「は〜協会から呼び出しかぁー」
ロクショウジムを後にして、アルトの家へ向かって移動する途中――
アルトはポケモンたちからシセン不在の理由を、そして今回の騒動の事の起こりについての説明を受けていた。
定例会合ではなく、緊急のジムリーダーへの集合要請だったらしく、
長年の勘からよくない知らせと踏んだシセンは、パートナーであり、ジムポケモンたちの長であるナマズンの湖太郎を伴って、
協会本部のあるクガネシティへと向かったのだという。そして、そのほかにも、ジムポケモンの中の実力者を連れて行ったため――
ジムポケモンたちをまとめる存在がいなくなり、残ったポケモンの中でも特に力を持つ、
オーダイルたちが頭領代理の座をめぐって口論をはじめ――結果、大乱闘に発展したという顛末だった。
「んで、ビレオが機転を利かせて泰子ちゃんを迎えに行ったってわけか」
『我々では、あの方たちを止めるなんて無理ですから』
『でも、アタシが地割れでドーン!しよっか?って言ったら――』
『「それはそれで怖いのでしなくていいです」――と、ビレオさんが』
「あー…うん。まぁ、ビレオの言いたいことはわからんでもないよ、うん」
『…そういう部分で、察しがいいのは助かりますよ』
Nを背に乗せ、そう言葉を返してため息を漏らすペリッパー――アルビレオ。
そのアルビレオの様子を見たポリマは、「なにそれー」と不満げにアルビレオに言葉を返し
――たかと思うと、ザプンと水中へと潜った。
そして、それに伴って――ポリマの背に乗っていたアルトも、強制的に水中へと潜らされた。
「ぷはっ!マリちゃん!俺に八つ当たりしないでよ!」
『八つ当たりじゃないもん。アタシ、アルトにも怒ってるのー』
「おぶっ」
またしても、何の前置きもなく水中へと潜るポリマ。
当然、それによってアルトも再度、水中へと引きずり込まれる。ただ、このやり取りは既に彼らにとっては「恒例」となっているのか、
止めるものもなければ――アルトが本当に溺れるようなこともなかった。
『お見苦しいですが――気になさらないでください』
「………」
乱暴を通り越しているようなアルトとポケモンたちの状況に、困惑一色の表情を浮かべていたN。そんなNをフォローするかのように、アルトたちのことを気にするなとアルビレオは言うが、
Nにはとても放っておける状況ではない気がした。
「…キミたちは……アルトが…嫌いなのかい…?」
『――そうですね、ワガママで自己中心的なところは嫌いですね』
「…………」
言いよどむことなく、これでもかというほどに、きっぱりとアルトを嫌いだと言い放ったアルビレオ。取り付く島もないようなアルビレオの返答に、アルトのフォローも叶わずNがどうしたものかと困惑していると
――不意に下から楽しげな笑い声が聞こえた。
『ボクたち全員、アルトのそういうところは嫌いですが――アルト自体は、嫌いではないんですよ』
「え…?」
『アルトは…優しいから…っ』
恥ずかしそうにポルックスはそう言うと、トプンと音を立てて水中へと潜ってしまった。
カメール――メディアとポルックスの言葉の意味が理解できなかったNは、ぽかーんと水面を見つめていると――
突然、ザバァ!と大きな音を立ててアルトを抱えたポルックスが水面に浮上する。
そして、それからややあってから、ポリマも水面に顔を出した。
『もーポルってばつまんなーい』
『つ、つまんないじゃないよ…!ア、アルト、死んじゃうところだったんだよ!?』
『えー死なないよ〜。アルトだもん』
『…………』
『あながち、否定できないから始末におけませんよね』
『…まぁ、本当に若干死にかけてはいるようですが』
「…………」
ポルックスの背でぐったりとしているアルト。
どうやら、あやうくポリマによって溺死させられることろだったらしい。
それを、ポリマの意図に気づいたポルックスによって救われた――という状況のようだ。
これらの行動は、アルトを嫌ってのもの――とも思える。
だが、見方を変えれば――遠慮がない、本心でぶつかっている、とも言える。
きっと、彼らの場合は――後者なのだろう。
ここまでポケモンたちと本気で気持ちをぶつけあえる――
そんなアルトが、Nはうらやましくなった。が――
『アルトのワガママが過ぎるだけだろう』
マタンはそれが嫌なようだった。