学園中のゴーストを集めて行われた私の入団テスト――から一夜明け、
今日は休日ということで、ゴタゴタ続きの慌ただしさから一旦休憩ブレイクしようということで、
今日一日はゆっくりと――とはならなかった。私もユウさんも。

 

「今日は『なんでもない日』のパーティ――遅刻したら首をはねられる!」

「――うん、今日は『なんでもない日』だけど大事・・なパーティの日、だもんね」

 

 「うん」と頷き合うのはユウさんとスペードくん――で、
当事者であるはずのはトラブッタくんは、未だ夢の世界に片足を突っ込んでいるやらしゃっきりせず、ユラリユラリと微妙に体が揺らしている。
その状況に少し思ところはある――けれども、仲良くババ抜きに興じせいしゅうんしていたというのだから、そこは目を瞑ろう。
寮生の心の成長を静かに見守るのも、寮母の仕事だろうから――ねぇ?

 

「…今更ですけど、寮伝統の行事パーティに、他寮の生徒が参加してもいいんですか?」

「招かれた上で、手土産を持参すれば問題ありません。
ユウとグリムは、ハーツラビュルの副寮長の招待での参加となっているそうなので――ユウ、これをホストに」

 

 そう言ってジェームズさんがユウさんに手渡したのは、小麦色のピクニックバスケット。
おそらくこれが件の「手土産」――ということは、中に入っているのはお菓子のはず――だけれど、まったくと言っていいほど香りがしない。
よっぽどしっかりパッケージされているのか――と思っていると、ジェームズうえから「まだ残っていますよ」と呆れ交じりの声が降ってきた。

 

「…さん、本当にお菓子が好きなんですね…」

「………く、食い意地が張っているようでアレですが……甘いモノの力には逆らえなくて…」

「……ということは、お嬢様もユウと同じく『太らない体質』で――」

「「太りますよ?!――えッ!?」」

 

 わけのわからんことを言うジェームズさんに否定の言葉を返した――ら、まさかの方向から同じ・・否定が飛んできた。

 思っても見ない方向からの、そしてまさかの否定に、反射でバッとそちらに顔を向ければ、そこには驚き顔のユウさん。
いやいや、驚いているのはコッチですよ?
男子高校生に引けを取らない食いっぷりの良さ――なのにこの華奢さ!冷静になって考えたら心配になってきましたよ!

 

「ユウさん、嘘はいけません。
あれだけの量を食べておいてこの細さ!一歩間違えば病気を疑うレベルですよ?!」

「き、昨日は場の勢いで食べすぎちゃっただけで…!
ふ、普段は腹八分目で我慢してるんで――ほぁあ?!

「ん、おー…?ふぅ…むー………どーやら無自覚の嘘ということでもなさそうですねぇ〜――
――…うむ、触ってみると程よい柔らかさで大変好ましい♪」

「ぅわ、は…!ははっ…!ひ、く…!くすぐ――ヒヤはははは!?!

 

 「まさか」と言葉を返しても、それにユウさんは反論ひていを返してくる――ので、
最終手段に自らの手でユウさんの体をチェックしてみたところ、思っていたよりもユウさんの体は華奢――というかか細くは・・・・、なくて。
かといって、着痩せしているといわけでもなく、見た目よりも中肉中背といった程度だった。

 ……ある意味、これは女子として最高の体ではなかろうか。
見た目は細いが、抱き心地は抜群――なんて。
…いかん。私なぞよりずっとユウさんの方がアブナイ意味で男子校向きじゃな――

 

「ゴフ!」

 

 ユウさんの腹部を揉むように撫でまわしていた――ら、不意にゴン!と強烈な衝撃が脳天に奔る。
その衝撃たるや凄まじく、もしここがギャグアニメの世界であったなら目玉が床にめり込んでいただろうレベル――
…なだけに、床の上そのばで頭抱えて悶えるくらい頭が痛い。頭蓋骨割れたんじゃないかと思うくらい痛い!!

 

「……なにするんですかジェームズさん…!頭蓋、割れるじゃないですか……!!」

「…そんなヘマはいたしません――…それよりマネージャー、迎えが来ましたよ」

「ぅー…んー〜……?」

 

 ヒトの頭に激痛をもたらしたジェームズさんに唸るように文句を言う――
――けれどジェームズさんは私の文句をほぼほぼ取り合わず、さっさと新たな話題に切り替えてしまう。
そのスマートさに若干ムッとするものを覚えた――けれどそこで話を掘り返すことはせず、
ジェームズさんに促されるまましせんを移せば――

 

「どーも〜…。あー……なんていうかお取り込み中だったかなぁ〜……」

「………………いえ、ただのじゃれ合いですのでお気になさらず」

 

 気まずげな苦笑いを浮かべて言うのは、オレンジの前髪をピンで後ろに留めた制服姿の青年。
その外見的な特徴、そして左腕に付けた腕章から察するに、
彼が噂の「ダイヤモンド先輩」――であり、トラッポラくんたちの「お迎え」であり協力者、なんだろう。

 なんともまぁ、アレな姿をさらしてしまった――が、これはこれでよかったとしよう。
噂のダイヤモンド先輩が情報うわさ通りの人物であるのなら――上手くいけば、この「事実うわさ」が虫よけになる。
私とユウさんの性別がダイヤモンドさんの中でどうなっているかはわからない――が、なんであれ、私がヤバい人認定されていることには違いないだろう。
…――であれば、自動的にユウさんはヤバいヤツのお気に入りということになり――

 ――うん。体面にく削っくわせ貞操ほね守るたつ、ってヤツですな!

 

 魔法封じの首輪を外してもらうため――もとい、ハーツラビュルの寮長に謝罪をするため、
なんでもない日のパーティに乗り込んだトラッポラくん一行――に便乗して、私も何気にハーツラビュル寮へとやってきていた。
…ただそれは、ユウさんというかグリムくんの監視役――とかいうことではなく、ただ個人的に用があったから、だった。

 ダイヤモンドさんの案内でハーツラビュル寮に到着した――ら、複数のダイヤモンドさんに迎えられるという異常事態に遭遇したものの、
騒ぎを聞きつけたノランさんがすぐに姿を見せてくれたこともあって、玄関前で解散べつこうどう――
――バラを塗ると言うダイヤモンドさんに引っ張られーの、背中を押されーので、移動を余儀なくされるユウさんたちを見送る形になっていた。

 …因みにダイヤモンドさんは、ユウさんに限ってだけは触れるということを一切しなかった。
なんかまぁとにかく効果てきめんだったで大変よろしいです。
 

 玄関先そこからノランさんの案内でやってきたのは、ハーツラビュル寮の用務員室。
…因みにここはゴーストたちの個人的なスペースではなく、
事務部屋であり寮生たちからのコンタクトに応える為の部屋であって、彼らのプライベートな空間・・というのは屋根裏にあるという。

 …ただこの寮の外観的に、屋根裏なんて作れたのか――という疑問はあるが、
そこはそれ魔法の世界なのだから、魔法的むずかしい追及はいつかの機会でいいだろう。

 

「……パーティの日はいつもこう、ですか?」

「…いえ、今日は『特に』というだけです」

 

 ダイヤモンドさん――に限らず、用務員室ここへ来るまでにすれ違った寮生たちも、
落ち着いた――風で振る舞ってはいたが、間違いなく彼らは慌てていた。…それも、恐怖から成る焦り――によって。
ただそれも、今日に限った事のようで、「特に」と言うノランさんの顔には呆れの色が浮かび、その声には少しばかりの落胆が宿っていた。

 …おそらく、ノランさんはこの状況を――いや、たぶんハーツラビュル寮の現状・・を、既に問題視しているんだろう。
そして現状を打破――状況を改善するためにどうすればいいのかにも、当たりがついているのかもしれない。
…ただそれを、あくまで用務員でしかない――上に、
生者ではゴーストでしかない自分が生者きょうしたちを差し置いて出しゃばるのも――…と、ノランさんは遠慮しているんだろう。

 …確かに「死者が――」というのは、尤もと言えば尤もなコト――…ではあるけれど、
教師ではないノランさんだから伝わいえるコトっていうのも、あると思うんですけどねぇ――……とは思うものの、それに対する言及は避ける。
もしノランさんが腰を上げるというのなら、それはできる限りの支援する――が、
今この状況で私がみずからノランさんを焚きつけるようなことを言う――つもりすらない。
残念ながら所詮は他人事――今、私が優先するべきは自分のこと、だった。

 

「どうでしたか、私の実力は」

「……文句の言いようがありませんね――…覚えていない・・・・・・ので」

「…ぇ゛」

 

 小さくため息を漏らしながら言うノランさん――に、思わず変な声が出る。
…とはいえ、あんなことになってしまったんだから、その衝撃(?)で前後の記憶が霞と消えたとしても不思議はないだろう――
…彼ら自身が霞と消えかけたくらいなんだから。…しかしそうなるとちょいとばかり面倒だった。

 これで実力が示せないとなると、次位つぎの候補は舞踊ダンス――
…になるわけだけれど、私の専門は日舞であって、社交ダンス系は基礎を齧った程度。
だからダンスコレでは実力を示したとしてもたぶん納得できない――からといって、
ピアノもそこそこ弾けるけれど、あくまで作曲のためのツールとして使っていた・・・・・程度なので、奏者として突き詰めたわけじゃない。
だからこれも納得できる実力モノじゃない――から参ったもので。

 …さて、どうやって納得できる実力モノを披露したものか――って?

 

「…記憶になくとも魂に強く残っています――お嬢様の芸術うたの素晴らしさは」

 

 ニコと薄く笑みを浮かべ言うノランさんの表情はとても爽やかで――…不思議ときらめいて見える。
…今は日中・・だからわからないけれど――……もしかするとノランさんたち…まだ昨日の・・・引きずってる…?

 

「ノ…ノランさん?」

「はい?」

「その……た、魂は大丈夫、ですか…?」

「……………ぁあ、大丈夫ですよ。
ゴーストとしては若干、不安定ではありますが、魂としては好調、です」

「ぅ、ん……?ぇえ…な、なんか…難しい、ですね…??」

「…まぁなんというか……不健全な魂の成れの果て――がゴースト、ですので」

「……………そういうことなんです?」

「そういうことなんです」

 

 なんとも頷きにくいノランさんの解説に、思わず聞き返す――ものの、
それに対してノランさんは少しも言い淀むことなく「そう」だと自分の言葉を肯定した。

 …確かに、行くべき場所へ行くことを拒んで現世に留まってしまった――というのは、未練という淀みが魂にあったから。
そして道理に逆らうほどの淀みみれんを内包した魂を「不健全」と断じるのは――
………まぁ、間違ってはいないだろう。事務的に、上っ面だけを言えば。

 

「――ですので、セクション・ハーツラビュルは貴女の入団を歓迎し、管理人マネージャー就任を強く支持します」

「………それは総意、ですか?」

「はい、それはもちろん。何度も言うようですが我々はゴースト。
生者よりずっと魂の変化に敏感な存在――…ですので、頭が納得できずとも、魂が認めてしまえばそれまで――なのですよ」

「…………そ、れは……えーと……」

「ははっ、なに、コレはお嬢様の話ではありませんよ」

「ぇえー……それはそれでなんだかなぁ…」

 

 何故だか、上機嫌といった様子で言葉を重ねるノランさん――
…だけれども、ノランさんコレもアレでジェームズさんに要確認だなーぁ…。

 …当然のことだけど、中間管理職マネージャーって大変だァー……。

 

■あとがき
 色々と分別が緩いため、セクハラ(物理)を無自覚にやらかす系夢主です。そして、逆の場合にはやらかした方が事故る(笑)
 けーくん先輩とは微妙に距離感がある感じ、かと思います。実姉様方と近いモノでも感じ取ったのか、けーくん先輩が苦手意識持ってる感じです(笑)
ただ「映え」うんぬんに関しては、(目的に違いあれど)仲良くあれこれやってそう(笑)