「彼女はエリザヴェータ・エイリクソン。ブリリラーサ王国の第一王女で――精霊士だ」
パーシヴァルさんによって紹介されたプラチナブロンドの美女・リーザさん――
――は、ブリリラーサという国の王女で、精霊士なのだという。
うん。洗練された品のある振る舞いは、
幼い頃から「王族」という特殊な象徴たり得る振る舞いというものを指導され、
そして王族としての責任を理解した彼女の努力の上に成った、
きっと「気品」と呼ばれるものなのだろう――…と、彼女が王女であることに関してはすんなりと呑み込めた。
…しかし――…精霊士ってなんですか。
「…まずは、彼女たちの紹介を済ませてしまってもいいか?」
目は口程に物を言う――というヤツか、
パーシヴァルさんは私の疑問を理解しているようだ――けれど、
私の疑問に答えるより先に、知らない顔の彼女たちの紹介をしたいらしい。
おそらく、先に彼女たちの紹介を済ませてしまった方が、疑問の答えの流れがスムーズなのだろう。
精霊士に対する好奇心はあるものの、
そこで我を通すことはせず、コクと頷いて了承の意をパーシヴァルさんに返せば――
「彼女たちは灰魔は緑の師団で部隊長を任されている――」
「ハンナ!ハンナ・リヤファクトよ!」
「………シャホン・ホユ、と申します…」
元気よく名乗りを上げてくれる金髪の女性――ハンナさんと、
何か諦めたような苦笑いを浮かべて名乗る黒髪の女性――シャホンさん。
私は彼女たちを知らなかったのに、彼女たちは私を知っていたのは、
彼女たちが灰魔の緑の師団の所属だから――もとい、緑の師団長であるソラウさんから話を聞いていたから、なのだろう。
…しかし、ソラウさんは私の事を一体なんと語ったのだろうか……。
謙虚な割に物の見極めは冷静なソラウさんのことだから、評価が盛られて伝わった――というこうとは無い、
…と思うけれど……やはりどうにも、ハンナさんのオーバーなリアクションには、ちょっと疑問を覚えざるをえなかった。
増える疑問を頭の隅にやり、名乗りに対してこちらも名乗りを返そう――
――とする前にパーシヴァルさんの視線に制され、口を開くことなくまたパーシヴァルさんの言葉を待つと、
「3人は生まれる前から精霊と契約を結んでいた、生まれながらの精霊使い――精霊士。
纏っている魔力の色が普通の魔法士とは違うが、
精霊と人のハーフとか、半精霊化しているとかではなく――彼女たち自体は純粋な人間だ」
「ほおー」
パーシヴァルさんによる精霊士についての解説に納得の声が出た――
――が、実を言うと頭に湧く疑問は、更にそのかさを増している。
しかしそれは超私的な知的好奇心に因る疑問でしかない――
今ここで答えを得たところで、何にも何処にも利も成さないただの好奇心でしかない――から呑み込んで、胸の奥にしまっておいた。
今日が余暇日で、ここがオンボロ寮なりであったなら、好奇心いっぱいにアレコレと話を聞きたいところ――
――だけれど、特大の課題を携えた上で精霊たちの神事に参加しなくてはならない状況では、
不必要な好奇心に時間を費やすなど贅沢の極みだ。
湧き出す疑問の全てを頭の片隅へと追いやり、私は後ろ――エトさんに視線を向ける。
すると、私の望んでいること察してくれたらしいエトさんは、ニコと笑って腕の拘束から私を解放して一歩後ろに下がる。
それに私は感謝の意を込めて頷いて――
「改めて自己紹介を――幽霊劇場にてマネージャーを務めております、・リュグズュールです」
「――ん?アレ?アロガンス、…じゃないの??」
「ぇ――ぁ、ぁあー………あー……違う…んですよ…」
「でも、妹なのよね?レイヴの!」
笑顔で兄さんの妹なのだろうと尋ねてくるハンナさんを前に、
私が返したのは――苦笑いしながらの肯定だった。
ハンナさんがどうというわけではないし、
血の繋がらない兄妹に後ろめたさを覚えたというわけでもない――
――が、異世界も元の世界も違う姓が、今更おかしく感じたのだ。
………ただまぁぶっちゃけ言うと、義兄さんどころか、両親とも双子の弟とも違うんですけどね。苗字。
「レイヴからいっぱい話は聞いてたけど――想像より落ち着いてるのね!」
「ぇ…………ぃや、あの…それ……幼少時代の印象では……」
「…TWLに来てからのご活躍も含め――ですよ」
想像よりも落ち着いている――と言うハンナさんを前に、
兄さんの情報は些か昔の事ではないだろうか――と指摘するものの、
ニッコリと笑顔を浮かべたシャホンさんに「最近の」と尻尾を掴まれた。
…ぁ、これはとっても悪い流れだな。
この手のお姉さんのこの笑みは、大抵ロクなオチにつながらない――だって言い逃れさせてくれない、からね!
「幽霊劇場の再開も驚いたけど、それよりハロウィーンウィーク!
あなたの無茶苦茶を考えたらっ、レイヴの破天荒がかわいく思えちゃったわっ!」
「ぇ、ぇえー……無茶を冒したことは、否定のしようが無いんですけど………無茶苦茶までは……」
「無知は至福――旧灰魔の理不尽を知らないお前には『大した事』ではなかったかもしれないが、
…ハンナたちは、命懸けでその脅威と対峙したんだ」
「…」
怒気を含んでいるわけではない――けれど言葉に重い何かを乗せ、パーシヴァルさんは事の程を説く。
HWWの一件――旧灰魔残党による幽霊劇場管理人誘拐未遂は、自分を囮にするという私の無茶苦茶が、
水面下でそれを容認した藍と紅の師団長のフォローによって成り――何事無く解決していた。
本件は、有能な大人たちの容認とフォローがあった上で成立していた――
――とはいえ、私が冒したのは無茶であって、無茶苦茶なんて大それたことではない――
…と、思うのだけれど、彼女たちがかつて「命懸けで」対峙したと言われてしまうと、さすがに言葉に詰まる。
……それにもし、本当に相手方全員がなりふり構っていなかったなら――
…犠牲が、出ていただろう――そう、思い至れば、確かに私の選択は無茶苦茶――見通しの甘い、安易な選択と言えた。
「も〜パーくん、私別に怒ってないんだけどー?」
「………」
「あ、因みに私はちょっと怒ってますよ」
「!」
「え〜の行動は間違ってなかったと思うけどなー――牽制の意味で」
「……それは結果論でしょう?失敗のリスクを考えたらとても妥当な策だったとは言えないわ」
「そこはアレ――後手を取るな、リスクを取れ!よっ」
「「………〜…」」
かつて自分も口にしたことのある格言を、ハンナさんは自信満々といった風で言う。
それに対し、ハンナさんとは違い私の選択に対して否定的な感情があったらしいパーシヴァルさんとシャホンさんは――
…諦め混じりの苦い表情で小さくため息をついた。
…確かにこの格言、理屈的には間違ってはいないから…ねぇ……。
…とはいえ現実はこんな単純じゃないから、コレが極論であることも、また正しいのですけれど……。
「ふふっ、そー考えるとって――無責任よね!」
「――ッッ!!!!!」
脳天に雷が落ちたかのような衝撃――…とは、コレ、を…言う、のだろう…。
ああ、思考がフワフワして…全身がサワサワと――冷える。
目の前をチカチカと白い光が奔って、視界がクラクラと揺らいで――
――虚空に落ちるかのように、ストンと、膝から力が抜けた。
「「!?」」
「!?」
「えっ、え?!一体どうし――」
「――神子様を傷つけた張本人が、なにを言っているのかしらね?」
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