『主、なぜリゲルだけをバトルに使わないのですか?』

 

 ロクショウジムにおけるアルトの定位置――大木の木の上から、
アルトがジム戦の状況を見守っていると、不意にペリッパーがアルトに声をかけてくる。
 このペリッパーは比較的まじめな性格で、ジムバトル中には私語を慎む傾向があるのだが、
今日に限ってはなぜかペリッパーはジムバトルに関係のない話をアルトに振ってきた。
 ペリッパーの意外な行動に、アルトが思わす「はい?」と間抜けな声を出すと、
ペリッパーはアルトの疑問に気付いているのか、自分がアルトにこの話題をふった理由について答えた。

 

『今回の挑戦者は主が出る前に終わります。
それに、挑戦者の移動はノーブルさんが担当してくれるようなので』

 

 そう言ってペリッパーが指差す方向には、一羽のスワンナが静かに控えている。
どうやらペリッパーの言うとおり、今回の挑戦者はあのスワンナが休憩所まで運んでくれるらしい。
そうなると、現在ジムに挑戦している挑戦者の挑戦が終わっても、
ペリッパーに仕事が回ってくることはなく、アルトと話をしても途中で話を中断されることがないということだ。
 アルトとしてはそれほど大それた話題とは思っていないのだが、
ペリッパー――いや、アルトのポケモンという立場からするとこの話題はだいぶ込み入った話題になるらしい。
真剣な表情を浮かべているペリッパーになんとなく申し訳ない気持ちになりながら、
アルトは「たいした理由じゃないんだよ?」と切り出した。

 

「リゲルは俺のファーストパートナーだからさ、
どーせだったらこう――知らない土地を冒険しながら修行したいじゃない?」
『……なんですか、その理由は』
「だから、リゲルを相棒に見知らぬ土地を旅して回りたいなーと」

 

 リゲルに才能がないのか、アルトと性格的相性が悪いのか、ミジュマルというポケモンが嫌いなのか――
色々とペリッパーはアルトがミジュマルのリゲルをジムバトルに一切使わない理由を考えていたのだが、
その想像はものの見事にすべて外れた。
 まぁ、ペリッパーの想像はどれもネガティブな想像だったので、
外れてくれた方が実際問題はよかったのだが、
外れ方が微妙というか、正解の内容が微妙というかで、
ペリッパーの内心としては素直に納得できる答えではなかった。

 

「――と言っても、行くのはイッシュ地方って既に決まってんだけどな」
『…はい?』
「ほら、イッシュにはじじいの知り合いのアララギ博士がいるだろ?その関係で――」
『その間、我々はどうするのですか』
「ぅおっ」

 

 ずいと近寄ってきたペリッパー。
その顔には凄みがあり、アルトの返答によっては暴力沙汰になる可能性も否めない。
 だが、これはアルトの中で既に決定していること。
今更この決定を曲げるつもりはないし、妥協するつもりも皆無。
ここはどんなことになっても彼らにわかってもらわなくてはならなかった。

 

「みんなにはジムポケモンとしてロクショウジムに残ってもら――べよっ!

 

 なんの前触れもなくアルトの顔面にぶつけられた泥の玉。
 泥の玉が飛んできた位置を冷静に考えながらペリッパーが視線を下に向けると、
そこにはムスッとした表情のナマズンがたたずんでいた。

 

『…ポリマ……』
『彼女の気持ちも、わからなくはないですけどね』
『…相変わらず、あなたは冷静ですね』
『そうでもないですよ。ポリマが制裁を下していなければ、きっとボクがやっていました』
『………』

 

 アルトに向かって泥の玉――泥爆弾を投げつけたナマズン――ポリマを見ていたペリッパーに、
不意に声をかけてきたのは一匹のカメール。
 平然とした様子で話しに加わってきたカメールに、
ペリッパーは「冷静なものだ」と感心しながら言葉をかけるが、
カメールは冷静を装っているだけで、
実際はアルトに対して腹を立てているのはポリマ――そして自分と同じようだった。
 そこでいったんペリッパーの思考は冷静なものに切り替わり、
ポリマの泥爆弾をうけながらも、しぶとく木の上にとどまっている泥だらけのアルトに視線を向けた。

 

『チームの半数以上が主のイッシュ行きに否定的ですが、それでも考えを改めませんか?』
「うん」
『……少しは悩んでください』

 

 一片の迷いもなくペリッパーに返ってきた答え。
嘘でも悩むそぶりぐらいあってくれてもバチは当たらない気がするのだが、
アルトはそんなことはせずにド直球で自分の気持ちをぶつけてきた。
 素直――というよりは、ただのワガママ。
肯定されないことを分かっていながら、
自分の欲求を突き通しているだけの――自己中心的な答え。
 アルトの答えがそれだということは重々承知している。
――が、だからといってそれを否定できるかといえばそういうものでもない。
愛想をつかせて彼の元を去るという選択肢はある。
しかし、それを選ぶことは、今もこの先も絶対にないだろう。
 暢気で、間抜けで、緊張感がなくて、アルトがワガママで、自己中心的だと分かっていても、
彼のポケモンとしていたいと思わせる――カリスマ性がアルトにはあるのだ。
 そのカリスマ性がアルトにあるうちは、
ペリッパーたちはアルトのワガママに振り回され続ける以外の選択肢はなかった。

 

「ふごっ!ちょっ、あだっ、ポリっ、マっ!痛い!ちょいっ、マジっ、やめ――げふっぅ!

 

 止め処なく連続でアルトに向かって放たれ続ける泥爆弾。
もちろん、放っているのはポリマだった。
 彼女もペリッパーとカメールと同じくアルトのワガママに付き合うという選択をしている。
だが、だからといって完全に納得しているわけではなく、
考えを改めてくれるのであれば、そちらの方が断然いい――
そんな気持ちもこめて、ポリマはアルトに向かって泥爆弾をぶつけ続けているのだろう。
 あれも一種の愛情表現の形。…やや過激ではあるが。