「こらー!」

 

 怒鳴り声が聞こえる。
普通、意識を失っているものを怒鳴りつける人間なんてそういない――はずなのだが、
なんとな直感的にこの声は私を咎めている気がした。
 わけもわからず怒られるんだろうな――と、思うと一気に目覚める気が失せていく。
けれど、それに反して意識はどんどんと覚醒していく。これはもう逃げられない、と腹をくくるしかなくなり、私はとりあえず目を開く。
すると眼下には太い木の幹があり、視線を少し上げれば、紙垂が付けられた縄――の向こうに、ご立腹の様子の狩衣を着た男性。
…おそらく、ここは神を迎えるための依り代――いわゆるひもろぎというやつなんだろう。
 木を降り、謝罪してから状況を説明――なんて、都合のいいようにはいかず、ただただただ一方的に怒られるだけ。
何もそこまで怒らなくても――とは思うけれど、狩衣を着た男性――神主さんにとっては大事な大事な神様が降り立つ場所だ。
必死になって怒って当然なのだろう。
 もう二度とこんな事をしないように――と、最後にもう一度釘を刺し、神主さんは去って行く。
その後姿が見えなくなってから私は大きくため息をついた。

 

「(って――アレ?)」

 

 ため息をつくのと一緒に下げた視線。
そこに映ったのは見慣れたジーパン――ではなく、黒のショートパンツ。
その上には黒を基調とした和柄の着物――なんですがッ

 

「(露出多っ、色使い派手っ、和洋折衷ッ!)」

 

 その着付けが色々おかしかった。なんで首からじゃなくて、肩から着付けてるの。
あと、なんでところどころ皮とかレースとか使っているかね。完全にコレ、和装じゃなくてただのコスプレ和服なんですけど。
これはどこぞのイベントに出没するべき服装で、ガチの江戸時代とかにいたら大気圏突破レベルに浮くはずなのですがッ!
 …と、正論あくたいをついたところで状況がどうこうなることはないんですけどね…。
ま…幸い(?)にして首元はスカーフ――いや、それっぽいマフラーで隠せているから、一応爪の先ほどはまだマシだけれど……。

 

「(…街中に出たら奇異の目で見られるんだろうなぁ……)」

 

 嘆いても仕方のないことをもう一度嘆く。でもやっぱりどうにもならないので、仕方なく腹をくくった。
 この神社は人がいないため、非常に居心地がいいのだけれど、人がいないからこそ状況が動かないわけで。
それではいつまで経ってもこの状況から――この阿呆な服を着ていなければならないことになる。
それは絶対に断固お断りなので、たとえ奇異の目に晒されようとも動かなくてはならない。
動かないでことが動くのを待っていれば――という考え方もあるけれど、
それは私の性に合わないので却下。…ああ、改めて難儀な性格だなもう。
 諦め悪くもう一度状況を嘆いてようやっと足を一歩踏み出す。
その一歩目は非常に重たかったけれど、その踏み出した勢いで2、3歩と歩を進めていく。
未だに心は重いけれど、もう足の方は歩くことに難を感じなくなっている。
…ただ、ここで足を止めたら次に踏み出すのにえらい決心が必要になるだろうけれど。
 てくてくと、根拠もなく道を行く。…想像通りに、私に人々の奇異の視線が集まる――
――けれど、私が思っていたよいは大したことはなかった。
一瞬は驚かれて視線が向くけれど、その興味は長く持続せず――割とすぐに霧散する。
ううむ…こういう格好があまり珍しくない和風ファンタジー的な世界なんだろうか?しかも、現代ではなく江戸時代的な。
 町並みは時代劇を思わせる和風の物が並び、
道行く人々の口からは「幕府」「長州」「薩摩」「異人」というキーワードが聞こえる。更に人々が怖々と口にするのは「怨霊」という単語。
これらの情報から、この世界は江戸末期――いわゆる幕末を舞台とした和風ファンタジーな世界だということがうかがい知れる。
ま、うかがい知れたから「どう」ということはないけれど――この世界が非常に危険な世界であることを知れたことは大きい。
 何処かで上がる人々の悲鳴。それは男も女も、子供も大人も関係なく、その声は純粋に恐怖に満ちている。
浪人同士、または新撰組とのやりあいか――そして、怨霊の出現か。
いずれにしても不用意に近づくのは危険だし、私がそこに首を突っ込む必要は――実はなくはない。
渦中の中に、主役というのはいるもの。であれば、人々の悲鳴つんざく惨劇の渦中に、私の探している人物がいる可能性は――非常に高い。
…まぁ、「この程度」という騒ぎであったならハズレを掴まされる上に、危険な目に合うかもしれないけれど。
 タンッと地を蹴り、悲鳴の上がる方へ駆け出す。
危ない――と、わかっていても、私の残念な性質が、自らの手で状況を好転させたい――と黙ってくれない。
非利口な自分に心の中で苦笑いを浮かべながらも、私は人の波とは逆の方向に走っていく。
だが、あるところでふと足を止めた。

 

「(また小鬼…?!)」

 

 白昼堂々、街中で暴れているのは――得物を振り回す1mほどの人型の異形。
その姿はセンカさんの世界で襲われた小鬼に似ているけれど、細部が違っている――し、
なにより違っているのは彼らの眼に宿る狂気だった。
 センカさんのところの小鬼たちは得物をなぶるくらいの知能、感情を見せていたけれど、
この世界の小鬼には狂気――殺意しか感じられない。
まるで人間を殺すことにとりつかれている――そんな風にすら感じられる。
たとえ事態を好転させるためとはいえ、そんな危険な小鬼の前に飛び出すのはあまりにも無謀――阿呆の所業だ。
ここは人の波に逆らわず、一緒になって逃げるのが得策か――

 

「あああっ…!!」

 

 ズシャ――と響いた嫌な音。
思わず振り返れば、小鬼と人々の間には道に這いつくばる少女の姿。
考えるまでもなく、逃げる途中でつまずいてしまった――んだろう。
 少女と小鬼の間にはまだ開きがある。今から立ち上がって走り出せば、何とか逃げ切れるかもしれない。
――けれど、あの少女にこんな空論は酷な話だ。
恐怖に支配され、身動き――どころか呼吸すらもままならない少女には。
 きっと、ここであの少女を見捨てたところで、誰も咎められることはないだろう。
仮にこの場に母親がいて、その母親が娘を見捨てたとしても――仕方がなかった、その一言で済まされるのだろう。
そう、なのだから、私だって逃げていいのだ。
義理どころか面識すらない少女のために、危険を冒す道理はないのだから。
 ――だが、道理の有無など私には割とどうでもいい。
ここで、あの少女を見捨てるのは――いや、そんなことをする自分が・・・ただ嫌だった。
 幸いにしてやっぱり小鬼たちは遅鈍。
全力で走ればどにかなる――かもしれない距離。一か八か――だが迷わず私は駆け出し、まずは道に伏した少女を抱き上げる。
そして改めてきびすを返して全力で逃げ出そうとする――が、
やはり分の悪い賭けだったらしく、小鬼が私に向かって得物である棍棒を投げつけた。

 

――っ……!

 

 ビャクヤさんのお札ほけんに手をかけようとしたその瞬間、聞こえたのは聞き覚えのある声。
その声に引き寄せられるように手が伸びたのは腰物。
そして伸ばした手が触れたのは何かの柄――だったけれど、それが何であるかなど考えずにただ引き抜き、
クルと振り返って小鬼の投げた得物を防ぐように構えれば、構えたもの――小刀がカッと一瞬強い光を放ち、
その一瞬にして小鬼の投げた棍棒は無へと還っていた。
 なにが起こったか――なんてわからないが、とりあえず少女を腕から降ろして「逃げて」とこの場から離れるよう言う。
すると少女は酷く怯えながらも遠くで自分の名を呼ぶ声の方へと走り去っていく。
その姿を僅かに見送って視線を戻せば、相変わらずの様子の小鬼たち。
どうやら本当に意思無き化け物たち――のようだ。

 

「キシャアアァ!!」

 

 奇声を上げ飛び掛ってくる小鬼たち。
どうすれば――と、悩むより先に、小刀から伝わってくる強い力。
それにある種の核心を覚えて小鬼たちを薙ぎ払うように空を一閃すれば、
振るった小刀から光の刃が放たれ――それは一羽の鳥の姿となり、一瞬で小鬼たちを切り裂いた。
 小鬼たちが空へと融ける中、光の鳥がクルリと旋回して私の方へと舞い戻ってくる。
いつもの要領でスッと手を差し出してやれば、その光の鳥は当たり前のように私の手の上に収まった。

 

「紅尾?」
『うん、ボクだよ――…もう、ってば無茶するんだからっ』
「ごめん、ごめん」

 

 私の手に乗った光の鳥――紅尾に、謝罪と一緒に宥めるように胸を撫でてやれば、紅尾は心地よさそうに鳴く。
機嫌を直してくれたのか、そもそもそれほど怒っていなかったのか、は、わからないけれど、
命綱あいぼうである紅尾の機嫌が直って一安心だった。
 私の知りたい情報を山ほど知っているであろう紅尾に、色々と話を聞きたいところではあるけれど、
普通の人間にできないことができてしまい――面倒なことになりそうな気配がプンプンするので、
ここはとりあえず人気のない場所まで避難しようと決めた。
 どういう構造化はわからないけれど、光のタカである紅尾は非常に目立つので、とりあえず「戻って」と小刀の中(?)に戻るように言う。
けれど紅尾はそれに従うことはせず、それどころか威嚇するようにグイと肩を持ち上げた。
一瞬、わけがわからなかったけれど、やや遠く背後に聞こえた蹄の音――から、ザザザザ…!と聞こえた足音に紅尾の警戒を理解した。
 一瞬のうちにして私を包囲したのは所謂――侍たち。
ただ、それをまとめているらしい人物は一般的なイメージの侍とは違い、銀杏髷――所謂ちょん髷を結ってはおらず、
それどころか深緑の長い髪を肩ほどで結い、前で流すという、まぁおしゃれな格好としていた。ああ、これは多分――

 

「君、随分と奇妙な力を使うんだね」
「(アレ?)」

 

 ――味方か、と思ったら、完全に警戒されている様子。
 アレ?この人がなんであるかはともかくとして、
小鬼から女の子助けたことは一切無視?それともそんな力がある人間をスカウトしたい――とか??

 

「虎の意を借る狐――です。私がどうというわけではありません」
「ふぅん。そう言う割に、随分と迷いの無い身のこなしだったけれど?」
「……必死でしたから」

 

 まったく嘘はついていないのだけれど、明らかにこの人は私がなにかワケ有りだということを嗅ぎつけている。
それに利用されて首輪を付けられるのは困るし嫌。かといってこの状況を打破するだけの力が私には無かった。
 …なんか、あのお兄さん偉い人そうだし、強行突破――というわけにはいかない。
前回のポケモン世界のように、長居する可能性も考えられる以上、自分の立場を悪くする行動はおいそれとできるものじゃない。
よっぽど状況が悪ければ腹もくくるけれど、この程度で腹はくくれないし……。

 

「君は――陰陽師?」
「いえ、そんな大層なものでは」
「じゃあ、なんなの?」
「……なんでしょう…?」
『…巫女、ってことにしておけば?』
「巫女…――?」

 

 巫女、そう私が口にした瞬間、空気が一気にざわつきはじめる。
なにやらこの世界にとって重要なワードだったらしく、周りを囲む侍たちの視線には警戒の疑惑の色が強く含まれている。
そしてもちろん、私の前にいるお兄さんも疑るような視線を私に向けている。…ううむ、巫女がなんだっていうんですかねぇ……。

 

「…君も、龍神の神子だというの?」
「あ、いえ、神子ではなくてかんなぎの方の巫女です」
「ふぅん…なるほどね……じゃあ君はどこの神社に勤めているの?」
「ここより遠く東――江戸にある神社です」
「江戸の…ね。…そんな遠くからどうして京へ?」
「それは――……がふっ!!」
ッ!?!』

 

 長髪のお兄さんへの返答に困っている――と、唐突にマフラーを引っ張られる。
挙句、そのまま宙へと連れ去られ、ジェットコースターのような風圧と、首への圧迫感で――
 ――私の意識はあっという間に沈んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふいに、バチリと目が覚める。
自分が意識を失う前が前だけに、思わずがばちょと起き上がる――と、やはり体調は万全ではないらしく、
頭痛と吐き気で思わず呻きながらその場にうずくまった。

 

「もう、無理して起き上がるからよ」
「…?」

 

 左からかかる聞き覚えの無い声に、反射的に視線をそちらへ向ければ、
そこにいるのは桔梗色の長い髪を編みこみを交えたポニーテールにしている女性。
その服装は一般的な着物ではなく、どこか中華の印象も見受けられる独特なもの。
 ああ、どうやら彼女が――

 

「あなたがさんね?」
「は、い……」
「まったく、表に出ていない私が――いえ、私の世界ところが引っ張り出されるとは思って無かったわ」
「…え………?」
「こういうこと、言っちゃダメなんだけど――私の『代』はまだ表に出ていないのよ。他の『代』は多少なり作品モノがあるんだけど……」
「代………ぁ」

 

 「代」とキーワードにピンと閃きが奔る。
おそらく彼女は「遙かなる時空の中で」シリーズの何処かの第二の主人公ゆめしゅだ。
確か遙時シリーズは統一された世界観で、作品によって時代が変わるという形式をとった世界。
きっと彼女はその何作か目の夢主なんだろう。
 …しかし、表に出してないジャンルせかい及び夢主キャラ企画ここで登場させるっていかがなの。

 

「…えと、お忙しいところにすみません……」
「いいのよ。今日は怨霊退治の予定だったし、
八葉もいるから私が抜けても心配ないし――それより、あなたの方が大変じゃない」
「……ええ、まぁ……でも、もういい加減それには諦めがつきました」
「?それには??」
「ええ、それはいいんですが、服装アレはいただけません…!」
「……そう?動きやすそうでいいじゃない」
「ええっ…?!そりゃ動きやすいですけど、この時代にはだいぶ露出が多くないですか!?」
「そりゃあねぇ?でも、慣れれば気にならないものよ」
「慣れたくないですよ!!」

 

 気風のいいお姉さんなんだろうな――とは思ったけれど、何というかちょっとずぼらな部分もありそうな人だった。
 大雑把はまぁいいけれど、ずぼら――もしくは鈍感っていうのはいかがなものか。
彼女自身はがっちりと着込んでいるけれど、胸元はガパリと開いている。
まぁ、さらしを巻いているので肌はほとんど見えていないけれど…――どういうことなの。

 

「ほら、送っていくから早く服を着なさい」
「はぁ〜〜〜……着なきゃダメですか…」
「…そんなに着たくないなら着なくてもいいけど……その方がよっぽど変態扱いよ?」
「………」

 

 そう言われて視線を自分の服に移す。今私が着ているのは、黒のショートパンツと黒のチューブトップ。
…うむ、確かにこの時代では露出狂――変態認定される格好だな。
現代だったら――かつ夏だったら普通に受け入れられるんですけどねぇ……。…ああ、やっぱりあの服、着たくない…。
 そんなことを思いながらも、桔梗色の姉さんに促され、
布団から降りて着替えようと着物に手を伸ばす――と、不意にふすまが開き、数名の男性と2人の女の人が姿を見せる。
どうやらお姉さんの仲間の人たちらしく、お姉さんが「あら、おかえり」と微笑む――
――と、なぜか「うわああぁ!?!」と叫び声が上がってスパンッと、ふすまが閉められた。
 唐突、な上に一気に転がった展開に「なんだ?」と思う――けれど、よく考えれば今の私の格好は変態認定される格好なのだ。
そりゃ、「うわー!変態だー!」というリアクションを取られても仕方が無い。
しかも、自分たちの部屋に変態がいた――ともなれば、それは大騒ぎして当然だろう。
……しかし変態、変態って、私さっきから変態認定されすぎじゃないか?これは不可抗力にしても。
 なにか釈然としないものを感じながらも、とりあえず急いで着物を着込み、スカーフのようなマフラーを首に巻く。
すると、私が着替え終わったことを確認した桔梗色のお姉さんは、布団を隅へと追いやってから、改めてふすまを開けた。

 

「はいはい、着替え終わったわよ」
「お、お邪魔します……っ」
「…なに言ってるのゆき。ここはあなたの部屋でしょう?」
「で、でも着替えてるところに入ってきちゃったし……」
「それは別にゆきが気にかけることじゃないでしょ?悪いのは確認をせずに入ってきた龍馬だもの」
「そーそー。ゆきは少しも悪くない――悪いのは全部坂本だっ」

 

 おずおずと部屋に入ってくるセミロングの珊瑚色の髪のお姉さん――ゆきさんに、
彼女が恐縮することではないというのは、桔梗色のお姉さんと黒髪をショートカットにしたお姉さんが口を揃えて言う。
しかも、2人ともその責任は「龍馬」「坂本」と呼ばれる人物にあるという。
 …ぇ、幕末に龍馬で坂本?うそ、坂本龍馬!!?
………いや、和風ファンタジー世界の坂本龍馬だからちょっとわけが違うか。
…でも幕末好きには堪らないだろうなぁ…。あの坂本龍馬に会えるっていうのは。

 

「いつまでそうしているの。早く入ったらどう?」
「は、はい…っ」
「…あのなぁ小松、もうちょっと言い方ってあるだろ」
「そう?責任は全部龍馬にあるんでしょ?だったらゆきくんがここで二の足を踏む必要は無いはずだよ」
「…それは…そう、だけどさ……」
「そんなことより――やっぱり君だったんだね、

 

 黒髪のお姉さんを軽くいなして部屋に入ってきたのは――町の通りで出会った(?)長髪のお兄さん。
ただ、幸いにして桔梗髪のお姉さん――さんの仲間のようで、
私を連れ出したことを指摘されたさんはさして気を張った様子もなく「あらま」と漏らした。

 

「それで?結局彼女はなんなの?」
「小松殿ったら随分勘繰るのね。そんなこの子が気になる?」
「ああ、気になるね。彼女が倒した怨霊は復活しなかったんだから」
「なに…?!」
「…まさか…そんなはずは……。怨霊を封印できるのはゆきちゃんだけのはずだよ…?」
「でも実際に怨霊は復活しなかった――それともなに?私の言葉が信用できないの?」
「…そういうわけではないけれど………」

 

 なにやら雲行きの怪しくなってきた場の空気。
わかりやすく私が問題になっているわけだけれど、私に事情を説明しろといわれてもそれは無理な相談。
この世界のルールすらわかっていない人間に何を語れたというのか。
 すがるようにさんへ視線を向ければ、さんは面倒くさそうにため息を漏らすと「はいはい」と言いながら手を叩く。
そして全員にとりあえず部屋へ入るように言い、
それを受けた色とりどりの男性たちはぞろぞろと部屋へ入り、思い思いの場所に腰を下ろした。

 

「この子が倒した怨霊が復活しなかったのは、五行の力ごとこの世から抹消されたから――荒ぶる神の力を以ってね」
「五行の力ごと、ということは彼女が倒した怨霊に宿っていた五行の力は……」
「龍脈に還らず、そのまま消滅――まぁ、ちょっとした怨霊を数体倒した程度じゃ悪影響なんて無いわよ」
「…それで?まだ私の質問の答えが返ってきていないのだけど」
「あら、小松殿はこの子から説明されていたじゃない――巫女だって」
「…ああ、そうだったね。じゃあ質問を変えるよ――彼女は、どこの巫女なんだい?」

 

 ふと、長髪のお兄さん――小松さんの面倒くさそうな表情が私に向く。
やや不機嫌そうな色すら見える小松さんの視線に耐え切れず、
またすがるようにさんに視線を向ければ、やっぱりさんは面倒くさそうな表情を見せて「はぁ…」と盛大なため息をついた。

 

「何処かにある神社よ」
「え」
「……ふうん、なにか事情があるようだね」
「ええ、だから根掘り葉掘り聞かないであげてちょうだい」
「…まぁ、それはいいけれど――君、私のところで働きなよ」
「ぅええっ?!」
「はぁ!?なに言ってんだ帯刀!?」

 

 なにがどうしたのか、先ほどまで私に対して疑念の視線を向けていた小松さんが、自分の元で働けと、私をスカウトしてくる。
思ってもみない小松さんの申し出に失礼な声を上げれば、やっぱり私以外の人にも驚きの発言だったようで、
クセのある茶髪のお兄さんが小松さんに――って帯刀?は?薩摩のご家老様の小松帯刀??
え、いや、なんでそんな人が私みたいな得体の知れない小娘、雇いたがるの??あれ?聞き間違いかな??

 

「考えてみてごらんよ。陰陽師でも怨霊は侵入を防ぐしかできないというのに、
五行ごと――とはいえ彼女は怨霊を滅ぼす力を持っている。いざという時の戦力としては、これ以上ないでしょ?」
「あー…いや、まぁ……」
「だが、五行ごと怨霊を滅ぼすということは、この地の恵みを根こそぎ失うということだ。
それは龍神が力を失うのと同義である以上、許されることではない」
「それじゃ、龍神の力を守るために人には犠牲になれというのかい?」
「…それは………」
「あーはい、待った待った。
当人の意思も確認せずに周りが盛り上がらないでちょうだい――ねぇ?」

 

 小松さんと銀髪のお兄さんの話を断ち切り、私に話題を向けてくるさん。
断るきっかけをくれたのはありがたいけれど、もうちょっと繊細できなかっただろうか。
これでは私が血も涙も無い極悪非道の外道巫女ということになるではないですか。
…まぁ、そんな不名誉を付けられしまっても、請けられないものは請けられないのだけれど。

 

「申し訳ありませんが…お引き受けできません……」
「…ならお前は無辜の民に死が及ぼうとも目を瞑るというんだな?」
「はい…。…無責任に干渉するわけにはいきませんから」
「……そう、事情も察せず無神経なことを言ったね」
「いえ…私のエゴですから」
「…………えご?」
「はッ!」

 

 無意識に口にしてしまった――エゴ、という言葉。
ここは開国したとはいえ、まだまだ英語の馴染まない過去の日本――だというのに極々自然に口にしてしまったエゴえいご
当然、小松さんには意味がわからないという顔をされたし、
お姉さん2人と銀髪のお兄さんと外人のお兄さんには「え?」という顔をされてしまった。
 さて新たに自分で投下してしまった爆弾に、どうしたものかと頭をフル回転させている――と、

 

「おふぅ!?」
「ちょっとこの子を送ってくるわっ」

 

 またしても首根っこをさんに掴まれ――止める間もなくさんは。
そのまま私を連れて部屋の窓から外へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■あとがき
 書いたためしも、紹介したためしもない――「遙かなる時空の中で5」のから、でした。
旧作品でやるのもなんだったので、思い切って「5」にしてみたら、ワケわからんくなってしまいました。反省。
 因みに松本は、龍馬さんと小松さん押し――なんですが、5は結構全員好きですねぇ(笑)