「なる、ほど……」
オンボロ寮の談話室のテーブルの上に並べられた資料を確かめながら納得する――と同時に、自分の視野の狭さに奥歯を噛んだ。
「オレたちのは最終日の夜に一回だけ――で、
そう言って苦笑いするのはハーツラビュルの寮服を着た――ダイヤモンドさん。 ユウさんの退室した談話室で一人ぼーっとしていたところ、ノランさんに伴われてオンボロ寮にやってきたダイヤモンドさん。 ダイヤモンドさん曰く、そもそものそもそもは、NRCにパレードというイベントはなかった―― そして現在では、寮の区別なく運営委員を中心にフロートを制作し、
「ハロウィーンウィークの目玉はスタンプラリーだし、最終日のメインイベントはパーティーだし、 「…というより、
ダイヤモンドさんのスマホの画面に表示されているのは、装飾の一切がされていない――が ハロウィーンウィークのパレードは、フィナーレを盛り上げる一つのイベント―― 故に、
「…一番手っ取り早いのは、このフロートごとウチにパレードを任せてもらう――ってハナシですけど………」 「そだねー…オレもそう思うし、他の委員のみんなも賛成してくれると思うけど………」
一度手掛けた「モノ」を他人に譲る――その、何とも言えない不満感は、 母親の職業柄、トップモデルと呼ばれる逸材たちの仕事との向き合い方――ストイックさ、もとい頑固という名の我の強さは頭痛がするほど知っている。
「 「ヴィルくんの優先順位がナニかってハナシだよね〜…」 「…結果を考えれば優先すべきモノは決まっていますが……」 「…でも、若き芸術家がそれでは
ノランさんが尤もな 既存の
「…理屈と数の力で押しきれないこともないでしょうけど―― 「…それはさすがに考えすぎじゃない?ソレはヴィルくんにとっても悪手だと思うよ――結果を出されたらなおさらね」 「それは…そう、なんですが…………遺恨が破滅フラグになる 「ぇーあー…ぅうーん…??」
だいぶ極端な私の例えに、ダイヤモンドさんは困惑の色を含んだ苦笑いで首をかしげる―― …ただ、現時点でトップモデルにまで上り詰めているシェーンハイトさんが、
「――よし。ここは 「…ん?原因??」 「…ええ。ダイヤモンドさんはお口が固そうなので暴露しますが――我々も、パレードのことは今朝知ったばかりなんですよ」 「――――」
私の暴露に、色の悪い顔で引きつった笑みを浮かべるダイヤモンドさん――は、一体なにを「間違えた」と思ったのだろうか。
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不意に、ぱちりと目が覚める――…が、まったく全然意識はスッキリしていない。 目覚めを自覚しても、現実を認識できていない――そんな、
「前団長――もとい、リゴスィミの団長が尋ねてきま――」 「――――……ほあ??!」
――寝耳に水を通り越し、寝耳に爆弾レベルの …コレ、物凄く心臓に悪いので、どーにかこの寝ぼけが長引くという癖(?)を改善したい――と、毎度思っているのだけれど、
「な、え、どっ――ッ、で彼の方はっ?」 「……わざわざ起こしてまでする話も無い、と既に帰りました」 「っ――………………ぅ、ぁー〜………」
ソファの横にぷかと浮かぶジェームズさんから告げられる何とも言えない顛末に、言葉になっていない呻き声だけが漏れ出る。
「… 「…それ……は、なんとなく、わかってるんです…けど………」 「?」 「…………個人的に、…拒絶されるのが――………困る、というのか………」 「、――? ……こま、る??」
…ジェームズさんが、とても不思議そうに復唱する――「困る」と。 ――でも、それはあくまでファンタピアの運営――
「…――……リスペクトしている人物に近づける可能性が失われるのは……困る、んです――…私事ですが…」 「………」
包み隠さず、「困る」という発言の真意を語った――のだけれど、 憧れは理解に最も遠い――のはいいけれど、 …ただ、優先順位は弁えている――から、
「個人的な接点を失ったところでマネージャー…いえ、 「…そう思うまでの逸材、ですか」 「………………そう、でしょう??」
思ってもみないジェームズさんの反応に、思わずこっちが驚き余って首をかしげてしまう。
「…確かにアレの才能は誰よりも抜きんでていました――が、あの記録用映像でその程度を計ることができたものか――と…」 「ぁ…あー………確かに 「機械が記録した 「…いえ、寧ろ酷薄に事実だけを映し出すから浮き彫りになるんですよ――秘められていない才能は」
機械によって記録された映像では、その場の熱気や、そこに居る人たちの心の機微までを記録することはできない――ことはない。 足りない迫力はカメラワークで補って、ズレた動きは編集でつないで、ちぐはぐな声はコンソールで整えて――と、
「嫌な話ですが、あそこまでの才能を持った 「…… 「ええ。だから
共に育ち、研鑽を積んできた弟―― でも、だからこそ、刺激が少ないというのもまた事実ではあって…。
「らしくない――…ようで、 「………あくまで私事なので『あわよくば』、くらいの気持ちでいる――…んですけど…
私にとっての最優先はファンタピアの成功――もとい、元の世界へ帰還すること。 まったく関係のない分野――これが趣味の枠内での
「…いっそ、拒絶でもしてくれれば一介のファン――と割り切れるんですけど……」 「…それは――…短絡的、ではありませんか」 「へ?」 「お嬢様の結論は、相手の気持ちを勘定に入れているようには思えません――その欲を抱えているのが、何故あなただけだと言い切れる?」 「それ、は…………いや、でもっ、違うんですよ…!たぶん、 「…べつ…?」 「あー…仮に、表現者として認める部分があったとしても、それを抑え潰せる経営者の無情さが――…認め難い、と思うんです…。
芸術とは、人間が
「…ジェームズさん」 「…はい?」 「 「…ええ、収益は。一応、学園に客寄せの経費を請求するので赤字にはなりませんが」 「定額?」 「ええ、これまでは――ただ今回は、色々含めて迷惑料を厳密に請求するつもりです」 「…………」 「…それと、オーナーの指示でクラウドファンディングの準備を進めています」 「!!」
なん、だとっ…?!
「ヘンルーダを責任者に、経験者の意見を貰いつつ準備を進めていますが――…どう、しますか?」 「……経験者っていうのは…パーシヴァルさん、ですか」 「はい。活動資金の調達に利用している――のだとか」
クラウドファンディング――それは、私にとって寝耳に水の手段だった。
「ぅフ…ふ…!フく…!くフフフフフフ……!!」 「……」 「資金の余裕は心の余裕――そして、心の余裕は 「………」 「…………、……みなさんを潰さない程度は弁えてますよ!」 「……それ 「ぅ゛おっ」
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■あとがき 賢い人は生き難いモノ――とはいえ、色んな意味で素直に生きられないからこその 「難さ」なので、極論を言えば自分で自分の首絞めてる構図なんですよねぇ……(苦笑) |