『っかぁ〜!やっぱあの2人がいないと気楽でいいな!』
海上を飛びながらそう言うのはボーマンダの朱羽。朱羽の言うあのふたりとは、ゴウカザルの赤焔とフライゴンの緑翼のこと。
彼女たちはトレーナーであるキラに対して異常なまでに過保護で、
キラが軽くとも怪我でもした日にはパーティー全体が厳戒態勢で傷の治療に専念するほど過保護なのだ。だが、キラがホウエンにきたことによってふたりはボックスに預けられ、今はキラの手持ちにいない。
なので、キラのちょっとしたことでいちいち怒られることもなくなり、朱羽はこの「自由」を満喫していた。
『朱羽、あまり気を緩めすぎるな』
『ぁんだよ黒鴉』
頭上から降ってくる苦言に朱羽は不機嫌そうに上を見上げる。
すると、朱羽の頭上を飛んでいた影が器用に朱羽の横につく。
改めてその影――ドンカラスの黒鴉を見てみると、その表情には不満そうなものがあり、
朱羽に対して不満があることは火を見るよりも明らかだった。
『キラにもしものことがあったらどうする』
『あーお前まで緑翼と同じかよ』
『…キラが心配だというのもあるが、
何かあったときにあの二人からまず一番に責められるのは俺なんだぞ』
『あー…』
一番に責められる。
黒鴉のそのセリフを聞き朱羽は一考する。たとえば――今キラを海に落としたとしてみよう。
『キラを海に落としたァ?』
『アンタ、罪の重大さがわかってんでしょうねェ』
『『まずは歯ァ食いしばんなさい!!』』
『うぉおおお…!!』
『どうだ?ことの重大さがわかったか?』
『すんませんでした!』
「ッ!?」
『キラ!』
『うわっとい!』
黒鴉に向かっておもっきり頭を下げた朱羽。
しかし、背中にキラが乗っていることを忘れて勢いよく頭を下げたせいで一瞬キラの体が宙に浮く。
慌てて黒鴉が声を上げると、朱羽がバランスを取り直し、なんとかキラは体勢を持ち直すことができた。ホッとしたのもつかの間。
朱羽は次の瞬間には黒鴉の鋭い睨みが突き刺さっていた。
『黒鴉!落ちつけって!これは不可抗力!偶然の賜物!ハプニングなんだって!』
『………』
必死に謝る朱羽に対して相変わらず睨みつけるを解除しない黒鴉。
しかし、朱羽を不憫に思ったのかキラが不意に口を開いた。
「黒鴉、朱羽も反省しているんだから許してあげて」
『………』
「ね?」
キラがそう言うと黒鴉は小さなため息をつき、
朱羽に「次はないぞ」と言葉を投げるとグンッと高度を上げ先ほどまでと同じ位置に戻っていった。それを見て朱羽はホッと胸をなでおろし大きなため息をついた。
「朱羽、次からは気をつけてね」
『おう』