ふと、目が覚めた――オンボロ寮の、自室のベッドの上で。

 ………はて、なにかがおかしいような――…いや、それとも私は遂に頑張り切ることができたんだろうか?
最後の最後のまで、意識を保って――……ってアレ?だとしたら……なお、おかしい、な。
…なんで、なんで――楽しい楽しい打ち上げの記憶がすっぽ抜けてるの??

 

「(またか…?!またやってしまっ――…………いや…それこそおかしい、な)」

 

 侵入者の夜襲だの、30日の背水パレードだの、魔力にしても気力にしても消耗が激しかったのは事実――
――で、ハロウィーン特別公演が開始される直前まで疲弊していたのも事実――
――だけれど、そこは獣神・博狼ノ神ルジートのフォローによってフラットへと還り、更にアンコールを演じることによってフラットそれ以上の――………あ?

 

「……ぅん?」

 

 アンコールを演じ終え、淡い輝きを放ちながら空へと消えて行くゴーストかんきゃくたちの姿に感嘆を漏らした――
――刹那、視認が間に合わないほどの速さで跳びかかってきた人影。
目視さえ叶わなかったのだから抵抗なんてできるはずもなく、
がら空きの腹部に貰った重い一撃によって私の意識は闇へと沈んだ――
……で?目が覚めたら――…自室のベッドの上でした、って??

 ぅぅーん…??コレ、は――………もしや前回よりも……性質が悪い、…のでは?
……というか騒動ことが全部解決した――ってタイミングですら目を覚まさなかった私って……
…なんだ?気力も魔力も十全だったなら、寧ろちょっとの刺激で目が覚めるはずなのに――………あれ?なんかデジャブ………。
 

 慣れたくない――だけれど慣れてしまったヤな予感を覚えつつ、とりあえず身支度を整える。
いつかの時と同じく朝のオンボロ寮を包む空気は静かで穏やか。
…数時間前に、なにかしらのトラブルがあったとは思えない――…けれど、きっとあったはずだ。
…私の記憶が偽りまちがいでないのなら。

 

「……」

 

 目の前にあるのは、ダイニングキッチンへとつながる扉。
2週間前、その扉を開けると目に入ってきたのは――OBに囲まれて委縮したユウとグリムくんの姿。
…だけれど今回は、そもそも扉の向こうに多くの気配を感じない――けれど、まったく気配がないというわけでもなくて、

 

「――おはよ」

「………おは…よぅ…」

 

 思うところありつつ、扉を開けば――…いつも埋まることのない定位置せきに、ラフな服装の兄さんが。
…この状況に、誰かしらの意図を感じる――けれど、きっとそれは善意、なのだと思う。
だから、そんな誰かの善意を無碍にしないためにも――

 

「コーヒー飲む?」

「ううん、紅茶淹れる」

「あー…朝は紅茶派かぁ〜」

「…ルーティーンとかってわけじゃないよ。気分と体調次第」

「……ということは?」

「…今朝はリラックスできておりマス」

 

 ――なんて、他愛ない会話をきっかけに、それぞれの、これまでと今を語る。

 

 知らない世界にやってきて――兄さんがいなくなって

元の世界へ帰るために力を求めて――兄さんの行方を調べるために力を求めて

でも「気に入らなくて」寄り道もして――でも「見過ごせなくて」寄り道もして

結果的には七団長にまで成りあがった――結果的には姫巫女の座に就いた

 

――それでも、帰還ねがいには届かずにいて。

 

 ――なんて、並べてはみたけれど、私と兄さんとでは「願い」に対する思いの強さが圧倒的に違う。
…正直なところを言えば――…私は、諦めていたのだ。兄さんが家族わたしたちの元へ戻ってくることを。
 

 兄さんの存在が幼い時分の私の心を支えていたのは本当で、
残した思い出モノが故に力を求める強い原動力であったのも事実。
…だけれどある時から、私の心を支えてくれていたのは――…傍にいる仲間たち、だった。

 兄さんと契約していた獣神・金獅子ノ神ゆえが、呼びかけに応えてくれなくなった――
――それは、唯一残されていた兄さんとの繋がりを断たれたに等しいことで。
だからそれが、兄さんの帰還を諦める決定打――ではなく、私にとってはそれは免罪符と呼べる事実コトだった。
これは獣神でさえ関与できない大業、いくら望んだところで起きえはしない希蹟――
――ならば、家族の存在きかんを諦めることも非情エゴではない、と。

 兄さんならきっと何処かで――とは、思っていた。
だから供養なんてしなかったし、死亡届だって提出しなかった――でも、もう二度ととも、思っていた。
一度諦めた私に、そんな都合のいい奇跡なんて起きるはずはない――と、諦めていた。
……だからこの再会は、兄さんがずっと諦めないでいてくれたからこそ起きえた希蹟で――

 

「あ゛ー…その思考は輝さん、かぁ〜?それとも輝望さ――
……いや、あの人に限って領分は犯さんよな……――…となると後から知り合かかわった連中の影響かぁ〜?」

「…………間違ってる…って?」

「…いんや?麒麟・・としてはこの上なく真っ当だと思う――から、妹としてはものすんごく可愛げない」

「っ…そ、れは…まぁ………」

「……まぁでもそのおかげで楽できんだから――…文句、言えんわなぁ」

「…――……楽ぅ…?」

「そーよ、普通・・ならもっと世話を焼く必要があった――のに、自活どころか自衛までこなしちゃって……」

 

 呆れと諦めを含んだ苦笑いを浮かべ、ため息混じりに「普通なら」と言う兄さんを前に
「そんなことは」と言い――たくなったが、一旦口を噤んだ。

 確かに、「普通」を考えれば、私は手がかからない方だった――とも思う。
妹としての可愛げを失った――麒麟とうそつしゃとして自立していたからこそ、
ジェームズさんたちどころかダンさんたちからも認められるに至り、環境に馴染むどころか組織かんきょうの再構築までし始める始末。
周囲との和を保ちつつ、自立している――だけならば・・・・・、確かに覚える不安は少なかったと思う。
…でも、何事「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という塩梅なのだから――
…私の過ぎた行動力じりつしんには肝を冷やした、と思うのです。…私の自惚れがすぎていなければ、ね。

 

「――確かに?心配はした――でも、心配それを心地よく感じてたのも事実なの」

「……………はぁ?」

「…お兄ちゃん特有のあれでそれなのか、
それとも――…どこぞの人でなし龍の調教きょういく後遺症たまもの……なんだかね、
同位・・の無茶に振り回される分には、苦労はあっても心労はないのよ」

「………」

「くふふ、文句があるならアイツに言って頂戴よー」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべて「文句が」と言って寄越す兄さんにむかっ腹が立つ――
…が、その苛立ちを兄さんに向けるのは、ある意味でお門違いだともわかっている――から、なおさらにイラっとした。

 だってこの苛立ちはどうあっても発散できない――向けるべき相手に会うことが叶わない――
――とかいう以前の問題で、会えたところで呑み込むしかいえはしないんだから。

 

「…お前が、俺との再会を諦めてたことに思うところがない――って言ったら、それはまぁ強がり。
でも……理解もしてるんだよ――諦めて、初めて踏み出せる一歩があるってことは」

「……」

「確かに俺が今、七団長ここ就いて“い”るのは、家族おまえたちのいる世界ばしょへ帰るため――…
……だけど俺は――…覚悟したんだ、家族おまえたちを捨てることを、この世界に骨を埋めることを」

 

 誤魔化しの自嘲を浮かべることもなく、酷く冷静な表情で兄さんは――自分も、一度は諦めたのだと告白する。
――…でも、その事実に私が覚えるモノは納得――と尊敬。そして嬉しさと、少しの寂しさだった。

 

「……灰魔の…クーデターいっけん?」

「ん――…あの時は色々あって………どうにも――…な」

 

 不意に自虐の笑みを浮かべて「どうにも」といつかの自身の選択こうどうを顧みる兄さん――に、普通にイラっとする。
たぶん――と言わず、兄さんの選択によって犠牲になった命が、破綻した人生が多くあっただろう――
――でも、それまで大切にしてきたモノを捨てる覚悟ができてしまうほど、
兄さんが目にした光景せかいは気に入らないモノだった――なら、もうそれは正すしかない。
大切な家族モノ――元の世界への未練を断ったなら、なにも心配することはない。
自分の選択こうどうのツケは全て、己の身で、力で――圧倒すればいいだけの事なのだから。

 …でも、そんな覚悟を一度は決めたからこそ、
兄さんは今の選択じぶんに対して後ろめたい気持ちがあるんだろう。
捨てるはずだった未練モノにもう一度手を伸ばした自分――
――死ぬまで面倒を見てやると啖呵を切った世界を見放す不義理に。
 

 ――まぁ、兄さんの気持ちは分かる。すんごく。
だって割とつい最近まで私も似たようなことでグダグダと悩んでいたから――
――でも、もう私の中でその問題に対する答えは出た。
…厳密に、出来るか出来ないかを問われると、苦いものが上がってきて眉間にしわが寄るけれど――

 

「兄さんが、自分のために決めた選択こたえなら――それで、いいと思う。
…ただ、そのために私が自分の選択エゴを引っ込めるつもりはない――よ?」

「………………――ぅ゛ん…?!」

「兄さんがTWLここに骨を埋めるつもりでも――一度は・・・連れて帰るから」

 

 兄さんに連れられやってきたのは、幽霊劇場ファンタピアの食堂。
先代ファンタピアメンバー+αが肩を並べる中に――

 

「……あれ?ユウとグリムくんは…?」

 

 年上たちに囲まれ委縮している在校生たちの姿がある――と思いきや、
OBたちの輪の中に、そしてそこから外れた場所にも二人の姿は無くて。
想像と違った光景に思わず「あれ?」と疑問を口にすると――

 

「二人――というかユウが『自分たちも生徒だから』って、後片付けに参加しに行ったよ」

「あー…………あれ?でも確か翌日の清掃活動って寮ごと、じゃなかったでしたっけ?」

「ん、だからユウたちはジェームズさんたちを手伝うんだってさ」

 

 見当たらないユウたちの行方を教えてくれたのはシュテルさん――で、ふと障った疑問に答えてくれたのもシュテルさん。
…思えば前回もユウの隣に座っていたのはシュテルさん――で、
隣の席が空席であるところを見るに、おそらく今回もシュテルさんはユウの隣に座っていたんだろう。

 楽団員をまとめる者がくだんちょう故の面倒見の良さなのかな――なんて思いつつ、
誰でも腰が重くなるだろう後片付けに、自主的に腰を上げたユウの真面目さというのか律儀さには思わず苦笑いが漏れる。
享受できる休息は、素直に受けてもいいだろうに――と。

 

「……ただユウのアレは生徒うんぬんっていうより――に会いたくなかったから、だと思うよ」

「……………――ほあ?!」

「…まぁ………ふとそーゆー気分になる時って、あるよ…なぁ〜〜………」

「フン、それは無思慮に認めてくる天才共が悪いんデスー」

「……ねぇそれ、俺も含まれてる?俺も含まれてるの?ねぇちょっとリュゼちゃん??」

「……はぁ?含まれてるに決まってんでしょ――…美術に関してはアンタが一番なんだから、総合的・・・に」

「ぅ……………ま、まぁ…芸術家的デザイナーな親の下で育ったから……ねぇ?」

「ぇ、ぅ、ぃ、ゃ、ぁ――ゃた、ま、た、確かにあの二人は芸術家――…よりも?!ユウが私を避けてるって…!?」

「……仮に、ユウが本当にを避けてる――なら、原因は昨日のアンコールだよ」

「ぇぇ…――………ぁ、あの…それ、が――…私、終幕後からブツリと記憶が途切れているのですが……」

「…ぁあ、それは幽霊劇場ファンタピアに待機してたメンツ以外全員同じ――で、ユウがショックを受けたのはアンコールそれいぜんのコトだから」

「……………」

「…そんなにヒドイ内容だったか――とか、ふざけたこと思ってないだろーね?」

「そ…そんなことは思ってないですよ…本気で、演じやりましたから……
…ただ……だいぶとっつきやすい……現代音楽とのギャップの少ない演目モノを選んだつもりだったんですけど………」

「……彼女自身が歌手志望であった――…とか?」

「!!?」

「「あ」」

 

 ふと、グレイさんが――なにか、とんでもなく恐ろしい仮説コトを言った。
しかしその仮説にショックを受けるというのは、随分と己惚れた思考だが――…前例があったのだから、なんと言うか……。

 …でも、だとしたら――

 

「――アホ。だとしたら・・・・・、現実呑み込まないでファンタピアの運営に関わっていられるワケねーだろ。
…おそらくあれは根っからの観客――…ただ、聞き分ける感性みみがあった――ってトコだろ」

 

 グレイさんの仮説を「アホ」と一刀両断し、尤もなコトを言うのは、
彼の隣に座っている薄い蒼銀の髪を低い位置で一つにくくった男性――
――ファンタピア劇団の前団長であるフェガリ・プレヴェールさん、だった。
 

 平然とした様子で自身の見解を口にするフェガリさん――の見解ことばは、おそらく正しい。
もしも本当にユウが歌手志望であったなら、そして彼女が「現実」を呑み込めていなかったのであれば――
――…当たり前に任された裏方の仕事を、自然な笑顔で取り組めていた、という事実はおかしいのだ。

 歌手ゆめの片鱗を拾い上げられることもなく、当たり前に裏方いっぱんじんと括られた――
――なんて扱い、漠然とでも芸能の道を目指している人間なら、己が才気じふが故に平気な顔でいられるはずがない。
だけれど、平気な顔――を通り越し、ユウは笑顔で裏方仕事に精を出していた――…のだから
十中八九、彼女は観客いっぱんじんであることは間違いないだろう。

 ジャンルはたけ違えど舞台の上のこと――ステージそのうえを目指していたのなら、
その上に立てるチャンスを前にして黙ってはいられなかったはず――
――だけれど彼女がその点に関して反応こうどうを起こさなかったのは、あくまで彼女が聴者だったから――…うん。ここまでは理解る。
分かる――からこそ!ユウが私の演目アンコールにショックを受けた理由イミが尚更わからないんです………!!

 

「だとしても面会拒絶はさすがに異常じゃないですか…?!
このあたりの技能を初めて披露したわけでもないのに………!」

「…それは――」

「恋、だねぇ――」

「茶化すな」

「ぅ゛ふぐっ」

 

 人が真面目に悩んでいる隣で、それこそアホウなことを言ってくれる兄――の脇腹に、とりあえずグーを入れた。
 

 …ようやっと、壁のない関係になれたと思っていた――
…のだけれど、冷静になって考えれば私とユウの間にある齟齬とはそう簡単に埋まらなくて当然の前提コト

 生まれ落ちた社会が違えば、受けた教育さえ違って――なにより、一人の人間として背負ってきたモノが違う。
…ただ、そういう主旨の齟齬は先の一件で一応の折り合いがついたはず――
――である事も含め、今回の内容いっけんはそーゆー内容ことではないはず……――だからなおさら動機ワケがわからねーのですよ……!

 

「…恋、ねぇ――………言うほど的外れでもないと思うよ?」

「ホ?!」

「恋と憧れは似て非なるもの――だとしても、似てるのは事実だからさ?」

「ぇ…でも………そ、そんな――…今更きゅうに??」

「…なまじ現代なじみのある音楽ぶんやだった分、その『異常スゴさ』ってのをダイレクトに感じたんじゃない?」

「――というより、キミのファンだったんじゃないのかい?彼女」

「「「――は?」」」

「ぅん?!」

 

 不意に私の目の前にぽとりと降ってきたのは見覚えのある真白な毛玉――
――で、それを反射で両手で受け止めれば、毛玉がモゾと動きだし、
私の手のひらの上に姿を現したのは――現実にはあり得ない、真白なモコモコの毛を持つチンチラサイズの――リス。

 ありえない――が、既に知った姿そんざいの登場だけに、
その登場よりも彼の口にした仮説の方が色んな意味で衝撃的で、私の口から勢いよく疑問が飛び出す――その前に、

 

「ふぎユ!!」

「ミぃ〜ルぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜」

「あバばばば…!逝゛っ…チ゛ゃう゛〜……!イ゛ーヴ〜〜……!!」

「………はぁ――…兄さんブレーク。
…兄さんに、ミルさんが如何ほどの不利益を計上したのか知らないけど――…今回の、陰の功労者だよ」

「…――……まぁ…不利益は…無かったと思うんだケド――オマエ、謀ってくれたよなァ?」

「っ………で、では問おうっ。
キミは、撮影のために妹を捕まえて来いと母親に頼まれた・・・・・・・ら――断る、のかい…?!」

「……」

 

 …ミルさんの、なんとも言えない例えといに――兄さんは、苦い表情で沈黙した。

 …ごく個人的な意見コトを言えば、
そこはしっかりと大きな声で「断る!」と言って欲しかったところ――だけれど、兄さんの立場きもちというのもわかる。
家族に優先順位なんてものはない――としても、兄さんの場合は義母に対して家族の情そんけいとは別に恩というモノがある。
それを、鬱陶しがる人ではあるけれど、そんな人だからこそ、それを多くの人があの人に向けるわけで――
…って、今ウチのお母様のコトはどーでもよいのです。それよりも――

 

「…何故『ファン』なんて発想に至ったんです?」

「………だってアレ、キミの持ち歌だろう?」

「そうですけど………だからってファンデビューとイコールになるモノじゃないでしょう」

「…ぁあ。確かにそれはそう――うむ、ボクがデビューそれを知り得たのはキミの夢に潜ったから、だったねぇ」

「……あ゛?」

 

 今、この白モフ齧歯類はなんと言っただろうか。キミの夢に潜った――だと?

 記憶や感情の整理のため、心の内に秘めるナニカを発散するため――など、いくつかの役割を持つらしい夢。
確かな役割についてはまだ不明な点も多く、そもそも記憶していみられる人とそうでない人がいる――上に、
多くの場合、夢の内容とは出鱈目であることが多いという――…だから、
そんな確かではない無意識の夢想を覗かれる程度、痛くも痒くもない――ことはなかった。

 なんだろうな…!コレは……!
なんとなく、ざっくりとした感覚で言えば――
――日記を読まれたような恥ずかしさかんかく、だと思うな!コレは!!

 

「兄さん、ギュっとしちゃっていいよ。予定通り握りつぶしちゃってよ――景気よく」

「いーやいやいやいやいや!?そんなに怒ることかい?!ちょっとばかり夢――記憶を覗き見ただけだよ?!」

「…十二分にプライバシー侵害ですよ。獣神サマでさえその辺りの分別あるんですけどー」

「ぁー……のご立腹は…ご尤もなんだけど――…たぶん、お前の要望・・に応えるには必要なコトだったんだと思うぞ……」

「………――」

「あ゛ッ、ぎゅってしないで――出ちゃう出ちゃう出るモノなくて内臓出ちゃヴぅ〜…!!!」

 

 ミルさんを掴んでいる兄さんの手を、両手で包んで力を込めれば――
――ミルさんを締め上げるに至ったようで、パタパタと腕を振りながらミルさんは情けない声を上げた。

 私の要望に応えるためには、私の記憶コトを知る必要があった――…それは、きっとその通りだったと思う。
技術的な知識をいくら多く持ち合わせていても、相手が欲している知識モノ教えあたえられないのであれば――その指導役に価値はない。
そういう意味で、ミルさんは私が思い描く理想ぶたいの構図というものを、より明確に知りたかった――いや、知る必要があった、のだろう。

 …うん。理屈は分かるんだ。理屈は。
ただ、だとしても「夢を見られた」という事実もんごんが、みょーに引っかかるんですぅー?

 

「…何程知られたくない過去きおくがあんだよ…」

「…知られて恥ずかしい過去がないと言えば嘘になります――
――が!墓まで隠すしのぶ過去はありません――…が、しかし……!…墓まで忍びたい感情モノローグはあって当然だと思うんです………!」

「――………ふむ、ヤっちまえ」

「…ん、コレばっかりは同意――握りつぶされても文句言えない案件レベルだね」

「いやいや待って!ホントに待って!確かにの記憶を覗いたよ?でも!記憶を覗いた――ダケ!だから!!」

「……そんな都合のいいきようなこと、できるんです?」

「いやいや、夢を覗くだけなら寧ろそっちの方がベターだよ!
当事者の心情を覗くとなるとの中で更に術を使う大仕事――って以前に!ノイ様がそんなコト許すわけがないじゃないか…!」

「………」

「ミルの言い分は尤も――…だからお兄ちゃん、お前のデビューのお話聞きたい、ナぁー?」

「………ぇ、ちょっ、まっ…なんで怒ってるの?!」

 

■あとがき
 色々色々ありまくりすぎたHW編が終幕して――の三章第一話のため、安定のオリキャラ回です(吐血)
そして登場を渋り倒していた前団長殿(名前有で)の登場回ともなりました。(厳密にはHW編29話が初登場)
またしてもしばらーくオリキャラ回が続きます。OB勢が捌けても続く――てか三章は全力で本編の大筋から外れちゃうぞ☆(脱兎)