【 只今、資金調達中 】

 

【シロー】
 これって詐欺の一種だよね。
【コージロー】
 ……詐欺?…なにがだ??
【シロー】
 おひねりを置いていってくれる人たちは、
みんなレイリの歌になんらかの感銘を受けてお金を置いて行くけど、
実際は感動しているんじゃなくて感動しているように錯覚してるだけだからさ。
【コージロー】
 …いや、レイリの歌は十分にお金をもらえるものだと思うが…。
【シロー】
 でも、小細工ゼロで歌ったら絶対に収穫は減ると思うよ。
【コージロー】
 まぁそれは……、レイリの歌は一種の催眠みたいなものだからな…。
【シロー】
 ほら、やっぱり詐欺だよ。
【コージロー】
 …………。

 

 この…!人が口を出せないからっていけしゃあしゃあと…!!
 確かに。確かにシローとコージローの言うとおり、私の歌――
いや、歌声には催眠効果があるわよ。
あと、歌自体も妖術の応用みたいのも使ってるし、衣装もちょっと細工を……。
 …ああ、なんだ。本当にただの集団催眠じゃない。
うわー…、物凄いやる気が削がれてきた。もう歌うの面倒になってきたんだけ――

 

【シロー】
 レイリー、ちゃんと歌わないとお客さんに失礼だよ。
みんな、少ないお金を善意でレイリに置いていってくれているんだから。

 

 ……さっきまで私を詐欺師呼ばわりしていたヤツが言うことか。
そもそも、善意じゃないでしょう。善意じゃ。

 

【コージロー】
 自分で言っていたじゃないか、あくまで術の類は拡散機でしかない。
心をこめて歌わなくては、誰の心にも響かない――興味すら持ってもらえないと。
【シロー】
 レイリのやる気の抜け具合が、お客さんの表情に如実に表れてるよ?

 

 シローの言うとおり、私のやる気のなさが観客たちにも現れている。
私が歌うことを面倒に思ったように、彼らも歌を聴くことを面倒に思い始めている。
 そうでしたね、そうですよ。ちゃんと歌わないと駄目なのよね。
おひねりを置いていくのは催眠的な部分が大きいけど、
観客たちの足を止めるのは私の声。観客たちの心を掴むのは歌の力。
 気の抜けた歌でやっていけるほど、優しいものじゃないのよね。
――吟遊詩人っていうのも。

 

【シロー】
 でも、結局は詐欺なんだよね。
【コージロー】
 シロー…もう掘り返すな……。

 

 

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