穏やかな日常が過ぎていく町――それは並盛町。
特別、何も目立つ名所や建物などない並盛町だが――
現在、この町は日本はもちろん、世界各国の裏世界の住人たちが密かに注目している町となっていた。
 それというのも、裏世界に確固たる地位を確立する、
イタリアを拠点とした大マフィア――ボンゴレファミリーの次期10代目とその守護者たちが、この並盛の町に暮らしているのだ。
 裏世界に幅を利かせ、ほぼ絶対的な権力を持つボンゴレだ。
その力の恩恵を受けようとする者もいれば、その存在を目障りに思う人物もいる。
そんな裏世界の住人たちの欲と血に満ちた思惑によって、この平凡な町であるはずの並盛町は――
意外に、どうともなっていなかった。

 

「平和なもんね」
「行きたくない場所ジャンルのトップになった場所とは思えないね!」

 

 そんな、意外に平穏を保っている並盛町を歩いているのは、
長い山吹色の髪の少女――長永と、黄枯茶の髪をお団子上にまとめた少女――心皇千賭。
 この、並盛の平穏すぎる空気がかなり意外――というか拍子抜けだったの顔にはややつまらなそうな色がある。
だが、そんな彼女とは対照的に、千賭はこれから「ハプニング」が起きるのではないかと期待しているらしく、
嬉々とした笑みを浮かべて忙しなくあたりを見渡していた。

 

「……千賭、少し落ち着きなさいよ。田舎者みたいに恥ずかしい…」
「えー?でも実際ボク田舎者だし」
「…確かに、心皇の本家はド田舎っていうか山ど真ん中って感じだけど…ねぇ……」
「一応ここ何年かは日本全国旅しているけど――基本、妖怪って都市部にいないし!」
「(なんだ、この天然系なのに殴りたくならないこの感じ)」

 

 屈託のない笑顔できっぱりと言い切る千賭。そんな彼女を前に、の胸に怒りの感情は湧き上がらない。
もしこれが、の某友達であったり、某天然陰陽忍者娘であったなら、イラっとするところだが、
不思議と千賭が相手だとそんな苛立ちは湧き上がってこなかった。
 何の差だ?――と、千賭と彼女たちの違いについてが頭をひねっていると、
不意にぐいと腕が引かれる。反射的に視線上げれば、そこには本当に楽しそうに笑う千賭の顔があった。

 

「面白いハプニングことが起きるといいね!」

 

 愉快犯全開の千賭の笑顔に――某無敵遊び人の影がちらつくだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

くへ行きたい
− 家庭教師ヒットマンREBORN! × よろず × ぬらりひょんの孫 −

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボンゴレの次期10代目。
その人物は、ボンゴレの歴代ボスの中でも最強と称された初代の血を受けつく存在なのだという。
しかし、イタリアで幅を利かせるボンゴレの初代のボスの子孫がなぜ、極東の島国である日本にいるのかといえば、
ボスの座を降りた初代が日本へと移住したからなのだという。
 それに伴い、子孫たちの姓も「沢田」へと変わり、
数代を重ねて日本人と交わったボンゴレの血はすっかり日本に馴染み、今ではその面影もほとんど薄れてしまっている
――のは、外見に限った話で、ボンゴレボスとしての素質は薄れることなく受け継がれているらしい。
 ――しかし、この現状を前にしたとしては「どこらへんが?」というのが感想だった。
 現在、に抱きつく格好になっているいるのは――全体的に逆立った飴色の髪が特徴的な少年。
この衝突はにとって予想外のものだったが、それはこの少年にも言えることのようで、
「あれ…?」と驚いたような声を漏らしながら少年が顔を上げた。

 

「…………」

 

 顔を上げ、と目が合った少年。
最初はきょとんとしての顔を見ていたが、が「大丈夫?」と声をかけると――彼の顔は見る見るうちに真っ赤になった。

 

「うわああぁあああぁぁ!!?!?
す、す、す、すみませんんんん〜〜〜〜!!!」
「(凄いリアクションね…)」

 

 大声を上げて大慌てでから離れる少年。
酷く動揺しているらしい彼は、足元すら覚束ないらしくから離れた勢いでそのまますっころぶ。
そんな少年の情けないことこの上ない姿に、内心でが呆れ果てていると――
不意に前方から聞き覚えのある声が飛んできた。

 

ぅえぇぇ!?な、え、うそ?!さん?!?
「ボクもいるよー!」
「千賭さ――ぅおわー!

 

 と千賭の目的地であった沢田家の玄関から現れたのは、
今回2人がこの沢田家にやってきた一番の目的である森中志季。
 自分たちの目的である存在に会えたことが嬉しかったのか、志季を見つけるなり彼女に抱きつく千賭。
その急が過ぎる展開についていけずにパニック状態に陥った志季が、
飛び込む形で抱きついてきた千賭を支えきれるわけもなく、抱き付かれた勢いによって倒れていく――のだが、
千賭の抱きつく勢いが強すぎたために志季の倒れる方向が若干ずれ――

 

ぐえ!ちょっ、志季っ、重っ!
「あー、ダメだよー?女の子に重いなんて言っちゃー。重いと思ってもそれは黙ってなきゃダメだよー」
「そ、そういう問題ではないですから!ほんっ、ちょ、千賭様っ、どいてください!」
「えー、せっかく久しぶりに会ったんだからもうちょっとー」
「ぎゃあ〜〜!!」

 

 少年が倒れているところへ、千賭と一緒にさらに倒れこんだ志季。
当然、少年の上には志季と千賭の二人分の体重がかかっているわけで。
いくらこの2人が華奢な体格だからといって、二人分の体重を前にあの華奢な少年では堪えられるはずがなかった。
 無情にのしかかるその重さに、少年はそれから逃れようとじたばたともがく。
そんな少年を思ってかどうかはわからないが、志季は必死に千賭に離れるように言う――
が、事態の深刻性を理解していない千賭は少しむくれたような表情で志季の上から動こうとはしなかった。
 大概に、カオスな状態になってきた状況に、はこの上なく面倒くさそうにため息を漏らす。
――だから嫌だったんだよ千賭と一緒は、とでも言っているかのようだった。

 

「いい加減にしなさいよ千賭っ」
「ぅわおぅ」

 

 千賭の服を掴み、乱暴に志季から千賭を引き剥がしたのは
志季からやっとはがれた千賭に、は呆れた表情を向けるが、
志季に抱きついたことやらに関してまったくの悪気がない千賭は、
反省の色を見せるどころか、逆ににやや不満げな表情を見せる。
悪気がないからといって、何をしてもいいわけではまったくないが、
千賭に説教するなど面倒至極なことをするつもりのないは、ただ呆れを含んだため息を漏らした。
 そんなたちをよそに、重さから解放された志季は少年の安否を確かめるように慌てて彼に声をかけた。

 

「っ、ツ、ツナ?!だっ、だだっ、大丈夫!?
「ぅぅ……つ、つぶれるかと思った…!」

 

 志季にツナと呼ばれた少年は、苦しげな表情のまま、志季の手を借りて何とか上半身を持ち上げる。
自分の手を借り手ではあるが、なんとか起き上がってくれたツナに、
志季は安心した様子でほっと胸をなでおろす――が、志季はまだ落ち着くことが許されないようだった。

 

「女2人も支えられねぇのか、お前は」
「ふぎゃ!!」
わー!?リボーンさーんっ!!?

 

 絶妙なタイミングでツナの脳天にとび蹴りを決めた存在――
黒のスーツと黒い帽子をかぶった赤ん坊に、少しだけ背筋が冷たくなっただった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜…まさか『お客様』がさんたちだったとは……」
「わざわざな場面で発動したもんね、冬輝のお茶目も」
「あれで愉快犯というか…Sですからねぇ……」

 

 そう言って、おもむろに湯飲みに注がれた緑茶をすする志季。
今の彼女に玄関でのごたごたな状況のときのような混乱はすでにない。
もちろんのように、ここまで落ち着くのにそれなりの時間を要したが――落ち着いてくれたのだからそれでよしとしよう。

 

「――志季、結局コイツらはなにもんなんだ?」

 

 不意に、志季に新たな話題をふったのは、次期ボンゴレ10代目である沢田綱吉の指導に当たっている家庭教師――リボーン。
見かけこそ、赤ん坊の姿をしているが、裏世界においてはその名を知らぬ者はいない最強の殺し屋(ヒットマン)なのだという。
 赤ん坊なのに超流暢に話していること、赤ん坊なのに優雅にエスプレッソを楽しんでいること
――やらなんやら、色々とリボーンについてはツッコミどころはあるが、
ほんの一瞬だけに向けられた鋭すぎる殺気に――ツッコミは命取りになることは明白だった。
 彼の不況を不必要に買わないためにもと、
が彼の質問に答えるよう志季に視線を向ける――が、志季の表情はなぜか思わしくなかった。

 

「えーと……なんて説明すれば?」
「普通でいいわよ、普通で」
「普通って……今のさん物凄く説明しづらい立場じゃないですか…」
「…仕方ないでしょ?急遽の変更だったんだから」
「――で、なんなんだ」
わあ?!ちょ、リボーンさん!ちゃんと説明しますからっ、そ、その物騒なものしまってくださいー!」

 

 説明しようとしない志季に対して、リボーンが突きつけたのは催促の言葉と――黒光りする銃。
彼が持つそれが玩具の銃ではなく本物であることは、情けないリアクションをとる志季の反応を見るまでもなく明らか。
 内心、「物騒だなー」と思いながらも、はあえて志季のフォローには入らず、そのまま傍観を決め込む。
すると、それを空気で理解したらしい志季は、やや不満げな表情を一度に向けたが、
文句を言うことはせずに「えーと…」と探り探りながらもリボーンにについての説明を始めた。

 

「こちら長永さんは、裏白虎の次期当主――なんですけど、……今はまだ裏白虎の人間ですらないんですよ…」
「…一般人なのか?」
「公式的には、そういうことになってます。
――それで、あちらは裏青龍当主のお孫さんである心皇千賭様です」

 

 そう言って志季が視線を向けたのは――
ランボやイーピンたちと無邪気にキャッキャッと遊んでいる千賭。
 出会って早々、沢田家に居候しているランボたちと打ち解けた千賭は、
志季たちの輪には加わらず、何気に気に入ったらしいツナを巻き込んでランボたちと遊ぶことを選択していた。

 

「そーれ!高いたかーいっ!」
「きゃっほーい!いいぞー!もっとやれー!」
「ちょ、千賭ちゃん!ランボ投げちゃダメ!!ランボも危ないから暴れるなって!」

 

 間違ってもたちと一歳しか違わない――
中学一年生には見えないクラスの無邪気っぷりを披露(?)する千賭。
 あまりにあんまりな無邪気――を通り越して能天気の過ぎる阿呆にしか見えない千賭の姿に、
の表情は無意識の内にげんなりとしたものに変わっていた。

 

さん?…どうかしましたか?」
「…なんか、千賭を見てると頭痛くなるわ……」
「えー…?」
「イラつきはしないんだけど…この疲労感はないわー……」

 

 苦笑いをもらしながら千賭たちから視線をそらす
そんなの心情がわからないのか、志季はやや困惑した表情でわけがわからないといった様子の声を漏らす。
 原因不明の疲労感にがげんなりとしていると、不意にリボーンが「ふっ」と笑った。

 

「……なんですか」
「お前、案外過保護だな」
「え、さんがですか?」
「おう」
「…過保護、ですか」
「そうだ。自覚はねぇか?」
「…自覚は、なかった――ですね」

 

 無自覚であったことをが認めると、それを受けたリボーンはどこか楽しげににやりと笑う。
その赤ん坊らしからぬ「意図」をもつ笑みに、の眉がピクリと反応するが、それをが爆発させることはしなかった。

 

「御見それしました。さすが家庭教師ヒットマン、ですね」

 

 感服した様子でリボーンに賞賛の言葉を送る
それを受けたリボーンは、謙遜することなく「まあな」と素直にの言葉を受けとった。
 会って一時間もしないうちにの本質を見抜いたらしいリボーン。
その鋭い洞察眼は、指導者として、そして殺し屋としても、さすがと言うほかない。
そんな最高の家庭教師に面倒を見られているのだから――
いずれ、あの頼りなさげな少年は、しっかりと大ボンゴレを背負える逸材になるのだろう。

 

「ちゃんと支えてあげなさいよ、志季」
「ぅえ?!な、なんですか唐突に!」

 

 唐突なの言葉に、理解が追いつかなかったらしい志季。
なぜがこの場面でツナをしっかり支えるように言い出した意味がわかっていないらしく、驚いた表情での顔を見ている。
 そんな、森中――ひいては江戸崎において重要なポジションを任されているようには、
とても思えない志季の反応に苦笑いをもらしながらも、は自分の意図を伝えた。

 

「ボンゴレの次期10代目が情けないと、私たちにまで被害が及ぶのよ」

 

 そうが言うと、志季、そしてリボーンまでもが納得の声を漏らす。
だがそれも当然のことで、武器の売買から製造、開発までを行う武器商の一団である裏白虎にとって、
ボンゴレが最大の取引相手であることは、考えるまでもないわかることだった。
 この先、まだまだ9代目の時代が続くのならば、とりあえずもツナのことは気にはかけなかった。
しかし、彼が10代目としてボンゴレを仕切ることになる時は――そう遠い話でもない。
そしてさらに言えば、このまま何事もなく順当にことが進めば、とツナは若きトップとして協力関係を結ぶことになる。
そんなときに――あの情けない少年のままでは、後のが困るのだ。

 

「頼むわよ?次代の『地の守護者』」
「ぅう〜…わざわざそんなプレッシャーのかかる役職なまえで呼ばないでくださいよー…」

 

 意地の悪い笑みを浮かべて言うの言葉に、
志季はげっそりとした様子でテーブルに突っ伏すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 ここは何気にそんなに次元を歪めずとも成立するコラボだったりします。松本的に(笑)
よろず主は武器商家系なのでリボーンさんと何気に仲良くなっておればいいと思います。
武器(銃)の性能うんぬんで楽しくディスカッションしていればいいと思うよ!