ゆったりと流れる雲。
それを眺めながらキラはあくびを漏らした。
寝不足ではない。毎日十分に睡眠はとっている。
だが、この柔らかな日差しは、そんなキラであっても眠りに誘った。

 

『…………』

 

ボールから出していたリーフィアの翠葉はすでに眠りについている。
キラの太ももにあごを乗せて眠る姿はとても愛らしい。思わずキラは微笑を浮かべた。
他のポケモンたちはどうしているのだろう、とキラが翠葉以外のポケモンたちに目を向けると、
彼らもまた、暖かな日差しの魔力に負けて、眠りにつこうとしていた。
そんなポケモンたちを見てキラは自分も眠ろうかと一瞬考えたが、
いくら安全な場所とはいえ、全員が寝てしまうのは流石に不味いのではないだろうかと思いとどまった。
しかし、日差しの魔力は強い。

 

「ふあぁ……」

 

またあくびが出る。先ほどよりも気持ち眠くなっている気がする。
寝てはいけないと、キラは自分に言い聞かせるが、やっぱり眠いものは眠い。
思わずキラの眉間に小さな皺がよったときだった。
不意にキラの頭に何かがのった。

 

『眠いなら寝てもいいんだよ?』
「…でも……」
『いいのよ。キラの代わりに私が起きてるから』

 

そう言ってにこりと笑うのはゴウカザルの赤焔。
キラは赤焔に対して申し訳ない気持ちになるが、赤焔は「気にするな」と言うばかり。
暖かな日差しでだいぶ意識がぼやけてきているキラは耐え切れず、
赤焔に「お願いするね」と一言かけて目を閉じた。
数分もしないうちにキラから規則正しい寝息が聞こえ始める。
それを確認して赤焔は優しい笑みを浮かべながらキラの顔を覗き込んだ。
いつもは無表情に近いキラの表情。
だが、今はとても穏やかな表情を浮かべていた。

 

『(まぁ、役得ってものよね)』

 

そんなことを思いながら赤焔は空を流れる雲をぼんやりと眺めていた。