『私も、彼らの活動を楽しみにしているんですよ――NRCに限らず、賢者の島の活性化にも繋がりますので』

『――ということは!一週間後のハロウィーンウィークでは彼らも参加を…!?』

『ええそれはもちろんでしょう。なんと言ってもハロウィーンはゴーストかれらが主役の日――ですからね』

『――ということは…!あの傑作と名高いハロウィーンパレードが、ついにNRCで見られる日が来る…と!』

『ぇ、あの、それは――』

『リゴスミィのパレードも毎年大人気ですが――やはり!ファンタピアにとってNRCでのパレードは特別なんですねぇ!』

『きっと配信映像を見ていたかつての若者ファンたちが、こぞってパレードを見ようと詰めかけるでしょうね…!』

『いや〜クロウリー学園長!今年のハロウィーンウィークはいつもより増して賑わいそうですね!』

『――――ぇえ!ええ!そうですね!
ぇえきっと今年のハロウィーンはいつも以上に賑わうことでしょう!いや〜私も今から楽しみで仕方ありませんねぇ〜〜』

 

『――NRC開校当初から行われており、地域住民から観光客にまで広く親しまれているハロウィーンウィーク。
その中で10年前、幽霊劇場ファンタピアによって催されたのがハロウィーンパレード。
これは後に社会現象にまでなったファンタピアブームのきっかけと言われており――』

 

「…」

「「……」」

「……………」

「「…〜……」」

「…――………………」

 

 しんと静まり返ったダイニング――の沈黙が、頭痛と胃痛を覚えるくらい、重痛い。

 …目にした映像げんじつが、物凄く盛大なドッキリであったならいいのに――…なんて思うけれど、
こんなドッキリ、誰に仕掛けたところで、誰の利にもならないのだから――………最悪の事態げんじつでしかないワな…!

 ハロウィーン当日までには、今日を含めてあと二週間ある――
…が、件の「ファンタピアのハロウィーンパレード」は、NRCの伝統行事であるハロウィーン期間中、毎日行われていたという。
――ということは、本番まであと一週間しかない――のである。
ノー準備どころか、ノー計画プランという状態で。………さすがにね、…無理だわよ!!

 

「…………この場合……ファンタピアウチの被害って…如何ほど、でしょうか……ね…」

「…………まず、場の雰囲気でテキトーなこと言った学園長。
それと、直接確認も取らずに報道した報道メディア各所――と、明らかにコッチが被害者だけど、ね――…
……間違いなく、文句の矛先は6割方ファンタピア――…最悪、風評被害であることない事呟かれて――」

「……リゴスミィうちにも影響出るかも…な……。…このネットの熱狂ぶりからいって………」

「……一応報告しくと………昨日の夜中からサイトへのアクセスが伸びてて――…ニュース中さっき、一回サーバー落ちた……」

「「「…………」」」

 

 周りに所見を求めたところ、まったく全然、明るい情報は得られなかった――
――どころか、得られたのはあまりの状況の悪さに意識が薄れるレベルの所見――どころではないただの現実じじつだった。

 …これまでに、ここまでの絶望――…というのか、手詰まり感、というのを、私は感じたことがなかった。
兄さんが失踪した時でさえ、いつかきっと――と希望を持てたのに。
異世界に落ちて、双子の半身おとうとの安否が確かめられない今でさえ、あの子なら大丈夫――と思えたのに。
…今、この現状に――…一切の、希望が持てなかった。
…だって、なにをどー考えたところで足りないんですよ。時間が。とにかく――圧倒的に…!!
いくら人手を増やしたところで、たったの一週間じゃあ――…さすがのさすがに………パレードなんてムリですゥ……!!
 

 フロートに、衣装に、楽曲を用意して、
演奏なり、ダンスなりの練習も修めて――からの、行進パレードとしての練習に、演出やらの調整――
――これらすべてを一週間で済ませ、先代のクオリティに匹敵するレベルにまでもっていくなんて………
…――……ぁ、いや、よくよく考えたら端から「匹敵」は高望みが過ぎた。
そもそも先代と今代では演者の「質」が別物・・――という以前に、そもそも劇団としてのコンセプトからしてきが違うし。

 …………いや、だからって無理ってことに変わりはないのですよ?
作品パレードを完成させるだけ・・でも。なーにせ根本の問題は――時間がねェ!だからねぇ…。

 

「――

「ん?」

「なにがあれば、できる・・・?」

 

 …兄さんが、おかしなことを訊いてきた――見覚えのない、真剣な表情カオで。

 …なにか、頭の冷えるような感覚が、瞬間奔ったけれど――
――それを無視して私の口は「時間」と、今一番欲しいモノ――パレードの成立・・に必要不可欠なモノを告げていた。

 

「…必要なのはそれだけか?」

「…………ファンタピア団員全員の同意と、OBかんけい各位の協力」

「ん――ヘル、区長組の総力結集して全員から同意とってこい」

「りょ」

「リュゼ、リゴスミィ戻ってフーさんたちに現状の説明――と、応援の要請、頼まれてちょうだい」

「…ハイハイ、リゴスミィウチも他人事じゃあないですからねぇー」

「ん、ご協力感謝――で、シュテルとジョナサンは――」

「同意を確認次第公演・・の最終調整――でしょ。そのために残ったんだから言われなくたってやるよ」

「…右に同じく」

「うんうん協力的で大変感謝――んで衣装部の確認ほう、頼まれてくれるかデイヴィス」

「……――………学園長が頭を下げたら――な」

「――おーしっ、リョーカイリョーカイ♪ほいじゃグレイ、直談判付き合ってくれな」

「……おう」

「じゃあ事前さきに商会に連絡して現状確認してちょうだい――………で、
…………――ミル、ニュース見たか?………そう、ご想像の通りだから顔貸して頂戴――
…あ?……激おこに決まってんでしょ――…っとにまぁ余計な面倒増やしやがってあの阿呆烏――………。
…まぁ、それはともかく俺の時間が惜しいからさっさとコッチ来い――で、お次はヴォルスの兄さんとパーシヴァルなんだが――」

「…兄さん、ちょっと待った・・・

「…なに?」

「……できるうごいた根拠は?」

「…俺たち・・・にはできなかったが、劇場の術式を完璧に整備したお前ならできる・・・と確信している」

「……」

「…おいレーイチ、まさか…賢者の森に……?」

「ん、賢者の島が『賢者』の名を冠す由来――大賢者・ルーファスの庵がある賢者の森までウチの妹を連れてって欲しいのですよ。
…んで、できれば・・・・持ち帰ってくる資料の精査も、手伝ったげてください――で、パーシヴァルは――」

「…精霊対策、か?」

「そゆこと――…たぶんがいる時点で精霊たちが攻撃的になるよーなことはないとは思うんだが――…
……ホラ…精霊って…時々無邪気が過ぎて危ないときが…あるじゃない…?」

「……――…ぁあ…なるほど、な――…心しておくよ」

「ん、よろしく頼むわ――で、兄さんもOK?」

「……いいのか?」

「それを決めるのは向こう・・・判断しごと――つっても、の家庭教師引き受けてたら是非無いケド」

「……………――…わかった。彼女の指導役は、俺が責任をもって引き受ける」

「ん、よろおねです――で、
最後にジェームズ――と、ユウくんとグリちゃんはここに残って情報じょうきょう整理と伝達要員。必要に応じて他所のフォローもお願いね」

「…わかりました」

「は、はい…!」

「…………おぅ…なんだゾ…」

「ん――で、これでいかがか吾が妹マネージャー?」

 

 ニヤと不敵な笑みを浮かべ問う兄さんを前に、
無意識で顔に張り付いていたのは――…水面下に静かな憤りを湛えた無表情。

 …言うまでもなく、コレは兄さんに対する八つ当たり――真に怒りを向けるべきは、
無責任にテキトーなことを口走ったクロウリーさんと、事実確認もせずにテキトーを報道したメディアと――
…絶望的な状況を前にしても、女々しくも「計画」を手放せなかった自分――…なんですけど、ねぇ……。

 

「ここまで協力を取り付けおぜんだてされたんですから――成功・・、させますとも」

「ククっ…さっすが吾が妹。カオスにど頭から突っ込むねェ――でもまぁそうでなくっちゃな、俺の下に就く以上は――なぁ?」

「………………………ァ゛ア…??

「…こっわ!」

 

 ……姐さんには悪いけれど、私に、八双に収まるそーゆーつもりはねェのです。

 

 NRCは、ツイステッドワンダーランドにおいて辺境と呼ばれる【賢者の島】という孤島の上に存在している。
賢者の島と呼ばれるこの島は、かつては【隠者の島】と呼ばれていたが、
NRC及び、それに比肩する歴史と実績を兼ね備える魔法士養成学校・ロイヤルソードアカデミーを擁するようになったあたりで、
大賢者が庵を構えていることにちなんで「賢者の島」と名称が改められたのだという。
…ただ結局、この島が冠す呼称は一貫して、一度は歴史から名を消し、そして歴史にまた名を残した、一人の人物だいけんじゃにちなんでいる――のだそうな。

 ――で、その大賢者というのが、百数十年前に起きた超魔法災害からの復興に尽力した【三献人】の一人であり、
最上位の魔法士ともいえる「賢者」の組織である【賢者の塔】の永久顧問にして、叡智の象徴たる賢梟ノ神じゅうしんの神子でもあったという――

 

「(……八双は……ほぼまったく、接点が――ないんだよねぇ…………)」

 

 賢者・ルーファスが、賢者と呼ばれるまでの逸材そんざいとなりえたのは、
獣神が見初めるだけの才能ポテンシャルがあったから――だけではなく、おそらく契約を結んだ獣神の存在があってのこと、だろう。
…でなければ、ただの人間が400年も500年も生きられる――…はずがないと思うんです??
…いや、正直獣神の力があったにしてもただの人間が400年も500年も生きていたなんてホントに信じられないんだけど………。

 獣神と呼ばれる存在かみは、本当の本当に様々――というか、それぞれ、だ。色んな事が。
所謂ところの「権能」と呼ばれるものも、個々で対象から出力までバラバラで、そしてそのパーソナルというモノもまぁ千差万別――
…で、人間ヒトに対する持論も、またそれぞれ――…なのだけれど、
大体の傾向として獣神たちは「命を長らえる」という奇跡コトだけは、自重する傾向にはあった。
……ただそれは、上司が自重しているんだから部下がやっていい道理がないよな――という暗黙のルール的自主抑制が大きいんだけど……。

 

「(…四皇の影響が及ばない分、自由にやってるってことなのか――……………なら、なんで賢梟ノ神はルーファス様を手放した?)」

 

 人間ヒトの身で、400年も500年も生きた神子けんじゃルーファス――
――だが、その存在・・の消失は限界てんじゅでもなければ、事故でも災害でも殺害じけんでもなく――失踪、だという。
……ただ、三献人の三人が三人、同時期にその消息を絶った――…ということを考えると…………。

 

「…………リリアさんなら――…なにか、知ってますかねぇー……」

「…おそらくは、な」

 

 元の世界わたしの常識が通用しない魔法ファンタジーの世界――においても、400年500年という歳月はさすがに大台で。
そこまでの月日を重ねた存在というのは、TWLを推してもそう多くない――
――のだけれど、なんの偶然かNRCには自他称500歳オーバーだという生徒がいた。生徒が。

 …正直、生徒が、500歳オーバーとか、
要素たんごを並べただけでも違和感しかないんだけど――500歳それでも生徒そうだというのだから、事実そうなんだろう。

 

「……ただ、あの方が素直に多くを語ってくれるとは……正直、思えないがな…」

「………」

「…あれでいて、教育者の気がある方でな――
…歴史書やらに書かれていることは、聞かれたまま答えてはくれないんだ」

「…………逆に言えば、歴史書やらに書かれていないことは聞かれたまま答えてくれる、と?」

「…そこは気分次第だな…」

「それ一番難題では?!」

 

 調べればわかることは、聞いても教えくれない――のは、合点も行くし、逆に考えれば質問ないようの精査は簡単だ。
――だけれど、あのリリアさんの気分を見極めて、場を用意し、気分くうきを整えた上で、
絶妙なタイミングを見計らって質問をしなくてはならないないんて――…トライ&エラー必須案件、持久戦確定ですよっ。

 ――…とはいえ「この件」は、最重要課題の達成に必要な情報源となる可能性がある――
――ものの、現在私が直面している問題かだいの達成には、おそらくほぼ関係ない。
仮にリリアさんがルーファス様と面識があったとして――も、リリアさんがルーファス様と知識を共有していたとは、正直考え難かった。
性格こじん的な話はともかく、隠者と近衛兵じゃあ分野的にも立場的にも水と油だったと思うんだよねぇ……。

 

「…あと、身近な500歳オーバーというと――…ダンさん、ですねぇ…」

「……それも、似たような手順モノだと思うが………」

「……というか、ダンさんが持ってる情報は、既に兄さんが知ってますよね…」

「…だがレーイチと君では適性かんせいが違うだろう?レーイチでは気付けなかったコトが、君なら気付けるんじゃないか?」

「………なる…ほど……その可能性は確かに…」

「…だが、一人でアルバーンと接触するのは避けた方がいい――…今更、反逆へんなきを起こすことはないと思うが……」

「それは――…九割方、心配無用だと思いますよ?
神子はゴーストの天敵ですし――……それ以前に…姐さんが後れを取る道理ワケがないので………」

「……ぁあ……なる、ほど………それは、確かに――…………白獅子ノ神に対する不敬を、お許しいただきたい……」

「…先の一件、我が神子のワガママきたいに全力を以て応えた誠意に敬意を称し許す――…だそうです…」

「…寛大な裁量に感謝します――…………しかしノイ様も…今更ながら大胆な選択をされたというか……」

「傍で現状を見てきたからこそ、ノイ様もレーイチを手放せたんだと思いますよ――
人間ヒトには危険な仕事げんばですが、…神子アイツには仕事やく不足でしょうから…」

「……………紅の師団長アロガンス仕事やく不足は、灰魔関係者としては認め難いところだが……
…――それはそれとして、レーイチの優先順位が低くなるのは――…致し方ない、な…」

「……ぅん?」

「…おそらく、神子おまえには影響かんけいないハナシ――だが、賢者の森は別名・帰らずの森。
警告・・を無視して足を踏み入れ、行方知れずとなる人間は後を絶たず――」

「っ、ちょ、ま゛っ…?!な、なんでそんな物騒なハナシに?!」

「……精霊とは、妖精以上に無邪気――故に無情。
そしてこの島の精霊は賢者・ルーファスに所縁のある関係で気位が高く、人の常識が通用しない――
――精霊かれらのルールを侵した時点で問答無用アウト、なのさ」

「…………ただ、この件に関しては行方不明者を出している事実と、
大々的な警告を無視して軽率に森へ踏み入る観光客が……なによりそもそも悪いんだが………」

「…しかしその代償が命のというが…いささか、なぁー……」

「………」

 

 オンボロ寮から出立し、賢者の森へ向かう――シヴァの背の上。
そこから見下ろす先に広がっているのは、木々が鬱蒼と茂る広大な森――のやや手前には、ぽかりと開けた空間があった。

 ポカリと空いたその空白は、人工物かなあみだろうフェンスによって森と分け隔たれており、
そのフェンスの前面には黄色、赤、黒の三色で構成された看板がドデンと設置されていて――
…ざっと500mはあるだろう現地点からでも「off limitsたちいりきんし!」の文字が確認できていた。

 ……うん。これはちょっと――…どころでなく軽率な人間かんこうきゃくが悪いな。コレはさすがに。

 

■あとがき
 山のようなオリジナル要素でこんにちはでございます。
なんというか、偶然って重なるもんでねぇー……っていう感じでした。
設定と設定が噛み合ったらあとはもう勝手に侵食していくから――(楽だけど)困ったもんですぅー(目逸らし)