時間がない――その現実が何よりなのかもしれないけれど、 そして私のイメージするゴーストサーカスの原点であり、 ――こうしてパレードの 変な話、デザインや演出を考える時間というのには、 ――ただ実際のところ、美術打ち合わせは意見が割れるなど、もめて滞るようなことは起きていなかった。 先代が個性的かつ豪華な印象のパレードだった――のだから、 しかし、何とかして先代の
「ここは、もう少しペアを意識しましょうか」 「え〜ココはもちィーっとハデさで押して行った方がーよくな〜いー?」 「…無暗にハデさを押すと後が辛いワよー」 「…んーア〜……確かにそれはせいろ〜ん……んじゃー、マネージャーの意見でりょうかーい」
ゴシック様式の装飾によってホラーの雰囲気を纏ったフロート――の前、 差し迫ったタイムリミットがある部分にこだわって、精神的余裕を手放すのはナンセンス――という 時間を引き延ばせる特殊な空間を保有している上に、肉体疲労という物理的な ――ただそれでも、何事においても限界というものはある。 先代の力を借りなくては成功を掴むことができない――この判断は、新代団員たちの信頼を、期待を裏切る行動だ。 華麗だが過美ではない衣装を纏った顔のない人形たちが、 彼らの動きを見ていると、どうにもこの間は不要に思えてしまう――
「………浮く……」 「文字通りだわね」 「…イレーネさん…冗談言ってる場合じゃないですってば…」
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私一人で練り上げた構想を、イレーネさんとマキャビーさんと共に精査して、 そしてそんな中、私は何をしているかと言えば――
「……………」
――顔のない人の等身大の パフォーマーの ファンタピア時代からの恒例行事――として、 昼公演と夜公演があり、リゴスィミ劇団にとっても丸一日をかけての大仕事――なのだから、 新代の団員たちをパレードのキャストとして起用できない理由は、 寮及び生徒たちの生活を管理する通常業務――に加えて、 リゴスィミにしても、ファンタピアにしても、それぞれにそれぞれの人手を割けない事情がある―― 元々、尋常ではない「力」というものを知覚していた――上に、 …ただ、今まで扱ってきた気力よりも密度が薄い上、自分の内側にある力ではないこともあって、 ――だから、できるはずなのだ。
「魔力を与えて動かす――…じゃあ常に魔力を供給し続けなきゃならない――…からーぁ………」
この世界における「魔法」とは、小難しい魔法理論の上に成立している―― ――ただ、虚仮の一念岩をも通すというヤツで、想像力の一点で魔法を発現する天才も存在する――が、 30分ほどのパレードを、たったの一度こなせばそれで済む――なら、何もかもが楽だった。
「…………」
ふと、脳裏をよぎるのは、懐かしい黄金の色を纏う鎖。 …改めて、この世界の異質さに頭痛と悪寒がする――が、頭を軽く振ってそれらを振り払い、今一度現状の問題と向き合う。
「やあ」 「――ぉわああー!!?」
じっと人形に視線をやったまま瞬きを一つ、その次の瞬間に眼下にいたのは――しゃがんだ 瞬き一つの間に気配なく、目の前に姿を現したんだから――そりゃ、驚くだろう。
「はっはっは、驚かせてしまったねぇ」 「…お、驚かすつもりだった――と、思うのですがっ?!」 「うん、まぁ――その通りなのだけどね!」
吠える私に対し、悪びれるどころか朗らかにそう言って笑う白衣の人物―― 彼とはドワーフ鉱山での一件以来の再会――ではなく、空白の誕生日の夜以来の再会、だった。
「……」 「まぁまぁそう警戒しないで。ボクはキミたちの味方だよ」 「…………」 「うむ。まぁそうだね。顔も見せずに信用を得ようというのは、些か不遜だったね」
そう、言って、ミルディンさんが手をかけるのは、自身の頭と顔を覆い隠す白の
「今更ながら初めまして――だ。ボクはミルディン。
溶けるかのように空に消えていく白のフード――その下に現れたのは、 ……そう、だからこれはアレだ。
「…おやおや、 「………」 「――ま、 「……ぅん?」 「だから、ボクに 「………」 「いやいや、だからってキミの害にはならないよ―― 「!」
愛嬌のある整った顔に、からかうような色を含ませ、ミルディンさんは「金色」と 兄さんの右腕――である以前に、その後見人であるのなら、兄さんの背後にある「金色」について知っていても不思議はない。
「…夢獏の神子の関係者――…ですか」 「………肯定したくはないけれど、そうなってしまう立場――だねぇ」 「…………立場??」 「ああそうさ、大きなくくりでの立場で言えば 「…派ぁ?」
想像は的中した――が、それ以上の …おそらく――と言わず、ミルディンさん自身は神子ではないようだけれど―― …であれば根底にある
「…姐さん」 「ん――ミルについては全面的に信用しても構わないよ。余程のことがない限りは澪一の味方だろうからね」 「余程…」 「…お前が人為的に殺されて、怒り狂った澪一が世界へ復讐しようとしたら――とかね」 「いやぁ…その場合、正直ボク一人……というか『世界』が束になっても敵うかどうか………」 「そう思うならアホウの監視はしっかりやることだ――解決できないのなら、未然に防ぐしか手はないからね」 「……肝に銘じておきます…」 「……というか…そんなに物騒な
物騒なノイ姐さんの例えに返ってきたのはミルディンさんの正直な所感で、 自分の命が狙われている――のは、まぁこの際どうでもいい。
「いやまぁそんなことはないと言ってしまうと嘘になるけれど――… 「……」 「ハロウィーンウィーク中は人の出入りが増えるからねぇ? 「…」 「ああいや違う違う。彼の目的はまだ別の 「――…」 「ああ、そうだね。お前は私の神子なのだから、もちろん私が守るさ――ブレシドの 「あー…そこはブレシド様の 「ふぅーむ……それは、尤もだねぇー…。 「…」
試すような笑みを浮かべ、何かを確かめるように尋ねてくるノイ姐さんに――…少し、冷えた感覚が奔る。 他人のブロットを浄化する方法には、一応の当てがついた――けれど自分のそれについては、正直なところ、よくわかっていない。 …変な話、リドルくんやレオナさんのような オーバーブロットという、自分――だけに留まらず、
「…今更ですが……どういったご用件でコチラに」 「うん、ウチの団長に『自分の代わりに――』と大役を任じられてね。 「いえっ、そういうことでしたら是非相談に乗っていただきたいことがっ」 「――…ははぁ〜…これはヤバいことに巻き込まれそうだぞ〜ぅ」 「……いや、あの…魔法で人形を操るのって、そんなにヤバいことですか…?」 「んんー?ぁあいやいや、それ自体はヤバくない――のだけれど、ね?それをボクに習うことが
マリーゴールドの瞳に、よくわからない諦めの色――そしてその奥に、 …だけれどコレは、ある意味私にとって僥倖と言えるのではないだろうか?
「…あーあーイヤな顔をしているねぇ〜……まったく、勤勉も過ぎれば悪徳だよ?」 「…だから、何です?」 「ウワ、分かった途端に遠慮ないねぇ――ま、そーゆーつもりならボクも遠慮しないよ?」 「「へー?」」 「………ホントに、イヤなとこだけ似てるな!
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■あとがき 裏でアレヤコレヤと動いてくれている縁の下の力持ちなミルおにーさんの登場です。 立場的には深層寄りなのですが、ワケあってオニーチャン贔屓でアチラコチラと働いております。 …エンドレスなハロウィーン編では色々設定が放出される予定ですが、いつやるんだかな!(目逸らし) |