「おンやまルーたん、随分羨ましいトコにいるでないの〜」
最終確認のために忙しくしている
「…ウチのダッちゃんが腹の底で唸ってて腹と胃が痛いんだけどぉ……」
兄さんとの距離を詰めるごとに増していく――のは、兄さんの顔色の悪さ。
「…羨ましいなら出てくればいいでしょ、いつもどーり」 「――ぐあうっ」 「ぉあぷっ」
ルジートの
「ぉぁ………!す、ご…ぉお………!きょだいな…!モフ…モフぅー………!!」
…こんな幸福は、現実に起こりえるモノだろうか――いや、起きえるはずがない。 そう、コレは神がもたらした
「………すごひ……うまり 「ぅぐるるるるる〜〜〜」 「……ほぉー………そーきた、かぁ――………いいよ、の 「…ぇー……大丈夫ぅ…?信じて大丈夫なのルーたん……の代わりにお前が喰らえ!とかで俺に突進とかかましたりしない??」 「………、………ない」 「…よしわかった。墓穴掘ったな!」
息をするのも面倒くさくなるほどの至福のモフモフに、体と一緒に思考も融ける。 …たっだらまぁ逝ってしまうおうか。一歩手前まで。
「――ぶフーーっ!」 「ぼひゃー?!」
思考が何処かへと堕ちる刹那――背中を通り抜けていったのは、獣の荒い鼻息。
「ぁー…ぇえとーぉ………。…だいじょーぶか、妹よ…」 「………だいじょばないけど大丈夫だよ…」 「…………、……そっかぁ…そう………だよ、なぁ――…お前が望んだこと、だもんな」 「…」
煽られているわけでもなく、情けをかけられているわけでもなく、 いつの間にか空いた腕を伸ばし、フカフカの巨躯を軽くぽんぽんと叩く――と、程なくして目の前の黒の雄獅子は姿を消し、
「…オーナー」 「……必要?」 「公ではないとはいえ、内々のモノでもないんですから、ここはちゃんと演りましょう――唯一の 「…………そうね、最後の
……なんでだろうなぁ――………心の底から殴りたいな、このニヤニヤ顔。
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座長を失ったファンタピアは、厳密な意味では劇団として成立していなかった―― 発表会とコンサートはまったくの別物――その意識を強く持った指導者 ――でも、今はそうじゃない。彼らは今もう既に「プロ」としての一歩を踏み出している――
「(怪我の功名――…ってねぇ………)」
私と先代組がリゴスィミ組と合流してパレードの練習――その完成に躍起になっている間、 …なんというか、ある意味で「だからこそ――」という気がしないでもない。 そのおかげで、今夜の舞台は ただ負けん気を煽るだけなら、認めなければいいだけ――だけれど、
「…少数精鋭と言えば聞こえはいいけど――大勢の精鋭抱えて、初めて一人前……か」 「――それは、中間管理職の 「……、…――………………、…………大丈夫です?そんなこと言って」 「問題ねーよ、ウチの 「…………そう、ですね――…… 「…そういう意味ではお前は――中間、か?」 「………………形式上は間違ってませんけど――………その括りは、釈然としない……ですね」 「…事実なら、受け入れるしかないだろ」 「……それを、…貴方が言いますかねぇー………事実との直面を今の今まで避けてきたヒトが」 「それは――…お前が眠りこけてたせいだろーが」 「………ホントかなぁ〜?」 「……
非難混じりの諦めに――思わず、笑みが漏れる。 信頼の置ける中間管理職がいるのなら、これまでと同じく
「 「……」
公演のフィナーレに、割れんばかりの拍手と歓声が上がる。 ――でもそこに、ズドムと興醒めの現実という名の重しを下ろすのが、傲慢の権化たる私の 呼ばれた …そう考えると、だからこその要望だったのかもしれない。 …前任を、自分より劣っていると思っているわけではない――けれど、「勝るとも劣らず」なのだ。
「私のせい――だねぇ」 「…………なに言ってんの姐さん。同位ならなおの事――当 「……ああ、そうだね――でも、だとするなら――我らが皇たちは随分と好き者、だね?」 「――」 「自虐のつもりは無いし、正直お前に対して申し訳ないとも思っていない―― 「…………」 「……返事は?」
視線を降ろした先にある、白獅子の赤い瞳がどこか
「………姐さん」 「ああ」 「私の評価は、私がする――価値を見出すのは 「…――………そういうお前だから……みんな心配なんだよ…」 「……だからって、 「…」 「ふつーに考えたら、『そこまで』で十二分だと思うんだけど――
自分が、人並みを外れた もし私が、周りの評価に満足して、才能に溺れて歳月を重ねて来たなら――全ての成功はありえなかっただろう。
「要はとんでもない欲張り――ってことなんだけど……さ、 「……その…頑張る……いや、手が届くの基準がズレているのが…ねぇ………。 「…」 「なんだい?当然の話だろう?
どこか開き直ったような様子で「被害者」と言うノイ姐さん―― 私の一番近くで、私の
「し、心配かけた分は補いますし…!!」 「……アレに関しては焼け石に水だと思うけれど――私は、しっかと補ってもらおうかな?」 「…」 「 「………姐さんたちのへのお礼は違う意味でもっとちゃんとやるよ―― 「と?」 「
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コレは、私が初めて一人のプロとして依頼を受け、そしてクライアントに納品した曲。 そして、この 自分が何者であるかを自覚せず、ただ己の欲のまま、才能に溺れていたのなら―― …神子にしても思い上がった発言だとは思う。 …ただ、そんな風に無茶でも無様でも矜持を胸に現実に向かって足掻いて、 でも、そうやって、身の丈に合わずとも麒麟の矜持を己が矜持と騙って、麒麟の神子として理想を目指してきた――
歌が終わって、演奏が終わって――ホールを満たすのは、熱と畏れを孕んだ静寂。 今、私の目の前にあるのは、まばゆい光を放つ魂たちが整然と並ぶ観覧席。
「ぅ…わ、あ………!」
座席に留まっていた魂が一つ、また一つと宙に上っていき――空に光の塵を残しながら、融けるように消えて行く。 ああまったく、これだから
「ッ――」
不意に、一切の体の自由が利かなくなる。 いつかに受けたラギーくんのユニーク魔法――相手の体をコントロール権を奪う魔法の類――とは違う。 コレは――私もよく知っている
「――ぅ、ぐ……ぁ…っ…」
あれこれ考えてる内、瞬き一つの間に迫っていた――人影によってがら空きの腹部に叩き込まれたのは |
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■あとがき 終わりました!なんか新たな展開始まりましたけど、WH編第一幕は終幕です!!お疲れさまでした!!! |