疑問その2
「吸血鬼ってなに?」

 

 えーと、次の質問は――
――あら、「ユーイチ」って思いっきり実名できたわね。
 名前を伏せてまで、
自分であることを隠す必要はないですから。
 あらまあ、男前発言ね――ご尤もとは思うけれど。
 一応、俺は吸血鬼ですけど、
まだ吸血鬼としては半人前の身ですから。
 ……本当にまだ「半人前」よね。
まだ微妙に人間の匂いがするもの。
 …わかるんですか?
 これも吸血鬼の「機能」の一つよ。
自分の糧になる人間の匂いに対して敏感なの。
 あ、因みに人狼たちには劣るけれど、
そもそもの嗅覚も人間より遥かに優れているのよ?
 ……そういえば最近、
ニンニク料理を食べるのが辛くなってきた気がします…(汗)
 吸血鬼がニンニクが苦手っていうのは、
こういうところから生まれ始めたんでしょうか…。
 まぁ、もともとニンニクは魔除けの効果があると
信じられているけれど――人から吸血鬼になった吸血鬼は、
特にニンニクを苦手にする個体が多いわね――その臭いで。
 …マスターは……大丈夫なんですよね…?
 ええ、私は大丈夫よ。
人間より嗅覚は優れているけれど、
その状態が日常化してしまえば、ただの日常だもの。
 ――ただ、人狼組が嫌がるからあまり料理に使わないけど…。
 人狼…とはいえ、狼は狼なんですね……(苦笑)
 よーく炒めたたり、煮込んだタマネギは大丈夫なんだけど、
ニンニクは使うことすら嫌がられるのよね…。
色んな料理で風味を出すのに必要だから使いたいんだけど…。
(思考が献立を考えるお母さんだ…)
 ――っと、話を逸れたわね。
 ああ、そういえばそうですね。
ではマスター、【吸血鬼】という魔物について教えてください。
 ………とりあえずユーイチが、
吸血鬼について知っていること披露してくれないかしら?
 俺が――ですか?
…はい、わかりました――あまり詳しいとはいえないんですが、
 吸血鬼とは、数いる魔物の中でも上級の魔物であり、
その魔物の中でも人間へ最も害をなす魔物である。
 吸血鬼が人になす害とは、人間への吸血行為。
それにより死を迎えるか、眷属としての生を歩むことになり、
その多くは悲劇となることが多い。
 人ならざる魔性の容姿を持つも、その姿からは想像できない
高い身体能力、強靭な皮膚を持ち、また再生能力も有す。
特に夜間に力を発揮でき、背の黒い翼で飛行も可能。
様々な特殊能力を有し、また魔力も持つため魔法にも長ける。
 ――こんなところです。
 基礎はちゃんと押さえているわね――
――ただ、「魔力を持つ」のは人間と一緒で個人差があるわ。
 特に被害体はこの差が顕著ね。
主になる吸血鬼の魔力量にも左右されるから、本当に色々よ。
 ……なら俺は………?
 そのうち、魔力ってものが身に付くでしょうね。
魔法剣士ぐらい目指せるレベルはきっと身に付くわ。
 魔法剣士…ですか。なんだか魅力的なジョブですね。
……さすがに、極めるとなると、難しそうですが……(苦笑)
 魔法の師匠は私でどうにかるだろうけど……。
極めるとなったら、剣術は私じゃあ荷が重いわね(汗)
――ま、それはおいおい考えるとしましょう。
 そうですね――あの、マスター?
マスターは吸血鬼の出自、って知っていますか?
 ん?吸血鬼の出自??――ああ、諸説あるわね、
史実の人物からの派生、魔術により蘇った死体、やらなんやら。
 ええと、できれば、
伝承ではなくて、真実を知りたいん――?!
 ――買いかぶってくれないでちょうだい。
常日頃、訳知り顔してますけど、そこまで知らないわ。
 吸血鬼は確かに長命だけれど、出自とまでなると、
神話時代にまで遡るるから、流石に文献も碌に残ってないのよ。
 ……神話時代??
 国を作り、天へと昇り、人を作った――神。
人に悪を教え、天より堕ち、天を滅ぼさんとした――魔族。
――そんな神様と魔族がどんぱちやっていた時代ことよ。
 ……ああ、それなら………。
…でも、人が作った神話だと思ってましたけど…
…史実、だったんですね。
 ――さぁ?
 !?(ずっこけ) ぇええっ?!
 さっきも言ったでしょ?
神話時代の文献は、碌なものが残ってないって。
 そ、それはそうですけど……。
 それに、吸血鬼の出自における最大の論争点は、
誰により生み出されたか――であって、時代はどうでもいいのよ。
 ……誰によって?
 ええ、最も信憑性が高い説が、
初代リリスと夢魔によって生み出された説――で、
最も支持されているのが、初代ルシファーと夢魔によって――
――個人的には、どちらでもいんだけど。
 ……どうでもいいんですか…。
 吸血鬼の出自がどうであれ、
今更、私たちがどうということもないじゃない?
…結局ね、この論争の本質は「どちらが箔がつくか」なのよ。
 …え?
 吸血鬼が魔族の血を引いている――
――それ故、吸血鬼のプライドは魔物の枠に収まっていない。
加えて、原点が有力な魔族ともなれば――
なおさらに吸血鬼の魔物としての格は上がる――って話。
 ……………(汗)
 生物として、吸血鬼は強い力を持った魔物であるけど、
理性と知性を得た分、魔物にしては人間っぽい魔物なの。
――ま、人間も理性と知性を得た動物って考えれば、
ある意味同じラインのモノなのかもしれないけれどね?
 ……でも、世間的には吸血鬼って、
あまり人間味のある魔物とは言われてないですよね…?
 まぁ、それは「世間」のいう吸血鬼が、
私たち【真祖】ではなく、【被害体】を指しているからよ。
圧倒的に数は被害体の方が多いものねぇ。
 ……俺も、時間が経過すれば、
世間で言われる吸血鬼みたいになってしまうんですか…?
 それは心配無用よ。
吸血鬼としての劣化が顕著に現れるのは、第三世代からだもの。
第一世代は、多少血に対して敏感になるけど――
――その辺りは私がフォローしてあげられるから問題ないし。
 血の欲求へのフォロー……ですか?
 吸血鬼の吸血衝動は、魔力不足によって引き起こされるもの。
理論上、魔力が満ちてさえいれば、吸血衝動は起きない――
――ってことだから、魔力を供給して吸血衝動を抑えるのよ。
 ……でもそれだと、マスターの吸血衝動は………?
 ――――。
 …マスター(呆)
 大丈夫。大丈夫。伊達に歳喰ってないもの!
 そ、そういう問題じゃないでしょう…(汗)