ポカポカの日差しを浴びながら、今日もキラは木の実の世話をしていた。
キラは母親から一家の木の実の管理を任されている。
といっても、足りなくなった木の実を育てて収穫するだけだ。
どの木の実を育てるかなどのプランはすべて母親が指示してくれる。
要するに、母親が監督で、キラが作業員といった感じで、手伝いの延長線的な感覚だ。
川の近くに作られた木の実畑。
木の実の水遣りに使う水は、水道水ではなくすべてこの川から汲んでいる。
この川の水はとても澄んでおり、上質な木の実を育てるのに一役買っていた。
ただ、この川にはちょっとした危険がある。
川の上流に位置する場所であるため、川幅は広くはないが、流れが急なのだ。
もしもの事態を考えて、水を汲む場所は川の流れを緩やかになるように多少形を変えたが、
それでも基本的な流れは変わらず、急なものだった。
しかし、普通に作業していればそれほどこの川は危険要素にはならない。
そう、普通に作業していれば。

 

「…ふぅ」
『ヨプの実、もうすぐなりそうね!』

 

ヨプへの水遣りを終えて息をついたキラの横で嬉しそうにそう言うのはビブラーバの緑翼。
辛い味を好む緑翼にとってヨプの実は大好きな木の実。それの収穫時期が近いのだから喜ぶのも当然。
喜ぶ緑翼を見てキラも嬉しくなったのか「そうだね」と笑顔を見せた。
2人の間に流れる穏やかな空気。緑翼にとってそれが何よりも幸せな時間。
しかし、それを良しとしないものが当然いるわけで――

 

『キラー!こっちのパイルも実がなりそーうッ!!
『ぐがぁっ!』
『キラ、そろそろマトマの水遣りの時間だ、よっ?
ギャー!!

 

解説しよう。
まず、フカマルの藍陸が緑翼にタックルし、緑翼にダメージ。
次にミニリュウの橙飛が、叩きつけるで緑翼と藍陸をぶっ飛ばして、2人にダメージ。
なので、今キラの前にいるのは橙飛だけということになる。
あまりにも暴力的な場面。
普通の人間であれば顔面蒼白でぶっ飛ばされた二人の元へかけよるのはずなのだが、
残念なことに、キラはこの暴力的な場面を幼い頃から見ているために、
ドラゴンポケモン特有のじゃれあいなのだと認識しているので、動揺すらしない。
なのだから、ぶっ飛ばされた2人に「大丈夫?」と声ぐらいはかけるが、
駆け寄っていかないし、攻撃した橙飛と責めることもしなかった。
一般的思考とかけ離れた状態ではあるが、
彼女たちにとってはこれが「日常」であるため、改善される兆しは皆無だった。
勝者となった橙飛とともに、
マトマの実の水遣りに向かうキラを眺めながらタツベイ――朱羽はため息をついた。

 

『なんつーか…なぁ……』

 

情に満ち溢れた世界ではある。
しかし、その情が生み出す暴力といったらない。
キラからの愛情を得るために悲惨なぐらい戦いまくる3人。
本人たちはそれを苦にしていないのだからそれでいいのかもしれないが、
巻き込まれる――というか、負けた腹いせに八つ当たりされるこちらはたまったものではなかった。

 

『はぁ〜…あいつがこれを異常だと気づいてくれりゃあ…』

 

限りなくゼロに近い希望をつぶやいて朱羽は落胆する。
この環境下ではまずそれはない。何度も言うようだが、この異常が、彼女たちの日常。
日常が異常だと理解するには、よほどの衝撃がなければ不可能だ。
「へっ…」と苦し紛れに笑って朱羽は空を見上げた。
ああ、早く空を飛べるようになりたいな。
空を飛べたらあの恐怖から逃れられるのに。
……いや、でも待てよ?
自分が進化した頃にはあいつらも進化してるんだから…、あれ?逃げ場なし?
不意に気づいた悲しい事実に朱羽は思わず泣きたくなった。
だが、朱羽は泣くことすら許されない立場――いや、状況にあるようだ。

 

………

 

ユラリと朱羽の背後に立つ緑翼と藍陸。
2人から放たれるのはいうまでもなく殺気。
この状況で朱羽を待ち構える運命など、容易に想像できる。
超容易。物凄く容易。さぁ、いざ行かん!
時空の彼方へ!

 

ぅおらぁあッ!!
『ぎゃあぁぁ―――!!』

 

怒り任せに朱羽に突撃してくる緑翼と藍陸。
言うまでもなくぶっ飛ばされた朱羽はいつもどおりの場所に落ちた。

 

ボチャーン

 

響いた音。
聞きなれた嫌な音にキラは慌てて振り返る。

 

「朱羽!!」
『ぐおっ!溺れるっ!いや、溺れてる!!』

 

当たり前のことだが、朱羽――タツベイは泳げない。
なので、流れの急なこの川では当然のごとく溺れる。
しかし、朱羽の生死がかかった緊迫した場面も3匹からすればぶっちゃけなれたもの。
いつもどおりのパターンで朱羽の救助を開始した。

 

『そらっ!』
『ぅおっぷ』

 

朱羽に向かって――というか、朱羽の近くの水面を狙って緑翼がソニックブームを放つ。
それによって朱羽は川から宙へと放り上げられる。それを緑翼がキャッチするかと思われるが、そうではない。
橙飛の尻尾に藍陸が乗り、橙飛が朱羽に向かって藍陸を投げる。
弾丸のようなスピードで藍陸は朱羽へと向かう。そして、藍陸は朱羽に突進を決めた。

 

『どりゃ!』
『ふがっ…!』

 

藍陸に突進を決められて朱羽は対岸の草原に突き飛ばされる。
一方、朱羽を突き飛ばした藍陸といえば、しっかり緑翼にキャッチされていた。
この寿命を引き換えに命を永らえる朱羽の救出劇を眺めながら、
この輪に入れない2人――タッツーの碧嵐とコイキングの水叫は思う。

 

(蚊帳の外でよかった…)