「……なるほど…、密輸業者に……。
それでは人間に対して根深い不信感を抱いても仕方ありませんね」
「…うん」

 

飛行船の一室の中で会話を進めるのはキラと紺優。
本当はこの旅のメンバーの顔合わせをしたかったのだが、
ヒイナに任せられたポケモン――ミズゴロウたちが飛行船の中で暴れだしては自分たちはもちろん。
他の乗客たちまでも危険にさらしてしまうということで、キラと紺優だけが会話をしていた。

 

「人間に対する不信感をどう取り除くか――これが一番の課題になってきそうですね」
「うん。……いきなりバトルっていうのはダメだよね…」
「そうですね。いきなりは不味いでしょう。……ふむ、コンテストならばありでしょうか?」
「あ……コンテストはいいかもしれない。……でも、ジョウトでコンテストって開かれてるの?」
「ふぅ〜む…どうでしょうか…。私はマーキャ以外の地理には疎いものですから…
――そうです、ソウキくんに聞いてみてはいかがですか?彼はコンテストに詳しいはずでしょう?」
「…そう……だね。ちょっと電話してくるっ…」

 

紺優の提案したコンテストに挑戦するという案にキラは乗り気のようで、
少し嬉しそうな表情を浮かべて部屋を出て行く。
「いってらっしゃい」と紺優はキラを見送ると、
ベッドの枕元にあるモンスターボールをセットしておく装置に触れた。

 

「なるほど……ヒイナ様が仰っておられた重病者は――ミズゴロウ、あなたのようですね。
……アチャモとキモリはそれほど酷くはないようですが…」

 

擬人化の姿を取っている紺優。普通の人間とは明らかに色々と違うのだが、大部分は人そのもの。
故に、紺優をポケモンと理解していないミズゴロウたちは紺優を人間と思い警戒する。
アチャモとキモリは怯えて小さくなっているが、ミズゴロウは違う。
紺優に対して怒りを剥き出しにして警戒している。
こうなったポケモンとの関係を正す事の大変さを知っている紺優は困ったようなため息をついた。

 

「ヒイナ様の判断は正しいとは思いますが――私に過度の期待をしすぎでしょう…」

 

キラのいない部屋の中、紺優は大きなため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に与えられた部屋を出たキラがやってきたのは、
飛行船の乗客が自由に使うことのできるコミュニティーフロア。
ここには飛行船内で唯一使用できる電話が設置されている。
何度か飛行船での旅を経験しているキラは既知のことだった。
電話の前にまでやってくると、手帳を開いて自分の欲しい情報を引っ張り出す。
その情報を見つけたところでキラは受話器をとり、番号を入力していく。
全てを番号を入力したところで呼び出し音が鳴る。
少し緊張した面持ちでキラが待っていると、「もしもーし?」と男の声が聞こえた。

 

「……水?」
「あ!よくわかったッスね!ちょっと今ソウキが手放せなくて。なにかソウキに用ッスか?キラ」
「うん…。ジョウト地方でコンテストが開催されているかどうか聞きたくて…」
「ジョウトでコンテスト??ん〜どうだ――アレ?なんで六が知ってんスか?――って、あ!ちょ!!」
「キラ、ジョウトでコンテストはやってねぇぞ。あと、カントーでもやってねぇ」
「六……そっか…」
「んだ?ついにキラもコンテストに目覚めたのか?」
「ううん、ちょっと事情があってバトルができない子がいるから、その子とコンテストでリハビリしようと思って…」
「ほぅ…そういうことか。…なんだったらまたホウエンにくるか?」
「ごめん、今回はジョウトでバトルしたいから……。別の方法を探してみる」
「おう、わーった。…このこと、ソウキに伝えていいか?」
「う、うん。別に……。そろそろ切るね、今飛行船の中だから」
「ああ、じゃーな」
「うん、またね」

 

キラは受話器を元の位置に戻すとため息をついた。
名案だと思ったのだが、行われていないのであればどうすることもできはしない。
ポケモンとの絆を深めるための手段。それはキラにとってバトルかコンテストぐらいなもの。
一緒に旅をすることも十分に絆を深めるのに有効だとは思うが、
目標に向かって苦楽を共にするから意味があるのであって、
何の目的もない旅では下手を打てば更にこの関係が悪化するとい可能性もあった。

 

「バトル以外の目標……」
「おお!キラじゃないか!」
「!?」

 

突然キラの背後で響いた大きな声。
しかも、その声は自分を呼んでいる。
慌ててキラが振り返ると、そこにはモノセジムのジムリーダー――マキシが笑顔で立っていた。

 

「マキシ……さん…どうしてここに……?」
「はっはっは!ちょっとタンバで修行をしようと思ってな!
タンバはいいぞー!荒れ狂う海は修行にもってこいだ!
キラ、お前もジョウトへ修行へ行くんだろう?」
「……半分はそうです。…でも修行をする前にリハビリをしたい子がいて…」
「リハビリ?怪我でもしたのか?」
「そう…ですね。心に――なんですけど……」
「ふむ…」

 

すっかりトーンダウンしてしまったキラにつられてマキシの声のトーンも下がる。
静かな沈黙が続いた後、不意にマキシがいつもの調子で切り出した。

 

「ではポケスロンに挑戦してみてはどうだ?
スポーツで共に汗を流せば、心の傷を埋めてやることができると思うぞ!」
「ポケ……スロン…?スポーツ??」
「お?キラはポケスロンをしらないのか!
ならばそこのジョウトのガイドブックを読んでみるといい!詳しく説明が書かれているからな!
それと、お前の部屋を教えてくれないか?あとで紹介状を届けてやろう!」
「…いいんですか?」
「当然だ!ポケスロンの競技者が増えることは嬉しいし、
なによりポケモンバトルで心を通わせた友のピンチを見過ごせるわけがないだろう!」

 

笑顔を浮かべてグッと拳を突き出してくるマキシ。
キラは一瞬キョトンと表情を見せたが、嬉しそうに笑顔を浮かべてマキシの拳に自分の拳をぶつけた。

 

「ありがとうございます、マキシさん」
「その代わりと言ってはなんだが、修行が終わった頃にバトルをしてくれないか?
やはり修行の成果は実践で試すのが一番だからな!」
「はい、喜んで」