そういうつもりはない――けれど、癖になってしまっているのだろうか。その、気絶が。

 …いや、今回に関しては気絶ではなかったはずだ。
だって気力はまぁそれなりに保たれていたし、体力に関しても大体半分程度は保持していたはず。
精神的な部分については――…今更思い返せば、ネガティブなかんがえ方が多かったこと考えると、
疲弊してはいた――だろうけれど、あの程度でどーこーなるほどヤワじゃない。…ハズ。

 …でも事実として、兄さんの乾杯の音頭の後からの記憶が無いということは――………。

 

「……総合的な疲労の蓄積――…に、安堵と安心が突き刺さった…かなぁ……」

 

 病は気から――ではないけれど、肉体的不調を気持ちの力で抑え込むことはできる。
ただもちろん、その逆もしかり――気持ちが折れた途端に坂道を転がり落ちるように体調を崩してベッドの上…――ということもある。
…そして現状コレはそういうこと、なんだろう。たぶん。

 …ただ一応、名誉のために言っておくと、心が折れたのではなく気が抜けたのです…!
さすがにここ一週間は根性で踏ん張ってたからね…!

 

「(……まぁ…踏ん張った甲斐は、あったけど――ね)」

 

 ファンタピアの公演開始前、兄さんに同行して行った来賓ゲストへの挨拶回り――の中で紹介されたのは、
兄さんの友人であり、【夕焼けの草原】の現国王であるファレナ陛下――
――と、妻であるラフィア王妃、そして二人の息子であるチェカ王子、だった。

 レオナさんの記憶の中で見た第一王子――と、
私に感謝をの言葉を述べるファレナ陛下に、ほとんど受ける印象の差はなかった。
…だけれど、やはり一方だけの印象じょうほうというのは不確かなもので、周りが思うほど明朗活発――能天気な人物ではないようだった。

 …ただそれはおそらく――

 

「……前評判うわさの通りの…カッコイイお姉様だったなぁ……」

 

 「ありがとう」と感謝の言葉を重ねるファレナ陛下――を押しのけ、
義姉として姉貴分おさななじみとして、感謝の気持ちを私に伝えてきたのはラフィア王妃。
幼い頃からレオナさん――そしてキングスカラー兄弟を見守ってきた幼馴染ものとして、
今年の寮対抗マジフト大会は安堵――と同時に、改めて自身の不甲斐なさを痛感する内容ものだった――
――と、薄く自嘲を浮かべながらラフィア王妃は私にそう言った。

 …でも近しい間柄だからこそ、なまじ賢いからこそ――そして、彼ら・・を思う気持ちがあるからこそ、
見守ることが、ラフィア王妃の立場ポジションでは、最善手だったと思う。
そして距離置くそらすことなく、和解の日が来ることを信じて見守り続けていたからこそ――
…レオナさんは、その根っ子まで腐ることはなかったと思うのだ。

 ……知り合って一週間そこらの身で何言ってんだってハナシではあったけど。
でも、やっぱりラフィア王妃の自嘲が呑み込めなくて、思ったままを返した――
――ら、不意に愉快そうにラフィア王妃は笑って「やっぱり・・・・兄妹だね」と言われた。
 

 兄さんがレオナさんを気にかけていた――それに、違和感はなかった。元の世界かつての交友関係からいって。
…でも、レオナさんにそういう気配がなかったことには、正直疑問を覚えていた――のだけれど、どうやら放任そういう主義こと、だったらしい。
個人的に兄さんの放任それは意外――だし、その上で同類きょうだい括られしょうされたことの意図がわからなかった――
――けれど、…たぶん傍からじゃないとわからない詠地ウチ特色イロみたいなモノがあるんだろうなぁ……。

 何度も言うようだけれど、先のサバナクロー寮――
――寮対抗マジフト大会でのコトはあくまで私の個人的な「気に入らないしじょう」に因った事。
まったく全然、レオナさんのことを思って――とか、サバナクロー寮のことを思って――とか、
ましてキングスカラー兄弟の関係ことなんて、知ったこっちゃなかった。
…――でも、傍からすれば私の意図がどうであれ、レオナさんの物分かり・・・・が良くなったのは事実で、
彼ら兄弟の関係に良い風が吹いただろうことも――…たぶん、勘違いじゃない。

 自己満足でしかなかった――とはいえ、
あのデットスケジュールな一週間が、彼らだれかの笑顔に繋がったのなら――

 

「(…打ち上げおじゃんも止む無し…!)」

 

 練習と調整を何度も重ね、その結果を披露する本番も、とても愉しい催しことではある。
でも、そういった自重からほんの一時解放される打ち上げも、とても楽しいこと

 どちらか一つを選べと言われれば――ぶっちゃけ本番をとるけれど、
それはともかく打ち上げは私にとって欠かしたくないモノ――…なのだけれど、…やっぱり、自業自得…か。

 

「(…まぁたぶん兄さんかジェームズさんが対処しただろうから…
打ち上げそれ自体がおじゃんにはなってないだろうけど………)」

 

 楽しい宴の空気を、一瞬でも台無しにした――…のは、事実だろう。
打ち上げは、全団員を労う場なのに――…それを労う側がぶち壊すってホントにもぅ…!
………ハロウィンつぎこそは、ちゃんと――ベッドの上でぶっ倒れよう。
…そう、それさえできていれば――…今回だって!問題なく終わってたのにィ……!
 

 自分の詰めの甘さにギリギリと奥歯を噛みしめながら洗面所へと向かい、
気持ちを切り替えるように身支度を済ませる――が、着替えのために部屋に戻ってきても、まだモヤモヤとした感覚が残っていて。
自分の諦めの悪さ――切り替えのヘタクソ加減にイライラするが、
自室ここに留まっていてはより内側に入ってしまうと思い、とりあえずダイニングキッチンへ向かうことにした。

 

「(ハロウィン…は、まぁ…これまでを汲んでのブラッシュアップ――
…ワースさんとイレーネさんをフォローする形でいいだろうから――………プロジェクションマッピングイデアさん次作つぎ、考えてみるかぁ……)」

 

 新生ファンタピアの初公演は、歓声の中で終幕した――ので、概ね成功したと受け取っていいだろう。
当面の課題であった初公演の成功にほっと一安心――だが、それで終わりじゃない。
寧ろここからがマネージャーの腕の見せ所――であり、新生ファンタピアげきだん成功ぜひを左右する正念場だ。

 ナマらず、イキらず、絶妙な程度あんばい演目こうえん盛況せいこうの形で重ねる――
…内側にいればこそ、難しいことではあるけれど、やるしかないのだからやり切るしかない。
 

 難題に頭を悩ませたり、ついイラっとして自分の首を絞めたりすることもあるけれど、
それでも、私はこの世界での生活を楽しいと、前向きに受け入れている。
…兄さんの影響そんざいが、なにより大きいけれど――
…本当に、この環境せかいは私にとって居心地がよかった。仕事上にしても、プライベートにしても。

 ――…でも、それでも――私には、帰りたいばしょがある。
…そして、何があっても、確かめなくてはならないことが――私には、あった。

 

「……」

 

 胸の奥から湧く強い感情ちから――を、理性で心の底へと圧し戻しながら、廊下とダイニングキッチンを繋ぐドアを開く。
それはファンタピアを運営するうごかす原動力であり、時に抑止力とも成り得るこの感情ちから
明らかな矛盾を抱えているだけに、その扱いには、付き合い方・・・・・には注意していく必要がある――…が?

 

「おはよ〜」

 

 …ドアを開いた先――部屋のほぼ中央に陣取っているダイニングテーブルにわちゃと顔を揃えているのは、
見覚えはあってもそこに居ることが違和感でしかない――シュテルさん“OB”たち。
そして彼らに囲まれる在校生の居心地の悪そうな――というかユウさん、なんか海賊に捕まった町娘みたいだなぁ…。

 …兄さんがいるのはわかる――というか正直それは当然なのだけれど、何故、シュテルさんたちまでがここに居られるのか。
今日あしたのために残ってもらう、ファンタピアに宿泊するのは決まっていたこと――だからこそ?
幽霊劇場ファンタピア食堂ほうにいるはずなのでは――………って待て。ちょいと一旦、自分の私服かっこう、思い出してみようか??

 

「―――」

 

 とりあえず、一度ドアを閉める。
挨拶されたにもかかわらず、それに応えることなく退室するのは失礼ではあるけれど――
…だとしても、こんな気の緩み倒した私服かっこうOBかれらの前に立つなんて――耐えられないの!
一周回って気が休まらないんです!!

 …故、服装を寮制服に改めまして――

 

「失礼しました――からの改めて失礼致しますのおはようございまーす!!

「……妹よ〜落ち着けー」

 

「ホーント、あんななめた真似してくれといて今更身だしなみがどーこーってねぇ?」

「…………シュテル…わざわざ言うな…」

「…しかしあそこまで算段しているとはな……やっぱりキョーダイ、か?」

「くふふ〜やーねぇ〜人聞き悪いわねぇ〜。お兄ちゃんはそこまで――てか全然計算高くないわよーゥ?」

「……ならピザ窯“あ”のとき作った計画書は何だ?」

「ぁあー…確かにアレ…おそろしいくらい綿密でしたよねぇ…」

「ああ〜アレ?アレはカバちゃんが凄かったのよ――パターンを減らすつもりが逆に増えるという♪」

「…………待て、あのカバリエが協力しただと?…あの神経質が、騒音けんきするものもとの設置に?」

「うん。デリバリーするって言ったら秒で快諾♪」

「……………貴様……ポムフィオーレ寮がジャンクフード“ピザ”の類の持ち込みは一切禁止だと――知っていた、はずだなァ…!」

「……今の今までバレてなかったんだから無問題セーフだしょ〜。それに学生時代の話なんだからもう時効で――ぐびょ?!」

学生時代がだからなんだ」

「ッ…!ッ…ッッ……!!」

「……………クル先輩の毒薬生成のスキル磨いたの、間違いなくレイヴ先輩だよね」

「確かに、ねぇ〜」

「……認めるのは癪だが、お前たちの指摘通りだろうな――
…ただ、コイツが無様に俺の毒を喰らうのは、コイツの都合だぞ?」

「……へぇ?」

「…ぅーわ、そんなところまで兄妹揃って――なんだねぇ?」

「「………」」

 

 シュテルさんの指摘に、なんとも複雑などうしようもない気持ちが沸き上がって――
…思わず、そもそも兄さんに向いていない顔を更に兄さんがいる方向から逸らしてしまった。

 …自分のこの傾向を悪いものだとは思っていないし、他人のそれことに関しても同様――
…だけれど、11年も離れて育った義兄妹が揃いも揃って――…という事実になんとも言い難い複雑なモノがあって…。
………いや、まぁ……二人揃って夕映に気に入られた時点で、近い気質モノがそもそもあったとは思うけど――…
………でも、この場合多分――…兄さんの方が、オカシイ、な?

 ふと湧いた疑問に顔の向きを一転させ、じぃっと兄さんを見る――と、
私の視線に気づいたらしい兄さんがこちらに顔を向け、一瞬きょとんとした表情を見せた――
――けれど、その次の瞬間には思い出したかのように「ぅぐ」と呻いて顔を下げる。
…そしてそれから少し間を開けて顔を上げると、どこかバツの悪そうな苦笑いを浮かべた――…と思ったら、
「ちょ、ごめ」と断って兄さんは部屋を出ていってしまった。
…いや、まぁ、キッチンを考えればそれは仕方ないとうぜんの判断だとは思うけど……ねぇ…。
 

 …正直、兄さんの苦笑いはんのうに、釈然としないものはある――
…けれど、その追及は他人おおぜいのいる場ですることではない――し、毒を喰らった兄さんを追いかけてまでする話でもない。
だからここは「仕方ない」と呑み込んで、あとで話を聞くことにする。…一応、午前中いっぱいは有給取ってここにいるって話だし…。

 

「――…にしても、本当に妹が出てくるとはね」

「………本当に・・・?」

「…事ある毎に言ってたんだよ、『ウチの可愛い弟妹に会いたいー』って。……まぁ、それが原因・・とは思ってないけどさ」

「…そーゆー意味ではユウはトンだとばっちりだよねぇ」

「へ、ぁ――そっ、そんなことは…?!」

「え〜だってが居なかったら訳の分からない世界で、とりあえず学生だけやっていればよかったのにさー。
が勝手に行動起こしたせいで劇場運営なんて面倒なコトに巻き込まれちゃって――…いい迷惑でしょ、普通に考えたら」

 

 薄らと愉しげな笑みをニヨニヨと浮かべて、シュテルさんはユウさんに迷惑どうちょうを促す。
…なにを意図してシュテルさんはユウさんにそんな話題を振ったのかはわからない――
――が、シュテルさんの指摘自体は尤もと言えば尤もだ。

 ただでさえワケの分からない世界で、知った顔一つない環境。
挙句、モンスターとゴーストに囲まれて生活しなければならない上――に、更にワケのわからない業界せかいに巻き込まれて……。
…確かに、私が居なければ、ユウさんはもうだいぶ波風のない生活がおくれていた――と、私も思う。

 …ただ、シャンデリアの件とトラッポラくんの件と、マジフト大会の件については――
…ことが大きくならなかっただけで、「起きた・・・」という事実に違いはなかった――…とも、正直思う。
でもどの件についてもユウさん人格とうにんに問題があったわけじゃなかった――
単に周りが起こした面倒事に綺麗に巻き込まれている――…という展開じじつを考えると、
ユウさんの身に起きるトラブルそれはおそらく俗に言うところの星の下・・・――…だとすれば、なんであれで、しようがなかった気がする…なぁー……。

 

「………確かに、…迷惑は……してます――…平然と無茶するし…!無茶の上、倒れるし…!!」

「「………」」

 

 葛藤の中で絞り出されたユウさんの言葉が胸を締め付ける――
…上に、シュテルさんとリュゼさんの非難と呆れの視線がにじりと重い。
…しかし、そんな心苦しさかんかくを覚えるからこそ私に返せる言葉――反論の余地などないわけで。
責められる要素しかない立場にある私では、ユウさんの不満・・を大人しく受け止めるしかなかった。

 

「…でも、…なにも手伝えてない私にそんなことを言う資格はない――…っていう以前に、
私がさんを心配すること自体オカシイっていうか…!おこがましい話なんですけど……!」

「「「……………」」」

「…………そちらお三方、その不満・・には身に覚えがないので引っ込めていただけますか…!」

 

 ユウさんの葛藤ほんねに、同調ふまんの色を濃くしたのは――なぜかのOB三名。
…ただ、彼らの不満の根源そこというのには、なんとなし想像はついている。
これまでの会話の中で彼らが「先輩」という単語を口にする回数が多かった――…事を考えると、
ユウさんの立場から成る葛藤ふまんは、彼らにとって共感を覚えるモノ――
――だからこそ、我が事のようにその原因に対して非難の視線を向けられるのだろう。

 …うん、わかる。わかる――のですけれどね?
だとしても、あなた方が私にそれを向けるのは――お門違いなんです?
だから、それは向けるべき相手に向けていただきたい――
…私も、ぶつけられるべき存在ヒトからの「不満」を、ちゃんと受けますので。

 

「…ユウさん」

「っ…」

「…ユウさんの不満は、尤もだと思います――…自分の身勝手さは、わかっているつもりなので…」

「っ…でも、もしさんが動いてくれなかったら――
…私は、NRCここにいられなかった――以前に…生きてもいないかも…しれなくて……っ」

「…それ、は――………って以前に、それも私の勝手の内で――」

「――なら、その勝手・・の責任は取らないと――ねぇ?」

「……は?」

 

 突如として、私とユウさんの事情はなしに割り込んできたのは――…なんか、若干顔の青い兄さん。

 若人を見守るわらう先達の余裕を顔に浮かべている――
――が、その顔が青いものだから色々と説得力がない――以上の弊害で、反感すら覚えるところ。
……とはいえ、兄さんが言っていること自体に、間違いはない――というか、その理屈いいぶんは正しかった。

 

「傍に置く――なのか、傍にいる――なのかは知らんけど、ユウくんを身内ウチと括ったのはお前だろ・・・・
…――なら、もちっと頼っても問題ない・・・・んじゃあ、ないのかねぇ?」

「………」

 

 …どうしてか、兄さんの「理屈」に青筋が浮かぶ。
わかっている。兄さんの言っていることは正しい――
――というか、そう映っみえているのなら、それは喜ぶべきところだ。…その欠落を、明らかに自覚しているだけに。

 そう、そう――…なのだけれど、だとしても、やはり納得できない――
…というか申し訳ない、感覚きもちがあるわけで………。
幸か不幸か、その辺りを姐さんとうにんはそこまで気にしていないようだけれど――…
……その寛容やさしさに、甘えてばかりというのもど――

 

「ォお嬢ォオオオオオ〜〜〜〜〜!!!!」

「――デジャヴヒがふ?!」

 

 ……二度あることは三度あるって?

 

■あとがき
 そんなワケで始まりましたハロウィーン編でごいます。
いつものことと、言えばいつもの事ですが、初っ端から版権キャラ不在のオリジ展開です(吐血)
そして、こーんな感じがしば――――らく、続くヨっ(脱兎)