「遅い」

 

肩で息をしながらキラとユイの前に現れたのはいうまでもなくソウキ。
が、大急ぎでやってきたであろう彼に対して、呼び出した張本人であるユイに、
彼を労うつもりはまったくないようで、まるでソウキを切り捨てるかのように言葉を放った。

 

「海ちゃんに頼めば2日もあればこれるよね?どーして4日かかったのかね」
「あ、あのねっ!いくら俺が海のトレーナーだからって、俺のわがままで伝説のポケモンを動かしちゃダメなんだよ!
それぐらいユイだってグラさんから聞いてるでしょ!?」
「は?なに言ってんの、聞いたことないよそんなこと」
「(言うだけ無駄って事なのグラさん…!!)」

 

あまりにきっぱりと言ってくれるユイにソウキは愕然としたものを覚えた。
ソウキはホウエン地方の伝説のポケモンであるカイオーガの海に、
他の地方へ赴くことは伝説のポケモンたちの掟で許されていないと言われている。
伝説のポケモンたちは基本的に気位の高いものが多く、
テリトリーを他者に犯されて争うようなことが続けば世界が保たない――そう考えた末の結論らしかった。
ソウキはその説明をユイがグラから受けていると思っていたのだが、
説明するだけ無駄と考えたのか、それとも伝えようが伝えまいがユイについて歩くつもりがないということなのか…。
どちらが正解かはわからないが、いずれにせよユイにこの伝説のポケモンたちの掟は伝わっていないようだった。

 

「ソウキ兄さん…ごめんなさい…私がしっかりしていれば……」
「あー…いいんだよキラ。俺はここに来たくなかったわけじゃないからさ。……ただちょっと疲れただけで…」

 

キラを安心させるために笑顔を見せたソウキではあったが、その笑顔にはあからさまに無理が生じている。
きっとまたキラが謝ればソウキはキラを励まそうと無理をする。
それをなんとなく感じ取ったキラは謝罪ではなく、ソウキに感謝の言葉を告げた。

 

「ソウキ兄さん、来てくれてありがとう。…とても心強い」
「…ははっ、どれだけ役に立てるかはわからないけど、キラの力になれそうならよかったよ」

 

穏やかな笑みを浮かべるキラとソウキ。
それを横で見ているユイは――

 

「(この従兄めッ…!可愛いキラにあんな、あんな…!!可愛い顔させやがって!!)」

 

なんか変な方向に嫉妬の炎を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「密輸業者……」
「正直、ファンタジーと思ってたけど…まさか実在するとは思ってなかったわホント」
「ポケモンの捕獲が難しい土地や、ポケモン協会の目が届きにくい地方では当たり前――
とまでは言いませんが、認知の低いものではありません。
ですが、シンオウやホウエン、ジョウトなどでは珍しいでしょうね」
「……もしかしなくても――マーキャでは珍しいことじゃなかったんだ?」
「ええ。だからマーキャのポケモンたちは人間から自分や仲間を守るために、
他地方のポケモンと比較できない強さや組織力を誇っているのです」
「へぇ〜マーキャにそんなシリアスな設定があったんだ。てっきりただの発展途上なのかと…」
「ユイ……」

 

シリアスな雰囲気をぶち壊すユイの台詞に思わずソウキは苦笑い。
事情を話していた紺優もあまりにも場違いな発言ばかりするユイに呆れているのか苦笑いを浮かべるだけだった。

 

「まっ、とりあえず――はその密輸業者のことは無視していいでしょ。
キラの手元にいるなら間違ってもその子たちに『また』はないんだし」

 

自信に満ちた表情でユイはニヤリ笑ってキラに視線を向けると、
キラは強い意思を宿した目でユイの目を見つめながら力強く頷く。
そのキラの様子を見てユイは満足そうに「よしっ」と言うと、ふとソウキに視線を移した。

 

「ソウキ、あんた手持ちは?」
「…へ?…あ、今は水と葉と飛姫と……最近仲間になってくれたプラスルの電が…」
「そ、んで私はエチルに……。あー…役に立ちそうなのは水ちゃんと葉だけかねぇ〜」
「…聞かない名前だけど……チャモたちは?」
「ホウエンで自由行動中。各々好きにやってると思うよー」
「(否定できない…)」

 

さして気にすることではないとでもいうのかように、ユイは平然と一軍のメンバーをホウエンに残してきたことを告げる。
ユイの一軍メンバーのほとんどはユイのもと以外にも居場所がある。
そのため、ユイがいなくなってもほとんど困らないと言えば困らないのだ。
トレーナーがいなくなっても問題なというのもどうなんだ――と思いつつも、
ユイの行動によってポケモンたちが困っているわけではないのだから、それでいいのだろうとソウキは勝手に結論付けた。
やや無理やりソウキが自分を納得させようとしていると、ふいに不機嫌そうなユイの声が耳に届いた。

 

「…へ?な、なに?」
「だから、水ちゃんと葉を出せって言ってんの。
何の因果かホウエン御三家――水ちゃんと葉なら他のまったく別種ポケモンよか打ち解けやすいでしょ。…多分」
「あ…確信はないんだ……」
「水ちゃんはともかく、葉がまともに子供の相手できるとは――」
『貴様よりはまともな対応ができると思うが』
「フゲッ!!」

 

ソウキがボールを放つよりも先に飛び出したのはソウキのパートナーの一体であるジュカインの葉。
何気にユイの台詞が気に触ったようで、ボールから飛び出して早々、葉はユイの顔面に自身の尻尾をぶつけた。

 

『あはは〜容赦ないッスね〜』
『阿呆に容赦する謂れはないからな』
「ひどっ!!ちょっとソウキ!トレーナーとポケモンの主従関係おかしいんじゃないの!?」
『お前が言えたことか』

 

グサリとユイの胸に刺さる葉の容赦ない真実。
確かに、ユイにトレーナーとポケモンの主従関係について文句を言える立場ではない。
ユイパーティー最強と名高いペリッパーのペッパ。
彼女の力と恐怖によって完全に尻にひかれているユイが、同類ともいえるソウキのことをとやかく言えた立場ではなかった。
葉の一言によって口から魂が抜け、完全に使い物にならなくなったユイ。
苦笑いを浮かべながらソウキはユイの肩を担ぐとキラに「行こう」と声をかけた。

 

「2人とも、間違っても無神経なこと言わないでね…?」
『精一杯頑張るッス!』
「(不安だ……)」
「紺優……お願いするね」
「ええ、お任せください」

 

不安げな表情を見せるトレーナーたちを、ポケモンたちは笑顔で見送る。
そのポケモンたちの笑顔を信じたトレーナーたちは安心したような表情を見せると何も言わずにそのまま部屋を後にした。