焼きあがったタルト台を冷まし、その間にイチゴとラズベリーで作った あえてブルーベリーやラブベリーといったイチゴ以外のフルーツを使わなかったことで、艶々とした真紅のタルトはなんとかいうか圧巻。
「……美味しい…」 「…!」
白い皿の上に切り分けられたイチゴタルトをフォークで切り、それを口の中へと運んだリドルくん――の感想は「美味しい」。 人間にとって食事はただの栄養補給ではなく、他者とのコミュニケーションを図る
「…しかしオーブンが薪式だったのには驚きましたねぇ――…その結果がこの風味のある香ばしさ、なわけですが」 「準備やその後のメンテナンスが手間なのはわかっているのですが、
苦笑いしてそう言うアルテさんを前に、無意識に視線が向かうのは調理場の一角に設置――というか造り込まれたオーブン。 まず使うための準備が必要で、使い終わったら今度は後始末が必要。 だがそれを「使いやすい」と言うヒトにとってすれば、
「…こういう美味しさを味わってしまうと、どーにも欲しくなっちゃうんですよねぇ……」 「……オンボロ寮のオーブンはウチのとは違うのかい?」 「ええ、ごく普通のガス式のオーブン――……まぁ… 「…オンボロ寮は、寮生が極端に少ないですからね。 「へー?」 「食べ盛りの学生――の割に、グルメなメンバーが多かった上に、芸術家肌故に皆凝り性で…。 「ぅわ………それはあったら正直嬉しかったですけど――…さすがにやりすぎですね、ピザ窯は」 「ええだから――…学園の調理場に導入したんです。 「……………そんな理由でOK出す学園側もどーなんです?」 「…経費も設置のアレコレもファンタピア持ち、でしたからねぇ…」
苦笑いして言うアルテさんの ――とはいえ、その寛容性によって私はここに居ることができて、ファンタピアは再開できる――ワケなのだから、
「……はぁ…。…兄さんには驚かされてばかりですねぇ…」 「………キミ、は……お兄さんがいる、のかい?」 「ん?…あれ?言ってませんでしたっけ??」 「……初耳だよ…――…そもそも、キミと個人的な話をしたのは昨日が初めてじゃないか…」 「…ああ、そでしたね――リドルくんのことは
はははと笑って返せば、それを受けたリドルくんはなんとも不満げな表情で私を睨む―― 先の一件、リドルくんがそれまでに溜め込んでいた そして溢れ出たブロットを沈静するため、オーバーブロット状態のリドルくんとドンパチを繰り広げ、 ――…そして、 ……いやまぁうん。それは当然の
「尋ねられれば答えますけど、自ら語る気はないですねぇ。知ってもらったところで、 「っ……そういうことじゃなくてっ…、……キミだけが知っているのは不公平じゃないか…っ」 「…そうですねぇ…知りたくて知ったわけではないですが、一方的に知っているのは確かに不公平ではありますよねぇ――アルテさん?」 「あ」 「……ダメ、でしたか」 「ジェームズさん――どころか、兄さんさえ知り得ていない 「…それ…は………、……今は、遠慮しておきますね…」 「賢明ですねぇ」 「……」
自分の過去を語ることに問題はなく、また隠しておきたい いくら何を話したところで、私の過去が、記憶が減っていく――ようなことは起こり得ないのだけれど、
「……そんな風に言われたら、何も聞けないじゃないか…」 「…お気遣い感謝します――………あ、そうだ。兄さんがいなくなるまで――であれば、お話ししますよ?」 「……いや、あの…………そんな、簡単に話せる内容ではないと思うのだけど……」 |
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コトと、私の前に出されたのは、一杯の紅茶――と、イチゴをふんだん使ったイチゴタルト。 …そう、美味しそう――なのだ。美味し
「…………」
横から注がれるのは、ニコニやらとニヤニヤやらといった風の笑み。 そして、それを見守っている面々についても、彼らの意思を支持――
「――ゥふぐ…!!」
タルトを一口分切り分け、覚悟を決めて口の中へと放り込む――と、
「――ねェ…。コレ、マズったんじゃない?」 「……」 「…良家の出で、尚且つあの意識の高さ―― 「エー?その解釈違いってじゅーよォ〜?」 「…感覚のハナシではあるが、料理を総合的に判断するのが、舌が『肥えた』人間。 「……」 「…ざっくり言うと隠し味の分からないヤツと分かるヤツだ」 「へぇ〜……ってーコト、はー?」 「…今この子は己の罪を味わってるワケね」 「オイスタ〜は罪の味ィ〜♪」 「いやいや、上手くない上手くない」
こちらを心配している――ようで、 …一応、共犯者にも近い存在はいるが、上司の意を汲んでそれを止めなかった――のだから、すべての責任は私にある。
「さん…!ぜ、全部食べる必要は…!」 「ふ、ふふっ…!この程度の試練に耐え切れずして一団の長などぅ……!」 「…その心意気というのか、根性は買いますが――…本題で役立たずでは、その方が 「…」
辛辣――などではなく、ただ冷静に正論を投げてくるジェームズさんに、若干の怒り交じりの不満を覚える――…が、それはものの数秒の内に霧散する。
「「「っ!?」」」
行儀悪く乱暴に、未だ半分以上残るタルトにフォークを突き刺し――そのまま口に運ぶ。 たった一口を呑み込むにもモダついていたことを考えれば、驚異的なスピード――ではあるが、
「…ゥオエっぷ…!」 「「「行儀…!」」」
3方向から飛んでくる尤もな指摘――に、応じたいし、謝罪もしたい――が、それ以上に呼吸がしたくないワケで。 生命維持に必要な酸素を取り込むための呼吸――でしか、体内の空気を循環させたくない――
「…アルテからの差し入れ、です…」
ノランさんがコトとテーブルに置かれたのは、ガラスのティーカップに注がれたオリーブイエローのお茶。
「……地獄に仏とはこのことですか……」 「…ホトケ…?」 「ぇぇと……神、様…じゃ、ないし……、………ぇと…神様になった神父様??」 「…ほう?」 「………まぁ…あながち間違った表現ではないですけど――………いえ、そういうことにしておきましょう。
ざっくり言えば、まぁそこまで間違った …釈迦に説法と言うよりは、馬の耳に念仏って言った方が近かったかな〜…。
「…――っと、…寄り道失礼いたしました――…それでは改めまして、運営会議をはじめましょう」
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■あとがき 後の顛末を見越して、自分(持ち帰り)用にタルトを別に作っていた夢主――でしたが、 止めるべきところを止めなかった報復に、リドルくんお手製のタルトをハーツラビュル寮生から贈りかえされるという(笑) 自業自得以外のなんでもないんだからしかたないよネ☆ |