「キラ、ギャラドスしか釣れないね」
「…うん」

 

マーキャ地方のコキアケタウンの端にある小さな湖。
そこは濃霧に覆われていることが多く、滅多に地元の人間でも訪れない場所。
なのに、幼き日のキラとビブラーバ――緑翼は訪れていた。
今日は珍しく湖の霧は晴れておりキラと緑翼は新たな仲間を求めて釣りをしていた。
だが、「龍の里」とも呼ばれるこのコキアケタウンの湖では釣れるポケモンはコイキングかギャラドスと決っていた。
キラもその例にもれないようで、先ほどから釣り上げているのはギャラドスばかりだった。

 

「ねぇキラ、どーせなら龍の岩倉に行こうよ。あっちの方がフカマルとかミニリュウがいるよ?」
「……今日はここで粘る」

 

キラの言葉に緑翼はすぐに黙る。
本当はドラゴンポケモンがたくさん生息する龍の岩倉と呼ばれる場所に行きたかったのだが、
キラが「NO」と言った以上、それに逆らうつもりは緑翼にはさらさらない。
もし意見を言ってキラに嫌われでもしたら緑翼はもう立ち上がることができなくなってしまう。
そう、緑翼にとってキラの言葉は絶対なのだ。

 

「…あっ!」
「かかったね!」

 

キラの持っている釣り竿がしなる。それを見て緑翼はすぐさま戦闘態勢にはいる。
緑翼が戦闘態勢になったことを確認してキラはぐいっとつり竿を引き上げる。
つり竿のひきはなかなかに強い。
ギャラドスのヒットだろうと思っていたキラたちの前に予想外のポケモンが姿を見せた。

 

『げほっ、げほっげほっ!』
「タツ…ベイ??」
「なんでこんなところに?」

 

なんとキラが釣り上げたのは1匹のタツベイだった。
あまりに予想外な状況に唖然とするキラと緑翼。
だが、タツベイが宙でジタバタと暴れていることに気付いてキラはすぐさまタツベイを地上に降ろした。
すると、タツベイはポンッと音を立てて擬人化した姿へと変わった。

 

「君、大丈夫?」
「これが大丈夫なように、げほっ、見えんのかよお前!げほっ」

 

怒鳴ってくるタツベイにキラは困惑しながらも「大丈夫そうじゃないね」と言う。
すると、不意に緑翼が擬人化した姿から元の姿に戻るとタツベイに向かってソニックブームを放った。

 

「てめっ!なにしやが――」
『アンタ、なに私のキラに文句言ってんのよ』
「ひぃっ!?」

 

ソニックブームの態勢をとりながら緑翼は怒りのオーラを出しタツベイを威嚇する。
相当緑翼の攻撃が痛かったのかタツベイは情けない声を上げてズササッと後ずさる。
それを見てキラはタツベイを不憫に思ったのか緑翼に「やめて」と言った。

 

「ごめんね、もうなにもしないから安心して」
「ほ、本当だろうな」
『アンタの心がけ次第だよ』
「緑翼」

 

少し怒った表情で緑翼に注意の言葉をかけるキラ。
すると緑翼はタツベイに視線をやりながら「ふんっ」と小さく言ってキラの横についた。

 

「ねぇ、君のこの湖に住んでるの?」
「…んなわけねーだろ。俺はただ……」
「ただ?」
「お、落ちたんだよ!空を飛ぶ練習に夢中になってて……」

 

顔を真っ赤にしてタツベイは語る。
それを見てキラは「そっか」と笑うことをせずに話を終えた。

 

「それじゃ、今度は気をつけて空を飛ぶ練習をしてね」
「な、なんだよ。ゲットしないのかよ」
「…、ゲットして欲しいの?」
「なっ!ぅんなわけあるかよ!」
「うん、じゃあ、ゲットしない。……それじゃあね」

 

タツベイにそう言葉を返してキラはバケツとつり竿をもって緑翼とともにタツベイの前を去ろうとした。
だが、不意にキラの前に黒い影が躍り出た。

 

「…?どうしたの?」
「俺とバトルしろ!んで、俺に勝ったらゲットされてやってもいいぜ!」
『はァ?アンタ、私に勝てると思ってんの?』
「や、やってみなけりゃわかんねーだろ!なんだ、それとも怖くて臆病風にふかれちまったか!」

 

タツベイの挑発に緑翼が食って掛かろうとする。
だが、それをキラは手で制してすぅっとタツベイを見た。

 

「それ、私たちへの挑戦として受けとっていいのかな?」
「ったりめぇだ。そう簡単にはゲットされてやんねーからな!」
「それじゃあ、緑翼お願い]
『了解よ!』