ツイステットワンダーランドにおいて、魔法を用いたスポーツとして最も親しまれているのは「マジカルシフト」と呼ばれる競技。
そして、魔法士養成学校の名門として知られるNRCは、これまでに幾多のプロ選手を輩出してきた世界中が注目するマジカルシフト強豪校――でもあるという。

 ――ただ、だからと言ってNRC生全員がマジカルシフト――略称・マジフトを得意としているわけでも、まして適性があるわけでもない。
魔法士としての実力――と共に、アスリート的な身体能力と運動神経を求められるのだから、そりゃあ出来ないにがてな生徒がいたって当然だろう。

 

「仮にマジフト選手としての適性があったとしても、
イグニハイドうちの寮生は適性ソレに価値を見出さない――…既に、それ以上才能かちを見出している者が多いので」

 

 ライオンの着ぐるみから、制服代わりの寮服に着替えた私――の横で、
向かい合う先で苦い顔をしたクロウリーさんに意見を述べるのは、ウィンターホワイトの髪を適当に一つにくくった長身の男性――ヴォルスさん。

 …いつぞや、ウチの寮生+元店子たちが壊してしまった大食堂のシャンデリアの修理にやってきていた魔法技師――
――であり、イグニハイド寮OBにしてファンタピアの初期メンバーの一人でもあって。
そして更に言うと、部門は違うが所属は同じの、兄さんにとっては同僚と――…かなりだいーぶ広義であれば呼べなくもない立場、とのことでした。
 

 修理を行ったシャンデリアの調子けいかを見るため、
そしてファンタピアに施された未知・・の技術の解明のため、度々ファンタピア――もといNRCにやってきているヴォルスさん。
今回に関しても、シャンデリアの調子を見たあと、オンボロ寮に向かおうとしていた――ところ、
先のシュラウドさんの一件――我々の一存でシュラウドさんを寮長会議から退席させたことについて謝罪するため学園長室へ向かっていた私と行き会い――

 

「ヘルさんの発言は、イグニハイド寮生の総意と言っても過言ではないと思います――…人より長く留年ざいせきした寮長としては」

 

 ――といった感じで、クロウリーさんへの申し開きしゃざい援護射撃フォローをご助力いただいている次第だった。

 …そして、どういう事情ワケかは知らないが、
クロウリーさんはかつてファンタピアの団員であったヴォルスさんに対して不信感を見せる――
――どころか、寧ろ信用しているような風があって――

 

「ぅむむ…アポリオルくんが言うと説得力が…」

 

 ――と、バグったのかと首をかしげるくらいすんなりと話を聞いてくれるからもうなんと言うか。
…いえ、話が拗れることを考えたら贔屓コレで全然かまわないというか望むところですけどね?

 

「……自分としては、ヘルさんの方がよっぽど説得力があると思うのですが…」

「…まぁ確かに……年季で言えばヘンルーダさんの見解・・は間違ってはいないのでしょうが――
――ほら…彼…ちょっと狡賢いところがあるでしょう…?」

「「………」」

 

 いつもの嫌味ちょうしではなく、ある意味でらしくなく「本当に困っている」といった風でヘンルーダさんに対する苦言を口にするクロウリーさん。

 ゴーストのボスとして、ヘンルーダさんぶかへ対する悪評は否定したい――が、「ちょっと」とつけられては否定できなかった。
…だってクロウリーさんのご指摘通り、ヘンルーダさんはちょっと狡賢い――…屁理屈こねて人を煙に撒くところがある、…そうなので。

 

「――まぁ…ヘンルーダさんの見解いいぶんが間違っていたとしても、もう議題ことは決まってしまいましたから――
…仮に寮生たちから抗議があったとしても、私にはどーすることもできないんですけどねぇ?」

「――…」

「…抗議それは起こり得ないから、反抗しんぱいするな…」

 

 クロウリーさんのらしい帰結に自ずと眉間にしわが寄り、思わずヴォルスさんに視線を向ける――と、
私を見たヴォルスさんは力なく苦笑いを浮かべると、癇癪を起こした子供を宥めるかのように――私の頭をポンポンと撫でる。
………いえ、確かに?ヴォルスさんから見れば私は「子供」ですよ?
面倒を前に頼っているくらいですから??そりゃ仕方ないんですけれども?も??

 

「ん――…ぁあ、すまない。…つい妹と同じ感覚で……」

「………いえ…兄妹仲が良くて大変よろしいと思います…」

「……そーでもないんだが…」

「…なんと?」

 

 私の頭から手を離し、更には視線まで逸らして――「そうでもない」とか、若干道理が通らないことを言うヴォルスさん。
兄妹仲が「そーでもない」のに、妹の頭を撫でるのが「クセつい」とはこれ如何に。

 …いや、だから・・・兄妹仲がそーでもなくなっていった――って可能性は、十分考えられるけどね?
というか多分そうなんだろう――けれども、これ以上の追及はヴォルスさんが可哀想なするべきではないのでここで止めておこう。
…間違いなく今後も、新生ファンタピアわたしたちはヴォルスさんのお世話になるのだから――薮蛇厳禁だ。

 

「――…ところで学園長、本当に今年もマレウス殿下の出場を認めるのですか」

「…ええ……あくまで学校行事は生徒が主役…。
将来さきを見据えれば、生徒たちの損にしかならないと分かっていたとしても――
…生徒たちが望むのであれば、それを止める権利は教師わたしたちにはありません…」

「……権利は無くとも権限はあるのでは?」

「…あのですねぇ……強行それでどれほどの問題が起きると思ってるんですかっ。
今やもう教師なんて教育現場の底辺!生徒には足元を見られ!保護者からは無理難題を押し付けられて…!」

「……先生の肩書にイキった先人・・のしわ寄せ――…現代の教師みなさんはその犠牲者と言えますが――………」

「な、なにが言いたいんですかっ…」

「………いえ……こちら・・・はなおさら悪いな、と」

「………」

 

 思ったところを、一切オブラートに包まず口に出した――ら、酷く険しい表情のクロウリーさんに物凄く睨まれる。
しかし私の見解に多少の誤差はあったとしても、概ね間違ってはいないはずだ。
先人が築いてしまった悪習に、「そういうもの」と倣ってしまった――ならまだマシだったものを、
悪習それからエスカレートかんちがいしてしまった教師せんじんがいた――
――結果、生徒と保護者の不信感を買ってしまい、教師の信頼ちいは落ちてしまった――と、思うのです。

 …因みにモンスターペアレントについては「責任けんり」を勘違いしている未熟者ノービスペアレント――とすればまたこれ教育の不備もんだいだろう。
…ただこの問題に関しては保護者・・・に限った事じゃないから頭が痛いんだけど……。

 

「…――そうまで言うなら、手助けしてやってはどうだ?
問題の根底に当たりがつくなら、その解決策にも当たりがついているんだろう?」

「……」

 

 私の身勝手な正論に返ってきたのは、ヴォルスさんの現実的もっともな正論。確かに、それは尤もだ。
問題の根底に当たりがついているのであれば、その解決方法にだって当たりを付けることはできる。
そもそも私の見当が正しいのか――という疑問はあるが、それを「正論」として振りかざすのであれば、その正論はつげんに責任を持たなくてはならない。
責任無くして権利いけんは通らない――それが「社会」の前提ルールであり、発言について回るリスクぎむである以上は。

 無責任ノーリスク通るかなう発言りそうなんてありはしない。
いつであれ、なんであれ、行動無くして「実現」などありえないのだから、行動に伴う責任はそれと同じく発言にもついて回るが然るべき――
…ただまぁ……そこまでの認識は、それこそ管理職が持つべき――……
…ぁあ…そうか…会社員サラリーマン体質――…もとい、経営者のワンマン体質が、諸悪の元凶かァー……。
…いや、教師のそれとは別問題だけど。

 

「…無責任な立場で、身勝手なことを言いました――…申し訳ありません…」

 

 超個人的な相性・・の問題で、クロウリーさんに頭を下げるのは避けたいところ――…ではあったけれど、
ヴォルスさんの指摘は尤も――私の発言が無責任で身勝手だったのは紛れもない事実だった。

 代案もなく、協力するつもりもなく、ただ持論・・を語るだけ――なんて、なんと簡単で卑怯むせきにんなことだろうか。
その身勝手を、子供が、学生が、下の者が口にすることに、仮に怠惰もんだいはあったとしても罪はない――
――が、そうでないモノが彼らと同じ感覚で悪態ことばを吐くのは問題だ。私の――個人的な矜持かんかくに限った話でなく。

 

「……はぁ…――………ヴォルスくん…本気でNRCウチへの転職を考えてくれませんか…?」

「………これでも、望んで就いた仕事なので――…何処へも、転職するつもりはありません」

「…そう…ですか……。…灰魔の謎機関に籍を置くよりずっと…世のため人のためだと思うんですけどねぇ……」

 

 ヴォルスさんの断りへんとうに、酷く残念そう――なついでに、ちらりと嫌味どくを漏らすクロウリーさん。
しかしクロウリーさんが悪態どくを漏らしたくなる気持ちも、わからないでもない。
目の前に間違いのない優秀な逸材がいる――というのに迎えられないのは、そりゃあモヤモヤするだろう。
たとえ、断られた理由が至極真っ当な言い分モノだったとしても。

 …それほどに、ヴォルスさんという人材は貴重で重要なのだ。
ヴォルスさんに転職の気があるなら――ファンタピアウチだって「ぜひ大道具顧問に!」って交渉スカウトしたいくらいだよ!

 

「…マレウス殿下について――…ですか?」

「はい。プレ公演のこともそうですけど、マジフト大会?とやらへの影響力・・・も考えたら、
今のうちにある程度の方針は決めておいた方がいいかな、と」

「…方針……」

「…相手方がなにをしてくるとは思ってませんけど、
こちらの態度如何によってその周り・・が仕出かす可能性は十分にある――ので、それを回避するための対策ほうしん決定です」

「……仕出かすその可能性を否定できないのですから…情けない話です…」

 

 かつてNRC所属の教師だったというワースさん――による出前授業の小休止。
ここのところよく名前が挙がるマレウス・ドラコニア――茨の谷の次期領主にして、妖精族の次期王だというディアソムニア寮の寮長殿について、
ディアソムニア寮の寮区長であり、茨の谷の出身でもあるワースさんに質問わだいを振っていた。

 私の入団テストに居合わせた――…いや、ダンさんが初めから仕込んでこえをかけていたらしいリリアさん――
――のような臣下ヒトたちばかりであれば、こんな方針しんぱいる必要もないのだけれど、
先のプレ公演におけるディアソムニア寮の出席率の低さ――
…マレウス殿下の難色かおいろを気にして、寮全体がファンタピアの存在こうえんに対してナーバスになっていた、
…という報告じじつがあった以上、それについてなんらかの対策こたえを出しておく必要があった。

 背景じじつを知らずして「問題」が起きたなら不慮の事故だが、知った上で放置していたならそれは怠惰――
――事故もんだいの原因の一端を担っている、と言われても、強くは否定できない。
…そういった意味での可能性リスクも含めて、事前の対策うちあわせは重要だった。

 

「…しかし……殿下のことに関しては『不干渉』以外の対処は難しいかと…」

「…それは……下手な対策・・じゃあ問題の火種にしかならない――…と?」

「ええ……下手に媚びればオーナーアロガンスの権威に泥が付き、無思慮に無視すれば茨の谷の権威に泥を塗る…。
……最も難なく、またリスクも低い対策たいしょ法は――…『注意を払って無視をする』……かと…」

「……そう…なっちゃいますかぁー……」

 

 ワースさんからの提案――は、ある意味で現状維持。
ただ、それが最も難なく、リスクが低い――というワースさんの言葉はおそらく事実だろう。
本気で問題解決に取り組む気が無く、また問題を解決できる立場にない――兄さんに問題ひのこをぶっかける意気地がない以上は。

 ――とはいえ、仮に意気地きもちがあったとしても、肩書きたちばがない現状ではどーにもできないだろう。
もし本気でどうにかするのであれば、それは立場どだいを整えた上で臨む必要がある。
…路傍の石の主張ことばになんて、わざわざ耳を傾けてくれる人好しきとくな人間なんて、そういないのだから――…
…いやまぁ…厳密言ったら相手人間じゃなくて妖精だけどね?そうなると逆に「石」の話聞いてくれそうな組み合わせかんじだけどね??

 

「…とはいえ殿下は賢い方です。このままを『良し』とはしないでしょう――………既にリリア殿が、行動で示したのですから」

「そう…ですねぇ………。
……『ウチの寮長もお主の歌を聞けば――』とアンケートに書いてありましたけど――………、
…っていうかそれが引っ掛かってるんですよ。どういう意図でそう言ってるんだか……」

 

 ディアソムニア寮から返ってきた数少ないアンケート用紙――という以前に、私の歌を引き合いに出せるのはそれを聞いたリリアさんだけ。
だからそれが、リリアさんが記入したアンケート用紙なんだろうとすぐに見当はついた――が、その言葉の意図が、どうにも読み切れなかった。
ただただ単純に思ったところを書いたのか、それとも何らかの思惑あっての誘い文句かんそうなのか――…。

 入団テストの時、リリアさんが私に向けた警戒は、見せかけの演技それではなかった――以上、ストレートにその好感を受けるには違和感がある。
…もちろん、あの警戒は「兄さんアロガンスの妹」というポジションに対するもの――…だとは思うけれど、
だからこそ安易には受け入れることはできないはず。……そうでなかったら、こんな面倒なことになっていないんです??

 

「……リリア殿は、争いの多い時代を生きた武人――…だからこそ、平和を尊び、そしてその輪を広げることを願っている…。
…リリア殿にとって音楽とは平和な世界ねがいのじょうじゅにつながるツールの一つ――…だからそこに、他意を含ませるはずはありません」

 

 感慨深そうに言うワースさんに、それはリリアさんと同じ戦場ときを生きてきたからこその見解りかいなのか――…
…と、聞きそうになったがその好奇心しつもんは呑み込んだ。

 そこは、安易に、無思慮に突っ込んできいていい話題じゃない。特に聞き出す相手がゴーストワースさんであるならなおさらのこと。
…既にゴーストとなってから百年以上の年月が経過している――…とはいえ、興味本位でアレコレ訊くのは、さすがにデリカシーが無さ過ぎるだろう。

 

「…わかりました。リリアさんのアンケートかんそうは前向きに受け取っておきます――
…ただ、こちらから働きかけるのは……勘弁していただきたいです…」

「…ええ…それについてはリリア殿も理解してくださると思います。
…ただ、その場合は他所――…特にレオナ殿下への働きかけは控えてください」

「…レオナ……でんか……………あー…?ぇえと……たしか…植物園にいた…褐色肌…の……」

「ええ…その方です――……しかし…ダン殿には授業への出席を促すよう…お願いしたはずなのですが………」

 

 苦い表情で頭を押さえ言うワースさん――だがダンさんに
、ワースさんに言われたこと――授業への出席を促そうとしている様子すがたを見た記憶はない。
寧ろ、件のレオナ殿下を使って収穫だの、荷物運びだのをさせている――ような話ばかり聞いている気がする…。

 おそらく、その事実じょうほうをリークしたところで、ダンさんには痛くも痒くもないだろう――
…けれど、逆にワースさんにとって痒い問題コトになりそうなので、あえてここは黙っておこう。
…それに、今はダンさんそこが話の中心ではないのだし。

 

「…そー言えばサバナクローの寮長も王族って…………ぁ、そういえば耳……」

「……お嬢様、獣人種=サバナクローの寮生――…というわけではありませんよ。……いえ、多いのは事実ですが」

「…そーいえばハーツラビュルにもケモミミ青少年がちらほら――……っと…脱線失礼しました――
――で、レオナ殿下がサバナクローの寮長で、NRCに在籍するもう一人の王子おうぞく――って認識コトでいいんですか?」

「ええ、その認識で間違いありません――
…が、それともう一つ、お嬢様には王族の件に関して念頭に置いていただきたい認識コトがあります」

 

 急に、改まった様子で「もう一つ」と言うワースさんに、思わずきょとんとしてしまう――
――が、それだけに大事なことなんだろうと解釈して、軽く息を吐いてから「はい」と答えると、ワースさんもまた軽く息を吐いて――

 

「レオナ・キングスカラー――もとい、キングスカラーいち族のおさであるファレナ国王陛下は、
オーナーと親しい間柄にあり、またその関係は公に認知されています。
…お互い『良き友人』と公言しているのですが――…未だ、その不祥事ネタを狙う記者ネズミは少なくなく………」

「……………………チッ…。………異世界どこに行っても邪魔しかしないな――…ぁンのゴシップさんもん記者どもは……ッ!」

 

■あとがき
 唐突に増えたOBでした〜(目逸らし)
…本編に顔を見せることはもうそうそうないと思うのですが、本編の裏側で色々都合をつけてくれる(作者にとっての)テコキャラです(汗笑)
…なので、名前だけはちょろちょろ出てくるかもです…(苦笑)