「すごい!すごいわ!運命って本当にあるのね!すごい!ホントのホントにすごいわ――ビビっときた!!」

「ふおえ…ぁおおぅ……!?」

「こんなにビンビン感じるなんて初めて…!すごい…!すっごい――ゾワゾワする!!」

「ぅんん゛ー?!」

「…でもそうよねー。ノイ様がべた褒めするんだもの、すごくて当然といえば当然よねぇ――ぅんぐ!」

「――で、そーんなすごい子を相手に貴女は何してるのかしら〜?」

 

 前触れもなければ予備動作も無しで抱き着いてきた――上に、
そのまま怒涛の勢いで大きな独り言を語っていた淡い金髪の彼女――のおでこに人差し指を当て、
警告のような言葉と共に力尽くじつりょくこうしで彼女を私から離れさせようとするのは、
いつの間にやら私の背後に回っているエトさん。

 うふふ、と笑顔を浮かべているけれど、
その指一本から生じているパワーは、力が制限されているにもかかわらず尋常なモノではないようで、

 

「いいいいいいい……!くびっ……ぉれっ…ちゃぁ……!」

「っ…そう言う前に腕を解いて…!」

「………!」

「(強情…!)」

 

 エトさんの指によっておでこを押され、金髪の彼女の首が冗談みたいに反る――
――が、なぜか彼女はその苦痛から逃れようとしなかった。
…本人も言っているように、このままでは本当に彼女の首は折れる――
…もちろん、エトさんがそんなことをするとは思っていないが、
……なんて言うかこのヒトたち、意地張ってとんでもないことやらかす星の下タイプの気がするんだよね…!

 不慮の事故いやなよかんに悪寒を覚え、背後から伸びるエトさんの腕を掴む――
――と、一瞬はエトさんにムッとしたような視線を向けられたものの、
私の制止しゅちょうを尊重してくれるようで、静かに腕を下ろす――過程で、私の首に両腕を回した。
…なんかちょっと、命の危険を感じるな。

 

「ぇえと……一度、距離を取ってもらえますか?」

「……」

 

 背後に感じる圧もあり、状況整理のためにも金髪の彼女には一旦離れて欲しいとお願いする――
――も、返ってきたのは不満いっぱいの膨れた表情。
…良くも悪くも自分に素直な人なんだなぁ…と、思いながらうっすら苦笑いしていると、
背後でずわと奔った不穏な歪みに、一度は引っ込んだ危機感が蘇り、これをどうにかせねばと思った――
――ら、先ほどから金髪の彼女の斜め後ろで言葉をかけていた東洋人風の黒髪の女性が彼女の肩をポンと掴み――
笑顔(黒い)を浮かべて「ハンナ」と金髪の彼女のものであろう名を呼んだ。

 しばし、金と黒の彼女たちのむくれ顔と笑顔の睨み合いが続いた――が、
不意にエトさんの指がこつんと金髪の彼女のおでこを小突くと、小突かれた彼女はきょとんと驚いた表情を見せ――
――ふとそれを諦めと未練の混じった不満げなものに変えると、「む〜…」と不満げな声を漏らしながら、
彼女は自身の腕による拘束から私を解放して大きく一歩、後ろへと下がった。

 

「――ウチのメイデン・・・・・・・が、お騒がせしたね」

 

 ふいにのそと前に出てきたのは白の小熊――の姿をとったブルース。
…まさかこの場面でブルースが出てくるとは思っていたなかった――上に、
「ウチの」とか「乙女メイデン」とか含みのある要素たんごを並べられ――
――私の頭は一時、情報過多により機能を停止した。

 

「………もしかして……あなたが噂のブルース様?!」

「そうだよ――ソラウの心配の種」

「え」

「え、じゃないでしょう……挨拶も許可もなく神子様に抱き着いた上に、エトワールさんのいう事も聞かないで……」

「え?」

「………自分でも、言っていたでしょう――獣神ノイさまも褒めるすごい存在と」

「ぁあ――……でも、どうしてそれで私が団長の心配の種になっちゃうのよ?」

「っ――お前がっ、いつまで経っても人の立場・・・・を意識しないからよ!」

「ぅぴゅう!?」

 

 ――なにか、辛抱堪らない昂りモノがあったらしいプラチナの美女・リーザさんが、
カツカツと足音を立てて猛然と金髪の彼女に近づくと、
叱責のような不満のような指摘と共に――ぎゅうと彼女の鼻を強く摘む。
そしてそこから更にぐりとねじるのだから――これは痛い。

 先ほどまで平然としていた金髪の彼女が、
絞め殺される鶏のように余裕なく両腕をばたつかせて苦痛と驚きの声を上げるのも――…うん、まぁ…仕方ないね…。

 

「……ブルース様、先にリーザから紹介してもいいですか?」

「…後の仕切りはお前に任せるよ――そこの異世界人おいけてぼりにも分かるように、よろしく」

「うん?」

 

 ブルースが、愉しげでイヤな感情モノを覚える笑みを浮かべて
「分かるように」とパーシヴァルさんに念を押して――姿を消した。

 …この世界、そしてその情勢について知識が不足している自覚はある。
故に魔法史かこを学ぶだけでなく、時事いまニュースもんだいにも目を向け、
可能な限り前提じょうほうの不足を補おうと努力している――…のだが、
こと今回の話題ことに関しては、自分はそこまで情報の足りない御上りさんではない、と思っていた。

 獣神の事、精霊の事に関しては、ある意味で異世界人故に
この世界の平均の数倍の知識と理解があると思っていた――のですが、
どういうわけやらこの場で色々と分かっていないのは私だけのようです。

 ………てか、またしてもレオナさんとイデアさんまでわかってるってどういうこと?
…いや、この二人も一般人ふつうとはかけ離れた立場の例外ヒトだから、
常人ふつうでは知り得ない世界のなにがしを知っていたとしても不思議はないのだけど――

 

「リーザ、一旦こっちに来てくれ」

「っ……」

「痛い痛い!エトさんよりいたい〜!」

 

 パーシヴァルさんに呼ばれた――ものの、未だ昂ったものが収まらないらしいリーザさんは、
綺麗な顔を不機嫌に歪めてパーシヴァルさんから金髪の彼女に戻す――と、
知らないうちに指に力がこもっていたのか、リーザさんに未だ鼻を摘まれたままの金髪の彼女が「痛い!」と声を上げる。
…良くも悪くも相変わらずといった様子の金髪の彼女を前に、
リーザさんの顔にはなんとも言い難い苦い感情いろが浮かぶ――が、

 

「ぴゃう!?」

 

 パシーン!と、金髪の彼女の叫び声と共に響いたのは、彼女――のお尻が平手打ちされた音。
ビックリした表情を浮かべるリーザさん――の向かい側、
金髪の彼女の後ろで、ニコリと笑みを浮かべているのは黒髪の女性だった。

 自信というのか、なんというか頼もしさを覚える黒髪の彼女の笑み――
――に、逆立っていたリーザさんの気持ちも落ち着いたのか、
どこか納得したような表情でリーザさんは黒髪の彼女に向かってコクと頷くと、
摘み続けていた金髪の彼女の鼻から手を離し――毅然とした様子でこちらに向き直り、半歩だけ前へ進み出た。

 

「……………いいなぁ……」

「………話が進まないから一旦黙ってもらえるか?」