一つ、失念していた――…というか勘違いしていた。
プログラマーとしての技術があれば、依頼者がアイディアと素材さえ用意しておけば、あとはそれを組み上げるだけなのだから、
グラフィッカー、もしくはデザイナー的な能力は必須ではない――と思っていたが、よく考えれば馬鹿げた考え方だった。
ゴーストたちの演奏に合わせて光が舞い、曲の盛り上がりに合わせてエフェクトがかかる――それはこちらの指示通り。
だけれど光の動きのパターンや、エフェクトの大きさや強弱についてはざっくりとした指示しか出していない――
…ということは、そこの部分に関しては、プログラマーのセンスによって調整された上での仕上がり、ということになる。
…要するに、こちらの指示を受けての作業だとしても、仕上げはプログラマーの美的センスに因る――ということだ。
――…ただまぁ、土台さえ手早く仕上がってしまえば、仮にこちらのイメージとずれていたとしても、調整していけばいいだけの話――
…ではあるけれど、そもそもクライアントとプログラマーの感性にズレがあった場合、その調整は双方にとって多大な苦痛と時間を必要とする。
…特にお互いにプライドを持って仕事をしている表現者同士だと、互いに譲らないから平行線で作業が進まず後が詰まってきて――……なんてことも、あったりしたし。
……でもある意味、大切なことではあるんだけどね?自分のセンスを譲らないっていうのは。
…ただ、オファーされたわけじゃない仕事なのに、クライアントの意向をつっぱねるってのもどうかと思うけどね??
――と、話が脱線したけれど、要はクライアントとプログラマーのセンスが近い方がお互いに仕事がしやすく、
また作業にスムーズに時間が割ける分、仕上がりも良くなる――というわけだ。
……まぁあまりに近すぎると、今度は偏った仕上がりになっちゃうからほどほどがベストなんだけど――
「(感性は近い――けど、趣向が違う…ってところかな…)」
こちらの指示書の上、シュラウドさんが作り上げたプログラム――プロジェクションマッピングは、ほぼほぼ完璧な仕上がりだった。
指示書に従っているのはもちろんのこと、こちらの細やかではないニュアンスを把握した上で反映しているし、
指示が抜けてしまった隙間にはそれまでを踏まえた上で適当な処理をしていて――
……本当に…今までの拒絶っぷりがなんだったのかと思うくらいの完成度、だった。
おそらく、シュラウドさんの映像センスはゲームやアニメといったサブカルチャーから端を発し、
ショー的な演出センスはアイドルコンサートによって磨かれいった――のではないかと思われる。
これまでに収集したシュラウドさんの趣味趣向を踏まえると。
そしてそれらの知識と、過去に自らの目で見た先代ファンタピアの公演が融合して出来上がったのが――
――あの、プロジェクションマッピングなのだろう。
先代の雰囲気を意識している――が、それを真似ているわけではなく、
あくまでその雰囲気を踏襲しつつ、新しい演出のカタチに昇華している――…
……なんというか…これはもう「スゴイ」の一言しかない…。
本当に、これが現実なのか疑いたくなるほど――ドンピシャだった。供給と需要が。
「(どう…しよう……)」
自分だけのことを言えば、シュラウドさんは合格――いや寧ろこちらから頭を下げてでも手に入れたい才能の持ち主だ。
それは嘘偽りのない本心――…なのだけれど、そういうつもりではなかった上に、
逃げ道を与える形での採用には、どうしても不安があった。管理職として。
シュラウドさんの実力、そして才能は本物だった――が、精神的にまでプロかどうかは――…正直言って怪しい。
指示書に対して完璧に等しいモノを作り上げてきた――が、あくまで完璧ではないし、
これで完成というわけではない以上、ここから指示の修正や追加といった調整が更に必要になる。
対面うんぬんに関しては、音声通話でも基本的には問題ないだろう――が、それが頻繁に繰り返される状況になった時――…が、心配だった。
感性が近いモノ同士の仕事は作業がスムーズ――だからこそ、どうしても欲が出てしまう。
とんとん拍子で作業が進めば必然的に時間に余裕ができる。
時間の余裕は心の余裕を生み、ついつい細かいところにまで意識が向いてしまい――完成の合格点が引きあがってしまう。
作品の完成度を高めることは、表現者としては大変良いことではあるのですが――
…完成度を求めたがためにプロジェクトが頓挫――で済めばいいけれど、逸材まで失うことになってしまったら洒落にならない。
…じゃあ、初めから欲張らなければいいじゃない――…という理屈だけれど、そんな自制ができたら悩む間もなく頭下げてるってんです?
「………」
なんとも堪らず顔を横――やや遠くの席に座っているシュラウドさん、そしてオルトくんがいる方へと向ける。
すると視線に気付いたシュラウドさんは驚きなのか、怯えなのか、ビクと体を震わせ――すぐさまバッと私から顔を背ける。
そしてその一連の流れを見ていたオルトくんは、少し困ったような表情でシュラウドさんに何か言っている様子――
――だが、それに対してシュラウドさんもなにか弁解しているようだった。
腹を括った――…はずなのに、いざリスクを前にすると、それを避けようとしてしまう――…まぁなんとつまらない方針か。
我ながら、呆れた考え方だとは思う――が、この演出において、失敗は一度たりとも許されない。
だから事前の失敗の排除はなによりの要務であり、計画の根幹を維持するための要でもある。
……ただ、失敗を恐れるあまりに、中途半端な成果しか上げられなかった――のでは、結局行き着くところは「失敗」なのだけど。
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