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            「………パーシヴァルさんも…ご参加、ですか?」 
            「ああ。不肖ながら参加予定だ」 
            「…謙遜も、過ぎれば嫌味だぞ。お前を不肖というなら、国の踊り子どもはなんだというのだ」 
            「………炎舞の研鑽を百年以上も積んだ先達を差し置いて、舞台のセンターに立つ人間の心情を慮って欲しい」 
            「ぅむ…」 
              
             感情の宿らない笑み――の様でいて、 
            苛立ちの色を少しばかり顔に滲ませながら、パーシヴァルさんは自身の契約精霊―― 
            ――であり、自国を守る精霊の長でもあるシヴァに、苦言のような願いを告げる。 
             …私が持っていた印象――寛容かつ鷹揚なパーシヴァルさんからは、 
            ちょっと想像できなかった返事に驚いた――が、技芸を修め、追及する者としての心情は分かる。 
            ……コレ、並の実力と精神力じゃあ前日までこれないからね? 
            言い渡された数日の内に胃に穴開いてリタイアしても仕方ない話――だよ?百年選手をバックに、って!! 
              
            「………」 
            「…フォローを受けてセンターを任されている以上、寄せられた以上の結果を返す――…つもりではいるが、…な」 
            「…………まさか…こんな理由でパーシヴァルさんにシンパシーを覚える日が来るとは……」 
            「…うん?」 
            「伝統芸能における目立つ若手の立場の悪さ」 
              
             甦る過去の記憶に苛立ちが沸き、眉間にしわが寄る。 
            苛立ちを向けていい相手はいない――のだけれど、ついそのまま思ったところを口に出す―― 
            ――と、それを受けることになってしまったパーシヴァルさんは案の定、 
            苦笑いを浮かべ困った様子で「う〜ん…」と小さく唸り―― 
              
            「…俺の場合……人間じゃあなかったから、なぁ……」 
            「………なんかずるい!」 
              
             理不尽なことを言っている――その自覚はあるが、「ずるい」と吠えずにはいられなかった。 
             間違いなく、パーシヴァルさんには立場や環境が故の苦労や苦悩があったと思う。 
            苦労の味など人それぞれで、誰が恵まれていたかなんて、全ての結果が出た時にわかること。 
            自分と他人の苦労を比べて、その良し悪しを問うなんてナンセンスな思考―― 
            ――だと、……そんな正論は理解しておるのですが、 
              
            「ぅん〜……新しい型を興そうとした時には大変そうだけどぉ………!」 
            「…ふむ、それは確かだな。パーシが新興炎舞を完成させた時も一悶着あったからな」 
            「いや…それは……俺が半人前の立場だったから…」 
            「…――ああ、そんな若造――いや、ヒヨッコに、あんな炎舞を魅せられてしまってはなぁ?」 
            「、……シ、シヴァ?…そ、の……不吉な心地を覚えるくらい…褒め過ぎ、だと思うんだが……」 
            「……フン。誰も褒めてなどおらん――妾はな、自慢しておるのだ」 
            「「自慢??」」 
              
             パーシヴァルさんへの言葉を自慢と言って、シヴァがひょいと尻尾で指す先――にいたのは一人の女性。 
             クセなくサラリと流れるプラチナブロンドの長い髪に、スラと長く細い手足――に吊り合う女性としてはやや高い身長。 
            少しばかりのツリ目に輝く瞳は明るいサファイアブルー、控えめながらも東洋人とは違うぷくりとした唇は薔薇色で―― 
            ――彼女を構築するパーツ・要素の全ては、美術品のように洗練されていた。 
             そして、彼女が纏う魔力もまた、 
            普通の魔法士のモノとは違う、どこか澄んだもので――…おそらく彼女は、 
              
            「…シヴァ、申し訳ないけれど――彼はそれどころではないようよ?」 
            「うん?んんん?…いやいや、妾の自慢の相手はお主だぞ?リーザ」 
            「………――…ぅ、ぇっ……?!なっ、どっ……?!どうして私…?!」 
            「うむ。何故と問われれば答えは単純明快――お主が、ぜーんぜんパーシの炎舞を褒めぬから、だ」 
            「なぅ…?!」 
            「故、客観的評価――姫巫女を介すこの機を利用して、 
            パーシの芸能者としての実力をお主に認めさせようと思っだわけだ」 
              
             ふふんとシヴァが愉しげに笑ってそう言うと、 
            その魂胆を耳にしたプラチナの美女・リーザさんは、 
            どこか焦ったような表情を見せると、薄ら顔を赤らめ――…って、ちょっと待って?ん?アレ?なんか、変…だな? 
            精霊なのだから普通ではないのが普通――確かにこのヒトの美貌は普通の人間とは比べ物にならない程―― 
            …だけれどコチラ、人間…なのでは?この感情の揺れ的に。 
             早合点――といえばその通りなのだけれど、 
            自分の認識と違うらしい事実に違和感のような覚えて、 
            全ての答えを知っているだろうパーシヴァルさんに疑問いっぱいの視線を向ける――と、 
              
            「見つけたー!!」 
              
             唐突に、場の空気を壊すように響いたのは溌剌とした女性の大きな声―― 
            ――で、反射で声の聞こえた方へ視線を向ければ、そこにいたのは淡い金髪をセミショートに整えた――笑顔の女性。 
             リーザさんの圧倒的な美貌を思えば、彼女の風貌は明るく人好きのする愛嬌ある印象ではあるけれど、 
            至って普通の人間の範囲といえる――のだが、リーザさんと同じく彼女が纏う澄んだ魔力―― 
            ――そして彼女が左右に蓄える、鳥の羽が如く自然に毛先がライトグリーンへグラデーションする横髪の、 
            ファンタジーな世界観にしても人間には不自然な色合いを考えると―― 
              
            「――つっかまぁえーーーたあっ!!」 
            「ッオおおっっぅーー!!?」 
              
             前置きどころか予兆も動きさえ無しの全力ハグ――…なんかデジャヴですねえ!? 
              
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