想定外――というか想像もしていなかったレオナさんの登場に驚きはしたものの、
その事情――夕焼けの草原における精霊の里の事情を聞けば、
…なにか色々考えてしまう話もあったけれど、同行の必要性については納得に至る事情だった。
…個人的に、彼らの事情については色々色と思うところはあるのだけれど――…今回は、目を瞑らせてもらおう…。
…申し訳ない気持ちはあるけど――…とりあえず、問題はなくなったっていうし…!
それに「芽生えの春」が十全に訪れないのは夕焼けの草原にとって、精霊の問題以上に死活問題だと思うし…!
…そんなわけで、レオナさんと共に賢者の森へ向かうべくオンボロ寮をあとにして、
まずはNRCの校門へと向かった――ところ、
「さーん!」
「……おン?」
明るく私の名を呼び、元気に私に向かって手を振っているのは、校門の前に立っている――オルトくん。
うん?確かに?今週末は所用で出かけるから不在だと業務連絡していた――
――けれども、出発時間云々は伝えていない。…いや、この際それはさておいて、
仮にオルトくんの目的が見送りならオンボロ寮へ行った方が確実――ってそれよりも、
大荷物を背負ったイデアさんの格好について疑問を解消した方が、色々と手っ取り早いだろうか。
「えーと…オルトくん?…これからイデアさんとお出かけですか?」
「――え?違うよ??兄さんと一緒に出かける相手は――さんだよ!」
屈託のない笑顔で、まるでそれが当然の事であるかのようにオルトくんは、
イデアさんの同行者は自分――ではなく私だと言う。
…うん、まぁ特殊な状況ですから?
同行する流れかなーとは思いました――けれども、
行き先が行き先しだし、相手が相手ですし??
「事情を聞いても?」
「…あ、さんには話が伝わってないんだね――
――実はメラン・モーニフルスさんに代理を頼まれたんだ」
「メラン………――モーニフルス?!」
「うん、緑の師団長さんの従弟――…なんだけど、
精霊の里の魔力濃度に堪えられる自信が無いから、
モラン山に行った縁のある兄さんにソラウの代わりをお願いしたいって頼まれたんだ」
「………」
とりあえず、理解はできた――が、色々と引っ掛かる情報が多すぎた。
紅の師団長を介し面識を持ち、先のモラン山での一件を共に解決した緑の師団長さん――
――の従弟がNRC生で、なおかつイデアさんと面識――いや、
他人との交流を好まないイデアさんに代理を頼めるくらい親しい通り越し、
不満を呑んでまでこんなとんでもない事を引き受けるに値する人物である――ことにも驚くが、
それ以上にイデアさんのリアルにそんな他人が存在していたことが、何より驚きだ。
……イデアさんのことだから、灰魔師団の存在を引き合いに出されて
怯んだってことはないだろうけど――…。
「イデアさん」
「――………」
名前を呼んだら、物凄く不満げな表情でイデアさんに睨まれた。
…うんまぁ、イデアさんがこんなことに駆り出されることになった遠因は、
たぶん色々な要因で私だと思います――が、私に不満をぶつけられても困るのです。
何度も言うようだけれど、今回の件に関して私は自分の事で手一杯――
――ソラウさんの代理を兼ねる余裕はないのです。
申し訳なく思う気持ちは無い――わけではないけれど、今の私にできることはない。
なにをどう言ったところで、私はあくまでゲストでしかないのだから。
「なぁイデア――代わってやろうか?」
「!」
「は?」
唐突に、レオナさんがなんかとんでもないことを言い出した――
………と思ったけれど、よく考えたら言い訳は通っていた。
…元々レオナさんはキングスカラー王家の代表として――ではなく、
白獅子ノ神によって招かれた部外者だ。
特別な役割を持たないレオナさんであれば、見学するにあたっての席が誰の枠であっても支障はない。
…強いて問題を上げるとすれば、更なる代理の変更が受け入れられるかだけれど――
…おそらくノイ姐さんの口添えで、話は文句なしでまとまるだろう。
幸いにも、白獅子と猛熊――もとい怜熊の関係は深く、良いものだから。
――…だっていうのに、
「……」
よかれと思って――かどうかは微妙だけれど、面倒を引き受けると申し出たレオナさんに対し、
イデアさんが向ける表情は――私に向けられていたモノよりも苦い不満を湛えた表情だった。
……この反応から察するに、イデアさんは今回の件を100%善意とか義理とか良心で引き受けたわけじゃない――
――呑み込み切れない不満はあっても、彼にとってまったく利のない依頼ではなかったから引き受けた、のではないだろうか。
…だからこそ、不意に用意された逃げ道は自身の決断を揺らがせる邪魔な配慮でしかなく――
「それは却下だなー。モラン山に来たことさえないヤツを仮とはいえ巫にするのはなー」
「ブルース…」
「宝犀ノ神に無理言って譲ってもらったからさー。ちゃんと巫用意しないと参加できないんだよね」
音も気配もなく唐突に――ノシと、イデアさんの頭の上に姿を見せたのは、
真白な子熊の姿を模した、かつて八双であった神霊――怜熊・ブルース。
霊峰・モルン山に座を置き、その麓にある豊作村出身であるソラウさんを巫女としているブルース――
――だけに、イデアさんが押し付けられた「枠」は分かっていたのだけれど、
「……興味本位で聞くけど、ブルースが最初から参加する必要は?」
獣神であった――けれど今はそうではないブルースが、
自身の聖域ではない土地に降り立つためには、触媒となる存在が必要――なのは、わかる。
…でも、ブルースの気性的に、私に呼ばれたタイミングで十分ではないだろうか?
…それともアレだろうか?ようやっと取り戻した自由に、
土地神としての責任が目覚めて、配下たる精霊たちの仕事を労いに――
「それはもちろん――との時間が欲しいからだよ?」
「……ぅン?」
………あっれェ…?イデアさんが巻き込まれたの……ホントの本当に私のせい――…なのではあ…?!
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