「「「…………」」」右から、緑翼、藍陸、橙飛。
珍しいこともあるもので、3人が横一列に揃って正座している。
だが、状況が状況だけに、それほど驚くような状況でもなかった。「………」仁王立ちで3人の前に立つのは、キラの母親のパートナーであるマンムーのアイラ。
擬人化した姿なので、通常形態よりも威圧感はないが、それでも3人を襲う威圧感は強い。滅多に恐怖という感情を抱かない3人ではあるが、
このときばかりは抱かずにはいられなかった。
ことの始まりはいつも通りの喧嘩。
キラの傍にいるのは自分だと主張しあっているうちに毎度の調子で喧嘩に発展し、
「どーしようもねーな」とつぶやいてしまった朱羽を巻き込んで地獄の鬼ごっこにまで至る。ここまでは、いつものこと。
ここまでならば、怒られることは基本的にない。
しかし、鬼ごっこがヒートアップしすぎてしまい、緑翼たちが敷地から飛び出そうとしたときだった。
ポケモンを敷地から出てはいけないと母親から言われていたキラ。
なのに出て行きそうな自分のポケモンたち――と、なれば当然、止めに入るのが普通。
その普通にもれず、キラも緑翼たちを止めようと彼女たちの元へ駆けだした。
だが、途中で――
コケた。
言うまでもなくコケた。
思わず音のする方へ振り向くドラゴン軍。
目に飛び込んできたのは、ものの見事に地面と正面衝突したキラ。
キラは自分の状況を理解できていないのか完全に動きは停止していた。大切なキラの一大事だ。
本来であれば一目散にキラの傍に駆け寄ってキラの安否を確認するところなのだが、今はそうは行かない。
緑翼たちはどうしても動けなかった。動きたくとも体の自由が利かないのだ。
だが、自分たちが動けなくなってしまった理由はわかっている。
キラの後ろにいる存在が怖くて、怖すぎて、体がすくんで動けないのだ。
緑翼たちを恐怖で支配しているその存在は、
倒れているキラを起き上がらせると、優しくキラについたごみを落とす。
すると、黙っていたキラがふいに存在の名を呼んだ。
「アイラ……」
「大丈夫よキラ、私は怒ってないわ。あなたには」
そのアイラの一言に気を失いかけるドラゴン軍だった。
「あなたたち、自分のしたことがどういうことかわかってるの?」物凄く。
物凄く冷ややかな声。
暖かさの「あ」の字すら微塵も感じられないほど冷ややかだ。「あなたたちのせいでキラがケガをしたのよ?あなたたちが好き勝手に暴れたせいで。わかってるの?
もし、これが外の世界で起こっていたならどうなっていたかしらね。
もしかしたら、もしかするわよ。ポケモンの不注意で人間の命が危険にさらされることなんていくらでもあるんですからね」物凄い勢いで開始されたアイラの説教。
しかし、この説教をひたすらに聞くしか緑翼たちには道がない。
実際、アイラの説教は間違っていないし、緑翼たちの行動に非があるのだから。正座でアイラの言葉を重く受け止める緑翼たち。
その表情は後悔の念があり、自分たちの行動を確り反省しているようだ。だが、それでもアイラの説教はまだまだまだまだ続く。
おそらく、あと2時間くらいは続くだろう。そんな地獄のような状況を見つめているのは、
手や膝に絆創膏を張ったキラと朱羽、そしてキラの母親のデリバードであるクリスだった。当然のことだが、コケたぐらいなのだからキラのケガなど、ケガと呼ぶには大げさなぐらいのものだ。
しかし、キラを傷つけたことには変わりないのだからアイラの説教は間違いではない。…度が過ぎるだけで。『あーあ、さすがにかわいそうだねー』『いや、でも、あれで少しでも命の危険が減るんだったら……』『確かに、キミにはありがたいか』そう言ってクリスは再度アイラに目をやる。
長年の付き合いだからわかるが、あれは相当怒っている。
ある意味で、鉄拳制裁をせずに説教で留まっているだけ、緑翼たちは幸せなのではないだろうかとクリスは思った。そんなことを思っていると、横にいたはずのキラがいない。
「あれ?」と思ってあたりを見渡すと、キラはいつの間にかアイラの元へと向かっていた。「アイラ…、みんな、反省してるから……」ひたすらに縮こまっている緑翼たちを可哀想に思ったのかキラの表情は悲しみを含んでいる。
そんなキラの表情を見たアイラは、
先ほどまで緑翼たちに向けていた表情とは180度違う優しい笑みを浮かべてキラと視線を合わせた。「ええ、わかったわ。
…クリス、キラたちと一緒にリオのところに行って頂戴」一瞬「なんで?」と問おうとしたクリスだったが、アイラの真意にすぐさま気づいて「了解」と言葉を返し、
擬人化の姿をとると、アイラの横にいるキラを抱き上げてぽつんと立っている朱羽に「行くよ」と声をかけて、
リオ――キラの父親がいるコキアケジムへと向かった。そして、家に残されたのは緑翼、藍陸、橙飛、そして――「キラが許しても――、私は許さないわよ?」笑顔を見せるアイラに3人の表情はひたすらに恐怖に染まった。