ファンタピア的にも、個人的にも色々色あって、
気付けばハロウィーンウィークの開始まで――一日を、切っていた。

 思い返せばハードな一週間(+2週)だった――が、ある意味で明日からの一週間の方がよっぽどハードだろう。
だが、そのための力を蓄えながら日々を積み重ねてきたのだから――もう、恐れることはない。
人事を尽くして天命を待つ――…ある意味、開き直りにも等しい結論だが、
そう腹を据えられるだけの仕上がりに至ったからこそなのだから、あとは慌てず騒がず現実と相対すだけだ。

 

「(…とはいえ、イレギュラーなにごとが起きなければ――の、前提ハナシなんだよねぇ……)」

 

 イレギュラーもんだいが起きなければ――なんて、それはそうだ。
でも、だからこそその逆――不測、不運といった想定外のトラブルが起きれば、パレードことの成否は大きく変動する。

 …一応、ファンタピア及びリゴスィミでの例、世のお祭りパレードでの例やらを参考に、
その辺りのトラブル対応を行ってきた灰魔師団けいけんしゃと共に、起こりうるトラブルに当たりを付けて対策を練った――
――が、常識人の想像を容易に超えてくるのが非常識人の身勝手はっそうなんでねぇ………。
…しかもそれが間違いなく群でし寄せてくるというんだから――…気が滅入る。

 …ただまぁさすがに、パレード中にコース内に入って写真を撮る――とかは、ないと思いたい。
さすがに、そこまで人としての良識が壊死した人間はいない――と、思いたい…!
 

 NRCにおける寮対抗マジフト大会が行われて以来、
実はずっと賢者の島には、灰魔師団は藍の師団の長であるオリナさん――を含めた藍のはいま師団が滞在していた。
…そしてその理由というのが、ファンタピアの参入により例年より増して賑わうだろうNRCのハロウィーンウィークの混乱を見越して――
――と同時に、迷惑行為の上に投稿を行うSNS投稿者の摘発とりしまりのため――だった。

 オリナさん曰く、本来であればこの「問題」は灰魔師団が関わるべき案件ではない――
――が、だからといって見過ごしていい問題ではない――という幹部会議の決定により、
この灰魔師団による「一斉摘発」は、イベントの注目度及び、
イベント運営、地域住民からの協力の得やすさから――NRCで行われることになったのだそうな。

 …まぁ確かに、NRCとしても悪い条件ハナシではないだろう――学園せいとを売り込む、という意味で。
…更に邪推すれば、灰魔師団が滞在することによって、
羽目を外しがちなハロウィーンウィークおまつりきかん中の生徒たちの抑止力にも――
――なる、のかもしれない。内申点しょうらい的な意味でも、摘発ぶつり的な意味でも。

 ――そして、ファンタピア――もとい、NRCを管理する用務員としても、灰魔師団の協力要請は益の無わるい話じゃなかった。
ほぼ間違いなく、こちらの対策・予想を超えた迷惑行為トラブルが起こる――のであれば、
そのあくを正当に裁くことのできる行政機関そしきの介入は心強い。
…一応、警備員でも現行犯の逮捕かくほは可能だけれど、だとしても犯人あいて警備員それで大人しくなるとは思えない――
――ので、トラブルの収束じごを考えればこそ、灰魔師団の存在は重要だった。

 現行犯でとっ捕まえてきはつして、その証拠と一緒に引き渡せばそれで終わりなんて、大変に気が楽な話――
――だが、パレード中だろうがなんだろうが起きえるトラブルこと、と思うと………気が気じゃないなぁ……。
ヴォルスさんはいまの協力によって、監視及び警備体制がブラッシュアップされたとはいえ――
………トラブルんなこと起こんないのが一番だってんです?

 

『――マネージャー、運営委員及び灰魔団員のポジショニングを確認しました』

 

 不意に、耳につけたイヤホンから聞こえたのは、警備担当――の中でも、監視を担当している職員ゴーストの声。
ホストとしてハロウィーンウィーク中にはパレードを鑑賞することができない運営委員他、多くの生徒たち――
そして彼らと同じく期間中は警備のために余所見ができない灰魔師団団員たちのポジショニング――
――観覧位置に着いたという報告に、思わず小さく息を吐いた。

 本番さながらのリハーサル――ではなく、これはおよそ本番。
公演を行う会場で、部外者ギャラリーの視線を受けて行うのだから――ほぼほぼ本番だ。

 さて、どんな反応けっかがでるのやら――意気揚々とじしんをもって始めましょうか。

 

 主なギャラリーをNRC生として行った日中リハーサルパレード――及び、ほぼ同ギャラリーで行った夜間リハーサルパレードは、
私が想定していたよりも好感触な反応けっかとなっていた。

 …そもそも、子供たちをとっかかりに――と考えていただけに、
思春期せいねん相手では趣向ノリがちょっと子供っぽいポップがすぎるか――…と思っていたのだけれど、
…なんというか一部寮のとく性、そして種族的な適応ノリかおかげで、
思いの外パレードの振り付けノリ生徒たちかれらにすんなりと受け入れられていて。
その結果、ほぼ本番と思って臨んだリハーサルは、歓声と拍手に包まれながらゴールへの到着が叶ったのだった。

 

「(…しかし……寮長たちのあの反応………)」

 

 歓声と拍手を浴びながら終了した昼公演リハーサル――の後すぐ、
運営委員によるパレードの是非を確かめるべく、運営委員会の事務室へと向かった――ところ、
生徒たちギャラリーの反応と同じく、委員たちには好感触な感想と共に迎えられたのだけれど――
…委員長及び、約一名を除いた寮長たちの反応は芳しくなかった。

 ――ただそれでも、委員長であるシェーンハイトさんからは
「さすがね」と含みのあるお褒めの言葉を頂いた――…ので、とりあえず体裁上の問題にはならなかったけれど。
 

 競争心と負けん気の強いNRC――の中でも、多くの寮生をまとめる「寮長」にまで成る人物なのだから、
それ相応の自尊心プライドを持っていて当然――であれば、あの「渋い」反応はある意味で妥当と言える。
…そういう意味では、逆に「すごい」と無邪気にパレードを褒めちぎっていたスカラビアの寮長くんの方が不自然――…かもしれない。

 ――とはいえ、否応なく認めざるを得ないだけのモノを見せつけられた――からこその
面白くないしぶい顔だった――と思うので、寮長たちかれらの反応も、ハロウィーンウィークの期間コトに限っては問題にはならないだろう。
 

 …ただ――ね?なんでイデアさんまでが部外者よそのひとと一緒になって面白くない表情ふまんがおなんだ――っていう。
…まあでも…四捨五入すれぎゃくにいえばほぼ身内であるイデアさんを頭数に含めないで、
勝手に計画を進めていた――…んだから、不満を買うのもそりゃ当然…ではあるんだけど……。

 イデアさんの立場を鑑みて――だの、
パレードの性質上イデアさんの担当分野プロジェクションマッピングは採用できなかった――だの、
一応の道理が通った言い訳のしようはある。
だけれどまず・・――は、声くらいかけるのが義理りょうしきというもの、だったと思う。
…いくら切羽詰まっていた、とはいえ。

 

「……陣中見舞いの品でも、送っとくべきですかねぇ…」

「――なに?イデアのこと??」

 

 NRCに設置されている数多の監視カメラの映像が出力されたディスプレイがズラリと並んでいるのは――警備室。
そのディスプレイ前の中央に陣取っている私が漏らした困惑に応えたのは――の膝の上を陣取っていた省エネデフォルメ姿のヘンルーダさん。

 イデアさんの機嫌を損ねてしまった事――というより、
私がそんな気を回していることに対して、純粋にヘンルーダさんは疑問を覚えているようで、
問い返しと一緒に私に向けられた視線にも疑問しか含まれていなかった。

 

「義理を欠いてしまった事は事実なので……」

「………団員、及び寮区長としては必要ないと思うけど――…個人的にはした方がいいと思うよ。気持ちの・・・・問題だから」

「…」

 

 ヘンルーダさんの言葉を受け、思わず――苦笑いが漏れる。
私の迷いに対し、ヘンルーダさんは適正な答えを返してくれた――のは、間違いないと思うのだけれど、
より迷いを深める見解だったものだからなんと言うか。

 組織、管理者としては不要――だが、一個人としては必要なフォロー。
割り切ってしまえば簡単この上ないけれど、欲張ればこの上なく難しい身の振り様――
――だが、そもそも「個人」間契約のような採用モノなのだから、
そういうスタンス――気持ちで判断するのがそも適当なのかもしれない。

 

「スイーツ――は、…喜ばれませよねぇ……」

「………エナドリとスナックバーでいいよ」

「…それはもう見舞っているのか、煽っているのか…」

「――だとしても、要らないモノ送るよかマシだよ。
ことこーゆー事に関してイグニ生は効率重視だから」

「効率……」

「逆に言えば全員に共通するメリットが効率それしかない――の。
…寮生の趣味趣向の多様さは、イグニハイドがダントツだと思うよ?」

「なるほど……」

 

 ヘンルーダさんの言葉に、妙に納得して――後ろで別の作業に当たっていたスタッフに、
イデアさんへの見舞いの品の厳選と発注、そして配達も一緒に頼んでおく。

 …普通であれば、自ら謝罪みまいの品を手渡しに行くのが筋だろう――
――が、何分イデアさんが相手だけに、それは逆に迷惑がられる気がしたのでやめておく。
――ただ、一筆書いておこう。さすがに、物だけでは気持ちは現せないから。

 

「…しかしコレ――……どっち・・・、です?」

「………たぶん、シロウト・・・・だよ――…記者ほんしょくなら、灰魔が現地にいるって知ってるだろうし」

「ぁあー…」

 

 NRCに設置された監視カメラの内、内部ではなく柵の向こうがいぶの様子を映してカメラ――
――が、捉えていたのは、こそこそとしながらもワイワイと柵の周囲を歩いている若者たち。
一応程度に音声を拾ってみれば――案の定、軽いノリで不法侵入の相談をしているようだった。

 裏の裏――的なことで、非常識あんいな若者の皮を被った三文記者なのでは――
――と思ったけれど、彼らの会話を聞く限り、そんな切れ者が身を潜めているようには思えなかった。
…なんというか、ゴシップ記者よりも性質が悪いな、コレは。
本当に自覚していないのだ、自分の行いが他人の迷惑になっている――自分が悪行を犯しているという現実を。
………いや、まぁ……自覚していればいいってハナシでもないけどね?

 

「……いっそ、侵入を許して見せしめ・・・・にするのも手だと思うけど」

「――…それだと、試合に勝って勝負に負けるヤツですよ――…さすがに素人の侵入を許したとあっては……ねぇ…」

「…………根性で柵、乗り越えようとかしないかな……」

「…通電している柵は記者ほんしょく――さすがの泥棒げどうでも諦めると思いますよ…」

 

 どうにかNRC内へ侵入しようと、一人の青年がNRCと校外を別つ金属製の柵に触れた――
――その瞬間、青年は「ギャア?!」と大声を上げ、柵から手も身も引いた。

 急に大声を上げた青年に、仲間たちは「バレる」だの「うるさい」だのと非難の言葉を投げる――のに対し、
件の青年は叫んだままのボリュームで「ヤバイんだって!!」と自身が被害者であることを主張する。
そんな青年を前にその仲間たちはニヤニヤとした生温い視線と「まさか」と否定の言葉を向ける――中、
不意にその内の一人が「大げさ過ぎんだよ」と言いながら柵に触れ――当然のように、感電の激痛に悲鳴を上げた。

 

「………」

「……このハングリーさは、ある意味で長所いいことなんでしょうけど――」

「――…方向がホントただただ迷惑…!」

 

 NRCを囲う柵には侵入者を追い払う仕掛けが施されている――それを身をもって体感した青年たちは、
思惑が叶わなかったつまらなさふまんを吐き捨て、ようやっと宿まちへ戻っていく――…かと思ったら、
「NRCすげえ!」「映画じゃんコレ!」「動画撮ろ〜!」などと目の前にした非現実的な現実に、
コソコソしていた理由コトも忘れて本格的にワイワイと騒ぎながら動画を撮ろうとスマホを構えていた。

 さてどうすればこの何の変哲もない柵に施されている「魔法」を動画に収めることができるのか――
――柵に石や木の枝を投げてみたり、柵を足で蹴ってみたり、更にもう一度手で触れてみたりと、
青年たちは試行錯誤を繰り返している――ようだけれど、残念だが彼らの自己満足おもわくが叶うことはない。
…もし、彼らの目論みが叶ったなら、その時は――

 

「…石だの木だのじゃあ器物破損は厳しいよねぇ………見かけ柵でも防壁だし…」

「……防壁それに対して攻撃を行った――となれば、威力業務妨害かそれこそ不法侵入未遂で立件できそうな?」

「…逮捕、までは難しいだろうけど――…それこそみせしめ・・・・なら十分?」

 

 ケラケラと笑いながら動画を撮ろうと試行錯誤していた若者たち――だったけれど、
無機物きやいしを投げても反応せず、人が触れたところでその痛みおどろきを物語る光景にはならず、
思った映像が撮れない不満とつまらなさに苛立ちが沸いたのか、
「クソッ」という悪態と共に放った蹴りを最後の一発に、彼らはグタグタとお門違いな文句を連ねながらその場を後にしていた。

 おそらくほぼ99%、あの若者たちが行った行為は、世間から非難される行いだろう――音声ないじょうが分からずとも。
彼らの行動の一部始終を収めた映像を、「苦情」として然るべき場所へ引き渡すのもやぶさかではない――
――が、ほぼ実害のない一般人の「暴行」に対して魔法士の組織が、
法と行政を盾に訴えるというのは――……些か、大人気なさけない気がした。

 …コレが本当に、NRC内に侵入したとか、柵が損傷したとか、法に触れる「害」が出ていたなら、
アチラとコチラの立場がどうであれ、看過する謂れはないけれど――…幸か不幸か、実害は上がっていない。
なにせ対象は金属の柵――軽いノリどうこうなる代物ではなかったもので。

 

「………彼らが摘発された時――の、餞別としましょうか」

「……わかってて見逃すのも、なんか腑に落ちないけど――…確実に仕留めた方が労力ムダがない、か」

「……コレ、如何ほどの労力コトになるんでしょうねぇ……」

「………ま、意図しなくてもみせしめ・・・・が出るだろうから――…増える一方、にはならないんじゃない?
……仮に逆上するヤツがいたとしても――法もネットよろんも、コッチの味方だし」

「……それはそれで少なからず悪印象が付くので可能性から、排除していきましょうね……」

「……弱腰……」

「………――本題・・で強行姿勢とっているからとんとん、ですっ」

「ぁ゛ー………」

 

■あとがき
 ハロウィーンウィーク開始前日の、ぐだ〜っとしたほぼ独白パートでした(苦笑)
 始まる前からというか、始まる前にクライマックスをほぼ迎えている――…ような状態ですが、
実はもう一発、悶着があったり……。…ただそこに、版権キャラが絡むのかと問われれば………絡みませんっ(逃)