「アンタの存在価値ってこれだけよね」
「そうだね。これがなければただの動くサンドバッグ以外の何者でもないね」
「感謝しなさいよー、アンタの父親に」
そういいながら木の実をふんだんに使ったケーキを口に運ぶのは緑翼、橙飛、藍陸。
全員自分の好きな木の実を使ったケーキを食べることができているので、かなりご機嫌のようだ。
しかし、彼女たちが今食べているケーキを作った朱羽はかなりご立腹のようだ。
「(人がせっかく作ってやってんのに可愛げのねぇ…!!)」
美味しいなら美味しいと素直に褒めればいいものを、緑翼たちは絶対に朱羽を褒めることはしない。
しかし文句も言わず大人しく食べているのだから、おそらく美味しいは美味しいのだろう。
なのに、緑翼たちは一切「美味しい」と口に出すことはせず、
ケーキとはまったく関係のない話題で会話を進めながらケーキを食べ勧めていた。
「朱羽兄ちゃん!このケーキものすっごく美味しいよ!」
「こっちのブリーの実のケーキも美味しい」
笑顔で朱羽にケーキの感想を伝えるのは水叫と碧嵐。
2人の笑顔にも言葉にも偽りはなく、本当に朱羽のケーキを美味しいと思ってくれているようだ。
そんな2人の笑顔を言葉を受けて、朱羽は複雑な表情を見せた。
「ありがとさん。…はぁ〜、ホント、お前らだけだよな、素直に褒めてくれるのは……」
「だって朱羽兄ちゃんの作る料理美味しいもんね」
「うん。美味しいから美味しいって言ってるだけだよ?」
「……んじゃあ、アイツらはどう思ってんだかな」
そう言ってチラリと緑翼たちの様子を窺う朱羽たち。
3人の目に映った緑翼たちは、相変わらず雑談に花を咲かせながらケーキ食べていた。
「お、美味しいと思ってると思うよ?美味しくなかったらきっと暴れだしてるはずだもの」
「だね。朱羽兄ちゃんが作ったとなったらなお暴れると思うよ?ちょっとしたことでも」
「………」
2人の言葉を受けて朱羽は「確かに…」と納得する。不本意ながらドラゴン軍の底辺に位置する朱羽。
故に、緑翼たちは朱羽に対して遠慮というものをしない。
なので、少しでも自分の求める味からずれていようものならば、完璧に非難の嵐だろう。
だが、今は誰一人として文句を言うものはなく、本当に大人しくケーキを食べている。
おそらく2人の言葉どおり、口には出さないが「美味しい」と思ってくれているのだろう。
「でもよ…、作り手として感想ぐらいは欲しいよなぁ。今後の参考のためにも」
「あ!ならボクが聞いてこようか?朱羽兄ちゃんだとなんかややこしいことになりそうだし!」
「あー…、頼んでいいか水叫」
「うんっ、もちろん!ケーキのお礼!それじゃ行ってきまーす!」
朱羽と碧嵐にそう言って水叫は緑翼たちが座っているテーブルの方へと駆け出していく。水叫が橙飛に話しかけると、緑翼と藍陸は少し面倒どうな表情を見せたが、
邪険にするようなことはなく、順調にケーキの感想をもらえているようだった。
「あの私は…」
「あ?なんだよ?」
「私はお礼してないから……」
「あ〜、んじゃ、ケーキの感想をまとめといてくれよ。お前、そーゆーの得意だろ?」
「うん、そういうことなら任せて。……なら、私も緑翼たちの観想聞いてきた方がいいね」
「確かにそうだな。そんじゃ俺はあとかたづけしてくるわ」
そう碧嵐に言って朱羽はキッチンへと戻っていく。
それを視線で見送った碧嵐は緑翼たちのいる方へと歩き出した。
「美味しかったわよ。当然じゃない」
「そうそう。誰が食べたってあれは最高に美味しいって」
「あまりにも当然のことすぎて笑っちゃうな」
「……凄い大好評ね」
「だから当然のことよ。アンタだって美味しいと思ったでしょ?」
「うん。朱羽、たくさん工夫してるもんね」
「は?なんでそこで朱羽が出てくんのよ。朱羽の工夫なんて少しもプラスに働いてないっつの」
「「……え?」」
「あのケーキが美味しかったのは、キラが育てた木の実を使ってるからだよ。これ以上の理由がどこに?」
「朱羽なんてこのケーキの美味しさの1%にも貢献してないわよ」
キッパリと言ってのける緑翼たちに思わず碧嵐と水叫は苦笑いを浮かべてしまうのだった。