突き抜けるような青い空、生い茂る木々は深い緑を湛え
――それは、本当の命を持った現実の世界だけが持つ「自然」の色だった。
無意識に心が安らぐ自然の色に、やはり自分がホームグラウンドとしていた場所は、
電子世界に確立された仮想世界なのだと――少女・は改めて実感する。
あの世界の「自然」をまがい物とは思っていないが、それでもやはり「自然」はそう再現できるものではないのだろう。
「……、さん…?」
「ん?ああ、すまん」
雄大な自然に目を奪われ、思わず足を止めてしまったに、少し不安げな少女の声がかかる。
反射的にが声の聞こえた方へと視線を向ければ、
そこには蒼銀の髪をボブにした少女――キラがを不安げ、というか心配そうに見つめていた。
そんな不安げな表情を見せているキラには苦笑いを浮かべ、
摩り替えるように「いいところだな」とキラに話題をふった。
「…そう……ですね、夏も涼しくて、ポケモンたちも強くて…修行に凄くいいんです」
「そうか、キラにとってここは――そういう場所なのか」
「……あ」
ふっと笑みを浮かべて言うに、キラが間の抜けた声を漏らす。
それからしばらくとキラの間に沈黙が流れたが、不意にキラが申し訳なさそうにうつむいた。
「えと、あの…シロガネ山はその、避暑地としても有名で……」
「気にしなくていい。キラにとっては当然だったんだろう?――この自然は」
人が住むために開拓され、開発された街や都市も存在するが、ポケモンとの共存のため――
ポケモンの生息域を保つため、どの地方にも多くの自然が残されている。
その中でも特別、人の手が入っていない自然が多くあるマーキャ地方の出身であるキラ。
そんな彼女なのだから、が驚いたこの自然も、彼女にとってはごく当たり前のものであっても、なんの不思議はなかった。
だがキラの言葉の中で、強いてが気になったことをあげるとすれば――
「新顔も、相当の手練らしいな」
これから顔を合わせる「後輩」に少しの期待をしつつ――
ホウエン在住の某ハイテンション娘のような人物でないことを祈るだった。
近くへ行きたい
− ポケモン × デジモン −
シロガネ山のふもとにひっそりと建てられている勝負処兼喫茶店兼夏季限定ペンション――TwilightCafe。
そこはシロガネ山というその立地の関係もあり、極々限られた実力あるトレーナーだけが足を踏み入れることを
――それどころか、知ることすら許されていないほどの、知る人ぞ知る店だ。
しかし、この店の運営を任されている人物のせいなのか――割とよく、その店の規約は破られているらしかった。
「いらっしゃい」
うっすらと笑みを浮かべ、
TwilightCafe店内へと入ってきたキラとを迎えたのは、橙色の髪が目を引く一人の女性。彼女はコーヒーカップを拭く手を止めると、
おもむろにカウンターの向こうから出てくると、緊張した様子もなくの前へと歩み出た。
そして、スッとの前に手を差し出した。
「ようこそTwilightCafeへ。店主のミウです――以後お見知りおきを」
「――八神だ。よろしく頼む」
名乗ってきた女性――ミウに対して、も自らの名を名乗り、
彼女との友好を結ぶように彼女の手をとれば、ミウは満足そうな笑みを浮かべての手を両手で取って「こちらこそ」と答えた。
「さて、挨拶も済んだところで――くんはコーヒー派かな?」
「……強いて言ったら」
「ふむ、ならとっておきを出そうか。――キラくんはカフェオレでいいね?」
「はい」
たちから注文(?)をとると、ミウは早々にカウンターの向こうへと戻っていく。
そんなミウのマイペースな様子をぼーっとが眺めていると、キラがの手を取って席に着くことを促す。
キラに促される形でカウンター前の席には腰を下ろし、
手際よくコーヒーを入れる準備を進めているミウの姿を眺めつつ、店内の様子にも目を向けた。
ウッド調をベースとした内装に、華美ではないがセンスの感じられるインテリアは、
アットホームな雰囲気でありながら、店主であるミウのこだわりを強く感じられる。
そして、なによりもミウの強いこだわりが感じられるのが――
「……………」
真剣な表情でコーヒーと向き合うミウ。そんな彼女からは若干の殺気すらうかがえる。
おそらく、ここでなんらかの茶々が入った日には、その原因が誰であろうと確実に相応の制裁が下されるのだろう。
見た目からのイメージと実際の性格にだいぶギャップのあるミウだが、
ベクトルこそ違えど、強いこだわり――信念があるという部分にはは共感と好感を覚えた。
静かに、穏やかに流れていく時間。仮想世界でありながら、本物の生き死にの世界で戦っている。
そんな彼女からすれば、この穏やかな時間の方がよっぽど現実感がない――のだが、
この平穏こそがにとって、目指すべきところなのか――
「こーんにち――ぶへほいっ!!」
「あ……」
「…なにをやってるんだ、アイツは……」
の思考を遮る大声を上げて、店内へと入ってきたのは韓紅色の髪の少女――ユイ。
しかし、挨拶を言い切るよりも先にピンク色のポケモン――プクリンの捨て身タックルを無抵抗に食らったユイは、
無様な声を上げて店の外へと追い出されていた。
タイミングが悪かったというべきなのか、それとも「お約束」だったと言うべきなのか微妙なところのユイの顛末。
相変わらずな彼女のありように、若干呆れつつが状況を見守っていると、
ユイの安否を心配したらしいキラが席を立ち店から出て行こうとする――が、ほんの一瞬、キラの足が止まった。
しかし、なにあったのか――そう、が問うよりも先に、キラは店から出て行ってしまう。
得られなかった答えに、が若干もやもやとしたものを感じていると――不意に「答え」であろう存在が姿を見せた。
「こんにちは」
ニッコリと笑みを浮かべてに挨拶を投げるのは、桔梗色のクセの強い髪の女性。
ユイがぶっ飛んでいったこと、ポケモンが人間に危害を加えたこと、それらは彼女にとってはさして気に留めることではないようで。
彼女の興味の目は真っ直ぐ――に向かっていた。
一見、穏やかな印象を受ける彼女の笑みだが、
はこれまでの経験から彼女が「普通」ではないと理解する。
笑みですべてを覆い隠す――腹にイチモツ持った人物だと。
「キミが、『』くん――だね?」
「…ああ」
「――キミ、思っていた以上に面白い子、みたいだね。ボクはカイト、よろしくね」
新しいおもちゃを手にした子供のように、嬉しそうな笑みを浮かべてに握手を求める女性――カイト。明らかに、こちらの意思も感情も気にしている様子のないカイトに、の予想は確信に変わる。
だがそれでも、問題ばかりの人物ではないのだろうとは自分を納得させ、小さなため息をついてからカイトの手を取った。
「とりあえず、よろしく頼む」
「ははっ、手厳しいなぁ」
「――わかる人間からすれば、当然の判断だ」
そう言って、とカイトの間に入ってきたのは、コーヒーを淹れ終えたらしいミウ。
やや呆れた表情でミウはカイトを一瞥するが、の前にコーヒーカップを置くときには、
彼女の表情はすでに穏やかなものに変わっており、満足のいくコーヒーが入れられたのか、
満足げな表情でに「どうぞ」とコーヒーを勧めた。
いつの間にかカイトから開放された手。ミウとカイトの間で一定の上下関係が成立しているのか
――と、は思いながら、「いただきます」と一言断ってからコーヒーを口にした。
「………!!」
鼻腔に広がるコーヒーの香りは、曇った思考を晴れやかなものに変える。
そして、口に広がる深く切れのあるコクは――そんじょそこらの店では味わえない洗礼されたもの。
正直、今まで美味しいと思っていたコーヒーが、
大したことがないと思ってしまうほど、にとってこのコーヒーは格別なものだった。
「ふふっ、キミならこのコーヒーの良さをわかってくれると思ったよ」
「…ボクもそれ、美味しいとは思うけど――そこまでの感動は覚えないなぁ」
「そもそもお前は紅茶派だからね、理解できないのも無理はないが――
さっきの子はなんだい?くんも知っているようだったけれど…」
「ああ、彼女?あの子はボクのファンで、キラくんの先輩トレーナー――さらに言うとホウエンリーグの覇者だよ」
「…ということは、ミクリに勝ったのか?」
「いいや?彼女はダイゴさんがチャンピオンだった時代にリーグを制覇したそうだよ」
「ほう…」
ミウが感心したような声を漏らすと、不意に店の入り口でガタリと音が響く。
反射的にたちが音のした方へ視線を向ければ、そこにはキラの肩を借りてなんとか再度店に入店した――ユイの姿があった。
「いやー、まさかあんな熱烈歓迎を受けることになるとは思わなかったわー」
「…明らかに歓迎されてなかっただろ」
「うわ!マジでさんじゃないすかー!うわっ、ちょ、お久し――ぶぐっ」
「やめろ」
の顔を見るや否や、キラから離れて勢いでに抱きつこうとするユイ。
しかし、それをがそう簡単に認めるわけもなく、
は飛び掛ってきたユイの顔面を、むずんと片手で掴むかたちで彼女の暴挙に待ったをかけた。
そんな、やや暴力的なの抵抗に、ユイは「なんだよー」と不満げな声を漏らしながらじたばたと反抗するが、
その程度の抵抗でがどうこうなるわけもなく、最終的に折れたのはユイの方だった。
「ちえー、別にハグぐらいどーってことないないのにさー」
「…お前は甘やかすとつけあがる」
「うーわっ、ヒッド!さんあれですか!?
どっかの鬼神の人からツッコミの心得とか教え込まれちゃったやつですか!?」
「…………」
「ちょ、そこで引かない!引かれたら話が成立しな――」
「ユイくん、ユイくん、落ち着いて?」
「ぇ…………あぁ…し、失礼しました…」
「(…あのユイが一言で静まるとは…)」
すっかりテンションが上がり、暴走一歩手前まで到達したユイ――だったが、
カイトに落ち着くように言われると、先程までの暴走ぶりが嘘のように落ち着きを取り戻し、恥ずかしそうに肩をすくめた。
カイトの威圧感に気圧されて大人しくなった――というよりも、
カイトの前で醜態をさらした自分が恥ずかしくなってしまったという方が適当に見えるユイの反応。
どうやら先程のカイトの言葉は冗談の類ではなかったらしく、本当にユイはカイトのファンのようだ。
ユイとキラ、そしてミウとカイトともまた違うカイトとユイの関係を、
は感慨深く眺めていたが――不意に頭をよぎった疑問を口にした。
「……これで、『全員』なのか?」
「ああ、うん。現状は」
「…現状は?」
「いやーこのあと確実に二人増えるんですけど、
今ここでその2人を出すと、ボクらの妹キラちゃんが――おもきしさんより年上に!」
「「「「…………」」」」
「さすがにそんなカオスの状態じゃーにっちもさっちもいかないので、妥協策という名のご都合主義でこんな――ごべっ!」
どこからともなく飛んできた石がユイの後頭部に直撃する。
しかし今ここに、ユイに石を投げたいと思っている人物がいたとしても、実際に投げることができた人間も、ポケモンもいない。と、いうことは――
「ははは、これが『見えざる神の手』――というヤツかな?」
「…自虐か?」
「なっ!何言ってんですかさん!あんなすっとこ――ひでぶ!」
「…くんがここに来ている時点で、色々な境界線が緩んでいるのはわかるが――これはやりすぎだと思うんだが?」
「……ユイ、さん…大丈夫…?」
「だいじょばないです…。まったく、ギャグ担当にも限か――もごっ」
「それじゃそろそろオフレコにしようか――このままだと、ユイくんの体が本当にもたないだろうから」
「意外だね、カイトの口からそんなセリフが聞けるとは」
「あははだって――ユイくんにはまだま面白い光景を見せてもらいたいからね」
「わあ!爽やかにドSな発言!!でもカイト様だからいいです!」
「…Mか」
「ちがっ――」
■あとがき
たいぶ強引なオチ(?)で終わりました。余計なことを言い出す紅玉主が悪いのですよ(黒笑顔)
ポケモン夢主たちは本編(?)内ではまだ絡んだことがなかったのですが、割りと和が成り立ちそうです(笑)
金剛石主と心金主のあれこれについては…後々にでも!!