですかね…」

「――ぶえ!顔にクモの巣が――…ペペペ!」

 

 森の中にひっそりと建てられた山小屋――の内部なかみは、外観よりずっと荒れ果てていた。
降り積もった白い埃――は、オンボロ寮と同等といったところだけれど、蜘蛛の巣の量は倍以上。
そしてなにより「荒れ果てた」という表現がしっくりくるのは、破損した小さな家具たち、だった。

 

「…なんか家具が小さくね?子供用――…って!七個もあるってどんだけ大家族だったんだよ…?!」

「ぇ、あの…ドワーフ鉱山って言うくらいだから小人ドワーフが住んでたんじゃ…?」

「………ぇ、ドワーフって地名じゃないの?」

「そう…だったのかっ?!」

「ぇ…ぇぇと……??」

「いやいや、私に助けを求められましても――
…雰囲気、『小人』が暮らしていたのは確かなようですから………二人が世間知らずなだけでは?」

「はぁ?!誰が世間知らずらだよ!
…つーか!ゴーストとつるんでるアンタの方がよっぽど世間知らず――いや、常識ないんじゃないのっ」

 

 魔法ファンタジーの世界の住人なのにドワーフを知らない――ので、「世間知らず」と言ったなら、
それが気に入らなかったらしいトラッポラくんが売り言葉に買い言葉――で「常識がない」と言う。
…うんまぁそりゃ、トラッポラくんの言い分は10割方正しいだろう。

 学園で用務員として働くゴーストたちは職務上、人間に対して害をなさない――けれど、仕事そこから離れてしまえば話は別。
…現に、オンボロ寮でははっきりと害意を向けられたわけですし。
だから、この世界の常識からみれば、トラッポラくんよりよっぽど私の方が常識無しだろう――し、ついでに世間知らずだとも思う。

 ――ただそれは、今に始まった事じゃあなかった。

 

「……それは…まぁ………みなさんと同じ常識の上で生きてませんからねぇ――根本的に」

「は?…なにそれ……なんかめっちゃ腹立つんだけど…!」

「っ…――そ、そんなことより!ここに魔法石の手掛かりは無かったんだっ、炭鉱へ急ぐ行くぞ!」

「ちょっ…そんなことって――」

「はいはい、口論は歩きながらにしましょうか。
あまりのんびりしていると、鉱山探索がゴーストたちのゴールデンタイムに直撃ですよ」

「っ…煽ってきた張本人がそれ言う?!」

「いやいや、煽ってませんし。事実を言っただけですし」

「…っ――オレ、アンタ嫌い!

「おや……そこは意思が通じちゃいましたねぇ?」

「っ――…!やっぱ嫌いだわアンタ!」

 

 からかいの色を含ませ、「ふふ」と笑いかけながらトラッポラくんに同調を返せば、
トラッポラくんは一瞬顔をひきつらせた――と思ったら、すぐに大層不機嫌そうな顔で拒絶を口にして一人でずんずんと小屋を出て行く。
暗い森へ向かって一人進もうとするトラッポラくんを心配したユウさんが焦った様子で追いかけて行く――
――と、今度はユウさんを心配したスペードくんが後を追う。

 バタバタと小屋を出て行く少年少女たちを微笑ましく思いながら見守っている――と、

 

「…オマエ……性格悪いんだゾ…」

「ふふふ、なにぶん年下との接点が少なかったもので、テキトーな接し方がわからないんですよ」

「………絶対ウソなんだゾ…」

 

 ジト目で「ウソだ」と断言するグリムくんに、苦笑いしながら「酷いですねぇ」と言う――けれど、
私の言葉はグリムくんにはまったく全然響く部分がなかったようで、
「なに言ってんだコイツ」とでも言いたげな冷めた表情で、ただ黙って私の顔を見ていた。

 

■あとがき
 やっと…まともに版権キャラと絡んだ…よ…(吐血)好感度…底を抜いててメンゴだよ…(倒)
 長らく脱線に次ぐ脱線と、のったりとした展開にお付き合いいただきありがとうございます…!
そしてこれからもこーゆー展開が続きまーすっ(逃)