ふと、目が覚めた――オンボロ寮の、自室のベッドの上で。 ………はて、なにかがおかしいような――…いや、それとも私は遂に頑張り切ることができたんだろうか?
「(またか…?!またやってしまっ――…………いや…それこそおかしい、な)」
侵入者の夜襲だの、30日の背水パレードだの、魔力にしても気力にしても消耗が激しかったのは事実―― 「……ぅん?」 アンコールを演じ終え、淡い輝きを放ちながら空へと消えて行く ぅぅーん…??コレ、は――………もしや前回よりも……性質が悪い、…のでは? 慣れたくない――だけれど慣れてしまったヤな予感を覚えつつ、とりあえず身支度を整える。
「……」
目の前にあるのは、ダイニングキッチンへとつながる扉。
「――おはよ」 「………おは…よぅ…」
思うところありつつ、扉を開けば――…いつも埋まることのない
「コーヒー飲む?」 「ううん、紅茶淹れる」 「あー…朝は紅茶派かぁ〜」 「…ルーティーンとかってわけじゃないよ。気分と体調次第」 「……ということは?」 「…今朝はリラックスできておりマス」
――なんて、他愛ない会話をきっかけに、それぞれの、これまでと今を語る。
知らない世界にやってきて――兄さんがいなくなって 元の世界へ帰るために力を求めて――兄さんの行方を調べるために力を求めて でも「気に入らなくて」寄り道もして――でも「見過ごせなくて」寄り道もして 結果的には七団長にまで成りあがった――結果的には姫巫女の座に就いた
――それでも、
――なんて、並べてはみたけれど、私と兄さんとでは「願い」に対する思いの強さが圧倒的に違う。 兄さんの存在が幼い時分の私の心を支えていたのは本当で、 兄さんと契約していた獣神・ 兄さんならきっと何処かで――とは、思っていた。
「あ゛ー…その思考は輝さん、かぁ〜?それとも輝望さ―― 「…………間違ってる…って?」 「…いんや? 「っ…そ、れは…まぁ………」 「……まぁでもそのおかげで楽できんだから――…文句、言えんわなぁ」 「…――……楽ぅ…?」 「そーよ、
呆れと諦めを含んだ苦笑いを浮かべ、ため息混じりに「普通なら」と言う兄さんを前に 確かに、「普通」を考えれば、私は手がかからない方だった――とも思う。
「――確かに?心配はした――でも、 「……………はぁ?」 「…お兄ちゃん特有のあれでそれなのか、 「………」 「くふふ、文句があるならアイツに言って頂戴よー」
ニヤニヤと笑みを浮かべて「文句が」と言って寄越す兄さんにむかっ腹が立つ―― だってこの苛立ちはどうあっても発散できない――向けるべき相手に会うことが叶わない――
「…お前が、俺との再会を諦めてたことに思うところがない――って言ったら、それはまぁ強がり。 「……」 「確かに俺が今、
誤魔化しの自嘲を浮かべることもなく、酷く冷静な表情で兄さんは――自分も、一度は諦めたのだと告白する。
「……灰魔の… 「ん――…あの時は色々あって………どうにも――…な」
不意に自虐の笑みを浮かべて「どうにも」といつかの自身の …でも、そんな覚悟を一度は決めたからこそ、 ――まぁ、兄さんの気持ちは分かる。すんごく。
「兄さんが、自分のために決めた 「………………――ぅ゛ん…?!」 「兄さんが
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兄さんに連れられやってきたのは、
「……あれ?ユウとグリムくんは…?」
年上たちに囲まれ委縮している在校生たちの姿がある――と思いきや、
「二人――というかユウが『自分たちも生徒だから』って、後片付けに参加しに行ったよ」 「あー…………あれ?でも確か翌日の清掃活動って寮ごと、じゃなかったでしたっけ?」 「ん、だからユウたちはジェームズさんたちを手伝うんだってさ」
見当たらないユウたちの行方を教えてくれたのはシュテルさん――で、ふと障った疑問に答えてくれたのもシュテルさん。
「……ただユウのアレは生徒うんぬんっていうより――に会いたくなかったから、だと思うよ」 「……………――ほあ?!」 「…まぁ………ふとそーゆー気分になる時って、あるよ…なぁ〜〜………」 「フン、それは無思慮に認めてくる天才共が悪いんデスー」 「……ねぇそれ、俺も含まれてる?俺も含まれてるの?ねぇちょっとリュゼちゃん??」 「……はぁ?含まれてるに決まってんでしょ――…美術に関してはアンタが一番なんだから、 「ぅ……………ま、まぁ…芸術家的デザイナーな親の下で育ったから……ねぇ?」 「ぇ、ぅ、ぃ、ゃ、ぁ――ゃた、ま、た、確かにあの二人は芸術家――…よりも?!ユウが私を避けてるって…!?」 「……仮に、ユウが本当にを避けてる――なら、原因は昨日のアンコールだよ」 「ぇぇ…――………ぁ、あの…それ、が――…私、終幕後からブツリと記憶が途切れているのですが……」 「…ぁあ、それは 「……………」 「…そんなにヒドイ内容だったか――とか、ふざけたこと思ってないだろーね?」 「そ…そんなことは思ってないですよ…本気で、 「……彼女自身が歌手志望であった――…とか?」 「!!?」 「「あ」」
ふと、グレイさんが――なにか、とんでもなく恐ろしい …でも、だとしたら――
「――アホ。
グレイさんの仮説を「アホ」と一刀両断し、尤もなコトを言うのは、 平然とした様子で自身の見解を口にするフェガリさん――の
「だとしても面会拒絶はさすがに異常じゃないですか…?! 「…それは――」 「恋、だねぇ――」 「茶化すな」 「ぅ゛ふぐっ」
人が真面目に悩んでいる隣で、それこそアホウなことを言ってくれる兄――の脇腹に、とりあえず …ようやっと、壁のない関係になれたと思っていた―― 生まれ落ちた社会が違えば、受けた教育さえ違って――なにより、一人の人間として背負ってきたモノが違う。
「…恋、ねぇ――………言うほど的外れでもないと思うよ?」 「ホ?!」 「恋と憧れは似て非なるもの――だとしても、似てるのは事実だからさ?」 「ぇ…でも………そ、そんな――… 「…なまじ 「――というより、キミのファンだったんじゃないのかい?彼女」 「「「――は?」」」 「ぅん?!」
不意に私の目の前にぽとりと降ってきたのは見覚えのある真白な毛玉―― ありえない――が、既に知った
「ふぎユ!!」 「ミぃ〜ルぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜」 「あバばばば…!逝゛っ…チ゛ゃう゛〜……! 「………はぁ――…兄さんブレーク。 「…――……まぁ…不利益は…無かったと思うんだケド――オマエ、謀ってくれたよなァ?」 「っ………で、では問おうっ。 「……」
…ミルさんの、なんとも言えない …ごく個人的な
「…何故『ファン』なんて発想に至ったんです?」 「………だってアレ、キミの持ち歌だろう?」 「そうですけど………だからって 「…ぁあ。確かにそれはそう――うむ、ボクが 「……あ゛?」
今、この白モフ齧歯類はなんと言っただろうか。 記憶や感情の整理のため、心の内に秘めるナニカを発散するため――など、いくつかの役割を持つらしい夢。 なんだろうな…!コレは……!
「兄さん、ギュっとしちゃっていいよ。予定通り握りつぶしちゃってよ――景気よく」 「いーやいやいやいやいや!?そんなに怒ることかい?!ちょっとばかり夢――記憶を覗き見ただけだよ?!」 「…十二分にプライバシー侵害ですよ。獣神サマでさえその辺りの分別あるんですけどー」 「ぁー……のご立腹は…ご尤もなんだけど――…たぶん、お前の 「………――」 「あ゛ッ、ぎゅってしないで――出ちゃう出ちゃう出るモノなくて内臓出ちゃヴぅ〜…!!!」
ミルさんを掴んでいる兄さんの手を、両手で包んで力を込めれば―― 私の要望に応えるためには、私の …うん。理屈は分かるんだ。理屈は。
「…何程知られたくない 「…知られて恥ずかしい過去がないと言えば嘘になります―― 「――………ふむ、ヤっちまえ」 「…ん、コレばっかりは同意――握りつぶされても文句言えない 「いやいや待って!ホントに待って!確かにの記憶を覗いたよ?でも!記憶を覗いた――ダケ!だから!!」 「……そんな 「いやいや、夢を覗くだけなら寧ろそっちの方がベターだよ! 「………」 「ミルの言い分は尤も――…だからお兄ちゃん、お前のデビューのお話聞きたい、ナぁー?」 「………ぇ、ちょっ、まっ…なんで怒ってるの?!」
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■あとがき 色々色々ありまくりすぎたHW編が終幕して――の三章第一話のため、安定のオリキャラ回です(吐血) そして登場を渋り倒していた前団長殿(名前有で)の登場回ともなりました。(厳密にはHW編29話が初登場) またしてもしばらーくオリキャラ回が続きます。OB勢が捌けても続く――てか三章は全力で本編の大筋から外れちゃうぞ☆(脱兎) |