NRC正門前では、生徒たちが校内で行われているスタンプラリーの台紙兼パンフレットを配布したり、
スタンプラリーを踏破したゲストに景品のお菓子を配るなど、
訪れるゲストたちの対応を忙しなくも、和やかな雰囲気で行っていた。

 …しかし、そこから少し離れた場所では、灰魔師団が正門前とはまた違う忙しなさと賑やかさに包まれていた。

 

「――お疲れ様です。アネルヴァス師団長」

 

 正門前のはずれ、灰魔団員に案内された仮設テントの中に居たのは、
賢者の島に滞在している灰魔の一団を率いているアネルヴァス師団長。
右腕ふくかんであるグラボラスさん――はおらず、その代わりなのか彼と似た髪と肌色かんじの女性がアネルヴァス師団長の傍に控えていた。

 

「昨日分の報告書と、中間報告書です」

「ああ、確かに受け取ったよ――ではこちらも、昨日分の報告書と中間報告書だ」

 

 報告書を入れた封筒をアネルヴァス師団長に渡すと、
それと交換するような形で彼の傍に控えていた女性が見慣れた封筒を「どうぞ」と言って差し出してくる。
差し出されたそれを受け取る――と、独りでにイスがズズズと寄ってきたので、
いつもの通りにそれに腰を下ろして、手渡された書類ふうとう内容なかみを確認した。

 

「…………この段階で白を切る根性は、一周回って感心しますね」

「…彼らのような人間がいたからこそ、
現代の民主しゃかい性が成ったんだろうが――…逆もまた然り、なんだろうなぁ……」

「ぁあー……」

 

 権力や既存のルールに、異議を唱えるということは、立派な心の強さ。
しかし、その根源が「平等しそう」ではなくただの「利己」だったなら――…それは不平等を生む図々しさごうよくとなるのだろう。
権力者の独善的なルールに逆らうのならともかく、平穏や平等を守るための普遍的なルールに逆らい、
そして自分だけがそれを犯すことを許されると主張するのは――……古い時代の強欲貴族か悪徳政治家、ではないだろうか。
 

 NRC警備ようむ員と灰魔師団の連携によって摘発されたマジモンたち――
――の大半は、突きつけられた動かぬ証拠と、団員による説得によって、渋々であっても自身の罪を認めている。
しかし残りの少数は支離滅裂な言い分で自身の正当性を主張し、
自身の罪を認めない――そして、その性質の悪さが、日に日に増しているのだという。
…ただその数自体は、ピークから減少し続けている、ということだけれど――

 

「――とはいえ、普段相手にしている連中と比べれば可愛いモンさ」

「…」

 

 屈託のない笑顔でマジモンたちを「可愛いモノ」と言い切るアネルヴァス師団長――に、僅かではあるけれど黒い気配モノを感じる。

 …事務方と、正直侮っていたけれど――
…もしかすると、藍の師団このひとたちの方がよっぽど、困難な仕事を負っているのかもしれない。
武装集団において、武力行使ではないの行使を担っている――ということは。

 …しかし、だとしても――

 

「…巡回、検挙共に警戒は現状を維持――最終日へ向けて余力を蓄える計画ほうしんで了解したよ」

「はい。あと三日――よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ――…公演を見られないのは残念だがなぁ」

「……それは……その…………」

「ハハハ、意地悪だったな。
残念なのは本心だが、それ以上に運営キミの判断は個人としても組織としても信頼に値するよ」

 

 朗らかに笑って言うアネルヴァス師団長の気持ちことばに嘘はない――…と思う。
…変な話、最終日のハロウィーンとくべつ公演にアネルヴァス師団長――を含めた藍の師団を招待することはできる。
だけれどこの公演は、ゴーストによるゴーストのための特別な行事こうえん――なのだ。

 おそらく藍の師団を招いたところで、誰も文句は言わないだろうけれど――
…だからといって、新参者わたし感情つごうで特例を認めていい行事モノかと問われれば微妙なところ。
…それに、本当に問題がないのであれば、私がどうしようかと悩んだ時点で、
ノイ姐さんが何かしらの言葉をくれた――と思うのだ。不都合もんだいがないのなら。
でもそれが無かったということは、何かしら問題の起こる可能性がある――…と、解釈するのが妥当だろう。

 ――しかし、それはそれとして、

 

「…後日、公演スケジュールを贈らせていただきますので、都合の良い日に各々来ていただければ幸いです」

「――……………ぃ、いや……そんな簡単に都合できるものなのか…?」

「直近の公演に団体みなさんを、は難しいですが、分散していただければ対応可能ですよ――打ち上げまで」

「「!?」」

ファンタピアこちらが公演を控えている関係で、合同での慰労会うちあげはナシ――
――にするのはどうかということで、簡単にではありますがそういったことも企画しています」

「……………大丈夫、なのか?」

 

 やや間を開けて「大丈夫か」と問うアネルヴァス師団長――の疑問は、わからないでもない。
ハロウィーン公演に藍の師団を招くことができない――のに、有料へいじの公演に招待客を呼び、
あまつ打ち上げかいしょくの席まで設けるなんて――おかしな話だ。

 でも、これはまったくオカシイ話じゃあない。
明け透けに言ってしまえば、これは義理によって通された若き後輩たちへの労い――先達たちの自己満足による慰労会うたげ、なのだから。

 

 ハロウィーンウィークの開場時間は午前10時。
そして、閉場時間は午後10時となっている――が、会場の広さ、
そしてマジモン対策の一環として9時半の時点で閉場を勧告し、
閉場15分前の時点で善良なゲストの退場は完了となるように――という方針が打ち出されていた。

 悪質なマジモンセキュリティ対策のため――として、
各寮の展示を担当する生徒たちは15分前の時点でほぼほぼ撤収作業を完了させて10時前には帰寮し、
正門前の受付担当の生徒たちは10時を回ったところで閉門作業を行い、それが終わり次第帰寮し――
――10時15分過ぎには全生徒の帰寮が完了し、教師陣+αの協力により、
NRCは朝を迎えるまで完全なる無人となる――はずなのだが、今日はそうなっていなかった。
 

 ――ただそれは、9時半前の時点で確認してわかっていた相手コトなのだけれど。

 

『侵入者の目的は闇の鏡――っていうテイ。
色が悪くなれば即逃げるだろうから――長引かせて、確実に全員とっ捕まえるよ』

 

 イヤホンから雑音に紛れて聞こえてきたのはヘンルーダさんの指示こえ
侵入者の大多数ほんたいが向かう先は本命ではない――本隊は陽動であると言い切っているところを見ると、相手の通信を傍受したのだろう。

 …いやはや全く、味方にいてくれるから心強い限りだけれど、
もし相手側にヘンルーダさんと同レベルの能力と技術を持ったら存在がいたなら――

 

『ホラっ、マネージャーもぼさっとしてないでさっさとオンボロ寮に戻るっ。
…飛び火はないと思うけど……とにかくさっさとオンボロ寮戻ってっ』

 

 ノイズの消えた音声で、迷惑そうに私に対して「もどれ」と繰り返して――
――間もなく、ヘンルーダさんは既に攻防が始まったらしい本隊への指示を再開した。
 

 個々、そして小隊間の連携を必要とする波状侵攻こうげきを、相手は正確かつ効果的にこなしている――らしい。
…であれば、それは間違いなく鍛え上げられたプロの動きだろう。
それも生半可な訓練――そして実戦を経験した新兵のソレではなく、
またそれ相応の修羅場を経験した指揮官の統率力が成せるレベルの。

 ……しかしなぜ、そんな集団がNRCに乗り込んできたのか――
――世界の秘宝たる【闇の鏡】の強奪を陽動とした彼らの目的は何なのか――
――その答えは非常に簡単だった。

 

「ッ――!!」

 

 ヘンルーダさんにどやされる形でオンボロ寮への帰路を急ぐ中、
魔法薬学の温室きょうしつと植物園の前を通り過ぎ、あと200mほどでオンボロ寮の門に着く――
――というところで足元にバチと奔ったのは不自然な電光。

 「マズイ」と思った――ところで相手は光速でんげき
人間の視覚ではその発動を認識した時点で既に効果は発揮された後――
――つま先から全身へと奔り抜けた魔法でんげきの強さに、私はその場に崩れ落ちるしかなかった。
 

 バラエティー番組で、静電気の放電を利用した罰ゲームがあるけれど――…たぶん、コレはその比じゃあない。
その強烈さ故に手足などの感覚はおよそ失われ、感覚の鋭い指先などでさえ僅かに痺れを覚える程度。
そしてその感覚の欠損は、それ以外の器官ばしょにも生じていて――

 

「――――」

 

 目の前の道を照らしていた青白い月光を、不意に遮るのは黒の人影。
電気ショックによって視力も聴力も軒並み機能が低下し、
ぼんやりと目の前の影の動きを、そして誰かが誰かと話している――程度の事を認識するしか、今の痺れたしこうではできなかった。

 動かない体と思考では、逃げ出すなんて夢のまた夢。
それどころか、抵抗さえできないこの状況――自体に、恐怖や焦りを覚える知性さえ薄れている惨状なのだから情けない。
ただただぼんやりと、しようのない状況に流され続けていると――…不意に、誰かが私の手首を掴んだ。

 

「ッ、なんっ――ガア?!!

 

 手首を掴まれたと思ったその瞬間には離され、私の手首を掴んだ人物のモノだろう背後で上がった声は、
ズシャという地面を擦る音と共に遠退き――元、声の上がっていた背後ばしょには、えげつない殺気が突き刺さっていた。

 

「スミス、殺気はともかく武器は引っ込めたまえ――悪人を殺していいのはデーモンだけ、だぞ?」

「…………、………あの手だけでも切り落としていいでしょうか」

「…――ダメに決まってるでしょうに……っ」

 

 ブワと湧き上がったある意味で真逆の方向性の不安に思わず起き上がり、
自分の背後に立っている細身のスーツ姿の男性――生前の形態すがたをとったリーパーゴースト・スミスさんに「ダメ」と釘を刺す。
すると地面に打ち捨てられた黒ずくめの男性じんぶつに向いていたスミスさんの殺気しせんがゆるりとこちらに向き――

 

「コラぁ?!」

「クハハ、ただの威嚇射撃だとも――頭の悪い野犬にはコレが一番だからな」

 

 スミスさんの殺気しせんから外れたその瞬間を好機とみた黒ずくめの男性――の足元に銃弾を放ったのはコルチカムさん。

 …NRCの用務けいび員が、逃亡を図ろうとした不法侵入者に対して威嚇射撃を行った――のだから、コルチカムさんの行動は正当防衛と言えるだろう。
――しかし、発砲する必要はあっただろうか?逃げるその先は、既に「脅威」によって閉ざされているというのに。

 

「投降を、お勧めしよう。
君たちの抵抗はこちらに正当性こうきを与えるだけ――抵抗せず、法の上で裁かれるのが、賢明ではないかな?」

ッ……!!!

 

 生前の姿――ではなく、見慣れたデフォルメゴーストの姿で侵入者たちに投降を促したのは、正門への道を塞ぐように立つダンさん。
侵入者かれらがダンさんに対して強い怒りと反感を覚えたのは、その余裕に――ではなく、
おそらくあまりにも皮肉の利いた忠告――無法者・・・の配下によってかけられた温情しゃくりょうに、なのだろう。

 あまりにもクリティカルなダンさんの嫌味に、彼らさきほど所業いたみも忘れて思わず渋面になってしまう――
――が、ふと彼らの「していること」と思い出し、
彼らに情けをかけるということは、転じて兄さんの行いこれまでに対する否定ぶじょくだと――考えを改める。
…彼らが「こんなこと」をしていなければ、まだ兄さんかれらの行いにも否定しゃくりょうの余地があったのだけれど――

 

「――総員、武器を放棄し、投降せよ」

 

 不意に「投降」の指示を出したのは、聞き覚えのない歳を経たひくい男性の声。
その指示こえに一瞬、黒ずくめの面々に戦慄が奔った――が、
不意にガショという物々しい音のあと、木々の影からしっかりとした体格の黒ずくめの男性が姿を見せると――
…それに倣うかのように、確保者わたしの傍に集まろうとしていた黒ずくめの男女は、渋々といった様子でその場に武器を棄てる。
…そして、未だ機を伺っかくれていた最後の一人も、スミスさん――と、
リーダーだろう黒ずくめじんぶつの視線を受けたことで武器を捨て、木々の影から月明かりの下へと姿を見せた。
 

 20名近い陽動ほんたいに対して、たったの5名で構成された本隊しょうたい
しかし警備員を陽動に引きつけた上で、わるく見積もっても「優秀な魔法士の卵」でしかない学生こどもを相手に不意打ち――
――罠まで仕掛けていたのだから、寧ろ5人という人数は警戒し過ぎなくらいだろう――が、
それでも彼らの計画さくせんは圧倒的な役者ちからの差によって覆され、失敗に終わることとなった。

 警戒を怠ることなく、大胆な計画であっても慎重に作戦を進め、
強い熱意しんねんを以て彼らは行動を起こした――けれど、そんな彼らの経歴に捺されてしまうのは「犯罪者」の烙印。
如何ほど道徳に則った正義や大儀、そして道理に倣った理想や信念を掲げていたとしても――
――武力に訴えた時点で、それは無法者・・・の妄言でしかない。
力による理不尽や不平等を制し、また弾ずるために――弱き者を守るために作られたのが「人の法」だというのに、
その有利を捨ててまで立ち向かってくるというのは――

 

「――ぅああああああ!!!」

 

 リーパーたちの誘導によって、黒ずくめの侵入者たちが一か所に集められている最中――
――勇気と恐怖きょうきの混じる咆哮を上げ、私に牙を剥いたのはその内の一人。

 魔法士といえど、魔法石が無くては魔法は使えない――
――ことはなく、自身の命を危険にさらすリスクを呑みさえすれば、武器まほうせきがなくとも魔法を使うことは、
油断をさらす仇敵の大切なモノを傷つけるにいっしむくいることは可能だった。

 武器も魔法石も持っていなかった――が、だからといって
彼の心に掲げられた正義ゆうきは放棄されたわけでも、降ろされたわけでもなかった。
屈辱に耐えながらも、反撃のその時を待っていた――…のだろうが、タイミングよりも先にまず図るべき要素モノがあったと思う。

 アリでも機を図ればゾウを倒す好機がある――道理ワケなどないのだから、
機を図った程度で相手との地力ちからの差が覆ることはない――故に、反撃を企てるにしてもまず相手を間違えてはいけない。
そして、こと今回に関してはそれ以上に――周囲じょうきょうについても考慮すべきだったと思うよ。…ホントにさ!

 

「ステイ――お二人ともダメ、ですよ」

 

 私を狙った電撃を纏った突風“まほう”は、何処からか放たれた魔弾・・によって相殺され、
その一撃を放った術者は――腹に貰った私の一撃こぶしによって即刻気を失った。

 ……なんていうか、咄嗟に体が動いてくれたからどーにかなったものの………コレ、かなりヤバかった――のでは??
…たとえ正当防衛であったとしても、刑法の中には過剰防衛っていう罪状もあるわけで――……
………ぃや……まさか……ね…?殺されるそこまで勘定ずくだったりは――…しないよ……ねぇ??
ぅぇえー……???そ…それはちょっと……さすがに………時代錯誤が……過ぎませんか、ねぇ――
……命惜しむな名こそ惜しめ――…なんて、さ………?

 

「…………」

 

 彼等からすれば、私も綺麗事りんりを語る権利はないだろう――
――が、それでもこればかりはちょっと黙っていられず、
怪訝なモノを湛えてリーダー格の黒ずくめじんぶつを睨む――と、彼は小さくため息を吐いた。

 

「ククっ、まさか狂犬を紛れ込ませているとはな――…血は争えない、というヤツか?」

「…グロリオ、お喋りはそれくらいにしておけ――マネージャーが、トラウマ諸々の負債を抱えることになるぞ」

 

 愉しげに自身の見解を口にするコルチカムさん――に、ダンさんが苦笑いしながら「それくらいに」とコルチカムさんを窘める。
するとその注意を受けたコルチカムさんは、すぐに表情を落ち着いたものに変えると、
なにかに納得した様子で小さく「ふむ」と頷く――と、急にポン!という音が鳴り、
それと同時にコルチカムさんの姿は白い靄に包まれ、それが霧散した先には、
デフォルメいつもの姿に戻ったコルチカムさんが平静――通り越してどこかつまらなそうな表情で宙に浮かんでいた。

 

「スミス、ウィル、ゴミ拾いだ――ヒナ鳥に、コレは刺激が強すぎる」

 

 そうコルチカムさんが声をかけると、スミスさん――と、ダンさんの隣に控えていたリーパーゴースト・ウィルさんは、
小さく息を吐くと同時にそのむねに抱えていた殺気も吐き捨てたようで、
平然とした様子でゴミ拾い――侵入者たちが放棄した武器の回収作業を始めていた。

 

「……まったく、小賢しい限りだ――が、壊すなよスミスっ」

「…………」

「ああ、材料は多いに越したことはないからな。無傷でキチンと頼むぞ」

「……――」

「作業に集中してください、スミスさん」

「んー…」

 

 顔にアリアリと不満を浮かべるスミスさん――
――に、なにか不味よけいなことを言いそうな雰囲気を察して先手を打てば、
注意を受けたスミスさんの顔には当然のように不満が浮かぶ。
…だけれどその色は、コルチカムさんたちの注意を受けていた時よりは薄くなっていて、
スミスさんから最終的に返ってきたのは、不満混じりの唸り声――
――と頷きだったところを見ると、是非はともかく応じてはくれるようだった。
 

 やけにすんなりと投降したな――とは思っていたけれど、
どうやらこういう場面ときのためのトラップさいくが、彼らの武器には施されている――らしい。
しかし、コルチカムさんたちにとっては当然のこと――な上に、その対処は難しいことではないようで、
順調に処理と回収を進めていて――…その光景を目の当たりにした黒ずくめたちの肩は、
最後のチャンスを断たれた絶望にずるずると下がっていった――…ただ一人を除いて。

 

「――では、仕舞いとさせてもらおうか」

「!」

 

 不意に、思ってもみない――というかこの件に関しては排除していたはずの人物の声が、
平然と「仕舞いに」とか言う――ものだから反射的に焦る。

 ――いや、冷静に考えれば危険を孕む要素なんてもう相手みうちいがいにはないんだから、
この段階ばめんで出てくる分には問題ないはず――…だけれど、この絶妙なタイミングで合流をプランニングしたヤツは誰だ?
コレはさすがに、信用問題ですよ?色んな意味で!

 

「――盗人を喰らう箱カルナバル・スンドゥーク

 

 完全に現れふえた気配に、半ば反射で視線を向ければ、
そこに居たのは想定外そうぞうどおりの――パーシヴァルさん、だった。

 悠然と佇むパーシヴァルさん――が発動させたのはおそらくユニーク魔法。
そしてそれによって彼の手のひらの上に姿を見せたのは、赤いドラゴンの翼が生えた――黄金の箱。
無機物に架空の生物の翼が生えている――というなんとも奇妙なソレは、パーシヴァルさんの手の上で翼をはばたかせると、
パーシヴァルさんのを借りて空へと高く高く飛びあがり――

 

「―――!

 

 急降下すると共にその大きさを増した自そうする箱――
――が、ガバリと大きくふたを開け、一か所に集められた黒ずくめたちを――一口で呑み込む。
その光景たるや、ホラー映画のピークを目の当たりにしているかのよう――…ではあったけれど、
その光景・・の仕組みを理解していれば、コレはまったく恐ろしい光景ではなかった。絵面ともかく生命的な意味で。

 黒ずくめたちを丸呑みにした空飛ぶ金色の箱――だが、とりあえずの役目を終えたのか、今度はぐんぐんと縮んで元々の小箱程度の大きさへと戻る。
そしてふわと優雅に飛び上がると、パタパタと翼をはばたかせて――主であるパーシヴァルさんの頭の上に収まった。

 

「……………」

「………」

「ふふ――殿下・・のご厚意なのだから、素直に受けるが礼儀・・でしょう」

「……」

 

 パーシヴァルさんでんか協力こうい――対象を異空間に確保するというユニーク魔法は、
抵抗の術を持つ犯罪しんにゅう者たちの確保、そして移送においても有効――とてもありがたい協力こと、なのだけれど――
――まず、王族を危険の伴う厄介事に巻き込んでいい道理ワケがない、と思うのです?

 …百歩譲って、学友にして劇団ぶたいを共に造った仲間である兄さんであれば、
おたがいの立場を無視すれば、許されずとも言い訳は立つ――かもしれないが、その部下・・に対しては、そこまでの義理は成立しないと思うのです。
何度も言うようだけれど、相手は王族でんか――なのですから。

 …――ま、そんな正論持ち出したら、行方不明者出してる「帰らずの森」に同行させた時点でアウトー!なんだけどさ!!

 

「ご協力を感謝します殿下――…ところで、どこの誰なのでしょうか。殿下をここへ寄越おくりだしたのは」

「………」

 

 礼儀と開き直りがごちゃと混ざって――開き直りがやや優勢で、悪態混じりの不満ぎもんが口に出た。

 一般論で語るなら、これこそ言い訳の余地なく許されない態度こと――だが、
一般てきではない関係だけに、誰も私の態度を窘める者は無く、
また唯一真っ向から私を反省させられいいまかせるパーシヴァル殿下までもが口を閉ざし――
――その答えかわりに差し出したモノは、見覚えしかない宝飾品ブローチで、

 

「…………――ねえさんかいッ…!!」

■あとがき
 今となっては必要性に疑問を覚えているのですが、やっちまった荒事案件です。
リコリスの件は色んな意味で必要だったと思っているのですが、
今回の事に関しては、サブクエの序章みたいな位置づけなので、沿いには不要なフラグたてただけでは??と今更我に返っております(汗)