ユイたちと別れ、キラはこの後の方針をどうしたものかと考えをめぐらせる。
キラにとっての一番初めの目的地はポケスロンドーム。
その場所へ行くためには、コガネシティへ戻ってもいいし、キキョウシティへ足を延ばしてもいい。
どちらのルートを通ってもポケスロンドームへは行くことができるのだ。
方針を決定するために黙って立って考えるキラ。
どちらに――と考えようとした瞬間、ふとフスベで挨拶した竜使いの族長の言葉を思い出した。

 

「……ボール職人さん…」

 

竜使いの族長がヒワダタウンにあるといっていたボール職人――ガンテツの家。
ヒワダにはジムがあり、再度訪れる予定ではあったが、
今後、旅の途中で一緒に旅をしてくれる仲間に出会う可能性もあるので、ボールは是非手に入れておきたい。
市販のものでも十分といえば十分だが、
紹介状があるのだからどうせならばジョウト伝統のボールを見てみたいし、触っても見たい。
急に芽生えた好奇心にキラは薄っすらと楽しげな笑みを浮かべると、情報収集を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ……だね」

 

ボール職人ガンテツの家の前までやってきたキラ。
そのキラの横にはぴったりと黄夏が寄り添っていた。
外の世界になれるために――ということでキラは黄夏を出しているのだが、
黄夏の臆病な性格は筋金入りのようで、ちょっとしたことですらビクリと身を震わせており、
慣れるには相当な時間がかかりそうだ。

 

『い、いきなり怒鳴られたりしたらどうしよう…!!』
「さすがにそこまでのことはないと思うけど……」

 

ガタガタと震えながら尋ねてくる黄夏にキラは平然とした様子で答えを返す。
ガンテツの所在について情報収集をした先々で、
ガンテツは気難しい人物だと聞かされたが、会って早々怒鳴られることはないだろう。
ただ、ボール作りのスランプでイライラしていたら、さすがに保障できないが。
深呼吸をひとつして、キラはガンテツの家と外をつなぐ扉に手をかけ――

 

「おじーちゃんのバカー!!」
「…ッ!?」
『キラっ!』

 

突然飛び出してきた少女によって突き飛ばされたキラ。
地面に尻餅をつく前に、即座に飛び出した紺優によって事なきは得たが、
未だに状況を飲み込めていないようで、目を白黒させていた。

 

「キミ!大丈夫かい!?」
「……は、はい…」

 

キョトンとしていたキラ声をかけてきたのは一人の青年。
キラの安否を心配して声をかけてきたようだが、
紺優のサイコキネシスによって受け止められたことによりケガはひとつもなく、
キラは問題ないと答えると、青年はホッとしたような表情を見せた。

 

「そう、よかった。本当にすまない!おい!チエちゃん!待つんだ!」

 

だが、キラよりもキラにぶつかった少女の方がどうやら心配なようで、
青年は少女の後を追って走り出すが、突然鼓膜を突き破るような怒声が響いた。

 

「追わんでいい―――!!」
「「ッ?!」」

 

ビリビリと肌に伝わる感覚に、思わずキラも目を見開き声の主へと目を向ける。
すると、そこにいるのは頑固そうな顔をした白髪の混じった髪の老人。
おそらく、この老人がボール職人ガンテツなのだろう。
しかし、ここで話に入っていけるほど、キラも空気が読めないわけでもなく、
状況が落ち着くまで成り行きを見守ることに決めた。

 

「ガンテツさん!チエちゃんが走って行った方向はウバメの森の方だよ!?何かあったら…!」
「フンッ、それは自業自得や。まったく、言うことばかり生意気になりおって…」
「でも、チエちゃんは規定年齢に達したし、トレーナーとして旅立ってもいい年齢じゃ……」
「こんなことで家飛び出すような子供が、まともなトレーナーになれるわけあらへん」
「そんな…」
「……ところで、いつまで立ち聞きしてるつもりや嬢ちゃん」

 

不意にキラに向けられたガンテツの視線。
射抜くような鋭い眼光にキラは一瞬「うっ」と身構えてしまったが、
きちんと非礼を詫びれば許してくれるはず――と考えると「すみません」と言って頭を下げた。

 

「立ち聞きする形になってしまってごめんなさい。私はフスベシティの竜使い族族長の紹介で参りましたキラといいます。
ガンテツさんの作られたボールを拝見したくてお宅を尋ねようとしたんですが……」
「飛び出してきたチエちゃんとぶつかって、どうにもできなくなったんだね…」

 

苦笑いを浮かべて言う青年に答えるように、キラは「はい…」とやや申し訳なさそうに答えを返した。
キラに悪気がないどころか、巻き込んでしまった形になっていたことをガンテツも自覚したようで、
少しばつが悪そうな表情を見せると、気持ちを切り替えるように「ふんっ」と鼻を鳴らすと、キラたちに背を向けた。

 

「竜使いの族長の紹介やったら追い返すわけにも行かんわ。……まぁ、あがり」

 

家に上がることを許可されたキラは嬉しそうに「はい」と返事を返すと、ガンテツの家の敷居をまた――

 

「森がざわついて――嫌な感じがする。
……ガンテツさん、申し訳ないんですが、また改めて伺ってもいいですか?」
「…好きにせえ」

 

ぶっきらぼうに言ってよこすガンテツにキラは「ありがとうございます」と礼を言うと、
紺優と黄夏にウバメの森へ向かうことを告げた。
キラの言葉に紺優は「了解しました」と返事を返しキラのボールの中に戻るが、黄夏から返事が返ってこない。
どうしたのだろうとキラが黄夏の顔を覗いてみれば、そこにはある意味で予想通りの顔があった。

 

「黄夏には……刺激が強すぎたね…」

 

立ったまま気絶している黄夏をキラは苦笑いを浮かべながらも、ボールへと戻した。