昨晩事件もんだい犯人しっぽを掴んだこと、
そして証拠それを引っ提げた上で寮長殿下と改めて話し合いたいと思っている――と、いうことを、
狼くんことジャックくん、そしてユウさんとグリムくんにも伝えた――
――後、ブッチくんには引き続き衣装の装飾作業を、そしてジャックくんには舞台装置製作の手伝いに入ってもらっていた。

 働かざる者食うべからず――という言い分コトで、出された食事分くらいは働いてもらわなくては――とか言って、
彼らに作業しごとを任せたのだけれど、思いがけず――ではあったけれど、よく考えれば当然とも言える結果となっていた。

 

「いやはやお二人とも働き者で大変助かりました。お駄賃にはちょっと色付けときますね」

「「……」」

 

 手先が器用かつすぐ作業に慣れ、ゴーストたちと他愛ない会話をしながらも作業スピードの速いブッチくん。
最初こそ馴染みが悪かったけれど、時間の経過と共に環境に慣れ、指示を受けながらも自らでも考えて、真面目に作業に取り組むジャックくん。
そもそもは「暇にさせておくのも――」と軽い気持ちで振った作業だったけれど、
二人揃って本能的に「群れ」で生きる・・・傾向があるようで、作業が終わるこ頃にはすっかり大道具部門の輪に馴染んでいて。
作業場を後にする折には、大道具担当の面々から「また来いよー」なんて声をかけられるほどだった。

 変な話、思わぬ出費になってしまった――が、それに見合った成果ないようではあった。
きっかけはまぁ正直色々とアレではあるけれど、今後本気でどーにもならなくなった時につかえる非常作業員せんりょくに当たりがつけられたのは僥倖。
……ただそれも、今夜の話し合いの決着によっては、無意味になってしまうけれど。

 

「――さて、サクっと行ってしまいましょうか」

「ぇ、な、ちょッ?!」

 

 「さて」と前置いて、サクっと――ブッチくんの身柄をストールでぐるぐる巻きにかくほする。
具体的な前置きの無かった私の実力行使に、
ストールでグルグル巻きにされた状態で直立しているブッチくんは、ジトとした目で抗議するように私を見る――けれど、

 

「ブッチくんも、コチラに寝返るんですか?」

「………あ」

「……ホントに…建前なしで馴染んでたみたいですねぇ…」

 

 ボンボンだの、媚を売るだのと、自身の立場ポジション形成に余念がないように見えたブッチくん――
――だったけれど、どうやら大道具“あ”においては、
そういった思惑たてまえなしでフツーに馴染んでいた――素で「気が利く新人」的なポジションに収まっていたらしい。

 敵対者ほりょの立場にありながら、急に乱暴な行動に出た敵対者わたしに対して、真っ当が過ぎる不満を当然のようにぶつけた――のは、
おそらくブッチくんの中で、私を含めたファンタピアの面々に対する敵対の意識が薄れていたから、だろう。
…でなければ、ここまではっきりと不満――と一緒に非難の色を向けることは、賢いブッチくんであればこそしないだろう。

 …肩書じむ的に考えれば、私はブッチくんの「将来」を悪い意味で握っている敵対者あくの親玉――
…ブッチくん的な世渡りかしこさで考えれば、従わずとも逆らうべきではない相手――のはずだ。
なにせブッチくんの内申書けいれきに「傷害事件の犯人」という汚名きず書き足すつけるも否も、あいての機嫌ひとつのこと――なのだから。
………いや、あくまで肩書じむ的な一般論であって、私には適応されない理屈ハナシですけどね??
 

 うっかり――だろうけれど、
それでも素でゴーストたちの輪に馴染んでいたらしいブッチくんを微笑ましく思い――つつ、よいせと彼を肩に担ぐ。
――うん。見た目に反さずそこまで重くはない。
…ただもちろん?の状態じゃあ担いでこのまま移動なんてできない程度には重いんですよ?
…とはいえ、グルグル巻きにした状態でブッチくんを引きずって歩くのは――…体罰みせしめにしても過ぎるだろう。私の立場では。

 

「……あの…」

「はい?どうしましたジャックくん」

「……ラギー先輩は、俺が担ぎます」

「………いいんですか?それだと端からグルだった――みたいな印象になってしまいますよ?」

「……寮を裏切った事には変わりないんで…」

「…とはいえ、所属はしていても与しむれていなかったのなら裏切り・・・にはならないと思うんですが…
――仲間になった覚えはねぇ、てな理屈ハナシで」

「…それは――」

「――はぁ〜〜…だ〜かーら〜〜ジャックくんはっ、オレの見え方コトを心配してるんスよっ!」

「ぅん?」

「〜〜……サバナクローじゃ小柄で通ってるオレが、自分オレよりも小柄なヤツに簀巻きにされた挙句、軽々と担がれて――…!
これがさらしわらい者以外のナニになるって言うんス――ゥ゛ンッッ?!!

「―――」

 

 別段、ブッチくんの言い分・・・にカチンときた――ワケじゃない。
ブッチくんの言い分――物理じつりょく主義のサバナクロー特有の価値観に起因するのだろう身体的特徴からの軽蔑――侮蔑というのは理解る。
だって我では一族では当たり前にあったコトだし。

 ――そう、だからこそ、その価値観ぶべつを侮辱と受け取ることはできない。
そんなレベルの低い価値観に、私が程度を合わせる理由も道理もない以上、ブッチくんの主張は世間的には一般的――だとしても、
私を相手にそれは――自信じいしき過剰というものだ。雌獅子に担がれるハイエナの、一体どこが無様だというのか。

 

「自信過剰なら許容します。でも、じぶんを見くびっているのなら――認識を改めましょう。
軽口を、反抗を認められたからといって、同格たいとうではない――ワケですから」

「ッ…!」

 

 少々雰囲気くちょうを改めてみれば、肩に背負ったブッチくんの体がビクと震える。
…さてコレは、一体何に対するおそれはんのうだったのか――…結局、その辺りのことは分からず仕舞いでこの時を迎えてしまった。
――ただまぁ、ブッチくんたちに通用したからといって、あの寮長殿下に威嚇コレが通用するかには、若干の疑問はあるけれど。

 変な話、通用されても困る――というか、つまらないひょうしぬけ、という気持ちもある。
そしてもし通用そうだとするなら――歯牙にかけるまでもない相手わたしのめがくさっていた、ということになる。
…となると、寮長殿下には毅然に対応してもらいたいところである。我が名誉のためにも――ではなく、より面倒を少なくするために。

 

「――ま、本当に小者なら、昨日で決着ついてるこうはなってない――か」

「……」

「…なんですブッチくん。言いたいことがあるなら今の内ですよ?」

「…イヤ……言いたいことってか――………王族相手に小者って……」

 

 背後に感じた違和感に、ふと話をブッチくんに振ってみる――と、返ってきたのは呆れ交じりの非難のような感想。
…まぁ確かに、ブッチくんが私の言動に対して呆れや非難の感情を覚えるのは当然とは思う。
かつて世界的に名を馳せたファンタピアげきじょうのマネージャー――とはいえ、この世界においてはあくまで一般人。
更に言えば、未だ先代かこの栄光の上に座っているだけの、そんな低い立場レベルで、国を治める王の一族に対して小者とつばを吐くのは――

 

「いやいや、それは怠慢ごうまんというものですよ。
そも立場うまれと器が都合よくイコールになるととのう道理ワケがない――…良くも悪くも」

「………」

「さァて、寮長殿下はどちら・・・でしょうねぇ――…叶うなら、噛み応えのある高級しもふり肉だと嬉しいのですが」

 

 ニィと持ち上がる口の端をそのままに、肩に負ったブッチくんを今一度抱え直し――出入口ロビーの扉に手をかける。

 王族だから――と敬うのは無責任みがってで、下の立場で吐く毒は――ただの不満ぐち
生まれながらの統率者おうなどはなく、努めたしんの王に民衆の文句ふまんを聞く義務はあっても、務めを果たさない堕落者みんしゅう身勝手ふまんを聞く義務はない。
そしてそれは逆の形でも同じこと。務めを果たさない堕落者おうぞくワガママけんいなど、どこの誰にも従う義務はない――
――まして、統率者そう在らんと努めたモノであればなおさらだ。

 

「(――それでも、噛み殺そくだこうと思えないのは、御麟―――の名残……なんだろうね)」

 

 いや、うん。驚いている。
ビックリしている――けれども、凄いと、感心もしている。
ただそれと同時に呆れている部分もある。
一度逃れた面倒事に、何故自らの意思で改めて首を突っ込むのか――…無力な存在たちばでありながら。

 ファンタピアのゲートを使い、サバナクロー寮の用務員室へと転移いどうした私――と、
の肩に担がれたブッチくんと、自らの足で立っているジャックくん。
そしてそんな私たちを迎えてくれたのは、サバナクロー寮の副寮区長であるエーランさんをはじめとする用務員ゴーストたち――
――と、…自寮生とハーツラビュルおなじみの面々だった。

 

「……………………」

 

 理解している――つもりではある。努力してきたのにここまできて目的もんだいから外されることの不満や不服、そして憤りは。
だけれど、それでも呑んでもらわなければならなかった。彼女たちを危険な目に合わせないためにも――ではなく、あくまで私の超個人的な道理じじょうで。
……だからまぁ、ユウさんたちが待ちかまえていた“ こ の ”状況に、彼女たちを責めるに値する是非・・などなかった。

 早い話が、私が勝手を強いたように、彼らもまた勝手を行っただけ。
そう、だから是非などないのだ。正否ぜひ、なんてものは。
私の個人的な勝手つごうに問題を生じたとしても、そんなことは彼女たちには関係ない――
――人の身勝手に正否ぜひなどない以上、それは普遍的な問題にはならないのだから。

 

「………マネージャー…気を鎮めてください――……獣人われわれには、いささか負荷どくが過ぎますっ……」

 

 努めて平静な声音で、私に注意を投げるのはエーランさん――だが、白風船の顔は青く、
生前からの特徴である淡灰のヒョウの耳は、原典げんじつでは考えられないほどビターンと伏せきり、
長い白黒ブチの尾っぽはその全てが自身の体に巻き付いていた。

 …そしてふと、視線をエーランさんの後ろに向ければ、立ちはだかるように並ぶ――が、
青い顔をした調理場担当のくっきょうなゴーストたち――の後ろには、ぎゅうぎゅうと身を寄せ合う駐在担当それいがいのゴーストたち………。

 

「……――………もーしわけない」

 

 胸と頭に湧く憤りふまんを押し込め――とりあえず、謝罪の言葉を口にする。
…すると、どうやら環境・・が改善されたようで、最奥で息をひそめていたポールさんたちが「はぁぁ〜〜〜……」と大きく安堵の息を吐いた。

 ぅぅむ……この憤りけんに関しては非がないところか、
無関係のゴーストみなさんを巻き込む――というか一番に負荷をかけるのは問題ですよねぇー……。
…くそぅ……そこまで計算づくの気がするな――…ノランさんのことだから。

 

「………はぁ〜…――………エーランさん」

「っ…!」

 

 高速でぐるぐると頭を回し――出した方針こたえを実行するため、エーランさんに向かって黄色い宝石のブローチを投げ渡す。
そして肩に担いでいるブッチくんを、一時的にジャックくんに預けて――

 

「――ヒッ……!」

「ッ……!!」

「ゥ、わ……ァ…っ!」

「ぅ、くぅ……!」

「っ――………!」

 

 ――本気でみがってに、勝手を働いた面々に憤りふまんしせんを向けた。

 私が、ユウさんたちに憤りふまんを向ける――ということが、どれほど情けない・・・・行動であるかは、理解している。
強者としての自負を持つのなら、やってはいけないこと――だが、統率者としての自覚を持つのなら、いつか引かやらなくてはいけないこと、ではあった。

 …だからこれは、その一押しいっせんが足りなかったがため――心地よい立場かんけいに甘えて、
いざという時にこそ統率の狂う、上下しまりのない関係を築いてしまった――のは、私の落ち度。
…そういう意味では、ユウさんたちは被害者となるわけだ――が、

 

「第三者――事件ことの見届け役、であれば同行を許容します。――で、それ以外はなんであれ許しません」

「「「「………」」」」

「………黙って見ているなら、ついて行ってもいいんですね」

 

 感情的みがってな圧は抑え、それに代えて統率者のれいてつな圧を纏って折衷案――のようでいて、
一方的な条件を提示すれば、ハーツラビュルたりょう生は怯んで言葉を呑む――
――が、自寮監督生ユウさんはまっすぐコチラを見て、怯むことなく食い下がってくる。
……まったく、彼女はその立場で一体何を考えているんだろうか――…強者たる私を前にして。

 …とはいえ、彼女がなにを思おうが、それは彼女の自由かってだろう。
努力を厭わず、今を懸命に生きる彼女の選択せいしんに、不相応はあったとしても不敬はない――…以上、彼女の選択いしを否定するのは傲慢みがってだ。
……ただその傲慢を、統率者ほんらいの私であれば、躊躇なく布いていたのだろうけれど――。

 

「………――ふぎゅ?!」

「はぁ〜〜…自分で自分の本能優先どうぶつかげんがイヤになりますねぇ……」

「ぃぅ゛ぅぅぅぅぅ〜〜〜……!!」

「…真正面からぶち当たれば何事上手くいく――なんて、トンだ勘違いです。失策のリスクけっか、しっかと味わってくださーい」

「っっ…!っ…!!」

 

 片手でぎゅむと掴んだユウさんの両頬を、ぎゅぅ〜〜っと圧迫する――と、顔を真っ赤にした若干涙目のユウさんがぺちぺちと私の腕を叩く。
しかしそれで開放してしまってはみせしめにならない――…が、そもそもこれが彼女にとって戒めになっている気がしないので手を離しやめた。

 …よくよく考えれば、この状況を作った最大の原因・・は、ユウさんじゃない。
彼女はあくまで実行犯げんいんであって、そこに実行できるだけのよういんを与えたのは――

 

「…意趣返し――…か」

 

 ふと脳裏に浮かぶのは、お冠むひょうじょうで私を睨む――ジェームズさん。
サバナクローからの逃走“ ア レ ”以降、面と向かっても、表立っても、ジェームズさんからは苦言も制止もなかった――
――が、おそらく腹の底には呑み込めない不服モノがあったんだろう。

 …ただそれを、こういう形で発散しょうかするのはどーかと思うのだけれど――……意趣・・返しなら、仕方がない。
先に無茶みがっての布いたのは私――である以上、それは「我が振りふさい」と受け止めるしかない。
他者に強いた苦痛が、そっくりそのまま返ってきた――…のだから、これはもうただの自業自得でしかなかった。

 

「…マネージャー、こちらは――」

「…ブローチそれは、エーランさんが持っていてください。
……突きどころが当たれば、最悪の事態・・・・・も起こり得ますから――…その時のためのお守り・・・、です。
――…みなさんも、何かあった時にはユウさんの傍に集合、ですよ?」

「「…………あー……」」

「…ぇ、そこ納得するトコなの??」

 

■あとがき
 なんとなし、ラギーくんとジャックくんはお年寄りを敬う社会性で育ってそうなので、自然とゴーストたちの輪に馴染んでそうな気がします(笑)
孫感覚のゴーストたちに反抗することなく、すなおーにそれを受け入れてそう。異次元のほのぼの空間(笑)
 因みに夢主は、年配を敬う心はあるものの、実績の無いロートルに対しては辛辣。過去の経験からの自己防衛の一種なので仕方ない…(苦笑)