またしても予想外に増えた同行者は――イデアさん。
そして以外にもオルトくんは――同行することにはならなかった。
イデアさんの自立を促すため――とかいうことではなく、
魔導ヒューマノイドであるオルトくんが精霊の里に赴いた場合、
不測のバグ・エラーに見舞われる可能性が高すぎる上に、それに対処するための設備が整っていないなど、
足を踏み入れるにあたってのリスクが多すぎる――との警告をヘンルーダさんから受け、
否応無くオルトくんの同行は却下になったそうだ。
…うん。オルトくんには申し訳ないけれど、リスクを顧みずに足を踏み入れるには、精霊の里は無謀すぎだ。
…姉様方に任せておけば、オルトくんでもユウたちでも、トラブルに見舞われる可能性はぐんと下がる――
…のだけれど、その可能性を頭の片隅に抱えておく余裕がないからホントにもう…!
変な話、精霊の里に赴いたところで、
充心祭を見学できたところで――良い思いができる、とは限らない。
寧ろNRCに留まって、小うるさい副寮長の居ないオンボロ寮に、
仲のいい一年生たちで集まって、朝まで騒いだ方が楽しいだろう――絶対。
………うん。そう考えたら…ちょっと、気持ちが軽くなったな。
……ただ、そう考えればこそ、イデアさんに対する申し訳なさがぶり返す――けれど、
「―――――!!!!!!!」
「フッ――」
声にできないイデアさんの恐怖が――堪らなく愉快で、思わず笑みが漏れてしまった。
面倒に巻き込んでしまった上に、精神的恐怖と肉体への負荷まで課すなんてとんでもない――
――のは尤もなのだけれど、飛行術が苦手なイデアさんを連れて移動するには、
いつぞや輝石の国は豊作村にて眺めるしかできなかった伝統競技・ぬいゾリ――の真似事に、
神霊の引くソリに乗り、空を行くのが簡単で速く――私にとってはとても楽しい移動体験だった!
「あははははははー!!」
機械のそれとは違う不安定な――だけれど底知れない力強さによって進むソリの早さは豪速。
風圧だの空気抵抗だのを緩和する術式を施しているにもかかわらず、
全身に思いっきりかかる圧はジェットコースターのソレを優に越える――が、しかしてなんとも爽快。
ジェットコースターに対する好き嫌いの意識はなく、
またスピード狂の気も自覚していなかった――のだけれど、これは完全に気があるな!
「――へー?ちゃんとついて来てるなんて、あの王子様意外と根性あるねぇ」
「そりゃあノイ姐さんが見込んだ子獅子だからねえ――あの負けん気なら、代理にしてもいいんじゃない?」
「そーだね、悪くないかもだ――どうするシュラウドの、今からでも引き返そうか?」
NRCを出発して早数分、あともう少しで目的地に到着する――
――というところでイデアさんに提示されたのは「帰還」の選択肢。
なかなかイイ性格をしているブルースではあるけれど、
簡単に嘘を吐くほど無恥ではない――ので、
もしイデアさんが「帰りたい!」と言った時には、本当にイデアさんをNRCへ送り届け、
レオナさんを自身の代理に迎えることだろう。
…故に、これがイデアさんにとって最後の、面倒事を回避できるチャンスなのだけど――
「っ!っ!!ッッ〜〜〜!!!!」
青いはずの炎を真っ赤に変え、イデアさんは勢いよくブンブンと首を横に振る。
帰還の提示に対しての却下は、明日から始まる荒唐無稽な精霊たちの祭りへ参加表明となってしまう――わけだが、
そんな面倒よりも今この瞬間に全身を襲う恐怖の方が、イデアさんにとっては大変のようだ。
フフフ…ゲームでは、最重量キャラでノンブレーキのアクセル全開走行のスピード狂なのにねぇ。
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