「…これが活け花…」

 

 ダンさんから分けてもらった花を、寮にあった適当な花瓶に活けた――ところ、
ジェームズさんをはじめとしたゴーストたちが、興味津々といった様子で集まってきた。
そして引きで見てみたり、寄りで見てみたりと、様々な距離、角度から私が活けた花を見ていた――
――けれど、やはり・・・彼らにとってしっくりくる構図は現れないようだ。
…まぁ、それもそのはず。だって東洋と西洋だと「美意識」がそもそも根底から違うからねぇ?

 日本人わたしの美的感覚は、この世界では受け入れられ難いかもしれない――が、受け入れられないことは、ない、だろう。
私の世界において東の芸術は、西の芸術家――に留まらず、一般人にも受け入れられている。
もちろん、これは天才を超えた奇才な芸術家しょくにんたちの代をまたいだ作品じかんの積み重ねあってのこと――
――とはいえ、時機を見て個性つよみにしていく必要はあるだろう。

 …所詮私は極東人
――生まれたその時から西洋文化に慣れ親しんだ芸術家ヒトたちに、その分野で敵う道理ワケはないのだから。

 …とはいえまずは――

 

「(同じ土俵に立たないことには、比べようもない・・・・・・・――じゃあ…卑怯ですもんねぇ)」

 

 

「ユウさん、お友達を連れてくるなら事前に一報入れてくださいね。
他所の寮生さんをお預かりするとなれば、こちらにも準備ってものがあるんですから」

「は、はい…以後気をつけます…」

「………お母さんかよ」

「ええ、寮母おかあさんですよ。押しかけ店子のトラブッタくん」

「……トラブ…?」

「っ…だから!全然上手くないんだからわざわざ使うなっつの!」

「ええまぁ確かにそこまでなんですけど――…私、言葉の意味よりも音重視派なので」

「っ…!」

 

 夕食時のオンボロ寮の食堂――には、寮生であるユウさんとグリムくん、
そして昨晩より押しかけ居候たなことなっているトラッポラくん――に、ハーツラビュル寮からトラッポラくんの監視のため許可を得て泊まりにやってきたスペードくん。
予定の参加人数よりも+1の人数になってしまった――が、
底の読めない男子高校生の食欲を警戒して大皿料理にしていたのが功を奏して、
「料理が足りない!」とバタバタ慌てるような状況にはならずに済んでいた。

 それでも、「もしや」と思って品数を追加した――のだけれど、男子高校生とグリムくんモンスターの胃袋スゴいな!
…そして意外にもそれに負けないユウさんの食欲もなかなか……。

 

「………なんだよ…そのニヤニヤ顔…」

「ん?……ぁあいや、みなさんの食いっぷりの良さが見ていて心地よくて――
…グリムくんに限っては『味分かってんのかコイツ』とも思ってますが」

「ふなっ?!失礼なんだゾお前!
オレ様は違いの分かるモンスターおとこ!食えりゃなんでいいってワケじゃないんだゾ!」

「………」

「ふなぁ゛〜〜!なんなんだゾその顔はー!!」

「えーだってグリムくんがグルメだと証明するモノがないじゃないですかぁ」

「ぐぬぬぬ…!」

「…グリムの味覚がどうなってるかはわかりませんけど――ここの料理はどれも美味しいですよ」

「うん…!ホントに美味しいです!」

「おや」

「……………普通」

「あらまぁ………意外にもトラブッタくんが一番グルメ?」

「っ…!美味いよ!」

「ほほーぅ」

「…ウゼェ…!」

 

 ニヨニヨ顔で自分を見る私に、トラッポラくんは心の底から面倒+嫌悪をため込んだような表情を見せる。
…自分でも、やりすぎの観は自覚している――のだけれど、どーにもトラッポラくんの反応が面白いもので、自制は少々難しい。
――とはいえ、あくまでそれは「少々」の話。
やめようと思えば深呼吸一つでその衝動には蓋ができる――ので、本当に難しいのはその是非の見極めだった。

 さて、ここからどう調理しようか――と、内心で更にニヤニヤしていたら、

 

「あのっ、私に料理を…教えてもらえませんか…?!」

「ぅん?」

「その…っ、こ、これか一緒に生活していくわけですから……一方的にお世話になるのはおかしいと思って……」

「…とはいえ寮生と寮母ですからねぇ?お世話になるのが寮生の仕事のように思いますが」

「はぁ?それってオンボロ寮ユウだけズルくない?他寮よそは当番制で掃除とかしてんのにさー」

「おや…まだまともな寮生活を送っていないはずのトラブッタくんが尤もらしいことを…」

「話の腰折んなっ――と・に・か・く!寮生がやりたいって言ってることを、そっちの都合で却下するのはおかしーんじゃないのっ」

「………まぁ、社会ってそういうモンですし」

「…!」

 

 「おかしい」と言うトラッポラくんの意見を、ズパっと切り捨てる――
――と、無言ながらもトラッポラくんは今すぐにでも怒りを爆発させそうな顔で私を睨む。
…おそらく、社会というルールことばで一蹴されたのが気に入らなかったんだろう――私と、ハーツラビュルの寮長を重ねて。

 ルールだからと弁解の余地なく切り捨てる横暴――に対するトラッポラくんの不満や憤りというものは理解する。
する――けれども、そういうモノなのだから、それに合わせて上手くやるのが世の倣いというもの。
――もし、それがどうしても受け入れられないんというのなら――最後は武力ぶつり行使、となるわけだが。

 

「では、ユウさんには掃除の手伝いをお願いします――
…料理についてはこちらの用件に片が付いたら、ということで納得してもらえませんか?」

「はっ――………ぃ?……よう…けん??」

「はい。個人的にガッツリ大変なことに手を出したので、
ユウさんのお料理の面倒は全然見れな――くはないんですけど、できればご猶予をいただきたいです」

「…………………危ないこと……では、…ないんですよね……?」

「…………私、暴れ馬かなにかと思われてます?」

「そっ…!?そうじゃないですけど!!」

 

 ゴースト殴っただの蹴っただの、更には昨晩の一件もあって――か、
すっかり私はユウさんの頭の中に武闘派として定着してしまっているようで、
不安と心配、そして恐怖の混じった表情でユウさんは「危ないこと」と言う。

 …これまでの出来事コトを考えれば、ユウさんが至った思考ぎねんは当然といえば当然――
――だけれども、学生・・の通う学び舎に、危険なことなんてそう転がっているものではないのです。

 

「ふふっ、大丈夫ですよ。今夜で決着がつけば、もう殴った蹴ったりは廃業です」

「…そ――……れってどういうことですか?!け、決着って??!」

「他寮にカチコミッスか?!」

「…なんて?」

 

 ヒエと飛び上がるユウさん――に対して、なぜか興奮した様子で「カチコミ」とか言い出すスペードくん。

 聞き馴染みのない――というかどこから出てきたのかよくわからない単語に「はて?」と首をかしげると、
その間にスペードくんは我に返ったようで、恐縮した様子で「すみません…」と言って引っ込む――
――ので、そこは追及することなく、未だに少しばかり青い顔をしているユウさんの方に向き直った。

 

「もう既に武力グーは廃業していますよ。
…ただ、今晩のテストに合格しないとゴーストのみなさんに認めてもらえない――
――武力グーにものを言わせる可能性が、完全には・・・・消えない――という話です」

「じゃ、じゃあ本当に危ないことはしてないんですね…?!」

「はい。暴力を振るうようなことはしていません――
…ただ、世の中の常識的にゴーストとつるんでる時点で『危ない』のでは?とは思いますが」

「そ、それは――…わ、私が大丈夫な時点で大丈夫です!」

「……なに、その基準…」

「だ、だって魔法が使いえない私が大丈夫ってことは………」

「………まぁ…大丈夫、だよな…」

「……というかコイツならゴーストどもどころかあのイジワル寮長も倒せそうなんだゾ…」

「「ぁあー……」」

「こらこら、なんて物騒なこと言ってるんですか。私は強いて・・・言って格闘家、ですよ?
殴るしかできない格闘家が、手札の多い魔法使いに勝てる道理なんてあるわけないじゃないですか」

「「「「………」」」」

「……信用されていませんね」

「…みなさん、格闘家に夢見過ぎでは?」

 

■あとがき
 楽しい楽しい夕食回でした。誰にとって楽しかったのは正直わからんのですが(笑)
 初期構想では、「なんでお嬢様の夢主がこんなに料理できんの?」見たいな話になる予定だったのですが、
そーゆー話にしなくて正解だったなと思います!…ただ、その内小ネタには昇華したいな!な!(希望的観測)