黄橙と黒の縞模様の長い尾をなびかせ、敵陣のゴール目掛けて突撃する3人の青年。
その進撃を阻止せんと、同じく獣人の青年たちが6人体制で迎撃に向かう――が、
それを3人の青年たちは連携を以ていなし、またその連携を以て――
「…獣人であってケモノにあらず――ですねぇ…」
ゴール防衛の要であった青年も、端から匙を投げるほどの圧倒的な突破力をもってゴールを割った青年3人の連携シュート。
プロリーグでも通用するのでは、と思ってしまうくらいの強烈なシュートだった――
…が、それでもマレウス殿下のシュートを思えば力不足ではあった。…派手さというか、エンターテインメント性はコッチに軍配だろうけれど。
寮対抗マジフト大会が間近に迫ったある日の放課後――も、その日の朝と同じく、
サバナクロー寮に併設されたマジフト場には暑苦しい――が、気合の入った青年たちの声が響いている。
そしてその声のボリュームは日に日に大きさを増し――一つの声になろうかというところまで、まとまりを見せ始めていた。
「気を抜くな!休まずもう一本行くぞ!」
もう一本と声を上げた青年に返ってきた応えは――威勢のいい了解の意。
その応えを受けた淡灰に黒の斑紋の太い尻尾を持つ青年は、その表情を僅かほども崩さず、
後ろに控えていたサフランイエローの猫の獣人の青年、そしてボルドー色の髪の人間の青年と共に――
――ゴールを守らんと待ちかまえる青年たちの陣に突っ込んで行った。
私がレオナさんを下し、サバナクロー寮のボスとなって以降、毎日朝夕に行っているマジフト大会へ向けての特訓。
情報収集に徹した初日はともかく、それからは僅かであってもサバナクロー生たちは日々レベルアップを重ねている。
…そしてサバナクロー寮の――「チーム」としての連携は、それ以上の勢いでレベルアップしていた。
そもそも、サバナクロー寮は集団の戦い方というものを実践していた――が、
それはたった一人の司令塔に依存した酷く脆い組織だった。
だからディアソムニア寮に勝つことができなかった――わけではまったくないが、
それで精一杯努力したと言うのであれば――全力で否定する。この現実を以て。
「(……驕ってくれたら儲けものだけど………)」
ボスの命令にただ従う烏合の衆――から、一個の思考を持つ一兵となったサバナクロー生たち。
そしてその上で個を利用する策を講じるようになった司令塔。
連携――一団としての繋がりが構築され始めたサバナクロー寮は、
元来持つ個の強さに加えてチームとしての強さも手に入れ、総合的な能力は格段に上がっている。
これならディアソムニア寮――もとい、マレウス殿下の打倒も可能性が見えてくる――…のは、相手の戦力が据え置きだった場合、だった。
まずの結論を言えば、マレウス殿下――ではなく、
「成人へ対する能力制限」は、この度より正式なルールとして大会の規定に加えられた。
そしてそれに必要な装置もほぼほぼ完成し、現在は個々で微調整を行っているところで――
…その事態の重さを目の当たりにしたディアソムニア寮は現在――………リリアズブートキャンプで絶賛特訓中なのだとか……。
……いや、当然の対策とは思うし、それを促すような文言――それを阻害している現状の否定を「大儀」の一つとして挙げたのだから、
それは叶わなければいけないコト――…なのだけれど、サバナクロー寮としては余計な「成果」ではある。
チームワークの強みがより薄くなってしまうのだから。
「(…それこそ軍隊式なら、頭を潰せば――って攻略法だけど――……本物がその脆さに気づいてないわけないし…)」
整然と揃った隊列は強固なモノ――だが、だからこそ一度その体制が崩れてしまうと、その立て直しが難しいという弱点がある。
であれば、たとえ僅かであってもその陣形に綻びを作ることができれば、そこから勝利のチャンスを掴むことができる――
…はずだが、そこまでを勘定に含めた軍隊式の特訓が、おそらくディアソムニア寮では行われているはずだ。
……だって元本職が指導していると言うのだから。
マレウス殿下の能力を大きく減退させることに成功した――がその分、
リリアさんが腰を上げ、選抜メンバーの実力と、ディアソムニア寮のチームとしての連携を底上げした。
…ただ、またその分リリアさんは監督役に徹する――選手としては試合に出てこないというので、それは情けないがありがたい心遣いではあった。
……ただそれでも、サバナクロー寮の勝機が薄いという仮説は覆せていない――
…結局の壁は、やはりどうあっても――マレウス殿下打倒、…なんだよなァー………。
虎の尾と耳を持つ青年たち――生前かつ享年の姿ではない青年期の姿をとった――サバナクロー寮の調理場担当トリオ。
ユキヒョウの獣人に、ネコの獣人に、人間が一人の――同じく享年の姿ではなく、生前の青年期の姿をとった――副寮区長と寮区長に、前寮区長のトリオ。
そもそもトリオとして完成していることに加え、齢の絶対的な差から成る精神の成熟という能力差もあって、
どちらを相手にしてもゴーストの侵攻を生者たちが阻止することはできていなかった。
…ただまぁ、ハナから無理だとわかって挑戦してる練習――ではあるんだけどね?
もしもマレウス殿下がディアソムニア寮生と連携して攻勢に出た場合――を想定した仮想敵、ってヤツなので。
…しかしまぁ………厳密なところはまったく全然「仮想敵」になんてなってないんですけどね。…わざとだけど。
「(支配階級が世間の目を気にしてくれれば…
…逆転の可能性は作れるだろうけど――…二年間興醒めプレーだったからなぁ………)」
年齢も種族も忖度せず、全力を以て相対す――…それはある意味、ありがたい試合ではある。
才能に磨きをかけるのは己の努力だが、才能に芯を入れるには挫折――もしくはそれに匹敵する外部からの衝撃が必要で。
そういう意味においては、マレウス殿下との試合は神の選定級の衝撃だろうが――
…それを、まともな才能が喰らって無事で済むはずがないワケで。
才能とは自信を裏付けるもので、自信は心の芯となるモノ――とすれば、心の強さは才能のほどに比例するモノ、とも言える。
そして更に言えば、才能を否定されるということは、自身の心の芯である自信を傷つけられると同義――
――ならそれは、芯に触れるほどの深い傷を相手の心に刻む――ということでもある。
だから、それを分かっているのなら、強者としての自覚があるのなら――配慮として自重するのが常識だ。
…しかしそれこそが驕りではあるのだけれど――…それが支配者の采配というものだろう。
……運営的視点で考えると。
「……王様っていうより…お殿様か、あれは」
「…あ゛?」
思わず口から出ていた悪態――に噛み付いてきたのは、何気にずっと隣で同じく寮生たちの練習を見守っていたレオナさん。
お殿様の意味は解らなかったはずだけれど、ニュアンスからバカにしていると気づいたようで――
――更に「王様」という言い回しに嫌味を感じたようだった。
「レオナさんのことじゃないですよ――………あ、いや、数日前は『も』でしたけど」
「…………」
勘違いをしているレオナさんに訂正を投げ、
それにふと思い出した事実を付け足した――ところ、物凄く不機嫌な表情で睨まれた。
…まぁ、私の言わんとするところに当たりがついたのなら当然の反応とは思うけれど――
「あれがこの世界の為政者の在り方なら――軒並み、粛正されちゃいますよ?無法の皇獅子に」
「………………もう、だいぶ……頭使って話せ…」
「…ふふふーレオナさん相手に配慮なんて使う必要ないじゃないですかー」
「………俺だけが相手なら、な」
「いやいや大丈夫ですよ。獣なら逆らう必要が無く、人なら逆らえる理屈が立ちませんから」
「………都合のいいハナシだな…」
「そですね、大変都合が良くて――気楽なモンです」
「…」
都合がいいと、レオナさんには呆れられてしまった――が、残念ながらありがたいことに事実は事実で。
ただもちろん、人の賢さを以て獣の無謀さで行動を起こすイレギュラーもいるだろうが――その数はけして多くない。
なぜならそれはサバナクロー寮におけるイレギュラー――ではなく、獣人という種においてのイレギュラーだろうから。
……本当に、なんとも都合のいい体質だけれど――
「…神業のおかげで、過程は取っ払えましたけど――……間に合うかなぁ……」
「ぁあ?間に合わせるのがてめぇの仕事だろーが――…本物なら、納期は守れて当然だろ」
「…………………ぇー下請け業者がなー」
「…下のやる気を引き出すのもボスの仕事だろ」
「ぅんー……ニンジン吊るすのは好きじゃないんですけどねぇ〜……」
「………底から持ち上げる必要はねーだろ」
「…………」
「……」
「…――……ぇ、ガチクーデター??」
「…………お前…脳味噌に酸素と栄養入ってねェのか」
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